第15話
15
駅前には雑居ビルが多く建っており、そのファミレスも雑居ビルの二階にあった。一階は大手のコンビニチェーン店、三階には美容院が入っているため人の出入りは多い。
ファミレス自体も価格帯の低いメニューが多く放課後の時間ともなれば制服を着た学生が店内の七割を占めている。
派手に化粧をした三人は店員に案内をされて席に着くと、抱え込んでいた物を手放すように大きく息を吐いた。
見た目と裏腹に疲弊しきった三人を見て店員は不思議そうな表情でメニューを手渡す。
「今のお時間ですとアフタヌーンデザートタイムでこちらのセットがお得です。是非ご覧ください」
舞香が受け取った。
「すみません、この後すぐ二人来るんですけど注文それからでいいですか?」
にこりと笑う店員。
「かしこまりました。ご注文の際はそちらのボタンでお呼びください」
店員が離れた後も三人は黙っていた。
もう大丈夫だとわかっていてもまだ体の中心がドキドキしている。心の表面のざわつきが取れない。
店の入店のチャイムが鳴るたびについ入り口を確認してしまっていた。
「あー」
最初に声を出したのは由美だった。
「めっちゃ緊張したね。ほら、お水飲もう?」
テーブルの一か所に固めて置かれたグラスを梨菜子と舞香、それぞれの前に置いた。そして自分も水を口に含む。
梨菜子は促されるままにグラスを両手で持ち水を飲んだ。持つ手が少し震えているようにみえる。
その様子に気づいた舞香は先ほどもらったメニューをテーブルの上に広げた。
「私も久しぶりに変な汗かいたな。甘い物でも食べる?」
ページを開いた先には生クリームたっぷりのパフェからキャラメルソースのかかったパンケーキ、アイスクリームまでそれは美味しそうに撮影されたデザートが並んでいた。
今ならこのメニューの中から一つとドリンクバーがセットでお得ということらしい。店員が言っていたアフタヌーンデザートタイムだ。
「これは、うわー。この疲れにはそそるわぁ」
由美が身を乗り出してメニューを覗き込んだ。
「キャラメルソースとこの組み合わせはギルティすぎるでしょ!」
「やっぱりこういう時は甘いもの食べたいよね。このセット頼んじゃわない?ほら、梨菜子はどれがいい?」
メニューが梨菜子へ向けられる。しかし当の梨菜子は目に涙をいっぱいにためて今にも泣きだしてしまいそうな様子だった。一回溢れ出したら止まらなくなるのはわかっている。だから必死で耐えていた。
「ごめんね、変なことに巻き込んじゃって」
ようやく出したのは鼻に詰まったような声だった。
ああ、でもやっぱりだめだ。
言葉に出すともう抑えられない。堪えきれずに梨菜子の目からボロボロと涙がこぼれた。
舞香が自分の方へ梨菜子を抱き寄せる。
「怖かったね。でも私達は大丈夫だから、もう平気だから。泣かないで?」
そしていいこいいこ、とするように梨菜子の頭を撫でた。
「やっば。キュンとした。舞香ちゃん彼氏になって欲しい」
思わず乙女心をくすぐられた由美がそう言うと梨菜子の顔に笑顔が戻る。相変わらず涙は止まらないけれど不意に笑いが出るくらいには落ち着き始めていた。
舞香は更に梨菜子をぎゅっと引き寄せたまま由美へいたずらな視線をよこして言う。
「二番目のキープでよければ、いいよ?」
一番目は梨菜だからね。とも付け加える。
「舞香ちゃんプレイボーイすぎるよ」
手の甲で涙をぬぐいながら梨菜子が言った。
「じゃあ、二番目でもいいから明日から一緒に登下校してよね。一番目の子も一緒に」
由美の言葉をうけて舞香は梨菜子に問いかけた。
「ってことだから明日は朝一緒に登校しよう。いいよね?」
ここにきて梨菜子は気がついた。
あれこれとおふざけをしていたが、二人は自分を不安にさせないように明日以降を一緒に行き帰りする話に持っていってくれたのだ。
さっきまであんなに不安で怖くて申し訳なかったのに、今はなんでこんなに嬉しい気持ちなんだろう。
安心した様子で梨菜子は言った。
「ありがとう」
店の入り口からまた入店のチャイムが鳴った。そしてそのすぐ後に聞いたことのある声で「先に入ってる人と待ち合わせてます」とも聞こえた。
紗希は店内を見渡して三人を見つけると真っすぐにこちらへ歩いてきた。美里もその後ろからついてくる。
「お疲れ様、うまくいったみたいだね」
そう微笑んだ紗希は由美の隣に、美里はその向かいに座った。
席につくなり美里はテーブルの上に広げられたメニューに釘付けになった。
「え、今この時間なの?食べたい。みんな注文したの?」
美里の視線が先にきていた三人の間を泳ぐ。
「お前いきなりそれかよ。他に報告することあるだろ」
呆れたように言う紗希。そして店員が二人分の水を持ってきてくれたのでそのままそれを受け取った。
「注文はまだしてないんだけど、私たちも頼みたいなーって話してたんだよ」
由美の言葉に美里は「ほらみろ」と言わんばかりに紗希を覗き込んだ。
「そうか、お前はこんなカロリー爆弾食ったら体型維持が大変だもんな」
一瞬ムッとした表情を見せた紗希は美里側に向いていたメニューをテーブルの上を滑らせるように自分の方へ向けた。
「頼むに決まってるだろ。モデルだろうがなんだろうが食いたい時に食わなきゃやってられないからな」
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