第32章 ── 第12話
俺の正体を知った村人たちの歓待を受け、「ささやかだが歓迎の宴を開きたい」との事なので宴とやらに出ることに。
突然の訪問だし、大した準備もできないだろうに村中大騒ぎで準備を開始した。
村人たちの好意を無にするのも何だから喜んで参加しよう。
男たちは飾り用の花やら布やらを持ってきて集会所らしき建物の前を飾り立てはじめた。
この村全体を見渡せる集会所の屋根の上にガーゴイルが乗っている。
村人たちは、屋根まで梯子を掛けてガーゴイルまで飾り立てた。
女たちは料理をしに行ってしまい、周囲はポーフィック率いるチーム「鷹の爪」のメンバーだけになってしまう。
チーム「鷹の爪」は五人組のパーティで、
以前いた
それにしても、鷹の爪には女
地球と違ってティエルローゼは男が力仕事、女は手作業みたいな棲み分けが普通で、料理は手作業に含まれるので女の仕事という事になる。
もっとも料理をやってる俺としては料理も結構筋肉使う仕事多いんで、別に男がやっても良いと思うんだよなぁ。
でもまあ、男料理っつってマズメシ食わされるのは御免被りたい。
ちなみに服飾関連も女仕事です。
現実世界だと男のデザイナーが多い気がするけど。
という事でファッション・デザイナーであるシンジも俺と同様ここでは例外って事ですね。
宴の準備が終わるのを待っていても暇なので、鷹の爪がどうしてハドソン村にいるのか聞いてみる。
どうやら鷹の爪は今、ハドソン村専属の冒険者チームになっているらしい。
ハドソン村は貿易都市のアドリアーナの南方にあり、この二点間を結ぶ定期便を専属で受け持つだけでは彼は食べていけない。
定期便護衛がない場合は他の冒険者と同様にモンスター狩りなどのクエストを請け負って金を稼いでいたらしい。
一年ほど前、リザードマンの大量発生事件がハドソン村のさらに南部の湿地帯で発生、急遽防衛用の人員が必要になったそうだ。
ガーゴイルを派遣しているので村だけなら防衛は全く問題ないのだが、ガーゴイルの戦闘スペックを村人は知らない。
村人たちの不安が長老である村長への陳情へと繋がる。
俺との専売契約のお陰で村が潤い初めていたのもあり、金銭的余裕があったので彼らを村専属の冒険者として雇い入れる事になったらしい。
衣食住が約束されていて、手間賃まで出る。
ついでに村の近辺でモンスター狩りをやれば敵の強さに応じて追加報酬まで出るとなれば冒険者としてはやらない手はない。
実際、リザードマンは週一で現れたし、鷹の爪のメンバーにとっては程よい強さで良い訓練にもなったそうだ。
確かに彼らのレベルは以前よりも上がっていて平均レベルは二〇くらいだし、この辺りでは敵なしだろう。
ネックとしては新人がレベル一二ってところだが、このレベルなら一般的な中堅冒険者チームのレベル帯なので問題はないとは思う。
レベル差は基礎ステータスがかなり変わるので、チームの連携において足を引っ張りかねないのが不安要素ではある。
リーダーなり他のメンバーが、その辺りをしっかりとフォローできるかどうかが重要な要素になるだろう。
今後に期待のチームなのは間違いない。
ちなみに彼らは現在シルバーまでランクを上げたらしい。
シルバーは上級冒険者の一角である。
これより上に上がるには並外れた才能が必要になるらしいので、一般的冒険者の到達点ともいえるランクなのである。
若いのにここまで来るという事は、かなりの有望株なのは間違いない。
「ところでケントさん。
俺達の話はこのくらいでいいんで、ケントさんの冒険話を聞きたいですね。
結構凄い事やってるんでしょ?」
「あー、俺ら?
そうだなぁ……
色々あったけど、帝都の話は聞いたか?」
俺は彼らがどれほどの情報を持っているのか確認してみた。
「帝都っすか?
宰相だった奴が謀反を企ててたとかで御家断絶したとか、魔法学校の校長が宰相公爵になったとかは聞いてますね。
それ以降は、王国と仲良くなったとかで食うもんがどんどん入ってくるようになったくらいですかねぇ」
ポーフィックは腕を組みながら宙を見上げて思いつく事柄を上げた。
他にも食料の代わりに北の池沼地帯を王国に渡した事を貴族が問題視した所為で皇帝の信を問うなんて暴挙に出た奴もいたらしいが、新任宰相ローゼン閣下と軍が協力して鎮圧したなんて話もあった。
軍が協力したならデニッセル子爵だろう。
あ、今は伯爵だったっけ?
彼が軍の最高司令官として任務に当たっているはずだし帝国は問題ないだろう。
「帝都といえば、帝都運営統括のナルバレス侯爵が皇配に叙せられるなんて噂が出てますね。
御子息のヒルデブラント伯爵がオーファンラント王国との特別大使になって毎月お隣に顔を出しに行ってるのもそのお陰だとか」
いや、アルフォートの地位は彼の努力と実力で勝ち取ったもんだろう。
彼の親父が女帝陛下を誑かしたからじゃねぇぞ。
「アルフォートは実力だよ。
親父は陛下の昔の想い人だっただけだ。
叙爵は彼の功績によるものだ。
巷でそんな噂になってるとは思わなかったなぁ……」
俺がガッカリした顔で嘆くと、ポーフィックたちは慌てる。
「お知り合いだったんですか……
失礼な事を言ってしまって申し訳ない……」
「いや、女帝陛下の案件は俺らが色々関わってたんだよ」
「マジか……」
そんな俺のクエストの片棒を担いでいたのがアルフォートって事だ。
その後の経済圏構想の実行は、クリスとアルフォートを実行役にして動いてもらってるんで、俺は黒幕的な立ち位置とも言えるな。
「帝国は食糧事情が大分改善されたそうだね」
「改善されたなんてもんじゃないですよ!
毎日小麦のパンが食えるんですよ!?」
トリエン南部で小麦粉が大量に生産されるようになってトウモロコシの粉のパンじゃなくなったのが相当良かったらしい。
帝国は食料面から経済が動き出した事がきっかけになり市場は大変な好景気に見舞われている。
そのお陰で人々の生活も潤っているという。
民の金回りが良いということは彼らの生活の支援をしている冒険者にもお金が回ってくるこという事だ。
そういう面が、今彼らがこのハドソン村の専属になっている理由だ。
回り回って今の状況が生み出されたワケで、縁ってのもしっかり働いているなと思う次第です。
さて、三時間ほどして宴会が始まりました。
俺は貴賓席らしいテーブルの真ん中に座らされ、となりにはニコニコ顔のミネルバが座ってお酌してくれるという塩梅。
食卓はカゴいっぱいのパンと蕎麦のガレット、鶏の丸焼きや豚肉のステーキなど、寒村では食べられない豪勢なレパートリーです。
「ケントさんがあの宿で作ってくれたテンプラーってのだけが作り方が解らなくて……
何度か試したんですけど、あんなにふんわりサクサクにはならなくて」
差し出されたものは揚げすぎな天ぷらっぽい何か。
きつね色どころか焦げ茶色といった感じで、口に入れなくても歯ごたえはガリガリ言うだろうなと判断がつきます。
「揚げすぎだな。
まだ早いかな? ってくらいで油から上げないとこんな風になる。
それと小麦粉に溶き卵を入れるといいね」
どうも衣の材料が小麦粉だけっぽいのでちゃんとアドバイスしておく。
ぶっちゃけこの世界では油で揚げるという料理法は贅沢な部類に入るので、せっかく贅沢するなら美味しく作って食べてほしいものである。
それと共に蕎麦つゆ、天つゆのレシピも教えておく。
せっかくの蕎麦の産地なので、本場の天ぷら蕎麦屋なんかが出来てくれると観光に良い気がする。
ここはアドリアーナとも近いので醤油や鰹節も一応手に入るしな。
値段は相応に掛かると思うが、美味い飯を食うなら調味料くらいケチるな。
「ところで今日は私たちの様子を見に来たという事ですが……」
宴会の最中、ミネルバにそう質問されて俺は頷いた。
「ああ、半年くらい後になるんだが……
世界が滅亡するとかいう予兆が現れたんだよ」
俺は北西の空を指さした。
俺の言葉に不安そうにミネルバが空を見上げた。
「あの点は何でしょうか……」
「あれは
あれが開ききった時、世界を破壊する存在が出てくるんだと」
終末論よろしく不吉なことを俺は言っているんだが、なんだか小話やら噂話をする程度の軽妙さで話している為か、聞いている村人たちもピンと来ない顔つきである。
「そ、そうなんですか……?」
ミネルバは困ったような顔で小首を傾げた。
「ま、俺たちが何とかするから問題ない。
その対処の補助としてちょっと魔法の防御をさせてもらおうかと思って今日は来たんだよ」
「魔法の防御!?」
ミネルバはそっちの方に飛びついた。
「魔法ってあまり見たことないんですよね!」
「エラが時々村の人の治療で使っているだろう」
ポーフィックが少し不機嫌に訂正しようとする。
「でも、神聖魔法という奴ですよね?
神様の力じゃないですか。
人間の力で何も無い所から何か不思議な力を引き出す……
ってところに私はワクワクするんですよ」
ポーフィックは「そんなもんかね?」と頭を掻いた。
言わんとしている事は解る。
俺もドーンヴァースで魔法ってモンを自分で行使した時には感動したもんだよ。
例え作り物だったとしても。
完全ダイブ型のVRMMOは、本当に魔法を使っているような感覚を覚えるほどにリアルなんだよね。
脳に直接情報を流し込んでいるからかもしれないけど、魔法を使う時に体内に流れる魔力を感じる事だって出来るんだからねぇ……
はい、そこのあなた。
推察通りです。
リアルワールドでも本当に魔法を使えるんじゃないかと呪文の詠唱とポーズをキメて試して見た厨二病患者は今ココにいます。
誰でも手の平から気功弾とか出せるかと試すでしょ。
アレと同じですよ。
ドーンヴァースを体験したら厨二病じゃなくても誰もがやると思うんだけどなぁ……
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