第10話
六限目が終わりホームルームも終わったところで、紗希は美里のクラスを訪れた。
一部の生徒は既に教室を出ており全体の六割ほどの学生が残っている。
美里は珍しくクラスメイトの女子と一緒に窓から外を見ていた。
あいつが他の人といるのは初めて見る。
紗希はそこへ近づいていって声をかけた。
「何見てるんだ?」
美里とその周りの女子三人がパッとこちらを振り向く。
「お、来たか。そろそろかなと思ってた」
美里はそうは言いつつもまだ窓の外を気にしていた。他の子も同じようにちらちらと外を見ている。その表情はやや暗く紗希と美里を見比べてもいた。
「外に何かあるのか?」
紗希が窓の外をよく見ようとベランダに降りようとすると、そのうちの一人でロングヘアーの女子生徒が紗希の腕を掴んだ。
「石森さん!ちょっと待って。外出ないでおいて」
そして慌てたように教室の中へ引き戻そうとする。
また一人の大きなお団子頭の女子も一緒になって紗希を引っ張った。
紗希は納得のいかない表情で美里を見つめる。
その横には丸っこい髪型の清楚そうな子がそれは怯えた表情で固まっていた。その彼女は美里の横から動こうとしない。まるで美里の影に隠れているかのように。
「トラ、いい加減説明しろ。さっきから何見てるんだよ」
しびれを切らした紗希は美里を問いつめた。
美里は女子三人に目配せをしたがなかなか喋りだそうとしない。どうも美里自身の問題ではなさそうだ。
お団子の子が小さく手を挙げる。
「石森さん、私が説明するね」
彼女はまず自己紹介から始めた。
「私は舞香、そっちが由美、そんで矢畑さんに隠れてるのが梨菜子。よろしくね」
「よろしく」
「で、窓からベランダには出ずにそーっと外を見てほしいんだわ。校門の外、横の柵の向こうに男の人いるでしょ」
舞香に言われたとおり、首を伸ばすようにして外を見ると確かに校門の横に人影が見えた。おそらくスーツを着た男性のようだ。
「ああ、いるね」
紗希がその存在を認めると舞香は由美と視線を合わせて少し黙り込む。そして数秒おいてから口を開いた。
「そいつ、梨菜子につきまとってるストーカーなんだ」
紗希は梨菜子をみた。なるほどだから美里に隠れるようにしていて彼女自体は外は見ないようにしていたのか。
梨菜子は自分の制服の袖をしきりに掴みながら話し始めた。
「ちょっと前に駅近くのカフェで声をかけられてね、連絡先教えてとか遊びに行こうとか言われて…。怖くてそのときは何とか言い訳作って逃げたんだけど、それから駅で待ち伏せされるようになったの。最初の時は私服だったけどこの前は制服だったから学校バレちゃったみたいで」
梨菜子は視線をあちこちに移動させて落ち着かない様子だった。泣きこそしないが何かのきっかけがあれば崩壊しかねない危うさも伺える。
「もう、そんなことになってるなら早く私達に言えば良かったんだよ。朝だって帰りだって一緒にできるのに」
由美は小さい子供をなぐさめるかの様に梨菜子の頭に手をおいた。
「だって、せっかく仲良くなれたばかりなのに重い変な子って思われちゃうかと思って」
「思わない!」
由美と舞香の声が重なる。
「で、たまたま近くに矢畑さんがいて…って事だったんだ」
「そう、ここ私の席だから」
美里はすぐそばの自分の机を指さす。
「なるほどね」
美里は自分の机の上に座ると窓の外を少し見て言った。
「ここは大人しく職員室へ相談したらいいと思うけどね。それか警察」
由美が頷く。
「私もそう思う。何かあってからじゃ遅いよ」
「でもそいつちょっと変な奴だったんでしょ?そういう奴って下手すると逆上したりしてエスカレートするんじゃないの?」
その舞香の言葉に紗希は聞き返した。
「変なやつ?」
梨菜子が窓から距離をとるようにして紗希の近くへ来た。
「なんか、最初に会った時からずっと私のことを『アイドルのルミミちゃんに似てるね』って言ってるの。もう毎回言ってる」
「で、私さっき調べたんだわ。アイドルのルミミ」
舞香は自分のスマートフォンを軽快なタッチで操作するとその画面を紗希に見せた。
画面の中にはくるんとした丸いショートボブヘアーをした小柄な女の子がチアリーダーの格好をしていた。活発な運動部、清楚な優等生を思わせるその感じ。
紗希はその画面の子と梨菜子を見比べる。
うん、似てなくは、ないけれども。
舞香はさらに画面をすすめた。
今度は私服らしい格好のルミミ。上品と清楚にあどけない可愛らしさを足したような、膝丈の柔らかいスカートにパステルカラーのニットを合わせている。
「私、最初の時にその格好にすごく似てる服着てたんだ。ちょっと違うけど、だいたいそんな感じの」
梨菜子が俯き加減で話す。
「つまり、そのアイドルに似ているって理由で梨菜子をつけ回していると」
紗希が要約すると美里は一瞬ぎょっとした。
「お前、せめて初対面なんだから ちゃん付けしろよ!」
美里がいるせいでついブチ丸のテンションで話してしまった。慌てて紗希は訂正する
「ああ。ごめんね、梨菜子ちゃんね」
「いいよ、梨菜子で。石森さんてさ意外とかっこいい系だよね」
暗い表情の中梨菜子はクスリと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます