入部してくれますか?

「そもそも、どうしてそんなに婚活に真剣なんだ?」


「私が婚活の意識を持ったのは、4歳の頃でした」


「ごめん長くなりそうだからいいや」


その年齢のエピソードで、婚活ってワード出てこないでしょ……。


「実はですね。喜多川さんに話しかけたのは、理由があります」


「あるのかよ」


さっき、目に入ったからたまたま話しかけただけだぜベイベー!みたいなこと言ってたくせに。まぁ、あれもキャラだったのか。


「私たちは先ほども言った通り、婚活のため、男の子ウケする属性を日々研究しています。しかし、一年経って気がつきました」


五十鈴さんは一旦、意図的に間を空けた。


「……男の子には個人差があると」


「今更?」


「盲点でした。万人ウケする属性などないのです。何かを肯定する人間がいれば、何かを否定する人間がいる。私は、そんな単純なことにさえ気づけませんでした。あまりに婚活に目がいきすぎていて」


自分の失敗を悔いるように、唇を噛みしめる五十鈴さん。すごい。この人めちゃくちゃアホだ。なんか楽しくなってきた。天然記念物を手に入れた感じ。いやそれは捕まるな。悪い例えだった。


「そこで、最低限男の子サンプルが必要だと考えたのです」


「それが、俺?」


「はい。うちの学校は知っての通り、一年生は、何か理由がない限り、部活に入らなければいけません。大体の生徒は、そのまま部活を続けるのですが、あなたは一年生でボランティア部に入り、二年生になると同時にやめています。他にも同じような境遇の男子生徒は何人かいて、その中でもっとも常識がありそうなのが、喜多川さんだった。と、いうわけです」


長々と説明されたが、とりあえず褒められてるっぽいのでよかった。というか、他の候補だった奴らが気になるな。まぁ、大半の人間がそのまま部活動を継続していく、文武両道で意識の高いこの進学校で、その道から外れているような奴は、多分まともじゃないだろう。自己紹介になってしまったが。


「私たちの活動に、協力してくれませんか?」


「……うーん」


正直、悩みどころだった。こんな美少女と放課後を過ごせるなんて、これ以上ないハッピーライフだなぁとは思うが……。うまい話すぎないか?絶対裏があるだろ。


その裏として、メジャーなのが、残りの部員二人。こいつらと会って見ないことには、何も始まらない。


「で、残りの部員は、まだ来ないのか?」


「もうすぐ来るはずです」


と、五十鈴さんが言った瞬間、ヤラセなんじゃないかと思うくらいだが、ドアがゆっくりと開いた。


そして、一人の女子生徒が入って来る。今度は俺が仕事をしよう。身長は低く、おそらく140センチ代前半。一瞬小学生と見間違えるほど童顔で、長い黒髪は腰のあたりまで伸びている。白衣を着ており、手にはノートパソコン。その容姿に反する所持品と装いだ。こんなもんでいいですか?そろそろ彼女、喋りそうです。


「んっ?君は誰だい?」


「あっ、紹介します。彼は新しい協力者になってくれるかもしれない可能性を秘めた男です」


「修飾語つけすぎて名前省かれちゃったよ」


俺は、女子生徒の方を見て言う。


「喜多川雫です。よろしく」


「喜多川……。あぁ。ランクSか」


「俺そんな呼ばれ方してんの?」


疑いの目を五十鈴さんに向けてみた。五十鈴さんは目を逸らす。


「え、Sは、雫のSですよ」


「ランク雫ってどう言う意味だ」


「まぁ細かいことはいいじゃないか。五十鈴の説明だと、君はまだ、僕たちの活動には参加を決めていないみたいだね」


「あの、先に聞くよ。君、それは属性?」


「違うよ。属性を実践するのは、五十鈴だけだ。僕は、属性研究担当。日々、婚活に通用するに違いない属性を追い求めているんだ」


当たり前のことです!みたいな感じで言い切られたが、なかなかおかしなことを言われてるよな、俺。まぁ、熱意は伝わる。このあたりは部活動なんだなという感じ。本当かよ。


「あっ、申し遅れたね。僕は、坂下美海。坂を下れば美しい海!って覚えてくれ」


「アイドルの自己紹介みたいだな」


「名字が、崖飛じゃなくてよかったと、常日頃から思ってる」


「なにそれ、小ボケ?」


「あははっ!めちゃくちゃ面白いですね!」


えー。なんか、ありえないくらいツボが浅い人いるんですけど。しかたないから、俺も笑っておこう。あはは。


「君には、五十鈴の属性の実践相手として、活動に協力してもらいたい。もちろん、君にもメリットがある話だ」


「どんな?」


俺が尋ねると、坂下さんは、手に持っていたノートパソコンを起動した。そして、やがて現れたデスクトップの、とあるフォルダを開く。


……画面いっぱいに、五十鈴さんのコスプレ画像が現れた。


「えっと……。これが?」


「属性に伴って、こんな風に、着替えることもあるんだ。君には、この服を選ぶ権利を与えよう」


坂下さんが、俺の目をまっすぐに見つめてくる。


「……君のことは調べさせてもらったよ。コスプレ喫茶でバイトしているらしいね。服に関しての知識は皆無なのに、やたらと男ウケする女子を量産しているとか」


「……」


「さぁ、どうだい?」


……俺の返事は、一つだけだった。


「よし。乗った」


「ははっ。データ通りだね」


「いや、まさか本当に、喜多川さんがそういう趣味だったなんて、思わなかったです……」


若干五十鈴さんが引いているが、もう遅い。宣言しよう。俺は変態だ。帰宅部にまともな奴はいないと言ったが、それはその通り。


常識はある。が、俺の趣味は、女の子に可愛い服を着せること。当然その趣味には限界がある。一般の女の子にそんなことをしたら捕まるし、だからって、例えばそのために彼女を作るなんてことも不可能。


普段は、オタク向けのコスプレカフェで、コーディネーターとしてバイトしているが、それも、学生の身分だ。毎日働けるわけじゃない。


……こんなこと、願ってもないチャンスだ。


「き、喜多川さん?目が怖いです」


「五十鈴さん。今日からよろしくね?」


「は、はい……」


こうして俺は、婚活部に入部した。どんな属性が婚活に有効なのか、必死で模索していこうと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る