第32章 ── 第3話

 まずは武器から。


 フラウロス、アモンの二人は剣を使う。


 フラウロスは炎系の魔法を使う為、魔法剣士マジック・ソードマスターに似た戦闘スタイルである。

 彼の自前の剣は細身の魔法剣。

 これにも炎が吹き出すような魔法付与がなされている。

 ドーンヴァース的にいうとエピック武器だな。

 炎系の魔法が込められている以外には大して見るところもないが、丁寧に作られていて剣としてはダメージに+五ポイントを追加で与える程度の切れ味だ。

 ティエルローゼではかなりの良品といえよう。


 彼はかなり古い魔族らしいので、もっと凄い武器を持っていても良さそうなもんだが、彼を作り出した神は、前に聞いたヴリトラに滅ぼされた世界と運命を共にしたそうだ。

 その所為か、庇護してくれる神がいなかったようで神々から武具を下賜されるような事もなかったようだ。

 現在の人員少ない魔軍に所属していたからこそ、支給品ながら質のいい武器を手に入れられたという事だな。


 それに比べてアモンの細剣レイピアは間違いなくレジェンダリー級の武器だ。

 彼の剣は、斬る事もできるが突きに特化していて、刺突ダメージ+二〇〇%とかいうとんでもない能力が付いていた。

 刺突が当たれば即三倍ダメージという事だ。

 彼の膂力から放たれる突き攻撃を思うと空恐ろしい武器といえよう。

 連撃系のスキルでも使われたら目も当てられない破壊力なのは間違いない。


 このアモンの佩刀はカリスが作ったモノだと聞いている。

 カリスが作ったからこその威力とも言えるし、アモン自身もこの剣を至高の宝物と思っているようで肌身離さず見放さず腰に下げている。

 執事としては異様な出で立ちではあるが。

 まあ、世の中には執事兼護衛という人もいるので、そこまで異質な存在として周囲には見られていないのが救いではある。


 それにしても破壊神もモノを作る事ができるんだなと少し思ったよ。

 まあ、神は司る事象などだけに特化しているワケではないと聞いているので、そういう事もあるんだな程度には理解はしているけどな。


 さて、二人の武器の解説はここまでにしておこう。

 どちらも片手用の剣で、それも細身の剣であるのが似ているところだな。

 ここは、細剣レイピア基礎ベースとするのが順当だろう。


 緋緋色金属の中で一番性能が良さそうなのはオリハルコンとの合金だと思われるが、基本的に緋緋色金属という段階であまり性能の上下は考えなくて良い。

 合金の素材となる金属の特性によって向き不向きは出てくるけどね。


 今回作るのは細剣レイピアなので超重量級武具になるアダマンチウム以外を用いるのが良い。

 細剣レイピアは刀身が細いので硬く作りすぎると簡単に折れる。

 オリハルコンで作れば非破壊属性になるのでオリハルコンが良い気がするが、神の金属なので神聖系の属性魔法しか付与できないのが問題となる。


 以前、ヘパーエストに作ってもらった攻性防壁球ガード・スフィアなんかは、それぞれ神聖魔法系の四大属性の一つずつが各球体に付与されているというモノである。

 自動的に防衛や攻撃の判断をする為に知性が宿っているらしい。

 ゲーム的に言うなら、喋りこそしないけど『知性を持つ武器インテリジェンス・ウェポン』というヤツだ。


 そこまで高度なモノを作る技術テクノロジー革新性イノベーションも今の俺には持ち合わせがない。

 そんなヤツが創造神の後継とか笑っちゃうよねぇ……


 さて、そんな理由から、緋緋色魔銀一択で行こうかと思います。

 鍛冶やり始めて一番使ってる金属だし、色々な魔法道具で活用しているので加工の経験値も高いしね。


 ミスリルのインゴットを炉に入れてフイゴをゴスゴスと動かして温度を上げる。

 それと共に魔力を炉に注入していく。

 魔力が炉に充満するとミスリルが溶け始めた。

 そこに五つの精霊鉱石が一つに溶け混じっている例の緋緋色物質を入れる。


 ミスリルが溶解している中に真っ赤な緋緋色物質が浮きつ沈みつしているのを眺めつつ、フイゴを操る力を調節する。

 しばらく温度をゆっくりと上げていくと、緋緋色物質の表面が溶け始めるのが見えた。

 俺はここでフイゴから送られる風の量を少し弱める。


 五分ほどで緋緋色物質は溶けて見えなくなり、ミスリル溶銀は赤い色を帯び始める。

 撹拌棒を使ってミスリル溶銀と緋緋色物質をしっかりと混ぜる。


 ちなみに、この攪拌棒はオリハルコン製だ。

 オリハルコンが持つ非破壊属性が非常に重宝する。

 ただの混ぜ棒にオリハルコンを使っているのを見たマストールを「信じられない」と呆れ顔にさせた一品である。


 上手く混ざり合うとミスリル溶銀は一瞬だけピカッと光りを放った。

 俺は炉の火を弱めてミスリル溶銀をゆっくりと冷やした。

 溶銀が固まると真っ赤でいてキラキラと輝くインゴットが出来上がった。


「よし、緋緋色魔銀インゴット完成」


 マストールが「ほう」と興味深げに出来上がったインゴットを見ている。


「これが前にケントが言っていた緋緋色金属というヤツじゃな?」

「ああ、オリハルコンより珍しいぞ」


 マストールはインゴットを手袋をした手で手にして片眉を上げて鉄床の上に戻した。

 今度は手袋を外して素手でインゴットを徐ろに掴む。


「不思議な金属じゃな。

 出来上がったばかりじゃというのに既にヒンヤリとしておる」


 今度はけがき針を取り出してインゴットを引っ掻いてみる。


「傷ひとつつかん」

「こっちでやってみろ」


 俺はオリハルコン製のけがき針をマストールに投げ渡す。

 マストールは器用にキャッチして眉間に皺を寄せた。


 はい。

 攪拌棒と同じく非破壊属性の道具が欲しかった俺が作ったヤツです。

 マストールはオリハルコンをこんな道具に使うのは勿体ないと思っているので渋い顔になるワケです。


 それでも初めて見た金属への興味からか、オリハルコンのけがき針で緋緋色金を引っ掻いた。


 ギリギリ傷が付いている程度の硬さである。


「こいつは大した金属じゃな。

 オリハルコンで、この程度しか傷が付かんとは」

「俺の生まれ故郷ではオリハルコン以上に伝説上の金属だからねぇ……」

「ふむ……」


 マストールは俺にインゴットとけがき針を渡すと自分の炉へと戻っていった。


「今度、いくつかその緋緋色なんとかを分けてくれんか。

 ちょっと色々試してみたい」

「ああ、良いよ」


 俺がそういうと、マストールは満足したのか自分の仕事を始めた。

 マストールが鉄を炉に入れるとマタハチがてフイゴを動かし始める。


 マストールが接点ノードに手を触れて魔力を注入すると火の色が赤から青いモノに変わる。

 鉄鉱石は一瞬で溶鉄へと変わった。


 これは魔力炉の有効な活用法の一つだ。

 魔力を使って温度を一瞬で融点まで持っていく事ができる。

 鉄とか安定した金属に限るけどね。


 俺はインゴットを炉にセットして熱していく。

 赤い色がどんどんと光り輝き、最終的には白に近い色まで熱せられる。


 それを炉から取り出して鉄床へと置いてハンマーを打ち下ろす。

 伸ばして折り曲げ……再び叩く。

 これを何度か繰り返して鍛える。

 頃合いを見計らって刀身を打ち出してく。


 三時間程度で一本目の形成は終了。

 焼入れまでして作業台に置いておく。


 ちょうど昼頃なので一度館へと戻るとしよう。

 マストールは仕事始めるとご飯を抜く癖があるので放置だ。

 マタハチは師匠の行動を弁えているのでフロルに軽食を作ってもらいに行った。


 館の食堂には、既に仲間たちが集まっていた。


「今日はカレーだそうです」


 入ってきた俺にアナベルが嬉しそうに言う。


「ヒューリーのカレーはケントの次に上手いからのう」

「確かに、ヒューリーはケントの薫陶を受けた一流の料理人だからな」


 食いしん坊チームの二大巨頭マリスとトリシアが何故か得意げである。


「私、カレーは好きなんだけど、あのケントが作ったヤツ……『ラッキョ』だったかしら?

 アレが少し苦手だわ。

 付け合せにする意味あるのかしら……」


 好き嫌いは分かれますかねぇ。

 俺は福神漬と辣韮の二つを用意しているはずだが……


「辣韮が苦手なら福神漬けにすればいじゃん」

「あ、それでもいいの?

 こっちの漬物ならカレーに合うわね」


 テーブルの上に置かれている二つ小さいツボの内、片方をエマは自分の方に引き寄せた。


「お待たせ致しました」


 メイドたちがカートを押して食堂に入ってきた。

 俺は自分の席に座って配膳を待つ。


「フラちゃんとコラクスは食べ終わったら工房に集合な」

「承知」

「仰せのままに」


 彼らの手を一応調べておきたい。

 握りやすさ、扱いやすさも考慮して柄の部分を作らないといけないからね。


 俺は目の前に置かれたカレーにスプーンで掬って口に運んだ。




「仰せにより罷り越しました」


 工房に戻り、二本目の材料を準備しているとアモンとフラウロスがやってきた。


「ああ、そこへ座ってくれ」


 テーブルの横に置いた椅子を指差すと二人が座った。


 並んでいる彼らの前にもう一脚椅子を持ってきて向かい合わせに置く。


「剣を持つ方の手を見せてくれ」


 そう言うと、両方とも右手を差し出してくる。


 俺はその手をじっと観察する。


 コラクスの手は華奢に見えるが良く見ると剣ダコがしっかりと出来ている。

 剣を扱う者の手だ。

 大きさだけ測っておく。


 フラウロスの方は、人間の手に近いが、手の平と指には肉球が付いているのが解る。


「ふむ。

 手の平側までは毛がないんだな」


 俺は肉球をプニプニと押しながら感想を述べる。


「そこまで毛があっては滑りますからな」

「この肉球が滑り止めになるのかな?」

「大方は」


 更に指を観察する。

 指先の肉球をグッと押すと指先に内蔵された爪がグリッと回転するように出てくる。


「これは爪を出さないようにしつつ強く握る事はできるのかな?」

「ええ、一応できまする」


 ふむ……

 俺は神の目を使ってさらに詳しく調べる。

 見れば爪の先まで魔力線が伸びているのが見て取れた。


 という事は、爪を魔力の導線として使えるって事だな。

 面白い。

 これを利用して魔導回路の付与をしてみるとするか。


「やけに熱心に見ておられますね」


 アモンが少し不満そうな声色で言う。


「ん?

 ああ、獣人の手の構造は初めて見るんでね。

 ちゃんと見ておこうと思ってな」

「私の手は普通に人間種と同じですからね」


 アモンは少し悔しげに自分の手を見てから苦笑いになった。


「寸法は測ったから大丈夫だよ」

「これですか?」


 アモンは既に出来上がってテーブルの上に置いてある一本目に視線を落とした。


「ああ。

 それがアモンのヤツだな。

 人間のと変わらない作りだから」

「手に取っても?」

「いいよ」


 許可が出たのでアモンは緋緋色魔銀の細剣レイピアを取り上げた。

 まだ仕上げもしていないし柄の部分も出来ていないが。


 アモンは細剣レイピアの柄になる方を手にして剣先を自分の前に持ってくる。


「こ、これは……!?」


 突然、アモンが驚いた声を上げる。


「ん?

 どうした?」

「完成形が頭の中に流れ込んできました……

 これは凄い……」


 へ?

 そんな効果が緋緋色魔銀に!?

 いや、ないない。

 それはない。


 だが、アモンは少し恍惚の表情が混じった表情で虚空を見ている。


 少しして「はっ!?」と声を挙げて細剣レイピアをテーブルに戻した。


「失礼しました。

 素晴らしい剣だと確信致しました」

「君が喜んでくれるのなら嬉しいね」


 アモンは既にテーブルの上の細剣レイピアを自分の愛剣と思っているようでエッジになる部分に指を這わせている。

 その仕草が微妙にエロい気がしてならない。


 アモン、変な性癖持ってないだろうな……?


 まあ、いいか……俺は俺の仕事をするだけだ。


「フラちゃんは、この爪から火の魔法とか出すワケだよね?」

「左様ですが……

 別に爪先である必要はありません」

「例えば魔力だけを出すのも可能って事だよね?」

「左様にございます」

「OK。大体判った。

 二人共、下がっていいよ。

 後は出来上がるまでのお楽しみだ」


 俺がそう言うと二人共立ち上がって頭を下げる。


「武具を下賜頂けると聞き、今より楽しみでございます」

「予想以上の物をお作り下さっているご様子。

 大変うれしく存じます」


 二人とも嬉しそうなので少し安心する。

 アモンにとってカリスから貰った剣以外は眼中にないのかと思っていたからねぇ。


 んでは、二人の期待に添える剣をまずは作るとしましょうかね?

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