第32章 ── 第9話
さて、続いて魔族たちの分。
「コラクス。
武器はこれ、防具はこの執事服だよ」
「ありがたく頂戴致します」
恭しく頭を下げつつ、もらった武具を頭よりも高く捧げ持つアモン。
仰々しすぎるのだが、今更言っても改まらないので無視です。
「それから……」
俺は宝石のような形にカッティングした金属の小さいメダルを幾つか取り出す。
手のひらの上でジャラジャラさせてから既に渡した装備の上に落とした。
「剣自体は大した能力じゃないんだ。
今、君が持っている剣の方が優れていると思うんだよ。
何パーセント分倍加とか、どうやんだよって話で……
んで仕方なしだけど、スキルを追加付与できる能力を剣に与えてみようと思ってね」
俺は渡した装備の上に落とされた小さい金属のメダルを指で軽く弾いて転がす。
「斬撃スキル、受け流しスキル、カウンタースキルとか、思い付いたスキルを幾つかその金属メダルに刻み込んでみたよ。
それを剣のコネクタに嵌め込む事で、自分のスキルとして使えるように工夫をしてみたワケだね」
アモンは目をパチクリさせている。
「つ、つまり……
私が習得していないスキルが使えるようになると……?」
「そういう事だね。
剣を使っている時じゃないと発動できないし、魔力も精神力も使用するスキルに必要な分消費するけどね」
「既に覚えているスキルの場合はいかように……」
俺はその質問にニッコリする。
「いい質問だ。
これは、習得スキルのように発動できるし効果も同じなんだけど、スキルとは別物なんだよ。
例えば斬撃スキルは与えるダメージがレベル・パーセント分上昇するよね?」
アモンは頷く。
「この追加スキルは、それとは別に発動する。
例えば使用者が持つ斬撃スキルがレベルが五、そしてこいつを併用すると、一五パーセントになるって寸法だね。
作ってみたらレベル一〇のスキルがメダルに付与されてね。
かなり強力な強化になると思うよ」
アモンは小刻みに震え始めた。
みみっちい対抗策で怒っちゃったかな?
「素晴らしい……」
「え?」
「さすがは主様でございます!!」
ガバッと顔を再び仰々しく下げ、アモンは号泣しはじめた。
イケメンが台無しなんですが……
「な、何で泣いてるの?」
俺が困り顔でフラウロスとアラクネイアを見ると、フラウロスは無言で肩を竦めた。
「これはアレですわね。
元の佩刀の能力より強力なモノを賜った感動かと思いますわ」
アラクネイアは説明してくれる。
カリスから賜った剣は非常に優れた剣である。
刺突ダメージが二〇〇%上がるんだから当然である。
ただ、これは剣のみの能力にしか適用されないそうなのだ。
例えばダメージが五~二〇ポイントの剣だと、一五~四〇ポイントのダメージ・レンジになるという事だね。
そして、これにスキルや能力を加えてから総ダメージ量という感じの計算になるらしい。
剣が優れていても、本人のレベルが上がっても武器の総ダメージ量は一五~四〇ポイントから変わらないのである。
凄いのは間違いない。
しかし、いくら自分が成長しても武器は成長しないのだ。
ところが俺が渡した武器は、スキルと同等の働きをする。
武器どころか総ダメージ量に影響を与えるのである。
アモンはそれを理解したのだ。
それに彼は感動したのだろうとアラクネイアは言った。
「んー?
違いは……効果の適用範囲というか、計算タイミングの話だな?」
「左様です」
「……え? あの二〇〇%って武器だけに適用なの!?」
「普通がそうですよ?」
えー、初めて知ったわ。
それだとダメージがでかい武器に付与する分には強力だが、
彼の剣、確かアレ以外なんの能力もないし。
ドラゴン特効とか特殊効果ないと意味が……
「なるほど。
つーことは、いつものあの攻撃力は、彼のスキルとか能力が強力って事なんだな……」
「左様にございます。
主より与えられた力でより強き力を発揮できると喜んでおります」
アモンってとんでもねぇ力もってんだな。
伊達に武を体現すると豪語してないわ……
俺としては能力だけであれだけの力を発揮してる方が凄いと思うんだけどね。
魔族的には主から力を与えられているという実感の方が大切らしい。
「まあ、いいか。
次はフラちゃんね」
「はっ!」
フラウロスは待ってましたと言わんばかりに俺の前まできてキレッキレの動作で跪いた。
俺はアモンと同様にフラウロスにも武具を渡す。
俺は捧げられた両手にローブと炎の直剣を置いてやった。
刀身が緋緋色金属特有の赤みがかったモノになったのもそれっぽい感じで俺的には気に入っている。
「炎の剣とローブだよ」
「炎の!」
「だってフラウロスは炎操るじゃん。
それを突き詰めてみた」
「おお……」
フラウロスは直ぐに柄を握り剣を鞘から引き抜いた。
赤み掛かった刀身が炎のようにゆらゆらとした刃紋と共に輝いている。
「こ、これは!!」
「あ、やっぱ解る?」
「解りまする! 炎の精霊の力が宿って……」
「それもあるけど、爪先に魔力を流してみて」
フラウロスは言われたように魔力を流したようだ。
赤い刀身がさらに輝きを増す。
そしてボンッと音を立てて美しい赤い炎が刀身を包んだ。
「おお!?」
仲間たちもびっくりした目でフラウロスの持つ剣を見つめている。
「俺が使う魔法剣みたいな奴を刀身に再現してみたよ。
炎特化の君の魔力を流す事で、炎の力を自在に剣に宿せる」
ついでに炎の刀身は何本も作り出せて、おまけに浮遊する。
俺が説明すると、フラウロスは器用に一〇本の炎の刀身を出現させた。
「どう?
フラウロスは炎の刀身を消し、剣を鞘に収めると再び跪いた。
「よき装備を頂き、身の震える思いでございます。
如何にしてこのご恩に報いればよろしいのでしょうか……」
こちらも相当感動しているようで肩が震えている。
「普通に色々手伝ってもらえればいいから」
俺は苦笑しつつ、二人の鞘の説明をする。
「二人の鞘は特別でね。
この
コラクス、これもスキル・メダルと併用可能だから」
「おお!!」
アモンはさらにパワーアップ可能と聞いて歓喜の声を上げる。
「まあ、これを使うと面白い事が出来ると思うんで、色々試してみてよ」
「承知しました」
フラウロスも嬉しげに再び深く頭を下げた。
さてと……
俺は続いてアラクネイアに視線を移す。
「次はアラネア」
「はい」
アラクネイアは静かに俺の前まで来るとスッと綺麗な仕草で身を落とす。
「君は黒が好きみたいなんで、黒いドレスだよ。
デザインは、シンジだから問題ないだろう」
「ありがとうございます。
シンジ様の意匠なら素晴らしいものでございましょう」
ほう。
美の体現者であるアラクネイアも彼のデザイン・センスを認めているのか。
トリシアをチラリと見たら少し目を細めてた。
あれは嬉しさを顔に出さない時の顔だろうな。
「それと武器だが……」
俺が指輪を取り出した瞬間、他の女メンバーたちの目がカッと見開かれたのが解った。
凄い殺気のような物を感じるのは気の所為だろうか。
「これは?」
ドレスの上に指輪を置くと、アラクネイアが少し熱の籠もったような声で聞いてきた。
「これは一応武器だよ。
扱いは難しいと思うけど……」
俺は武器について説明する。
中には目に見えないくらい細い糸のようなモノが入っている。
この糸は装備者の意思で自由自在に出し入れ出来るし操れる。
「だだ、この糸はただの糸じゃないんだ。
一応ワイヤー・ブレードになっていて、糸に触れるモノをズッパリと切り飛ばせる」
俺はこのワイヤー・ブレートを
注意しても見逃すほど細いので「知らぬ間に糸に切られる」という意味と思ってもらえばいいかな?
「素晴らしき暗器でございますね」
「だろう?
アラネアはどちらかというと
「着けていただけますかしら?」
アラクネイアは左の手を差し出してきた。
別にいいけどと思って指輪を取り上げて、アラクネイアの指に嵌めてやろうとした。
指輪が嵌まる瞬間、アラクネイアの手が目にも止まらぬ速さで動いた。
気づいたら、指輪は左手の薬指に嵌っていた。
その瞬間、アラクネイアが勝ち誇ったような顔で他の女メンバーに満面の笑みを浮かべて左手を突き出して見せていた。
何をしているのか判らんが、悔しそうな女性陣の顔に、俺の頭の上には派手にハテナマークが浮かんでしまう。
「主様も罪作りな……」
「全くでございますな」
アモンとフラウロスが呆れたような声をため息混じりに発する。
「ん?
何かあるのか?」
「朴念仁と言わざるを得ませんが」
「アンドロイド系主人公みたいに返すべき案件だったか」
俺の言葉にアモンとフラウロスが不思議そうな顔をしていた。
いや、朴念仁にはこのネタが鉄板だろ。
まあ、古いオタクには通じないネタらしいけど。
「よし、武具は全員行き渡ったな?
次は仲間全員のアクセサリーのアップデート」
俺は以前仲間たちに渡した各種腕輪、足輪、指輪などの魔法道具を更新させる。
効果をパワーアップさせたり追加したりしたモノだ。
全員が大喜びで装備の更新をしてくれたのだが、女性陣だけ指輪を俺に着けろと命令してきた。
仕方ないので付けてやったが、何でみんな左の薬指を差し出すんだよ。
そこは普通、結婚指輪の場所じゃないの?
まあ、女性の考えは何となく解るけど……
全部、アラクネイアの所為だろ、これ。
ここは気づかないフリが得策だな。
しかしまあ……
気づいたら負けと思って気づかないフリをする俺も中々空気が読めるようになってきたと思わないか?
これはコミュ障という称号の返上も近いかもしれんな!
この後、仲間たち全員が闘技場に走って言ってしまったのは言うまでもない。
新しい
オタクとしては「使う用」、「観賞用」、「保存用」、「布教用」と同じものを四つ以上集めるのが基本なんだけど、戦闘オタクはそうではないって事ですかな。
まあ、作った職人的意識では「使われない装備なんてあっても意味ない」って感じなので悪い気はしませんが。
その日、模擬戦に満足して帰ってきた仲間たちの武器と防具の整備・修繕に俺が夜なべすることになったのは言うまでもない。
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