第32章 ── 第5話

 シンジに仕事を頼んだ後、数日かけて鞘にセットする魔導基盤マジック・サーキットとアクセサリー類を作成する。


 鞘に入れている剣に地・水・火・木・金・風・雷・毒などの各種属性を付与するものが基本だ。


 その他にも便利そうなものを考案する。

 剣の使用者の時間感覚を加速する「加速ヘイスト」は、感覚だけが加速するのだが、対峙している相手の動きが遅く見えるようになる。

 ただソレだけなんだけど、敵の動きが見えるということは敵の攻撃を避けることも容易になるという事だ。

 もっとも、その時間感覚に自身の身体が対応できるだけの素地が必要になるが。


 逆に斬り付けた敵の時間感覚が鈍化する「鈍速スロー」も用意してみた。

 これはさっきの「加速ヘイスト」の逆の効果だね。


 この二つをアモンとフラウロスが連携して上手く使えば、敵はこちらの動きが何倍にも早く感じる事になるんじゃないかな?

 ま、使い方次第だ。


 それ以外にも感知・看破などを強化するヤツとか、込めた魔法を刀身に込めて振るだけで魔法を飛ばせるようにするヤツとかも作った。

 似たような効果だが、状況に応じて使い分けられるようなヤツも作ってみた。

 備えあれば憂いなしだ。


 アクセサリー類は、指輪、ブレスレット、アンクレット、首飾り、耳飾りなど、考えられるモノを全て作る。


 これまでに他の仲間たちに作った事もある効果を付与していく。

 素材は緋緋色神鉄だが、芸術的な装飾は皆無。

 ただの輪っかだったり球だったりとシンプル過ぎる感じなのはいつも通り。

 まあ、着飾る為のモノではないので勘弁してもらいたい。

 装飾が付いたものが欲しければ、芸術的センスを持つ職人に頼んで彫り込んでもらえばいい。

 もっとも緋緋色神鉄に彫金できる技能持ちがいるとも思えないけどな……


 一通り済んだ頃、シンジが頼んだモノを持ってきた。

 三つの服型防具は、それぞれの魔族に似合いそうなデザインだった。


 フラウロスのは真紅のローブといった形だが、前が開いてあるので剣を持って戦ってもローブの裾などが邪魔にならないように出来ている。

 アモンのは言わずもがな、スリーピースの執事服である。

 現代におけるオーソドックスな英国スタイルといった感じで、この世界では珍しいデザインだが、アモンが着たら栄えるだろう事は間違いない。

 アラクネイアのはドレスといってもいい感じの黒いワンピースだ。

 派手さはないのだが、これに身を包むのが絶世の美女なので間違いなく目立つね。

 ドレスを派手にしてしまうと返って下品に見えるからシンプルな感じのドレスになったんじゃないかなと思う。


 アモンとアラクネイアが黒なのでフラウロスの赤いローブがかなり派手な気がするけど、彼は炎を操る魔族なので似合っている気がするので別にいいか。


「手数掛けたね。

 料金は言い値でいいよ。

 館に請求書を送ってくれる?」

「いや、それは別にいいよ。

 素材も道具も用意してもらっているし、ケントにはそれ以上に世話になってるからね」


 彼はトリエンが抱える貴重な高級ブランドのオーナーなので優遇するのは当たり前である。

 税率も通常の五分の一程度だし、商業・営業許可なども一番グレードが高いヤツである。

 彼の店は他領にまで商売の手を広げてはいないけど、そういう業態をやる場合にもウチの領地の後ろ盾が使えるように配慮してある。


 万が一にもシンジが待遇に不満を持たないようにという配慮ではある。

 とは言っても、彼が別の領地に鞍替えしたとしても絹が手に入る場所がティエルローゼでは限られている以上、他領で絹織物を使ったブティックが成功できるかどうかは怪しいし、トリシアがいるトリエンから彼が出ていこうとはしないと思うけど。


「この裁縫道具なんだが……」

「ああ、これね」

「報酬が貰えるんだとしたら、これを貰えないだろうか?」


 いつになくシンジの目の色が真剣である。


「マストールが作ったヤツに比べると芸術性も高くないし、報酬にするにはちょっと……」


 自分の恥ずかしいお手前を他人にいつまでも使われるというのも恥ずかしいものである。


「何を言っているんだよ?

 裁縫道具に芸術性は必要ないだろう。

 というか、こいつは本当にすげぇんだぜ?」


 そこから三〇分ほどシンジの裁縫道具(俺作)の自慢話のようなものをたっぷりと聞かされた。

 ハサミで布の裁断時に手に伝わってくる感覚が云々、どれだけ固い物にもすんなり刺さる針が云々……


 聞いていると何だか魔法付与されているかのような表現が多かったが、作った時に魔法付与などは全くしていないとだけ言っておこう。

 素材属性として幾つかの能力は付いているが……


 どうやら相当気に入ったのだけは間違いない。


「譲るのはいいけど、門外不出で頼むよ」

「いいのか!?」

「ああ。

 素材が素材だからね。

 マジ頼むよ」

「ああ、使ってない時はインベントリ・バッグに収めておく事にするよ」


 シンジは貰ったばかりの緋緋色神鉄で作った裁縫道具に嬉しげに指を這わせている。

 その指先が何やらイヤらしい感じがしたのは気の所為だろうが、店のお針子たちが見たら卒倒しそうな感じがしますな。

 変な性癖はバラ撒かないで頂きたいものです。


「そういや、預かった素材を見て思ったんだけど……

 ヒヒイロカネにも色々と種類があるんだな?」

「ああ、一応確認出来ているのは全部で四つ。

 緋緋色カネ、緋緋色魔銀、緋緋色金剛、緋緋色神鉄かな。

 それぞれ鉄、ミスリル、アダマンチウム、オリハルコンをベースに作ってる」

「それ以外の金属でも出来るのか?

 プラチナとか、金とか、普通の銀とか……」

「試してないからなんとも言えんが……」


 鉄で作れている以上、他の卑金、貴金属問わずに作れる気がする。


「出来れば色々な素材で作って欲しいんだ」

「でも、今の段階だとそれら金属の加工は俺以外できないんだが?」


 それでなくても冒険に出ていたり、滅びから世界を救う任務など色々とやることがあるので、絶えず領地にいるワケじゃないのだが。


「それは判っている。

 布はともかく……旅に出る前に糸は量産していって欲しいとは思っている……」


 量産?


「ははーん、緋緋色金属糸で刺繍とかして絹製品にアクセントをつけたりしたいワケか?」

「そういう事だよ。

 それぞれの金属で微妙に色が違う感じなると思うんだ。

 刺繍の仕方次第で、色々な表情を付けられると思う。

 値段は跳ね上がる事になるかもしれないけど、貴族相手なら売れるんじゃないかと……」


 商売っ気が出てきたな。

 もちろん大歓迎だ。


「了解した。

 旅に出る前に用意しておくよ。

 クリスに言っておくので注文は役所を通してくれ。

 ちなみに値段は……

 後で値段表を作っておくよ」

「頼む」


 シンジは表情をホクホクさせて帰っていった。

 新しい素材が手に入る事になって相当嬉しかったらしい。


 値段はメートル単位でいいかな?


 ま、鉄がベースの緋緋色金製のヤツが一メートルで白金貨一枚とかになる気がするけど仕方ないよね?

 とりあえず緋緋色金属各種をまず俺の手で作っておこう。


 各種金属で緋緋色金属を作ってみると、基本的な緋緋色金属による能力、耐性やらダメージ増加などは普通に付いているが、ベース金属の違いで後から追加する付与魔法が強化される事が判明した。

 鉄がベースのだけ何もなかったけど。


 緋緋色黄銅は防錆属性が付いていた。

 緋緋色金属自体が錆ないんだが、緋緋色黄銅自体に接触する他の金属に防錆効果をもたらすらしい。

 こいつは凄い効果だ。

 これをリベットにしたプレート・メイルは「錆びないラスト・プルーフ」という効果を持つことになる。


 緋緋色青銅は、どの面を見ても鉄をベースにしたものに劣っていた。

 ただ、磨くとキラキラと輝く特性を持つようだ。

 磨くと金にも青い色にも見える不思議な光沢に目を奪われる事になるだろうね。

 ちゃんと鑑定魔法で調べたら「魅了魔法」の成功率が上がる効果があったよ。


 緋緋色銅は比較的柔らかく、加工が簡単にできそうだ。

 それとともに緋緋色魔銀ほどではないけども魔力伝導率が少し高い事も解った。

 緋緋色魔銀の廉価版素材として使えそうな気がする。

 ちょっと腕のある鍛冶屋なら加工もできそうなので、市場に流すのはこの緋緋色銅にしたらいいんじゃないだろうか?

 とは言っても緋緋色銅自体を製造できるのは俺だけなので市場に出回る量は俺の胸先三寸なのは言うまでもない。


 緋緋色銀は、緋緋色魔銀と非常によく似ている。

 ただ、魔力伝導率が微妙に劣る。

 それと共に微妙に聖属性が自然付与されるようだ。

 神聖魔法における聖属性魔法に酷似しているが、神々の誰かの神力というワケではないようで変な属性は全く付いていない。

 純粋な聖属性って事なのだろうか?

 これは俺でも判断付かない。


 緋緋色黄金は、緋緋色銅よりも遥かに加工しやすい性質を持っている。

 この金属名は緋緋色金ヒヒイロカネと混同しそうだったので緋緋色黄金と少し変えて命名してみた。

 それと魔力を通すと伝導される魔力を勝手に増幅する力があった。

 魔導基盤マジック・サーキットに使ったら凄い魔法効率を叩き出しそうな素材だな。

 魔法の発動媒体として使う場合も魔法を強化発動できそうな気がするが、この性質は使用時に気を付けないといけなくなりそうだ。

 魔法の使用者の意図していない強い効果を発揮する可能性があるね。

 点火イグニッションの魔法を使ったら火炎ファイア並の火が出たなんて事になるワケ。

 なので、使用には注意が必要になりそうって事だね。


 緋緋色白金、こいつは緋緋色金剛に近い硬度を持っていた。

 それ以外は緋緋色黄金と似た性質を持つ。

 腐食に強く、魔法伝導率も非常に高い。

 そして少しだけ伝導魔力を増幅する。


 通貨として出回っている金属だけで、これだけの様々な効果が出るという事は、これ以外の金属でも試してみたい衝動に駆られるが、市場に出回っていないので用意するだけでも手間と時間が掛かるのは明白なので諦めた。

 世界の破滅騒動が収まってから色々やってみたいと思う。


 出来上がった緋緋色金属群だが、幾つかの例外を除き名前の通り赤っぽい色の金属である。

 磨く事でほんのりと発光する性質があるのは、どの金属がベースでも同様の特徴。

 この特徴は魔法でも使えない限り偽造は難しいので偽物が出回る事は避けられそうである。

 市場に流した時の贋作問題には有効的な性質だ。


 実験生産と共に市場への影響などを考えてみたが、ミスリルやアダマンチウム以上に高価な魔法金属になりそうではあるね。


 製造ラインに金属糸の製造を入力して素材をセットする。

 後は材料が無くなるまで金属糸を作らせればいい。

 これだけセットしたら結構な量になるね。


 セットした各種素材が一〇〇キログラムずつなので、どれほどの利益を生み出す事になるやら……


 さて、後はシンジに作ってもらった魔族たちの服型防具への魔力付与だけだね。


 身体強化、更なる耐性強化、コマンドワード発動の防御魔法などなど……

 盛りだくさんに魔法付与しておいた。

 普通の素材の場合、幾つも付与しまくるとかえって脆くなったりするんだが、緋緋色金属は付与耐性が色々と高いのでかなりの高負荷を掛けても問題が置きづらい。

 なので思った通りの付与が出来たので大満足です。


 ちょっと時間は掛かったけど、良いものが出来ましたな。

 後は三人に渡すだけだが、喜んでもらえるかが心配です。


 多分、喜んでくれるとは思うけど……

 やっぱ少しドキドキするよね?

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