第31章 ── 第18話

 俺がガイアと話していると、ローゼン閣下とエマはまた始まったといった感じで近くの小岩に座って待っている。


 念話をしているところをよく見ているからか、俺の行動を納得しているようだけど、見えないだけで相手いるからね?

 あっちでも精霊とかは基本的に人に見えないから、彼らと話していると同じような反応をされるので慣れてはいるんだけど……


 何度経験してもこの反応にはちょっとイラッてくるんだよなぁ。

 人は目に見えなかったり、理解できない事を体験すると大抵こういう態度になる。


 もう諦めているけど、神の力を持たない──というか転生前の俺も理解不能な奴や出来事にこういう態度だったのかな……


 俺は家族や砂井とその取り巻きの事を一切理解できなかった。

 その時、あんな感じの態度を表に出していたとしたら俺が育児放棄されたり虐められたりした理由になるんだろうか。


 だからといってネグレクトしてもイジメをしてもいいって理由には全くならんのだが。



 さて、ガイアと一通り話して色々と聞いていみた。

 彼女はやはり精霊の一種だと思われる。

 彼女自身も自分がなぜ地球にいるのか、いつ産まれたのか、自我を持ったのはいつかなど、サッパリ解らないようだ。


 ただ、プールガートーリアの神々がやってくる前からの記憶があるそうなのでこの世界土着の存在である事は間違いない。


 この世界で生命が産まれたのは何億年も前だが、精神的な活動が活発になったのはそれほど古い時代ではない。

 やはり原始的な細胞などがどんどんと進化していき、高等生物が産まれたあたりから精神活動の活発化が起こってきたようだ。


 この精神活動こそが信仰心を生み出す元となったんではないだろうかと彼女は言っている。

 生物はどんなモノであれ恐れ・悲しみ・喜び・怒りといった感情をもっており、その精神活動がいつしか敬いや畏れを生み出した。

 それが自然へと向けられる事こそが信仰の始まりなのだと。


 初期的なアニマリズムが動物にもあったという説にはビックリするが、人間だけが思考を持つワケでもないだろうから、思考能力が劣っていても何ら問題はないのだろう。


 そんなまだ進化途上の生物たちの自然への信仰が、ガイアの意思を生み出した。

 その頃は彼女の話からカンブリア紀の頃ではないかと思われる。

 俗にカンブリア爆発と言われる頃だね。


 あの時代に地球上のあらゆる生物の祖先が産まれたと言われているので、その作用が神や精霊という存在が発生する地盤となった。

 彼女の記憶が始まったのがその頃だったのは間違いない事実ではあるが、彼女が今のように自由に動けるようになるにはまだまだ時間が必要だったという。


 それから数億年掛け、彼女は成長していった。

 最初はよちよちと地面を這いつくばって歩いた。

 そのうち四本足になって四つん這い、ある時から今のように二本足で歩けるようになった。

 その頃は身体も大きかったという。


 どうやら彼女の身体は、その時に地上を支配しているモノと似た体型をとるらしい。

 だから、今は俺好みの人間の女性って感じの体型になっていると思われる。


 だとすると二本足になった頃は恐竜の時代って事かな?

 水の中ではなく地上で生活をしていたみたいなので、地上の支配者的なヤツに似る性質なのかもしれない。

 となると海の中には彼女の海版みたいな神がいるのかもしれん……


 精神活動の活発化が必要らしいので、現代の海にそれほど高等な精神活動があるとも思えないので居ないかも知れんけど。

 ティエルローゼみたいに人魚とか半魚人が実在するなら話は別なんだがなぁ。


 彼女が人間の姿になったのは、およそ五〇〇万年ほど前らしい。

 五〇〇万年前といえばアウストラロピテクスが誕生した頃だろう。

 所謂猿人というヤツだ。


 猿人の脳は他の生物を凌駕しており、手先の器用さも脳の発達を促した。

 脳が発達すれば精神活動がさらに働くようになる。

 これが、ガイアを神の力に目覚めさせた要因だと思われる。


 彼女はどんどんと力を増し、様々な奇跡を起こせるようになった。

 それは大地を左右するほどの力である。

 火山を発生させる事もできるし、身を割いて移動させることもできたそうだ。


 まさかプレートテクトニクス理論が、ガイアの神の力だとは思わなかったよ……


 そんな地上だが、いつしか猿人がさらに進化し原人となった。

 その頃の原人たち……人類に繋がる祖先たちは地上に何十種類といたらしい。

 そういった原人たちには既に宗教的な信仰を持っていたらしく、自然を崇拝する者たちだったそうだ。

 ガイア自身も直接、畏れ・敬われる立場になったのがこの頃だった。


 そうなると益々ガイアは力を付けた。


 その頃だった。

 何かこの地球ではない場所から必死に扉を開けようとしている存在をガイアは感じた。

 最初は気の所為かと思ったらしいが、その感覚は日増しに存在感を増す。


 ガイアはある時、その存在にちょっと力を貸してやろうと思った。

 その時、次元の壁が裂けた。

 そこから現れたのが、ハイヤーベルとカリスを筆頭としたプールガートーリアの神々たちだったという。


 プールガートーリアの神々は地球が気に入ったらしく、地上に闊歩する人類種を配下にして好き勝手に進化させ自分を神々として扱わせた。


 ガイアも最初はびっくりしたものの、その行為を止めはしなかった。

 他の世界の神々の力を使う方法を学びたかったというのもあったし、彼女は今まで一人だったので自分と同じような力を持つ存在を好ましく思ったからというのもある。


 だが、時が経つにつれ、プールガートーリアの神々の横暴が目に余るようになる。

 自然を破壊するだけならともかく、自分の配下たちを扇動して他の神々の勢力と戦わせたりするのだ。

 あっという間に地上は死ぬ必要のない生物の血で溢れ返るようになる。


 ガイアは血の匂いが好きではなかった。

 地上の状態が様変わりした事も彼女の心を鬱屈したものにした。


 ある時地上の状況を嘆いて膝を抱えていたところ、とある一人のプールガートーリアの神に声を掛けられたという。

 その神は地上で争う原人の中では一際毛が少ない者たちに神と崇められている存在であった。


 俺の推測通りならば、それがハイヤーヴェルだったのだろうと思う。

 彼女は地上に広がる惨状を嘆いて聞かせた。

 その神もガイアの気持ちに賛同してくれたという。


 その時からガイアとその神の共闘が始まった。

 まさに天界戦争といった感じの出来事だったらしい。


 その時の戦いを色々聞いたが、一発の火球が地を焼き払うとか、数々の流星を引き寄せて敵地に降らすとか、どこのラーマーヤナやらマハーバーラタかといった描写ばかり。

 封神演義もこの戦いが伝わって書物として記されたものだったんじゃないだろうか。


 そしてとうとうガイアたちはプールガートーリアの神々を全て元の世界に追い出すことに成功する。


 ガイアはその事を喜んだが、それはプールガートーリアの最後の神である彼の存在もいなくなる事を意味していた。


 彼は寂しそうに笑いながら次元の裂け目に飛び込んでいった。

 そして次元の裂け目は綺麗さっぱり消えてしまった。


 その時からガイアは地上で唯一の神となったワケだ。


 それからガイアは地上を守ってきた。

 彼の作り出した人々も守ってやった。

 それが今のホモ・サピエンスなのだという。


 うーむ。話が壮大すぎませんかね。

 まあ、それが事実なら受け入れるだけですが。

 人間が地上を支配した理由は、ガイアの加護もあったからなのだろうねぇ……


 ミッシング・リンクの理由も解りました……

 プールガートーリアの神々が勝手に進化させたんですね。


 色々推測するとホモ・サピエンスはハイヤーヴェルが作った人類種、ネアンデルタール人はカリスが作った人類種だったみたいです。

 両者は混血も可能なくらい近しい人種だそうで、創造と破壊を司る表裏一体の神に似つかわしい存在だったって事でしょうか。


 いつしかネアンデルタール人はホモ・サピエンスが滅ぼしてしまったようで、地上に残る人類種はホモ・サピエンスだけになってしまったと。


 UMA界隈で言われているような、ビッグフットとかサスカッチ、ヒマラヤのイェティ、モノスやオラン・ペンデク、アルマスなどは存在していて、プールガートーリアの神々にやらされた人類種間戦争の数少ない生存者だったみたいです。

 そういうUMAたちはホモ・サピエンスを酷く恐れており、絶対に見つからないように地下や森など人が殆ど来ないような地域にひっそりと暮らしているとか。


 今でも生きていたら是非見てみたい存在たちですが、ホモ・サピエンスへの恐怖は本能にまで刻み込まれた致命的な記憶らしく、それを払拭することはできないので会いたがらないようにとガイアに釘を差されました。


 自称ミステリー・ハンターとしては残念無念でございますが諦めます。



 それでですね。

 今に話を戻すわけです。


 今、これだけ信仰の力、神力が溢れかえってきているワケですが、これが氷河期の氷を溶かしたり、オゾン層を破壊したりと、好き勝手に地球に異常気象をもたらしております。

 ガイアは困り果てたワケです。


 放置しておけば、あの神ハイヤーヴェルの残した人間も地上に満ちるガイアの子どもたちも全滅するんですから。


 ガイアは必死に力を使って抗いました。

 それが世界中にある「神隠しの穴」と呼ばれる転移門ゲート群というワケですな。


 この転移門ゲートたちは、一方通行型もあれば双方向型もあるそうです。

 俺たちが潜ってきたのは双方向型。

 双方向型の方が数は少ないそうです。


 こういった神隠しの穴は全て、人里離れた場所にあるようなので少しホッとしています。

 そうじゃなければ地球人類のティエルローゼへの侵攻とか招きそうですしね。


 まあ、古い時代から神隠しの穴は禁足地であったり、呪われた地として扱われていて、人が近づかないようになっているらしいですけどね。

 富士山太郎坊みたいなこっち側の精霊やプロンテスなどの存在が守ってくれている場合も多いようなので安心ですが。



 ガイアは元々地の精霊だったし、信仰心が集まった過程で神格を得たのだと推測した。

 プールガートーリアの力を背景として産まれた存在ではないという事だ。


 となれば地球生まれの俺としては、彼女が望むようにしてやるべきだろう。

 信仰の力、神力が溢れかえってしまった地球のピンチを救うのだ。


 まずそれを行うにはどの程度の速度で信仰心が溜まっていくのかの確認が必要になりそうだ。


 手当たり次第根こそぎ信仰の力を奪ってしまうと、ガイアの存在を脅かしかねないからね。

 彼女の存在も信仰の力によって維持されている部分があるはずだし、彼女はガンガン神力を使うタイプではないようだけど、行使できる神の力は維持できる程度に残しておいた方が良いだろう。


 彼女の力で地球に落ちてくるはずの巨大隕石とかを避けてたりするようなので人類存続の為にも必要でしょ?

 一度隕石で地上が絶滅した事があるそうで、彼女的に要注意ポイントと可愛い仕草で言われたので。


 何にせよ、予期せぬ事ながら世界一周旅行をしなければならなくなったんだが……

 ローゼン閣下とエマを留守番させて行ってくるってワケにはいかんのだろうか?


 いや、無理だろうなぁ……

 仕方がないが連れて行くしかない。

 少しの間だとしても、彼らをここでキャンプさせておくなんて事はできない。


 ローゼン閣下が大人しく待っているなんて期待できないし、キャンプ中の食料もないからな。

 あっちのモノを基本的に持ち込ませないって約束だったからねぇ……


 ま、連れ歩いた方が危険はないと判断しよう。

 いざとなれば不可視化インビジビリティの魔法でも使えば問題ないだろうしね。

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