第32章 ── 第38話
俺が狙われているらしい事はパーティチャットで仲間たちに共有しておく。
アロケルも既にパーティ登録しているので情報を聞いてビクビクし始めた。
「アロケル、自然体でいろよ。
怯えていると悟られるぞ」
「す、す、すみません……
どうも、荒事は苦手で……」
アロケルは、ヴァレリア聖王国の騎士たちを翻弄してた割りには小心者すぎるよね。
まあ、彼の特殊能力も命を奪うというより、恐怖などで行動不能に指せるような代物だし、本当に争いは苦手なのかもしれない。
実際、俺に襲いかかってくることもなかったしなぁ。
「
コラクスたちに合わせて冷静に行動しろよ」
「しょ、承知致しました……」
俺は無詠唱で
「主様が狙われているのであって、貴方が狙われているのではありません。
それほど気にしなくて良いのですよ、アロケル」
アモンは冷静にアロケルを
アラクネイアもそうだ。
フラウロスだけは、毛むくじゃらなので表情まで判らないけどね。
「妾たちは、主様の邪魔にならないように動けばよいのですよ」
「左様。
今回の場合、暴徒と我が主の諍いを他の人間に悟らせない事が寛容であろう」
アラクネイアとフラウロスにも諭されたアロケルは自信なさげではあるもののコクリと頷く。
「アモン様、アラクネイア様、フラウロス殿、解りました」
魔族連三人の雰囲気が一瞬で刺々しくなった。
「私はコラクスです。お間違いの無いように」
「妾の名はアラネア。またその名を口にしたら、縫い付けて喋れないように致しますよ」
「我が名を呼ぶ時はアナベル様から付けて頂いたフラちゃんと。
本名だと我らの名を知る者もいよう、特にこの国ではな」
アロケルや殺したウヴァルのように魔族名のまま活動している奴らもいるが、アモンやアラクネイアはティエルローゼではかなり名が通っている為、人間名などを使って行動しているのだ。
もっともアモンに至っては人間名の「アモサリオス」も相当有名らしいので、身バレしないようにコラクス呼びで通すつもりらしい。
色々面倒くさいけど、仕方がないよね。
「んじゃ、行動開始。
俺はあっちの林の方に行くから、こっちはよろしく」
「「「畏まりました」」」
俺は適当な棒を拾って何気なく振り回しながらダイア・ウルフたちが待機している林の方へと向かう。
木皿の回収という目的もあるからね。
「ふんふん~♪」
鼻歌交じりに林周辺の灌木に分け入ると、やはり二〇メートルくらい後ろから冒険者どもが付いてくる気配がする。
灌木をかき分けて更に進む。
姿が隠れるか隠れないかといった所で、素早くしゃがんで木の幹に身体を隠した。
すると、慌てたように荒々しく灌木をかき分けて入ってくる気配がしてくる。
自分たちの位置を盛大にバラしているって自覚がないのか、全く危機感がないですねぇ。
近くに隠れて待機していたダイア・ウルフたちは俺の周囲に集まってくる。
「我らが主よ。
後から近づいてくる者たちに殺気を感じます」
「ああ、襲撃者だよ」
ダイア・ウルフたちの目がギラリと輝いた。
「いや、待て。
あいつらの始末を俺がつける。
君たちは隠れて見ててくれ。
後始末は任せるから」
俺がそう言うと、ダイア・ウルフたちの尻尾が嬉しげに振られた。
もちろん音を立てないように振っているので無音だ。
しばらく男たちの様子を伺っていると、俺の姿を見失った所為でどんどんと林の奥に分け入っていく。
「おい、姿が見えんぞ」
「お貴族様たちのお付きだ。
そう遠くには行くはずない」
「この先に小川が流れていた記憶があるが、そっちじゃないか?」
「夕飯用の魚でも仕入れるつもりかもしれんな」
大マップ画面を開いてみると、確かに林の先に小川らしきものがあるようだ。
冒険者がそっちに行くなら、そこで仕留めよう。
俺は冒険者の後ろからコッソリと付いていく。
もちろん「ステルス」スキルをフル活用しますよ?
スキル・レベルも上げたいしね。
数分付いていくと、灌木がなくなり少し開けた場所に出た。
小川と森の間にある広場といった風情である。
冒険者たちはその広場のあたりでキョロキョロと周囲を見回している。
「おい、いねぇぞ?」
「そんな訳ねぇ。
俺たちが付けてきたのに気付いて隠れているんじゃねぇか?」
「ゾリン、気配探知はどうだ?」
「ちょっと待て……」
ゾリンと呼ばれた男が目を閉じて動かなくなった。
ほう……「気配探知」なんてスキルが存在するのか。
「いるな……だけど、この気配……人間じゃねぇ!!」
ゾリンという男が目を開けて俺の隠れている方へと視線を向けた。
人間じゃないと言われて冒険者たちが武器を引き抜いて構え始めた。
「お前ら、見つかったな」
俺がダイア・ウルフたちに視線を向けると、彼らは股の間に尻尾を隠して小さくなっていた。
「申し訳ありません……」
「まあ、いいや。
とりあえず待機したままで、よろしく」
俺は立ち上がると灌木から広場へと出ていった。
「あ、あれ?
料理人の兄ちゃんじゃねぇか……」
「どう見ても人間だぞ?」
冒険者たちは、ガサガサと音を立てて灌木から出てくるのがどんなモンスターかと緊張の面持ちで警戒していたのに、地味な顔つきの俺だった為、拍子抜けした顔になっている。
「怖い怪物でなくて悪いな」
俺はニヤリと笑いつつ嫌味を言う。
「いや、別に怪物じゃない方がありがたい」
冒険者もニヤニヤし始めた。
「で、あんたらなんでこんなところに?
さっきは街道横の空き地にいたよな?」
俺は値踏みするように冒険者たちを観察する。
人数は五人。
武装から魔法を使いそうなヤツはいない。
「いや、あんたが一人で林に入っていったのを見てな。
お貴族様たちの連れが野獣やら魔獣に襲われたら事だろう?」
「俺らは冒険者でね。
休憩場所であれ一緒になった一般人が野獣に襲われたら名前に傷がつくからな」
俺はここでカマをかけてみる事にした。
「へぇ。
冒険者が一般人の心配を?
貴方たちはレリオンから来た冒険者なのかな?」
「迷宮都市?
なんでそう思ったんだ?」
「あれ? 知らない?
レリオンで冒険者ギルドってヤツが立ち上がったんだよ。
大陸東側で幅を利かせてるって話の自警団みたいな集団さ」
「冒険者……ギルド……?」
「ああ、そうそう。それだよ。
俺たちはその冒険者ギルドの人間なんだ」
一人が俺の話に合わせるように肯定した。
他のヤツは知らないって表情だったのに露骨ですなぁ。
嘘なのは間違いないし、こんなのに騙されるほど馬鹿だと思われているなら癪に障りますね。
「へえ……
じゃあ、冒険者カードを持ってるよね?
見せてもらえる?」
「生憎、ギルド員以外には見せちゃならんって規則なんだよ」
しれっと嘘が口を出てくるんは|
唯一名前が出てきたゾリンってヤツだ。
「じゃあ、安心していいよ」
俺は自分の虹色に輝く冒険者カードを取り出してピラピラさせながら見せた。
「ほら。俺もギルド員だからね」
さすがに冒険者カードまで出されて、誤魔化しようがない事を察したらしく、武器の切っ先が俺の方に向いた。
「バレちゃ仕方ねぇな。
俺らはレリオンの……その冒険者なんとかってのとは無関係だ。
どちらかと言うと追い剥ぎみたいなもんだ。
さあ、その腰に下げてる
「このカバンは
「そんなワケあるか。
それにテーブルが飲み込まれるのをしっかりと見たんだからな!」
「大人しくそれを置いていけば、命だけは助けてやってもいいぞ?」
男たちのニヤニヤ顔に俺は肩を竦めて見せた。
「お前らみたいなヤツらの言うなりになるわけ無いだろ」
「命はいらないみたいだな?
街道の休憩場所からここまでは数百メートルは離れている。
叫んでも直ぐには助けは来ない距離なの解ってるか?」
「そうだねぇ。
君らが叫んでも助けはこないだろうねぇ」
俺が余裕綽々でニヤニヤ笑っているのを見て、流石に気味が悪くなってきたようで冒険者たちの目が泳いでいる。
「おい……こいつやべぇんじゃねぇか?」
「何ビビッってんだ?
レベル一〇越えが五人もいるんだ。
一人くらいどうとでもなるだろ!?」
「いざとなれば俺に任せろ。
伊達に上級職じゃねぇからな」
ゾリンは確かにレベルは高そうだ。
それでもレベルは一七程度で二〇まで行ってない。
冒険者たちはじわじわと俺を囲むように移動する。
「やれやれ。
連れの狼くんたちの餌にはちょうど良さそうだし、きっちり死んでもらうとするか」
俺は愛剣を鞘から抜くと片手で構えた。
「掛かってこい」
不敵な笑みを浮かべつつ煽ると、気の短そうな
振り下ろされる剣に愛剣を合わせて軌道をずらしてやる。
俺はそのまま前に進み、
すーっと近づいてくる俺に
俺は愛剣の刃でその
ステータス差がありすぎて、
俺はそのまま愛剣を
もちろん峰打ちだ。
左に二人目の
二人目の
そこに矢が飛んできたので、左手でムンズと掴んだ。
矢が飛んできた方向には信じられないモノを見たという表情の
投げた矢がとんでもない速度で飛んでいき、
絵に書いたような「膝に矢をうけてしまってな」状態である。
さあ、残りは一人だね。
ジロリと
足が踝あたりまで影に沈んでいるが、それ以上入っていかないようで相当焦っている。
「それ以上影に潜ろうとしたら死ぬよ」
俺がそう静かに言うと
はい。
これで制圧完了。
俺は縄を取り出して素早く五人を縛り上げた。
「さてと。
狼くんたち。
出てきていいぞ」
待ってましたといった感じでダイア・ウルフたちが尻尾を振りながら出てきた。
その姿を見た冒険者たちは驚くと共にガタガタを震えている。
二人ほど失禁したのには目を瞑っておいてやるか。
「はい。君たちの人生はここで終了です。
バカな事をしようとしなきゃ、もう少し長生き出来ただろうにね」
俺が獰猛な笑顔を作ると、冒険者たちは必死の形相で命乞いをしてきた。
「君たちが襲った旅人も命乞いをしたと思うけど、君たちはその時どうした?」
彼らのステータスを確認したところ称号に「追い剥ぎ」等の罪状が含まれるものがあった。
確実に罪を犯しているので、助けるつもりは毛頭ありません。
「ま、俺を襲って命を奪おうとしたんだから、命を奪われる覚悟もあったはずだよね?」
俺は「やれ」とダイア・ウルフに命じて、その場を後にした。
悪党が死のうが生きようが俺の心はさざなみ一つ立たなかった。
心が冷たいと思われそうだけど、悪人に掛ける情けの持ち合わせがないのだから仕方がない。
俺はインベントリ・バッグ内に収めておいた冒険者が持っていた背嚢やバッグの中身を確認する。
大した戦利品ではないけど、一応ドロップ・アイテムとして頂いておいたのだよ。
いくつか貴金属が入っていたので、盗品かなにかだろうと思われる。
悪党が減って「少しは世の中が平和になってくれればいいな」と思いつつ、俺は仲間たちと合流した。
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