第31章 ── 第37話
翌日の朝、ローゼン閣下たちはトリエンを発ち、帝国への帰路についた。
今日のうちにカートンケイルを抜けてケントズゲートまで行きたいらしい。
出発の間際、ローゼン閣下から月イチで来ていたトリエン訪問を今後は半年に一度ほどにするつもりだと言われた。
地球や今回のトリエン訪問で色々と見聞きした事から、インスピレーションを得て、研究活動に力を入れたいのだという。
研究畑の人なので、それもアリなんでしょうな。
彼のような優秀な研究者が本気で研究すれば、確実に帝国は発展するだろう。
現在、オーファンラント一強な気がする大陸東部に、強い国がもう一つくらい出来てもバランスが取れて良い。
本来なら最強だったウェスデルフはウチの属国になっちゃったからね……
帝国が歩む道は長く、目指す先は遠いだろうが、頑張っていただきたい。
さて、見送った後の俺はといえば、例の装置の最終的な仕上げに入る。
既にアタッシュケース型の筐体に納まるように出来たので、後は必要な量を生産するだけである。
本来ならラインで製造したいところだが、現在溜まりに溜まった魔法道具の注文を捌いているエマの邪魔はできない。
その上、内部の
流石にオリハルコン
神力に対応してないのでオリハルコンの加工が無理なんだよね。
この午前中、あらん限りの集中力を使って
失敗してエラー製品を世に出すつもりはないからね。
とはいっても、毎回この作業が必要になるのは些か面倒である。
地球のプリント基板的な技術を応用して基盤面に回路図を印刷できるようにしたら楽そうだな。
後でどうやったらできるか考えてみよう。
簡単に複製できれば、高品質なモノを大量生産できるので価格を抑えられるようになりそうだしな。
生産活動には経費削減が必須ですからな。
俺以外の者も扱えるようになれば尚良しだ。
作業が一段落ついて、時間を確認したら既に二時を過ぎていた。
集中しすぎて昼飯を食べ逃してしまった。
フロルが俺の作業しているテーブルの端に軽食であるサンドイッチを置いておいてくれたようなので、それを齧りつつ作業を続ける。
筐体はミスリル製なのであっという間に用意できたので、とっとと組み立ててしまおう。
夕方には人物鑑定機が全て完成した。
全部で一〇台。
我ながら早業である。
この内四台は国王への献上品である。
王城へ入る道が四つあるから、四台を献上する。
以前、スパイが潜入していたいので、全通用口に配置できるように四台渡すべきだろう。
しっかり運用できれば内部に協力者でもいないと侵入は難しくなるはずだ。
トリエンも通用門は東西南北で四つあるので、それぞれにこの装置を置こう。
あとの二台はトリエンへの移住希望者の鑑定用だ。
二台と少ないと思うかもしれないが、読み取りと印刷だけの作業なら流れ作業的なスピードでこなせるはずなので問題はない。
印刷されたステータス用紙を見て移住の可否をするのは他の職員でもいいからね。
足りなければ、また作ればいいし。
夕食になり食堂に行くと、俺以外は既に席について待っていた。
「おお、夕食には顔を出しましたよ!」
「我の総取りじゃ」
「チッ! 今日はプリンだというのに、してやられたな」
食いしん坊三姉妹は俺が夕食に来るか来ないかで賭け事をしていたようだ。
「主様を賭け事に使っていいのかしら。
不敬にならないの?」
エマがクリスに問いかけるも、クリスは肩を竦めてみせるだけで笑って誤魔化している。
その程度で不敬罪とかマジ勘弁。
「ところで明日俺は王都に行くけど、行きたい人は?」
「私は注文の魔法道具を作らないとだから無理ね」
「我は行くのじゃ。
ケントの行くところ、どこにでも付いて行くのは当然じゃからのう」
「私はクリスと用事がある。
ケントがシンジの服を帝国に送るとか言い出すからだぞ」
トリシアはアルフォートの心労軽減にと俺が言い出した帝国への絹織物プレゼント事業を手助けしてくれるつもりらしい。
「ええ、私だけで捌くにはちょっとキツイものがありますので……」
クリスは苦笑しているが、確かに彼には仕事を振りすぎではある。
シンジとの折衝まで任せては過労死一直線だろう。
「すまない。トリシア頼む」
「任された」
口では不平を言っているトリシアだが、シンジと会う時間が取れるのは本心では嬉しいようだ。
彼女もブラコン気味なんだよな。
前世の姉弟という心理的ストッパーが無かったら確実にリア充路線に突き進んでいただろうね。
ふと見ればハリスも小さく挙手していたので、同行するつもりらしい。
彼が俺から離れて行動するのはトリエン内くらいなので、当然といえば当然か。
「申し訳ありません、話が主よ。
我ら三人は、少々やる事がありまして……
お供できないのは心苦しいのですが……」
フラウロスがそう言い、他の二人も同時に頭を下げた。
「別に、俺といつも一緒にいる必要はないからな。
好きなことをしていてくれていいんだよ」
「誠に
そういや、地球にも彼らはついてこなかったな。
青い世界とか言って憧れの地だろうに。
三人がそれよりも重要な案件を抱えているとすれば、多分魔族関連の事だろうか。
俺や人間に不利益になるような事はしていないと思うけど、少し心配ではある。
「手に負えない事があったら俺に言えよ?」
俺の言葉に三人は下げていた頭をパッと上げて俺の顔をマジマジと見つめた。
「何をしているか知らないけどな」
俺が彼らが秘密にしている事に勘づいていないと思ったようで、三人が三人とも少し顔の表情を緩めた。
やはり、何か隠しているっぽい。
「その時はよろしくお願いいたします」
「了解」
俺の推測では、ティエルローゼに残存する魔族をこちらに引き込むような事を彼らはしているんじゃないかと思う。
魔族は単体でも一〇〇〇人以上の軍隊と渡り合えるトンデモ存在である。
そういった魔族を味方に引き入れられれば、俺の役に立つと彼らが思っても不思議はない。
魔族軍と関係ない隠れ潜んでいる在野の魔族もいるとか聞いているから、そういう魔族は声を掛けやすいだろうしなぁ。
何にしても俺が口を出す問題ではないだろうから、彼らの自由にさせておこう。
翌日、結構早い時間に王都へ出発する用意を開始。
王都以外にも色々と行きたい所があるので準備が必要なんだよ。
来ていく貴族服など俺の身の回りの品などはリヒャルトさん率いるメイドたちが手伝ってくれる。
トリエン関連のモノに関してはクリスとその副官たちが手伝ってくれた。
王国国庫への上納金、トリエン産製品の献上品などだ。
後は俺の作った魔法道具ね。
準備も終わり外に出ると、マリスが既に待っていた。
「準備は出来たかや?」
「お、早いな」
「当然じゃ。
アナベルはまだじゃが」
「あれ? そういや昨日、アナベル来るって言ってたっけ?」
「来ないとも言っとらんのじゃ」
まあ、俺は来ても来なくてもいいのだが……
などとマリスと話していると、館から南へ続く通りからドドドドッと足音を響かせて走ってくる神官服のアナベルが見えた。
「遅くなってごめんなさい~~~!」
マリスの言葉通り来た。
最近、マリスはアナベルとペアで活動する事が多かったので、通じ合ってる感があるね。
「おそいのじゃ、アナベル!」
「朝のお勤めが長引きまして~~」
お祈りか、奉納戦闘訓練か判らんが、そっち方面の何かだな。
「昨日納品されたクロスボウの機構が複雑で……」
やはりそっち方面か。
「油を差さないと稼働部が錆びそうだしな」
「そうなのです!
「少しくらいいいよ。
まだ八時だし」
俺は時計を確認しつつ、一応意思を確認しておく。
「今日は俺に付いてくるので間違いないかい?」
「お供いたしますよ!」
「昨日、意思表示がなかったから」
「食べるのに夢中で」
テヘッて感じで自分の頭をポカリと叩くアナベル。
「アナベルはケントの言うところの、て……『天然』? ってヤツじゃからなぁ。
我がふぉ……フォローしてやらねばならぬ」
「別に地球の単語を使おうとしなくても良いんだぞ?」
「我もいつか『地球』とやらに行くつもりじゃからな。
その下準備じゃ」
地球に行くつもりか。
まあ、その時は俺と一緒だろうから、問題を起こさせるつもりはないが。
「その時は私も一緒ですからね、マリスちゃん!」
「当然じゃ。
屋台戦士を置いて行っては、美味いものにありつけんからのう!」
それが狙いか、お前たち……
確かに、地球は世界各地に屋台が出ているからワカランでもないが……
世界制覇は多分無理だぞ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます