第12話

目の縁を濃く囲んだライン。出来うる限りまで上へと向けられた睫毛、そしてさらに毛の束が追加される。

机の上に立てられた鏡を食い入るように見つめる梨菜子。

「すごい、つけまつげ初めてつけたよ!」

由美は一歩下がったところから全体とのバランスを見るようにして梨菜子を見た。そして思わず、ほう。と唸る。

「梨菜、いつもこれでもいいんじゃないの?印象変わるけど可愛いよ」

いつもという言葉に梨菜子はギョッとしたようで顔を真っ赤にして首を振った。

「いつもなんて無理!恥ずかしいよ!」

梨菜子のすぐ横には紗希がかがみ手に小さなスポンジを持った状態でいた。

スポンジの先はほんのりピンクになっていた。

「はい、動かないでね。チークつけるから」

動きの止まった梨菜子の頬へスポンジを軽く叩くようにして色を乗せてゆく。動かないでと言われただけなのに梨菜子は恥ずかしそうに目をつむってそれはまるでキスを待っているかのようだ。


「梨菜子かわいいな」

紗希が目を細め自分の手を口元に持っていって呟いた。その言い方に美里は思わず危ない人間を見る目で紗希を見返した。

「お前、同性の同級生を見る目じゃねえぞ」

たまに、ごくたまになのだが紗希の言動がブチ丸に引っ張られていると感じることがある。女子高生としての感想なのかオス猫の感想なのか区別がつかない事もあった。


まあブチ丸を知る前の石森紗希がどんな人間だったかを美里は知らないので、実際のところはわからないのだけれど。


美里は自分のポーチから、鏡の粒が反射をしているかのような銀色のアイシャドウを取り出した。

そしてそれを差し出す。

「目元にこれも付けておけ。あるのと無いのじゃ随分違うぞ」

受け取った紗希の手元を由美がのぞき込む。

「すごいっ、めっちゃキラキラだね。いつも付けてるの?つける場所はどこ?」

声のトーンが少し高い。興味津々な目で美里の顔とを見比べる。

あまりの顔の近さに美里は一歩後ろへ下がった。

「いつもじゃ無いけど、目頭とか涙袋とか適当でいいんだよ。インパクトがあればそれっぽく見えるから」


「由美ー、今は楽しむところじゃないでしょー」

呆れ口調の舞香が美里から由美を引き離した。

「だってさ、他の人がどういう化粧品をどう使ってるかって気にならない?雑誌とか見ても実際にできるかは別になるし。ねぇ、梨菜ちゃんだってそうでしょ?」

急に話を振られた梨菜子は「えっ」と顔を動かしそうになったが、紗希の手でそれは阻止された。

美里から渡されたアイシャドウを自分の中指にとって梨菜子の目元へ持っていく。

「そのキラキラしたやつも付けるから、動かないでね。目も閉じて」

「はい。ごめんなさい」

思わず謝ってしまう梨菜子に舞香も由美も笑った。


「梨菜、その気弱な性格もどうにかしないとギャルにはなれないよ?」


「申し訳ないがその心意気は私は教えられない。そいつに聞いてくれ」

紗希の目線が美里に向いた。


「お…私かよ!」











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