第31章 ── 第19話
ガイアさんとの話も終わり、ローゼン閣下とエマの戻る。
「誰との念話だったの?」
エマは俺が念話をしていたと思っていたようだ。
「いや、念話はしてない。
エマたちには姿が見えなかったようだけど、この世界の神さまと話していたんだよ」
「え!?」
「そうなんだ」
ローゼン閣下は目をまん丸にしているが、エマは俺が神と話している程度の珍事では驚かない。
「で、話はついたの?」
「ああ、こっちで溢れかえって悪さをしている余分な神力はティエルローゼで請け負う事になったよ」
「神界の神々の力が増すのは嬉しいことだけど、悪さをしていた神力なのよね?
大丈夫なの……?」
「ああ、神力が大量にありすぎる事が問題なんでね。
それにこっちの世界には生み出されている神力を使う神が殆どいないんだよ」
「え?
今、神と話していたんでしょ?」
言いたいことは解る。
ティエルローゼには無数の神が実在しているので、神力を消費する神がガイアしかいないという状態に思い至らないのである。
「さっき話していたのはガイアさんという神だが、存在時代はこの地球そのものといえる。
流石に大地は見えるだろう?
この世界の神は彼女しかいないんだ」
「ますます興味深い。
神が一人で世界が回るという事は、よほど強力な神であるのでしょうな」
ローゼン閣下も俺の言葉を噛み締めつつ、こっちの世界の考察を始める。
「神が一人で全てを司るって凄くない?
大地の神って言うけどローゼン閣下の言う通り、今は亡き創造神さまくらいの力があるって事になるわ」
そうだね。
でも、こっちでは神が実体化するような事象は、科学的に観測された事はない。
ガイアは大地自体が本体なので実体化していると言えなくもないが、大地を生物、あるいは神のように認識している人間は一人もいない。
ガイア理論だって地球を一つのシステムとして見るモノであって実体のある神として定義しているワケではないからね。
「基本的に神は人の前に実体として現れないってのが、こっちのルールなんだよ。
だからこっちの人々には無神教だったり、架空の神を信じるような人間もいるんだ。
もちろん、神を信仰するモノも多いよ」
エマが唖然とした顔をする。
「呆れた。
自分たちを創りたまいし神々を信仰しないなんて。
神罰が怖くないのかしら?」
「いや、こっちの神は直接的な神罰は一切与えてこない。
回り回ってバチを当てるなんて話はあるんだが。
それを因果応報って言葉で表す宗教もあるよ」
エマはキョトンとした顔をする。
ローゼン閣下は目を輝かせるばかりだ。
「因果が回るのは普通でしょう?
だから人は正しい行動をとるようになるんだし。
道から外れたら、神はそれを見ているでしょう?」
そして神罰が下るのがティエルローゼである。
常識すぎて、神が世界にいないという事実に現実を結び付けられないようだ。
それにエマの考え方は日本人には当たり前の思考でもある。
彼女の言っている事は俗に「お天道様が見ている」ってヤツだ。
神罰が下らないという事だけが違う。
「さて、あまり時間はない。
宗教談義はキリがないからこのくらいにしておこう」
俺はとっとと話を切り上げる。
ローゼン閣下が明らかに目から絶望の色を覗かせた。
宗教に関してあれこれと言い合う事は、こっちの世界では争いの種にしかならない行動だし、今回はそれに倣って早々に次の行動に移る。
ガイアの焦りようを見れば解るように実際に時間がないのは間違いないしな。
「何をするの?」
「どの程度の速度で神力が溢れているのかを見ておきたいんだ。
世界中を見て回るしかないね」
そう言うとローゼン閣下の目の輝きが復活した。
そんな閣下に一応釘を差しておく。
「閣下、勝手にウロウロしないでくださいよ。
逸れたら、マジで元の世界……ティエルローゼに帰れなくなりますからね?」
「ほっほっほ、肝に銘じておきます」
閣下は余裕そうな口ぶりだが、目の輝きが尋常じゃないんだよ……
異世界を見て回れるって事で暴走しそうで怖いんだが。
「さあ、世界一調査の旅に出発だ!」
「おー!」
「おー……」
ローゼン閣下は力強く拳を空に突き出した。
それを見てエマは同じように拳を空に上げたが、閣下とは違い力強い感じはしない。
ローゼン閣下は軽く一〇〇年以上は生きていると聞いているんだが、こういう仕草を見ると子供みたいな心を持っているみたいだねぇ……
まず、どこから行こうか?
俺ら日本人的な頭の中の世界地図を見れば、西の端っこイギリスあたりが良い感じがする。
俺はイギリスに向けて
こういう時は生前、世界中を旅するような職に就いていたのが助かりますね。
あっちこっち世界中を飛び回っていたので、大抵の経済の主要地点には行っている事になる。
もちろん、現地の取引先に接待がてら観光に連れ回されたのも功を奏していると思う。
俺はプロンテスたちに見送られつつ
それに続いてローゼン閣下、エマという順序で転移する。
出た先はグラストンベリー修道院を見渡せる小高い丘だ。
まあ、周囲は真っ暗闇で殆ど何も見えないんだけどね。
現在のグラストンベリーは午前三時だったのである。
周囲に誰もいないような時間で助かった。
転移の瞬間を見られでもしたら大騒ぎになりかねないしね。
東と西であまり時差のないティエルローゼに慣れきっている所為で、こっちには時差があるのを忘れいてたよ。
ここはオーストラリアとは大体九時間の時差があるんだったね。
右上に表示したままにしている
「おお……すばらしい……」
後ろからローゼン閣下の感嘆の声が聞こえてきた。
振り返ると、ローゼン閣下がグラストンベリーの街にきらめく夜景の光をうっとりと眺めていた。
その横ではエマが目を凝らしつつ首を傾げていた。
「ケント……何で見上げてないのに星々が……
あれ?
あれって星じゃないわよ!?」
俺は苦笑してしまう。
あっちでは夜の光といえばランタンとか松明とかが普通で、ああいった煌々と輝く電気の光は見られない。
魔法による電光が一番近いんだろうが、一定の光量で光り続けるような光源にはならんからね。
それにしても瞬かないだけで星ではないと看破するエマはすごいですな。
「その通り、あれは人が作り出した光だ。
電気を集めて光に変換したものだ」
「電気……?
あれって雷光なの?
どうやって電雷を繋ぎ止めて……」
エマはブツブツ言いながら魔法的な観点からどう再現しているのか考察を始めている。
ローゼン閣下が考察を始めるのなら解るんだが、エマが先に始めちゃったよ。
と、閣下に視線を向けるといつものように目を輝かせつつもニコニコしているばかりだ。
「あれ?
ローゼン閣下の方が先に仕組みを考え始めるかと思ったんですけど」
「ほっほっほ。認識は間違っておりません。
ですが、現に目の前にありますからな。
慌てる必要はないのです。
これから、あの光の下に行くのでしょう?」
「まあ、そうなりますね……」
流石はローゼン閣下である。
全く動じず、慌てない姿勢は尊敬します。
慌ててしくじるような無様を晒す愚か者ではないって事ですな。
「では、暗いので足元に気をつけてください」
俺はインベントリ・バッグから懐中電灯を取り出して行く先を照らした。
「ちょっと、ケント!
それって何!?
あの光と同じ臭いがするわね!?」
「ああ、懐中電灯だよ。
ドーンヴァースで手に入る日常品。
フラッシュライトとも言うが」
エマは驚き、ローゼン閣下は目を輝かせた。
考えてみたらこれ、ゲーム内では普通に使っていたんだけどティエルローゼで使うの忘れてたな。
地球でもゲームでも当たり前の品物だけど、ティエルローゼではオーバーテクノロジーになるもんな。
「触ってみるか?」
俺は二人に予備の懐中電灯を渡す。
どんな事があるか解らないので、俺は常に五本ほどインベントリ・バッグ内にキープしてあるのだ。
偉いだろ?
とは言っても、ドーンヴァースの懐中電灯には電池の寿命という概念がないのでずーっと使い続けられる便利アイテムなんだが、片手を塞がれるのでプレイヤーは殆ど使わない不人気アイテムなんだけどね。
ほら、俺は
懐中電灯を使うのも全く苦にならないワケ。
これは
「おう!?
目が! 目が!」
閣下が直接電球を覗き込んでからスイッチを入れ、お約束のアクシデントを演出しております。
エマは閣下のお約束を見て、同じ轍は踏まないように気をつけつつスイッチを入れていた。
「この光は確かに雷光に似ているわね。
な、何これ!?
魔法じゃないですって!?」
「その通り、それは科学の力だからねぇ……
もっとも……今君たちが弄り回しているソレ自体は科学で作り出すのも不可能なアイテムなんだけど……」
ドーンヴァース製のアイテムだからね。
何で現実世界に持ち出せているのかは、解りませんが。
不思議を通り越して怪奇ですらありますが。
これを地球で売り出したら大問題になる事しか想像できません。
「はい。おもちゃじゃないので没収です」
「ああ……!?」
俺は素早くエマとローゼン閣下からドーンヴァース製懐中電灯を回収してインベントリ・バッグに仕舞い込む。
変な問題に発展する前に回収できました。
ローゼン閣下が悲痛ながら押し殺した声で残念がりました。
エマはそれほど残念そうではありませんが、いつも近くにいるのでいつでも見せてもらえると思っているのでしょう。
もうコレは出しませんよ。
少なくとも地球にいる間は!
つーか、こういうアイテムが俺のインベントリ・バッグ内にはゴマンとあるんですけどね……
これからは、不用意に取り出したりしないように気をつけようと存じます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます