第31章 ── 第25話
昼間のうちはローゼン閣下に、オニール女史たち一行へもっともらしい事を喋らせ場を繋いだ。
アーサー王が実在した人物だと考えている学者も多いが、オニール女史はそう思っていないようなので、アーサー王のモデルとなったと言われる当時の人物の中からそれらしい人物の名前を上げ、「モデルになったのはこの人だと考えている」と言わせた。
オニール女史はその説に興味を示して、興奮気味にフィールドワークを楽しんでいたようだった。
考古学のフィールドワークと言えば、あちこち掘ったりハケで砂を払ったりみたいなのを想像していたが、そんな事はないようだ。
遺跡のあちこちを調べ、そこに書かれたり掘られたりしたレリーフや文字を考察していく感じだ。
もちろん、そういったモノをスケッチしたりするのでかなり時間が掛かる。
既にオニール女史はここを調べ尽くしているはずなのだが、熱心にフィールドワークをしている。
旧聖ミカエル教会は天井も上階の床も抜け落ちているので下から見上げるしかできない。
ここが教会として機能していた時は、木製の床が張ってあったんだろう。
屋上も含めて五階くらいだろうか。
すっかり吹き抜け状態なので上の方まで調べるなら足場を組んだりして大掛かりな調査をしなければならない。
外側に比べて内側は至ってシンプルでゴツゴツした石積みだが、アーチなどの装飾は今でも健在だ。
聖ミカエル塔とも呼ばれている四角い塔は色々な場所にあるのだが、ネットで調べたら四角形の塔が色々画像に出てきた。
この形に何か意味があるのかもしれない。
作りやすかったという理由だったらお手上げだけど。
もちろん、円形のものも無いことはないのだが。
さて、色々と話をでっちあげてるうちに昼も過ぎ、一行と昼食を摂ってから解散となった。
一応、オニール女史の名刺は頂いたので、何かあった時は頼れるかもしれない。
午後は日が沈むまで時間を潰す。
ローゼン閣下とエマの願い通り土産を買いに回った。
そして、今回はちゃんと宿を取っておく事にした。
グラストンベリー・トーの近くの宿屋だが、やはり観光地なだけあって結構な値段するんだね。
ちなみに、地球の通貨は閣下もエマも持っていないので、土産代や宿賃は全部俺が出している。
現金がないからマネー・カードで支払っているんだけど、こういうデジタル通貨はどこでも使えて便利ですなー。
行動は夜になってから起こすつもりなので、夕食後はそれぞれの部屋で仮眠を取る事にした。
寝る前にエマに食事が不味いと愚痴られたが、俺の料理に慣れた舌ではイギリスの料理は辛かろう。
深夜〇時を周り、周囲に物音もしなくなってから俺はゆっくりとベッドに起き上がった。
『起きてるか?』
パーティ・チャットで二人に声を掛けてみる。
『既に起きて待っております』
『もちろんよ』
どうやらちゃんと起きているようだ。
もしかしたら起きたのは俺が一番最後だったのかな?
『これより作戦を実行する。
計画は至ってシンプルだ。
地下迷宮への入り口はないので、穴を掘って地下迷宮へ到達、ゴブリンという危険を排除する』
『穴を掘る方法は?』
エマの質問はもっともだ。
『この際、迅速に進めなくちゃらならんし魔法を使おうと思う。
土属性魔法の
『問題解決後に穴はどうするのですか?』
いい質問だ。
『俺の
この場合、魔法名は「
ローゼン閣下から「おお」と驚きの声がする。
エマが閣下に「毎回、こうなんですよ。非常識でしょ?」とか言ってる。
俺は非常識じゃないはずなんだが……
前から言われているが、術式の再構築速度が尋常じゃないそうなので非常識と言われるのも仕方のない事なのかもしれない。
普通なら術式の改良や変更は数年単位で研究や実証をしなければならないそうだからな。
『途中で例の警備員とかいう人たちがまた来るかも知れないけど……
その場合どうするの?』
『今回は、魔法解禁だ。
もし発見された場合、迅速に無力化する事。
殺すなよ?』
『失礼ね。
私は血に飢えてなんかいないわよ』
『では
『あ、それは私の
こういう時に魔法の道具は便利ですね。
呪文を唱える必要なく魔法の行使ができますからね。
俺は大マップ画面を表示し、宿の従業員の動向を見る。
宿に常駐している従業員全員の状態が「睡眠」になっているのが確認できた。
『よし、行動開始だ。廊下に一度あつまってくれ』
『了解しました』
『はーい』
扉を音を殺しながらゆっくりと開ける。
エマと閣下もコッソリと扉を開けて廊下まで出てきた。
俺は小声で呪文を唱える。
「
一瞬淡い光を発するが、すぐに消えた。
『これで足音はしないわね?』
『まて、もう一つ魔法を掛ける』
俺は再び小声で「
『さすが現役冒険者、抜かりはありませんな』
『閣下も現役では?』
『既に二〇年は冒険者として活動できておりません』
それでもミスリルだからな。
地球なら無双できるレベルだろう。
宿屋から出て現場に向かう。
一五分ほど歩いてエッグ・ストーンという岩のところまで来た。
岩の周囲を調べてみるが、入り口に繋がりそうなところは何もない。
「何もないわね」
「やはり魔法で穴をあけるしかないな」
俺はマップ画面を確認しつつ、地下迷宮に繋がる通路らしい空間の真上を探す。
「ここらでいいか」
真下に魔法で穴をあける。
穴は四メートルほど下の通路と繋がった。
見下ろすと土や埃に汚れた薄暗い通路が見えた。
「
文字通りふんわりと飛んで降りる。
下に降りて上に開いている穴を確認する。
「アル・カフ・ユール……」
初めての魔法だが、失敗する感じはしない。
「……ヘル・ウディリア。
魔法が発動し、
「お見事」
「ありがとうございます」
ローゼン閣下の褒め言葉に俺は笑顔になってしまう。
やはり閣下クラスの人に褒められると嬉しいですな。
「それでは行きますか」
「隊列はどうするの?」
「俺が先頭、エマが
万が一にも怪我をさせるわけにはいかないしな」
「痛み入ります」
ローゼン閣下が申し訳無さそうに言う。
「いえ、隣国の重鎮をこんな異世界にまで連れてきているのですし、当然ですよ」
ここでかすり傷程度であれ怪我をさせたら国際問題になってしまう。
例え閣下のワガママでここまで来ているとしてもだ。
俺は愛剣を抜いて前方に続く岩造りの通路に向き直る。
そして、ゆっくりと足を進める。
生物が目を退化させるほどの長い間、この地下迷宮に住むゴブリンたちはずっと暗闇の中に閉じ込められて生きてきた。
元来のゴブリンと同じ生態系なのかも解らない。
慎重に慎重を重ねて進まなくてはならない。
土埃の匂いなのかカビの匂いなのか解らないが、少し嫌な匂いが鼻を突く。
ミニマップには赤い光点はまだ見えない。
相当古い遺構らしく、床は少し真ん中がすり減っていて少し湾曲しているようだ。
大分不気味な感じがするがゾンビやらグールはいそうにないので安心だ。
さあ、ダンジョン攻略の始まりだ。
冒険を始めよう。
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