第32章 ── 第6話
翌日、西の空を見上げて例の点を観察してみる。
やはり以前よりもハッキリと見える気がする。
点が大きくなっているのは明らかだな。
できるだけ早急に準備を進めようと思う。
バルネットへ同行する者の装備は準備終了。
今度は他の仲間の装備を準備しよう。
トリシアには新しいバトルライフルと専用の弾薬を作ろう。
弾薬は各種魔法属性を込めた弾丸、目標に当たると破裂する炸裂弾、ドラゴンの装甲すら貫ける徹甲弾、貫通力は少し劣るが炸裂徹甲弾などのダメージを与えるものだけでなく、回復弾、解毒弾、麻痺解除弾、結界弾などの支援弾薬も作ることにする。
トリシアは後方から戦場全体を監視・管理するのが役割だから支援弾は大いに役に立つだろう。
スナイパー的な射撃精度で遠方から支援できるってのも強みになるよね。
ハリスには
他にも
例えば、
気配は消せても、他人に変装して相手を騙す事ができなければ真の
マリスは
これを緋緋色金属で作るとほぼ無敵だろうと思うよ。
鉄壁金髪美少女であるマリスには最適装備となるだろう。
もちろんゴリッゴリに魔法付与するしね。
それと
緋緋色金属だと二つ以上の魔法付与が簡単に出来るので便利だよねぇ。
アナベルには従来の戦闘スタイルに合う装備と共に
ローブに近い神官服では色々と問題が起こる。
なので、コマンドワードを使う事で防具の形状が変わるようなギミックを付け加えたい。
ひらひらした神官服の袖やスカート部分が短くなって腕や腰まわりで硬質化するとかいいかもね。
別にアナベルの豊満な肉体をじっくり眺める為ではないと言っておく。
ガンガンと緋緋色金属を叩きまくり、早一週間。
ようやく全ての武器と防具が魔法付与も含めて完成。
我ながら頑張ったよ。
全ての武具をインベントリ・バッグに納めて館に戻る。
館に戻ってみると仲間たちも魔族連たちも出かけて居ないという。
珍しいこともあるものだと思いつつ執務室でトリエン行政の雑務をやっておく。
俺が執務室で仕事をしていると誰かから聞いたのか、直すぐにクリスがやってきて山積みの資料を俺に渡してくる。
大体がトリエンの貿易関連と財政関連の資料である。
住民からの陳情等は殆ど上がってきていないところを見ると、トリエン運営はかなり上手く行っていると見える。
収益が膨大なので税制も大分緩和してるからね。
トリエンにやってくる人もどんどん増えているようで住人の増加率は相当なものである。
その所為で他の領地の住民が減ってしまうのは問題なので、大抵の希望者は選考落ちさせているようだ。
そうなってくると街の近隣の空き地に勝手に住み着く輩が増えしまい、それらの不法住人が問題を起こす事も多くなるのだがトリエンの治安機構はそれほど甘くない。
巡回ゴーレムとダイアウルフ部隊が問題の対処および排除を担当している為、一瞬で解決されるのである。
不法移民も市民ではないかって?
冒険者ギルド憲章においては市民は保護対象になるのだが、これは市民としてどこかの土地に登録している住民の事を前提としているのだ。
もちろん人頭税を払っているのが当たり前で、法律を守っている事は重要になる。
不法移民は、違法に滞在しているので犯罪者という認定になるので、市民から外れた存在として扱われるのだ。
冒険者もそれに準じた扱いを求められる。
助けるもよし、助けないのも自由って事だね。
トリエンの門外街を形成する者たちも当然こういった対象なのだが、壁の外といっても都市の外苑なので強制排除される事は殆ど無いため拡大する一途なのだが。
あまりにも無秩序化が進んだ時には、先に言った巡回ゴーレムとダイアウルフ部隊によって間引きが始まる。
それがイヤなら他に行けというワケ。
まあ、ちゃんと数週間前から警告をしてからやるので、虐殺が始まるような事は殆どないんだけどね。
一旦どこか別のところに退避してから、また戻ってくるような剛の者いるようだけど……
そこまで能力の高い奴が選考に漏れる事はないので、戻ってくる奴はかなり減るんだよね。
森に逃げ込んで野獣にやられちゃうのか、それとも野垂れ死ぬのか、はたまた無事に他の都市に逃げ切れるのか……
その辺まで面倒を見る義務はトリエンにも冒険者にも無いんだよ。
あの西に浮かぶ点の所為で、神にしろティエルローゼ人にしろ強者こそ保護されるべきで、弱い者を保護する意識に乏しいんだ。
これは魔神被害で滅亡仕掛けた大陸東側においても感じられるからねぇ……
俺としては、あの黒い点から出てくるであろう「全てを滅ぼす者」とやらを討伐して、恒久的に生きとし生けるものが平和に暮らせる世界を作りたいんだけどね。
そうなれば人口が増えてティエルローゼ大陸だけでは、土地が足りなくなりそうだけど、その時は北半球にある大陸に入植する計画を立てれば良いだけだね。
海路は巨大魔獣の巣らしいので、空でも飛んで入植団を運ぶのも手か。
まあ、今は目下の仕事を片付けるのが順当だね。
俺は目の前の書類にザッと目を通して良ければ判子をポンポンと押すことに専念した。
二日ほど仕事を続けているとクリスがまたやってきた。
「クリス、人足を大量に集めてくれ」
俺が書類から目を離さずに言うと、執務机に書類の束を置きつつクリスが怪訝な顔を俺に向けた。
「また何かやるのか?」
「トリシアたちから話を聞いてないか?」
「空の黒い点の事か?」
「それだ」
「世界を滅ぼす者がアレを作ってるんだっけ?
なんの実感もないが……」
「あれが開き切ればそうなるって話だ。
で、そうなった時の対処をしておきたい」
「何をすれば良い?」
「人足を集めて地下に
「
俺は書類に判を押しつつ頷く。
「俺と仲間たちがアレに対処している間、住民には地下に隠れておいて欲しいからね。
住人が全員隠れ住めるような場所を用意しておくに越したことはないだろ?」
「しかし、住人全部となると……とんでもない大きさの地下空間が必要になるが……」
確かに相当大きなものが必要になる。
現在の都市トリエンとほぼ同じ大きさの空間が最低でも必要なのは言うまでもないが、避難に備蓄してく物資を貯蔵庫なども用意するとなれば、もっと大きい空間が必要になる。
地下空間が崩れ落ちないように強度も考えねばならんので、大きい空間一つを用意するワケにもいかないし、規模はさらに大きくなるだろう。
「最悪を想定すれば半年以内にはある程度使える
俺の言葉にクリスは絶望に表情が固まってしまう。
「む、無理だろ……」
絞り出すように出た言葉が掠れ声で殆ど聞き取れないが、俺の聞き耳スキルで十分に聞き取れた。
「無理を可能にするのが俺だ」
俺はいたずら小僧のようにニヤリと笑う。
「まず、掘削ゴーレムを一〇体用意している。
集めた人足を一〇組に分けて各隊に一体配備する。
もちろん掘削した土砂を運び出すのもゴーレムにやらせれば良い」
俺は昨晩の内に用意しておいた
「これをエドガー都市設計担当官に渡せ」
「これは……?」
「
主に軍隊等で用いられるメソッドの一つである。
部隊人員やその編成、必要な装備を書き出すことによって準備する物資や必要人員などの情報を容易に把握できるようにする。
一つのユニット構成などを作っておけば、別のユニットを用意する時にノウハウや何やらを再利用できるし、非常に便利なメソッドなのである。
「この書類は一組分の構成を記載しているけど、この書類に従えば一〇組分組織するのも比較的楽になるだろ」
必要な人員と物資、装備は書いてあるんだから、それを一〇倍にするだけでいいのだ。
「相変わらず凄い発想だな……
了解した。
早速取り掛かろう」
「頼むよ。
事が終わったら、この地下空間をギルドの訓練施設に転用しようかと思ってるんで、不良物件になることもないよ」
「訓練施設?」
俺がクリスの去り際に彼の背中にそう言うと、彼は立ち止まって振り返る。
「ああ、人造ダンジョンだな。
命の危険はちょっぴりで冒険者の経験値はガッポリ。
そんな訓練施設だな。
ルクセイドの都市レリオンにある迷宮を参考してみたんだよ」
クリスはレリオンと聞いて首を傾げたが、すぐにポンと手を叩いた。
「ああ、噂に聞く冒険者の都市か!
あそこの迷宮では魔法道具が産出されるそうだな!」
ルクセイドとの国交が結ばれてから、デルフェリア山脈より西側の情報が流れてくるようになった為、例の迷宮の話も儲け話の一つとして東側で噂になっているのである。
「そう、それね」
「そういや、ケントたちはあの迷宮を突破したんだろ?
どんな所なんだ?」
「これは秘密だぞ?
あれは神が作った訓練場なんだよ。
下界の人間たちから強者を生むための施設なんだとさ」
「神々が……!?」
神々と聞いてクリスは顔を引きつらせる。
「神々は人間の生死なんて気にも止めない。
だから凄い難易度なんだよ。
死人が出まくりでさ」
あんな難易度では冒険者を育てるのは難しい。
もっと難易度の低い訓練場がやはり必要だろう。
「なるほど。
難易度の低い訓練所にするわけか。
という事はトリエンは冒険者の聖地になるかもな」
クリスも何となく納得しはじめたようである。
「聖地にするつもりはないけど、トリエンにもそんな施設があったら冒険者ギルドも喜ぶだろう。
俺も冒険者だし、ギルドには世話になったから恩返しの一貫だな」
「解った。
この事業は早速開始するよ。
予算は書類通りに通して良いんだな?」
「ああ、ちょっとくらい足が出てもいい。
領民の命も掛かってるから最優先で頼む」
「承知した」
クリスは意気揚々と執務室を出ていった。
前々から考えていたトリエンにダンジョンを作る構想だ。
今回の建設の趣旨は違うけど、再利用できるような物を作っておくと後々便利だし。
我ながら貧乏性な気もするが、性格は簡単には変えられないんだよ。
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