第31章 ── 第12話
翌日、人口増加問題についての意見をクリスと交換する。
クリスは今、多忙すぎて中々話す時間が取れないそうで、人員を増やすべきではないかと思っているが、中々コレという人物がいないとか。
彼の補佐は俺が最初に雇った三人の貴族、ファーガソン准男爵、セネール男爵、ポーフィル準男爵のみ。
三人の家族から苦情が出ていないのが幸いである。
まあ、俺が仕事してないのが一番の問題なんだけど、そこは目をつぶって頂きたい。
俺は彼らの役に立つ魔法道具をしこしこと制作しますので。
とにかく、人員を増やすならば、俺の裁可無しで雇っていいということでクリスとの間で決着した。
いい人材がいればって条件が付くが……
何にせよ、昨日の夜に考えた条件を高札にして出す旨をクリスに指示しておく。
その条件をクリアできる人材が現れるまでに魔法道具を作っておくとしよう。
工房の研究室に顔を出すと、エマが溜まった魔法道具の付与作業をしている。
「精が出るな」
「仕方ないじゃない。
私たちがいない間に注文が山積みよ」
「うーむ。
俺も魔化作業を手伝いたいところだが、役場で使う道具の開発をしなければならなくなってな」
「期待はしてなかったし、新しい設計とか必要な注文はないから別にいいわよ」
「すまんな」
エマは肩を竦めつつ、自分の作業に戻る。
俺はエマのやっている注文品のリストを覗いてみた。
以前俺が作ったものもあるが、シャーリーが開発して売り出していた魔法道具が殆どである。
便利に使える小さい道具が多いので、貴族からの注文が殆どなんだろう。
まあ、魔法道具を購入できる段階で大抵は貴族なんだけどね。
俺も設計図を作ろうか。
紙を用意してそこに羽ペンで魔法道具のデザインを書いてみる。
人のステータスを表示するんだから、スキャンする部分が必要になる。
結果を
基本デザインは至ってシンプル。
問題があるのは読み取る事だ。
スキャナー部分から、対象の生体情報を引き出す。
このスキャナーからは対象の人体を覆うような
スキャナー部分から作っていこうか。
生体データの読み取りだが、手を置く部分にはミスリルを使おう。
読み取りには対象の魔力を利用させてもらうのが一番簡単なので、魔力伝導率が高い魔法金属がいい。
ミスリルはそういう理由で最適だ。
ミスリル板をインベントリ・バッグから取り出してテーブルの上に置く。
手の形にデボス加工を施すとしようか。
使用対象者に見ただけで解るようにするのは基本だしな。
自分の手をミスリル板に当てて手の輪郭に沿ってペン入れを行う。
左手は簡単だが、右手はちょっと難しい。
何度かやっても上手くいかないので、紙に手形を書いてからハサミで切り抜き、それを台紙にして手形をミスリル板に書き込んだ。
最初からこうして置けばよかったね。
後は鍛冶場でミスリル板を加熱してから小ハンマーで書いた手形の形に凹ますように打ち出す。
彫金や鍛冶スキルなどの金属加工系のスキルを使ったら結構簡単にできました。
俺の手形のまんまだと、万人に当てはまる手形にはならないので、大きめでちょっとデザインチックな感じにしてみた。
打ち出したミスリル板の手型に自分の手を当てて確認する。
問題はないようだ。
地球の技術でスキャナーなんかを作ろうとしたら電子部品とか大量に必要になるだろうが、魔法が使えるティエルローゼではこんな金属の板だけで作れちゃうのだから簡単だよねぇ。
とは言っても、これから彫り込んでいく魔法術式がそれらの代わりになるワケなので一筋縄ではいきません。
やらせることが多くなればなるほどに、術式は長く、そして多くなる。
様々な術式を積層し、組み合わせる。
その作業は地球でいうところのプログラミングに近い。
なので一つ間違えれば正常に動かないし、下手をすれば大惨事につながる事にもなる。
爆発するくらいならいいけど、物質の崩壊や消滅反応なんか起きた日にゃ……
さて、生体スキャンといえば、オリハルコン・ゴーレムのレイに内蔵されている機能が参考になりますね。
あれは生体内の魔力パターンを読み取って記録にある術式と照合する事を目的としている。
以前、レイを色々と調べてみたが、神々の術を以てして作られている部分もある為、その部分くらいしか解らなかったんだよねぇ。
でも、今回使うのはその部分の技術なんだよ。
これはキッチリと術式を掘り込めばいいだけなので楽な作業ではある。
ただ、読み取るデータをしっかり術式に入れ込まなければデータになって出てこない。
読み取り項目を紙に箇条書きにしておこう。
まず筋力度は、言わずとしれた筋力量を示す数値である。
多ければ多いほどに力が強くなる。
次の知力度は、頭の回転の良さや記憶力などに関係する数値になる。
MPの多さにも関係するので魔法を使うなら必須能力。
続いて精神度だが、精神的な強さや様々な行動における継続力などに関わる。
SPとMPに大きな影響を与えるので結構重要ではある。
直感度は、洞察力や閃きなどにどれだけ優れているかの能力だ。
器用度は手先の器用さだ。
近接戦闘武器による命中率や
敏捷度は字面から見て単純に素早さに関するモノだろうと思われるかもしれない。
実はそれだけでなく、如何に自身の身体をコントロールできるかも示している。
器用度に似ているが、少々違う能力となる。
射撃武器の命中率に影響するという話もあるのだが、何でだかは知らない。
そして最後に耐久度。
身体の頑健さを単純に表していて、これが高いとHPが多くなる。
それと共にSPにも影響を与えるようなので、かなり重要な能力値でもある。
その他の能力値としては魅力度、幸運度などもある。
この辺りは数値にしづらいというか、ドーンヴァースのステータスには出てこないので読み取る必要はないだろう。
だって、魅力度なんてどうやって数値化するんだよ。
容姿の美しさは魅力的ではあるが、魅力度としての数字なのか?
内面の美しさの方が数値化しやすい気がする。
内外どちらの魅力も内包しているとしたら解釈が色々と難しい能力になるよな。
そんな面倒なモノは数値化しなくていいと俺は思います。
それから幸運度については隠しステータスとして存在しているという噂がティエルローゼにはあったが本当かどうかは開発者にしか解らん案件だな。
もしあったとしたら、プレイヤー毎にレアアイテムとかのドロップ率とかが変わるって事になるんじゃ……
そんなのが知れたら暴動起きるぞ。
あっても絶対秘密だったろうな。
能力値は以上でいいだろう。
そうそう……能力値の総量を見極める為にも種族は読み取っておかねばなるまい。
それは何故か?
ここの辺りはドーンヴァースもティエルローゼも同じシステムだと思うんだが、生物は種族によって基礎能力値というのが決まっている。
人間ならキャラクターを作成した段階で七〇ポイントだ。
これが各能力値に割り振られる事で人々の能力値的な性質が決まる。
この基礎能力は成人における数値である。
子供の場合には、より低い数値になると思われるが、ドーンヴァースではプレイヤー・キャラクターは容姿的には幼女や子供であっても成人として扱われている為、人間の基礎能力は七〇となっている。
そして、そこに
レベル一の
トリシアのような一般的なエルフという種族は基礎能力値が人間よりも五ポイント高くて七五もあるので、一般的な
ただし、属に亜人種と呼ばれる人間以外の種族には、有利な能力値と苦手な能力値が設定されている事には注意が必要だ。
先程の出てきたエルフを例に上げるなら、エルフは知力度と敏捷度が優先的に高い値になるようにシステム的に幾らか数値がプラスされる。
逆に筋力度と耐久度が種族的に劣っている為、数値を幾らかマイナスされる。
人間にはこういった制約がない事がメリットなのかもしれない。
以上が能力値についてである。
これらを読み取る為の
続いて読み取らねばならないモノは「スキル」だ。
これも読み取る事は可能らしい。
スキル毎に生体内の魔力パターンに統一性があるそうで、それを読み出す事でどんなスキルを体内に内包しているのかを見破れるという。
ただ、レベルまでは解らないので、その辺りは注意が必要だ。
シャーリー図書館の書物には「一説によると魔力パターンの強弱でレベルが測れる可能性が提唱された事がある」と書かれていたが、誰もそれを証明したものはいないそうだ。
やはりそこまで読み取るには神の力なりユニーク・スキルが必要になるのだろうか。
神殿で売ってる理由がコレだもんなぁ……
一応、称号なんかも読み取っておくべきだろうか?
これも魔力パターンがあるとかなんとか書いてあった気がするが、あまり興味はないな。
さて、もっとも重要な項目だ。
ユニーク・スキルの読み取りについて。
これは、はっきりいってティエルローゼのシステムには本来ないと思われる。
マリスたちの言葉から察するに、この世界では
マタハチ、アリーゼなどが持つユニーク・スキルは、ドーンヴァースにも存在していた。
しかし、トリシアやファルエンケールのケセルシルヴァ女王などが持つモノはドーンヴァースには存在しない。
それこそが
俺にとっては未知のモノという感覚だが、ユニークと同居できている段階で、同じものか、システム自体がアバウトな作りって事なんだろう。
そういうモノを読み取る
となれば、手は一つだ。
──チャラランランラン♪
相変わらずの呼び出し音である。
「はーい。イルシスちゃんです!」
「はい、どうも」
「んもう。
ケントったら、いけずねぇ。
もう少し面白い反応してくれてもいいのよ?」
「そういう期待はしないでくれ……
反応に困る」
「仕方ないわよ、私ってばここのところ結構暇なのよ。
だからつい。
今回は大目に見てちょうだいよ。
それで……今日は何の用事なのよ?」
「ああ、その事なんだけど……」
俺は困っている事を相談する。
「そう。
でも、あまりその辺りの技術は外に出してもらったら困るわよ?」
「解ってるよ」
「レイの技術も応用するつもりなのよね?」
「そうなるね」
「まあ、シャーリーから工房を受け継いだんだし、その辺りは使われても仕方ないか。
じゃあ
「ユニーク・スキルと同じとして見ていいのかな?」
「アースラ能力値とスキルのシステムから外れたパターンは、全てこの項目に割り振られるのよ。
だから、一緒として扱われると思うわよ」
イルシスによると、俺たちドーンヴァースのキャラクターが持つユニーク・スキルは、神々が「◯◯を司る」という部分、所謂「権能」と扱いが近いらしい。
これは知識系最高神、智慧の女神ソピアーがアースラやシンノスケ、タクヤを視た時に感じた事だそうだ。
神々の間では別に秘密ではないそうなので、俺にも教えてくれたみたい。
一応、俺も創造神の後継として選ばれた存在だからって理由もありそうだけども。
それにしても、これらの
まあ、秘密は誰にも明かさなければ別に何の問題もないので、お口にチャックでいきましょうか!
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