第31章 ── 第39話

 王城から別邸へと戻り、早速次の地への転移門ゲートを開く。


「今度はどこじゃ?」

「とりあえずウェスデルフだな」

「久しぶりのミノちゃんです!」


 ミノちゃんて……

 まあいいか。


 ラストルーデ一家に見送られつつ、俺たちは開いた転移門ゲートを潜る。


 転移門ゲートを出ると、ウェスデルフの山肌にくり抜かれた洞窟城内部に出た。


 転移門ゲート前にはオーガスとザッカルのミノタウロス二匹が直々に膝を屈して出迎えてくれた。


「我らが主よ。

 よく参られました」

「二人とも元気そうだね……」


 見ればオーガスは以前よりいくらか身体が大きくなっている気がする。

 ザッカルも同様だ。


「は。

 いつまでも我らが主に仕えられるよう、力を維持するために鍛錬を続けてまいりましたが、このオーガス、まだ成長できるだけの自力があったようです。


 息子のザッカルも同様にレベル・アップしております」

「マジか……」


 ちょっとオーガスのステータスを覗いてみたんだが、マジでレベル・アップしていやがった。

 以前はレベル四八だったのだが、今ではレベル五八だ。

 ザッカルは現在レベル二九になっている。


「おお、マジですげぇ上がってるな!」

「主は能力石ステータス・ストーンなしで我らのステータスを覗けるのですか……」

「え? ああ、そうだね。

 うん、なんとなく出来るんだよね」


 勝手にステータスを覗き見られて気分悪くしたかな?


「勝手に見て悪……」

「流石は我らが主!

 神にも比肩する能力ですな!」

「左様ですね、父上。

 本来、能力石ステータス・ストーンがなければ不可能ですからね」


 俺の謝罪に被せるがごとく大声でガリスタ親子が俺への賛辞を捲し立てた。

 あまりにも大きい声に、一瞬ビクッとしてしまったよ。


「え……ああ。ありがとう」


 苦笑いで誤魔化しておく。


「ところで、その後の国家運営で何か困ったことはあるかな?」

「ここでは何ですので、こちらへ」


 二人に連れられて応接室っぽいところに通される。


「マリス殿、アナベル殿、こちらは最近我が国で流行っている焼き菓子でございます。

 お食べになりますかな?」

「うむ。頂こう!」

「焼き菓子ですか! 食べますよ!」


 食いしん坊チームはザッカルの持ってきた焼き菓子に目を釘付けにされた。


「ん? この匂い……桃……あ、こっちだとキサリスだっけ?」

「よくおわかりで。

 南部の名産キサリスの果汁を混ぜて焼き菓子にしてみたものです。

 現在、ウェスデルフ全域で流行り始めています」


 確かにいい匂いだし、旨いだろうね。


「お土産に少し貰えたら嬉しいんだけど」

「もちろんです。用意させておきましょう」

「で、何か変わりがあったって事かな?」

「はい。

 例の集落の事ですが」

「ああ、俺が連れてきた人間の」


 オーガスは頷いた。

 ザッカルが焼き菓子とお茶を出し終えているのを見て、オーガスは目で合図する。

 ザッカルは頷くと、書棚から資料の束を取り出して持ってきた。


「現在……例の人間どもが、ウェスデルフの他の街や村と交易を始めております」


 オーガスは取引品目や数量、金額などが書かれた一覧表を取り出して俺に見せてくる。


「どれどれ……

 魚の燻製……漁業道具……木製人形……玩具?」


 ウチのトリエン付近の小さめの村で作られていそうな品目が並んでいる。


「あいつら、結構頑張ってる感じかな?」

「流石は主様が連れてこられた者たちだと思います!」


 ザッカルは興奮気味に鼻を鳴らす。


「特に職人たちの腕が良いようですね。

 彼らの作る釣り竿とやらが面白いモノでした!」


 釣り竿が?


 そういえば、俺はこの世界に来てから釣り竿を見たことがなかった。

 あっちでは当たり前だが、こっちには無いモノだったのか。


「あの釣りという遊びは今やこの国では欠かすことも出来ません」


 オーガスも頷き「このオーガスも嗜んでおります」と豪快に笑う。


「釣り竿職人はまだ一人だけでしょうが、今後増やしていくとの事。

 木製人形の職人も三人ほどしかおりませんので、早めに増やしてほしいものです」


 ザッカルの話を詳しく聞いてみると、奴らは自分たちで食料を手に入れようと釣り道具を作ったらしい。

 近くに釣り竿に適した植物があったからだとか。

 そしてヴァレリア湖に生息する魚を釣り始めた。


 ザッカルに派遣されていた兵士たちは見たこともない道具で魚を釣るギャングの若者たちに度肝を抜かれたらしい。

 釣りに興味を持った兵士たち数人が若者たちにやらせてもらったところ、みごとに釣りにハマってしまったという。


 報告を受けたザッカルは、釣り竿、餌になる木製人形を入手して、王城へと持ち帰った。

 そしてオーガスすら釣りにハマったという事らしい。


 釣り竿が市場に出回ると需要が爆発。

 生産が追いつかない状態になりつつあるという。

 これら工芸品の売上で彼らは食料などを仕入れ、生活に困らなくなりつつある。


「いやはや、最初は箸にも棒にも掛からぬ若造たちかと思っておりましたが、侮っておりました。申し訳ありません」

「あー、いや俺もビックリ。

 あいつらが、こんなこと出来るスキル持ちだったとはねぇ」

「彼らも似たような事を申しておりました。

 謙遜していると思っていたのですが、主様も同じように感じられたので?」


 俺は彼らの生い立ちを少し話してやる。


 彼らは元々破落戸ゴロツキとかギャングとか言われる、いわゆる街の厄介者。

 だからと言って簡単に命を奪うのもどうかと思って連れてきた。

 更生の機会として、住む場所などを提供してみたら、こんな事になっていたと。


 ザッカルは「ほう」と感嘆の溜息を吐いた。


「無意識に彼らの実力を見抜いていたという事ですかな?

 すばらしい!」


 いや、そういうつもりはないんだが。


「彼らが自分たちで生活を送っていけるようになったのなら、喜ばしいことだけどな」


 俺は資料をチェックしてみた。

 彼らが生きていけるくらいの稼ぎが普通に出ているようだ。

 このまま、釣り文化が定着すれば魚食文化が更に捗るかもしれない。


「彼らには頑張って釣り文化を担ってもらいたいな」

「そのように伝えましょう」


 その後、俺たちは例のルクセイドに繋がる大トンネルを見せてもらったり、土竜人族のジョルジョを呼んでもらって今後の計画などを話し合う。

 デルフェリア山脈の地下にある様々な資源の使い道をそろそろ考えたいからな。


 ジョルジョが以前「臭い黒い水」と言っていた原油らしき物体。

 実際に現物で見てきたけど、原油で間違いないようだ。


 俺としては、これを精製する事で様々なモノを作れたらと思っている。

 ガソリン、灯油、プラスチック、軽油、油、アスファルト……

 あればあったで色々と作れそうだろ?


 色々と見て回ったので王城に泊めてもらい、次の日の朝に次の目的地へ出発。

 次は迷宮都市レリオンの冒険者ギルドだ。


 転移門ゲートをレリオンの冒険者ギルドの中庭と繋げて、銀色の水面へ飛び込む。


 移動先で出迎えたのはパニック状態の冒険者の集団である。

 その中でもそれなりに腕に自信があるらしい大剣持ちの男が巨大な刃を振り下ろしてくる。

 いい判断だが相手が悪い。


「なっとらんのじゃ」


 マリスが何もないところから大盾タワー・シールドを瞬時に取り出して攻撃を軽く弾いた。

 大剣の男は簡単に宙を舞った。

 男は壁に激突して「グェ」と珍妙な声を発して気絶した。

 それだけで、冒険者全員の足を止めるのに十分だった。


「なんじゃ、もう来ないのかや?

 根性なしじゃのう……」

「まったくだ。

 私も一発暴れたかったのにな!」


 マリスはガッカリ、アナベルは珍しくダイアナ・モードで愚痴った。


 そういや、最近ダイアナの出番が少ない。

 彼女が出てくるほどの戦闘が殆どないのが理由としては大きいのだろう。


 もう一つ理由があるとすれば、マリオンの顕現が無くなったのも精神的な安定に繋がったのかもしれない。

 再び肉体を手に入れたマリオンは、既にアナベルを依り代にする必要ないからね。


 もちろん信託は未だに下すらしいが、アナベルは大抵俺の近くにいるので、マリオンの信託は俺へのモノになるのが常だ。

 そういう場合、直接俺に念話するので、アナベルに全く負担がなくなってしまった。


 こんな理由で、ダイアナはあまり出てこれなくなったという感じなのだ。

 まあ、どっちもアナベルなので問題ない。


「お前たち!

 何をしている!!」


 数人の懐かしい顔が、中庭の扉を開けて出てきた。


「ケ、ケントさん!!」

「おお、鉄壁の嬢ちゃんだ!」

「マリオン様の暴風屋台巫女様もおられる!」


 マリスの鉄壁は解る。

 アナベルのその新称号は何なの?


「暴風屋台巫女てなんじゃ……」


 マリスが毒気を抜かれてアナベルを見上げた。

 当のダイアナ・モードのアナベルもポカーン顔である。


「やあ、アルハランの風の面々。久しぶり」


 俺が笑いながら手を挙げると、アルハランの風は、走ってきて俺たちの前で跪いた。


 あまりの事に他の冒険者がざわつき始める。


「お、おい。

 同じ冒険者なんだから跪くとか止めようぜ……」

「仰せのままに」


 聖騎士パラディンオルガ・ジンネマンは、スッと立ち上がる。

 彼の仲間たちも彼に従う。


「いやあ、勇者の旦那。

 相変わらず破天荒な人生歩んでそうだで何より」


 戦士がニカッと笑って俺の肩をバンバン叩く。


「前にも言ったが勇者じゃねぇ!

 つーか、叩くな痛い」

「こいつは済まねぇ」


 相変わらず笑ってて悪びれてはいないな。


「ハリスさんは?

 一緒じゃないの?」


 三十路超えのおっさんシーフが、ハリスを探している。

 かと思えば、魔法使いスペル・キャスターが、消し忘れている転移門ゲートに釘付けになってた。


「こ、こいつは移動魔法の一種……?

 いや、古代文献に残っている転移魔法か……!?

 人類が再びこれを使える日が来たというのか!?」


 多分普通の魔法使いスペル・キャスターには仕えないよ。


 俺は転移門ゲートを消した。

 消えていく転移門ゲートを「ああ!!」と悲痛な声で見送る魔法使いスペル・キャスター


 いや……スマン……


 そういえば、アルハランの風のメイン・メンバーの五人で、名前知ってるってジンネマンだけじゃん。

 今更教えてとか言えないな……


 仕方ない。

 大マップ画面でクリックして調べておこう。


 ま、何はともあれ、彼らが来てくれたので他の冒険者たちを制してくれて助かりました。

 彼らもギルド所属の冒険者という立場が板についてきた感じだね。


 ま、こういう転移門ゲートで迂闊に移動した俺の責任も大きいんだろうけどね……


 みんな、驚かしてごめんなさい。

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