第32章 ── 第4話
夕方には二本の剣が出来上がった。
片方は
まだ魔法付与していないので、ちょっと出来の良い剣でしかないが、素材が素材なので一般的な素材の剣とは比べるべくもない。
この状態のままでも斬撃属性が付き、かつ各種属性耐性効果がついている。
ミスリルを加工しているので魔法発動媒体としても使え、魔力伝導率も高い。
柄の部分も俺にしては頑張って作った。
アモンの
このハンドガード部分はドーンヴァース製オリハルコンで作ってあるので、こっちで作られたヤツより高純度で非破壊属性もバッチリ。
使い方次第ではマンゴーシュよろしく盾代わりにもなるだろう。
フラウロスの方の柄の部分には少し小細工をする。
握った状態でフラウロスが爪を出すと、柄の部分に食い込むように柄を作る。
その食い込んだところには魔力導線があり、剣を握ったまま魔法を繰り出せるという仕組み。
なので付与前から魔法剣のように使えるので自信作。
柄の握りの部分は豪華にワイバーンの皮を使ったりして見栄えもバッチリだ。
それぞれに鞘にも少し細工をしようかと一工夫。
ポケットのような構造を作って、そこに魔導回路プレートを仕込めるようにした。
剣を鞘に納めた状態で柄を通して魔力を流すと鞘に仕込んだ魔導回路に刻んだ魔法が発動する。
この魔導回路プレートは交換可能なので、様々な状況に対応できるワケだ。
プレートは、二人にどういった魔法効果が欲しいのかを聞いて色々用意してみるか。
翌日、アラクネイアを伴って工房へ。
アラクネイアの指の測量が目的だ。
何故かって?
アラクネイアの武器は指輪の形状だからなのだが、アラクネイアも指輪状の武器と聞いて目を輝かせた。
俺から指輪を貰えるというのが嬉しかったらしい。
さて、アラクネイアの戦闘様式は基本的にアサシンのソレである。
大抵の武器は使いこなす事ができるようだが、暗器のようなモノが似合いそうだと思って考案したのが指輪に仕込む武器である。
一日掛けて、指輪状の武器を完成させた。
イメージは出来ていたので、そこそこいい出来の武器になった。
この一見真珠の指輪に見える武器の中には極細の緋緋色神鉄で作られたワイヤーブレードが仕込まれており、これを引き出して対象物を斬る事ができる。
魔力を通すと、ワイヤーブレードは自由自在に動かすことも可能になるように魔法付与する予定だ。
ちょっと使い方が難しいとは思うのだが、アラクネーたちのように糸を使い慣れているアラクネイアなら簡単に使いこなせるのではないかと思う。
ベースになる武器の作成が終わったので魔法付与に移ろう。
アモンの武器には、ダメージ倍加系の効果を付与しようと思ったのだが、ダメージを増やすことは出来るのだが「n%倍加」的な効果を出す術式の
シャーリー図書館にもそういった効果はない。
どうにも残念だが、降参するのも癪なので俺の出来得る限りの付与を行う。
なので生物には即死効果、無生物には破壊効果を任意で発揮できるような付与してみた。
即死やら破壊といっても抵抗されれば効果は何も発揮されないし、発動率も五~一〇%程度というモノで、刺突ダメージ+二〇〇%と比べると見劣りする。
フラウロスの剣は、炎特化だ。
コマンド・ワードで刃に炎をまとうし、火炎放射のように使うことも可能。
もちろん、フラウロスの炎を操る能力も上乗せできるので、完全にゲームに出てくるようなフレイム・タンである。
また、空中に浮遊する炎の刀身を複数呼び出せる術式も組み込んでみた。
この浮遊する炎の刀身は、
ようやく三人分の武器が完成。
俺にしては三日も掛けたので良いものが出来たね。
工房に籠もり始めて四日目。
俺は緋緋色魔銀、緋緋色金剛を使った布を用意した。
以前試しに織ったので、素材さえ用意しておけば製造ラインで自動量産できるので楽だ。
今日はコレを使って防具作りである。
ガッチリとした鎧もいいが、フラウロスはローブ姿、アモンは執事服、アラクネイアはドレス姿なので、鎧よりも服を防具にするのがいいと思ったのだ。
緋緋色金属なので、普通の防具よりも遥かに丈夫だし動きやすいから良いよね。
緋緋色魔銀布と緋緋色金剛布を幾重にも重ね合わせる事で、複合装甲よろしく様々な状況に対応できるように備える。
もちろん、防御系、能力上昇系の魔法を付与するつもりなので、更に強力な防具になるだろう。
だが、俺は服を縫う能力がそれほど高くない。
俺は大量の緋緋色金属製の布をインベントリ・バッグに入れてシンジの店へ顔を出す。
店の中はあまり変わりがないようで、高そうなシルクのドレスが並んでいたし、金持ちそうな客が何人もいた。
俺はといえば作業用の薄汚れた平服姿だったので、他の客には変な目を向けられてしまった。
怪訝そうな顔をする客を見て、女性店員の一人が俺に気付いた。
「いらっしゃ……」
店員の声は途中で途切れ、明らかに迷惑そうな顔で俺に近付いてきた。
「済みませんが、どういったご要件でしょうか?」
「あー、シンジはいるかな?」
俺は一応店員の無礼な視線を気にしないようにしながら、シンジがいるか聞いてみた。
「失礼ですが、シンジ様は多忙でございますので」
俺はそう言われて始めて店員の顔をマジマジと見た。
見たことない顔だった。
若いし新人かもしれない。
まあ、シンジの店だし、どんな店員を雇っても俺が口出す権利はないが……
俺の眉間に少しだけ皺が寄った。
女性店員はそれに気付いたのだろう。
あからさまに侮蔑の籠もった表情を浮かべる。
「出ていきなさい。
ここは裕福な方々がいらっしゃるお店です。
貴方のような労働階級が来られる店ではないのですよ」
フンと鼻を得意げに鳴らすのを見て、ますます俺は眉間に皺が寄る。
「ほう。
随分な態度だな。
名前は……いや聞かなくていいか……」
俺がそうボソと口にした時、奥で客の相手をしていた別の女性店員が俺の顔に気付いたのか対応していた女性客を放って俺の方へ走ってきた。
「よ、ようこそお出で下さいました!」
「え?」
俺の前にいた無礼な新人店員が先輩店員の態度に少しビックリした顔をしている。
「やあ。
君はアウレッテだったかな?」
先輩店員は、俺を以前バランスボールよろしく不良品の椅子に腰掛けさせたいじめっ子店員だ。
あの一件でシンジに叱られたらしく心を入れ替えたシンジの店の初期からいるベテラン店員である。
お針子としての腕も相当上がっているそうで、売れっ子デザイナーだと聴いていた。
今日は店先で客対応をしていたようだけど。
シンジの店の女性店員は、ほぼ全てシンジに惚れた女性で構成されているので、シンジの交友関係には敏感である。
特にシンジにとって俺という存在は同郷の友であり、前世が姉のトリシアの雇い主でもあるし、自分が店を構える場所の領主でもあるので、店員たちの対応は他の貴族たちよりも丁寧になる。
「覚えて頂けていて光栄に存じます」
深々と頭を下げるアウレッテの様子に、新人店員が焦り始める。
「あの……こちらの方は……」
俺の方をチラチラ見ながら彼女はアウレッテに聞いた。
「貴女、この方に失礼な事を申し上げたんじゃないでしょうね?」
俺の表情が少し険しかったのに気付いていたアウレッテは、新人店員に少し強めに当たる。
「あの……いえ……」
「ああ、『出ていけ』と言われたけど」
俺はシレッと言い放つ。
途端にアウレッテの顔色が一変する。
「あ、何を!
そんな事言っておりません!」
慌てて新人店員がその場を取り繕おうと否定した。
「何という事を……」
アウレッテは目を瞑って宙を仰ぐような仕草をする。
「一体、この方は……」
「領主様よ」
「え……?」
「この都市の領主様。ケント・クサナギ・デ・トリエン辺境伯閣下です」
アウレッテは静かに、そしてキッパリと言う。
周囲の客にも聞こえたのだろう。
「まあ、領主様……?」
「クサナギ様ですって……?」
離れた場所から様子を伺うようにこちらを見ながら、何人かは集まってヒソヒソしはじめた。
新人店員は顔面蒼白である。
こんな若造で、こんな小汚い格好している男が地方領主その人だとか夢にも思わなかったに違いない。
「まあ、そのくらいで」
俺はアウレッテを止めた。
「誰にでも間違いはある。
君も一度やったでしょ」
俺がそう笑って言うとアウレッテは頬を染めて「その節は大変失礼致しました」と謝ってくる。
「もう良いよ。
俺は一度目は許す。
二度目はないけどね」
ニヤリと少し凄みを込めて新人店員に視線を向けておく。
新人店員は、あまりの事に謝罪の言葉も発せられないようである。
「今日、シンジは?」
「シンジ様は奥で新作の考案中でございます。
お呼びしてきましょう」
「いや、俺が出向こう。
ちょっと彼に頼みたい仕事があるんでね」
俺はアウレッテを止めて勝手知ったる奥へ続く扉に歩き出す。
「承知致しました。
すぐにお茶をお持ち致します」
売れっ子デザイナーにお茶汲みをさせるのも何だなと思い、俺は手をピラピラと振って「お構いなく」と言っておく。
俺としては断ったつもりだが、多分淹れてくるだろうなと思いつつ扉を開けて奥へと入った。
扉の奥は、お針子たちの作業場だ。
今日は二〇人くらいが様々な服を縫っているのが見えた。
話によると、他にも作業場を借りてお針子作業をさせているとか。
本店であるこの作業場は、例のお針子セットを使えるエリートお針子たちの仕事場である。
お針子の半分は知った顔だ。
ギアスで縛っているのであたり前だが。
それ以外は、多分技術を教え込まれている腕の良い見習いだろう。
まだまだ針子の数が足りないとか聞いているので、集中的に指導しているといったところか。
俺に気付いた何人かが立ち上がって深いお辞儀をした。
俺は気にするなと軽く手を挙げて、二階への階段を登る。
俺を知らない針子は「誰だろう?」という顔だったが、先輩のエリート針子たちが誰も何も言わないので怪訝な顔をしているだけだった。
二階へ上がると、シンジが紙にデザイン画をしながら唸っている。
「よう。
忙しそうだな」
俺が声を掛けるとシンジは顔を上げた。
「おお!
ケント! 久しぶりだな!!」
「ご無沙汰してて申し訳ない。
店は繁盛しているようだね?」
「繁盛どころじゃないよ。
ケントのお陰で大繁盛さ!!」
社交界で貴族たちに売り込んでからというもの、シンジの服は貴族だけでなく金持ちの平民たちの間でも引っ張りだこだそうだ。
今では生産は追いつかないわ、新しいデザインを絶えず求められるわで大変らしい。
「忙しすぎて遊ぶ暇もなさそうだな……」
俺が申し訳なさそうに言うと、シンジは笑った。
「気にする事じゃない。
忙しくない方が困るよ」
彼は地球にいた頃、姉の店の経営にあまり力を入れていなかった。
それでも最愛の姉の残した店なので何とか経営を続けていた。
だが、こっちに転生して来てからというもの、実は自分がアパレル仕事を結構好きだった事に気付いたという。
姉の残した店の経営という体験は、彼の知らぬ間に大きな経験になっていたという事だな。
彼はこっちの世界で最高の服職人になろうと日々頑張って来ているのである。
俺にとっても尊敬すべき同郷の友人である。
「今日は折り入って頼みがあって来たんだ」
「何だい?
俺に出来ることなら喜んで力になるよ」
「ウチにいる魔族三人に服を作りたいと思っているんだ」
途端にシンジの目が光る。
「あの三人の!?」
「そう、あの三人だ」
「任せろ!!」
シンジは二つ返事で引き受けてくれた。
どうやらシンジは、魔族連の服をプロデュースしてみたいとずっと思っていたらしい。
フラウロスはともかく、アモンとアラクネイアはシンジがモデルに使いたいと思うほどの絶世の美男美女だ。
シンジは「彼らの服を作れるのなら何だってする!」と息巻いた。
「それは助かる。
で、服の素材だけど……」
俺は大量の緋緋色魔銀布と緋緋色金剛布を作業台の上に取り出す。
またしてもシンジの目が輝く。
「この布は!?」
「緋緋色魔銀布と緋緋色金剛布だ。
ミスリルとアダマンチウムをベースにした金属布だよ」
シンジは布を手に取り肌触りや光沢を入念に調べている。
「赤く見えたりするけど……様々な色彩に輝いているね!」
「ヒヒイロカネって聞いたことある?」
「和風ファンタジーに出てくる用語だね……
まさか、これ!?」
「そう、そのまさか」
「すげぇ!!」
シンジが壊れ気味に破顔した。
まあ、喜んでいるようなので何よりですが。
シンジがこの様子なら、この布を使って最高の服を作ってくれるだろう。
肩の荷が一つ降りた気分だな。
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