属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?

@sorikotsu

婚活部のこと知ってもらえますか?

挨拶してもいいですか?

「おいそこのお前!どうやったらウチは結婚できんだ!?」


夏、だからでしょうか。とうとううちの学校にも、頭が元気な人が現れてしまいましたね。


……なんて、人ごと行ってる場合じゃない。今この女の子は、俺に話しかけている。答えてあげなきゃいけないのだ。


「……とりあえず、そのキャラじゃダメだな」


「ま、待て!メモを取るからな!」


と、言いながら、女の子はカバンからノートを取り出した。そして、そのノートには、ペンが挟まれていたらしく、すぐにメモを取り始める。どうやら真面目な女の子みたいで安心した。


いや、真面目なくせに、こういう、意味のわからない質問をしてくる女の子が一番怖いじゃないか。どうしよう。


……逃げるか。


俺は女の子から逃げ出した!


「はぁ!?おい!なんで逃げるんだよ!」


困った。俺は帰宅部だ。このままこの教室を出た後、靴箱で靴に履き替え、家まで逃げ切る体力があるとは思えない。


つまり……。この学校の中で、どこかに隠れるしかないのだ。


「はい捕まえた!」


なんて、これからそういう心理ゲームが始まるかと思ったそこのお前。残念。二秒で捕まったよ。世間はそう甘くないんだ。これはリアルヒューマンドキュメンタリーだからな。リアルヒューマンドキュメンタリーってなんだろう。


「おっと、悪い悪い。ウチとしたことが、自己紹介がまだだったな!ウチは、五十鈴美礼。身長160センチ。黒髪ショートカットで、赤のカラコンを愛用している、活発な女の子だ。よろしくな!」


「えっ、なんだろう。ありがとう」


何とは言わないけど、めちゃくちゃ楽になった。ありがたい。


こっちも自己紹介しなければ。


「俺は、喜多川雫だ。よろしくな」


「よしっ、握手するか」


「うん」


五十鈴さんが手を出したので、答えようとしたのだが、突然その腕を引っ込められてしまった。


「えっ、なに?」


「……もし、もしだぞ?このやり取り、婚活アプリだったら、いいね!になるよな?」


「何言ってんの?」


「いいね!」


再び出された腕は直角に曲がり、手のひらは、サムズアップの形に姿を変えてしまった。そして、にこやかな笑顔。これ、俺はどうすればいいの?やっぱり逃げるしかないの?


「あのな、いろいろ君は勘違いしてる。それを説明するのは面倒だから、話を戻そう」


「やっぱり母さんが言うように、朝からグラタンはちょっと失敗だったと思うよ」


「なんで今朝の話まで戻してんの?」


「昨日の朝だぞ」


「余計バカじゃん」


ダメだ。まともな会話が成立しない。確かこの学校は、進学校だった気がするんですけど。この国語力じゃ、まずあらゆる問の意味が理解できずに爆死するでしょ。よく生きてるな。


「キャラクターの話だよ。まずその、男っぽい口調は何?」


「あっ、これ不評か?男勝り属性だ」


「属性?」


「そうか。ウチとしたことが、そこから説明するべきだったな」


ようやくサムズアップをやめた五十鈴さんは、一番近くの席に座った。座ったということは、多分長い話になるっぽいので、俺も隣の席に座る。


「ウチらは、婚活部ってのを立ち上げたんだよ」


「30代後半かよ」


しかし、その目は真剣だった。


「あのな。今のうちにやっておかないと、あっという間に出遅れるんだからな。ウチを含めて部員は三人だ。高校生のうちから、結婚について考える。そして、この学校の誰よりも……なんなら、地元の20手前で子供作りそうなヤンキーよりも、迅速で正確でかつ無駄のない結婚をする。そのための準備をするのが、婚活部だ」


しっかり最後はドヤ顔で言い放ったが、残念なことに、内容が内容なので、何もカッコがつかない。むしろダサい。特殊な尖り方をした高校二年生女子。オタサーの姫かな?


「まぁ部の存在は、この際だから触れないよ。面倒だし。で、なんで俺に話しかけた?」


「あんたが目に入ったから……」


「これからは目を閉じて過ごしてくれる?」


「だいたい、放課後の教室に、いつまでも用もなく残ってるのが悪いんだよ。婚活部の活動は、大抵このクラスで行われるからな」


気づかなかった。高校二年生になって、早一ヶ月だが、そんな活動にここが使われていたなんて。むしろ、今日逆に、なんで俺はガラにもなく、課題を学校で終わらせるなんていう、根拠のない行動をしてしまったか。反省したい。


……待てよ?と、いうことは、同じくらいの知能を持った生徒が、あと二人も登場するのか。めちゃくちゃきついな。俺一人で足りるのかよ。その前に帰りたい。


「で、部活動の一環として、結婚にふさわしいキャラ……すなわち、属性を探ろうってのが、ウチらのやってることなんだよ」


「そんな胸を張って言われてもな」


ちなみに、先ほどの自己紹介で、おそらく意図的に省いたのだと思われるが、五十鈴さんは胸がない。プチ情報。だから胸を張ってとは言っても、胸は張ってないのが現実だ。悲しいね。


「あれっ。じゃあなに。五十鈴さんは、本当はそういうキャラじゃないの?」


「……ま、まぁ。そうなる」


「何急に照れてんだよ」


すっぴんを見られた女性みたいな顔しやがって。


「本当は何キャラなんだ?」


「……そうですね。私は、あえて属性をつけるならば、クーデレとか、そういった類のものになるでしょう」


一瞬で表情が変わり、クールな五十鈴さんが現れた。えっ、今の瞬間、普通にホラーだったんだけど。怖い怖い。


「……えっと、それが本来の五十鈴さんなわけね」


「はい。そうです。五十鈴です。初めまして」


初めましてではないだろ。と思ったが、ぺこりと、先ほどの汗臭そうな男勝り属性とは打って変わって、真面目にお辞儀をされてしまった。俺もそれに合わせるようにして、浅いお辞儀を返す。


「あの、喜多川さん。キャラクターを否定されてしまった以上、話題は一番初めに戻ることになります」


「五十鈴さんの一昨日の朝ごはんの話?」


「あっ、いえ……。すいません。それも、キャラゆえのボケですので、改めて言われると、恥ずかしいです」


少し顔を赤らめて、俯いてしまう五十鈴さん。


……えっ、なんだろう。普通が一番可愛くないですか?


と、思ったが、それを言うと、何かが打ち切りになってしまいそうな気がしたので、心の中にしまっておくことにした。


「喜多川さん、一体、属性は何を選択すれば、私はお嫁さんになれるのでしょうか」


……タイトル、回収?いや微妙に違うな。

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