第32章 ── 第13話
そして代償として精霊に魔力を支払うのである。
魔力消費も本来の魔法と代わりがないので、基本的には同じ現象である。
神が呪文の術式に含まれた発現する現象を精霊に伝えるという感じだ。
神が間にいる為、その神が司る力に偏った属性や効果が強化されるという副作用が起こる。
中でも聖属性が強くなるきらいがある為、回復とか身体強化などの魔法が多いのだ。
信仰する神によっては聖邪以外にも生命、死霊、精神、光、闇などの属性も使えないこともない。
魔法の素養がない人間でも「信仰心」を条件に魔法を使えるというメリットがある分、神が司る力と相反する力は発動できないし、制限が色々と付いてしまうのがデメリットではあるね。
発現しようとする効果が強ければ強いほどに代償となる魔力がとんでもない量になってしまうのだ。
それを解決する方法として複数人で魔法を行使する「儀式魔法」が開発された。
儀式魔法は魔法を行使する人間を複数用意する事で、一つの魔法の消費魔力を各人で負担することを目的とした方法となる。
単純計算でよければだが、一〇人集めて呪文を行使すれば消費魔力を一〇分の一にできるという寸法である。
儀式魔法用の
俺やエマ、フィルは「イルシスの加護」の効果によってこの消費される魔力を自分の保持する最大MPとは関係なしに魔法の行使が可能になっている。
これは神が司る権能の一つなのにも関わらず神聖魔法と違って信仰心が必要ないし、行使する魔法の属性やら効果になんの制限もされない。
まさにチートである。
だが、この加護を受けるにはデメリットもちゃんと存在する。
死後……あるいは加護を受けている者の希望するタイミングで、神の使徒としてイルシスに奉仕する事を是としなければならい。
これは永遠に続く神への奉仕となるため、魂が輪廻の枠から外れることを意味する。
仏教徒なら解脱と喜ぶかもしれないが、信徒ならともかく、そうでないものが永遠に奉仕を義務付けられるってのは、相当な犠牲なのではないかと俺は思っている。
まあ、魔力無限ってのは
ちなみに、俺は勝手に加護を与えられたのもあるが、年老いて死ぬことがないプレイヤーの身体な為、死後の奉仕などに縛られていない。
もっとも、創造神の後継を永遠に奉仕させる権限をイルシスは持たないだろうし、俺はこの条件を免除されている完全なチート野郎である。
本当にズルっこだよねぇ……
さて、解説はこのくらいにしておこう。
今日、ここに来たのは歓待される為ではない。
本来の目的をとっとと果たす事としよう。
「んじゃ、魔法による防御って奴を見せてみるかな」
ミネルバの期待に満ちた目を受けつつ俺は椅子から立ち上がる。
村の中心にあるこの広場がちょうど村の真ん中付近なので、周囲を見回して村の広さを確認する。
この中心から東西南北五キロ四方くらいが畑も含めて村の全体らしい。
小川などの水源はないようで、この広場の中心にある井戸が唯一の水源なのだろう。
農業用水もコレを使っているとしたら、ハドソン村での大規模農業は難しいに違いない。
「とりあえず井戸を中心として防御を展開するか」
周囲を見回すと村人たちも何が始まったのかと俺の方を見ている。
俺は長い詠唱を開始する。
『ルグレギオ・アレムセート・ボレシュ・テラム・ソーマ・ラソロス・マジリア・シルディス……』
レベル一〇の魔法は、殆どの
本来なら一〇〇人単位の
『……エルフォルス・モート・ライファーメン。
ニンフの集落でも使った様々な発動条件を付け加えた特別な「
今回は村の中心から半径五キロをドームを展開した。
村への敵対心などを持つモノはドーム内には入れないし、村に被害が出そうなエネルギーなども完全に排除する。
雨や風などは妨げないが、台風とか竜巻のような過度な自然状況は阻む。
自然災害もシャット・アウトするんだから凄いだろう?
まあ、敵意を持ったヤツが既に村の中にいたらお手上げなんだけどね。
そういうのはガーゴイルがどうにかするでしょ。
呪文が発動すると、周囲に一瞬だけ虹色のドームが見えた。
しかし、直ぐにドームは無色透明になり人間の目には見えなくなった。
「これで良し」
「終わったんですか?」
ミネルバがキョロキョロと周囲を見回す。
「ああ、これで村は外部からの攻撃、自然災害なんかも全く受けなくなったよ」
「そういえば、さっき遠くの方で虹色に光ったのが見えた……」
ポーフィックが囁く。
「それが防御壁だよ」
「という事はリザードマンの襲撃なんかは……」
「そういうヤツは村に入れないからねぇ」
俺が笑ってそういうとポーフィックは少し肩を落とす。
「じゃあ、俺らの常駐仕事も終わりって事だよな……」
ああ、そういう意味で落ち込んだが。
「いや、君たちは引き続き村の専属冒険者をした方がいい。
冒険者の存在は例え安全な地域でも人々の安心に繋がっている」
ポーフィックは「でも……」と今さっきよりも更に小さい声で言う。
「村に何も悪い事が起きなくなったら、確かに感謝される事はなくなるかもしれないな」
ポーフィックは「そうですよね」と嘆息する。
「君は感謝されたくて冒険者をしているのか」
「どちらかと言えば金だけど……
最近は、村の人にありがとうって言われると嬉しくて……」
言いたいことは解る。
基本的に冒険者は一攫千金を夢見た
最初の動機はそんなもんだ。
ランクが上がり自分たちの責任を感じ始めると別の喜びを感じるようになったりもする。
ポーフィックのようにね。
人々の感謝はとても甘露な美酒だ。
それを受けられないとなれば冒険者の存在意義を感じないなんてヤツも出てくるのかもしれない。
「志が低いなぁ。
冒険者は感謝されて当たり前とか思ってないか?」
「守ってやれば感謝されるでしょう?」
「守ってやればね。
随分と上から目線だな」
俺のツッコミみポーフィックが言葉が詰まったように「うぐっ」と唸った。
「そもそも冒険者って何だ?」
「そりゃぁ所属する地域の安寧を守る……憲章にそんな文言があったかと」
「そうだね。
そこに本来は見返りは求めないモノなんじゃないか?」
実際には見返りがなければ自分を犠牲にできる者は少ない。
報酬が出るからこそ冒険者はクエストを受けて問題を解決するのだ。
報酬が安いクエストに冒険者は手を出さないからね。
「まあ、解れとは言わないよ。
だけど、この大陸東方で誕生した冒険者ギルドの創設理念を考えてみるといいよ」
言ってからはたと疑問がの脳裏に過った。
「あれ?
冒険者ギルド創設の歴史って語られてたっけ……?」
「いや、昔からあるってのは知ってますけど、聞いたこと無いですね」
ポーフィックは首を傾げた。
「大陸の東側ってさ、数百年前に一回滅びかけたらしいんだよ。
その時、腕に自身のある者たちが寄り集まって人々を助ける為に組織を作った。
それが冒険者ギルドの始まりだそうだよ」
だからギルド憲章には「民を守る事を義務」としている事が書かれているんだ。
義務だから命をかけて守る必要があるんだが、ギルドは冒険者全員にそれを求めてはいない。
そういった義務を背負っているのは上位ランクの冒険者だ。
オリハルコン、アダマンチウム、ミスリルあたりのランクであれば間違いなく義務として命をかけるべきだろうか。
プラチナ以下は「いのちだいじに」でいいんじゃないかな。
「ま、そんな構えず気楽にやってくれ。
そういう義務は俺たちが背負うさ」
「……ケントさんは今、どこまでランク行きました?」
突然、そう言われて今度は俺がポカンとしてしまった。
そう言えば彼らに出会った頃、俺はプラチナ・ランクになったばっかりだったっけな。
今のポーフィックたちチーム鷹の爪はシルバー・ランクだ。
まだまだ俺たちに追いつけないと思っているのかもしれん。
一人前の冒険者としての自覚が芽生える時期だが、民間防衛に命を掛けるにはまだ実力も自覚も足りないんだろうな。
「今の俺は、これだよ」
俺は胸元から虹色に輝く冒険者カードをチラリとポーフィックに見せた。
「オリ……」
そこまで言ってポーフィックは口を閉じた。
俺が自分のランクをひけらかすような行動を取らないのを彼は知っているから黙ったんだろう。
彼らの憧れであるトリシアはひけらかしはしないが、秘密にもしてないから「だからどうした」ってな態度になるだろうけど。
それにしても俺の冒険者カードを見たポーフィックの目には先ほどとは違う光が宿った気がする。
どんな理由であれ、モチベーションを高める事に繋がったのなら良い傾向だと思う。
仕事も終わったので村長らしき老人とミネルバたちに世話になった旨を伝えて
みな名残惜しそうな雰囲気だったが、笑顔で見送ってくれる。
魔神と化したシンノスケがハドソン村にだけソバを伝えた理由は、この素朴な村人たちの性質が理由なのかもしれない。
何となくほっこりした気分で俺は
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