第31章 ── 第7話

 味会議も終わったので、さっさと工房へ戻る。

 午後からはイェルドの剣の仕上げだ。


 本当なら砥石でチマチマ砥いでいくのだろうが、砥ぎ始めからそれだと面倒なので魔導グラインダーで素早くガッツリ砥ぐ。

 流石に仕上げは砥石でやるけどさ。


 ある程度砥げたら大型の平砥石で綺麗にしていく。

 順々に粗い砥石から細かい砥石にして行く作業がかなり面倒臭い。

 それでも俺が三時間もやれば一端の刃へと変わる。


 鍔は凝っても仕方がないのでシンプルに。

 彫刻なんかしている暇もないしね。

 ただ、無垢の平たい金属だと重くなるので、中抜きして軽量化しつつ強度も保つようなデザインに。


 続いて拵えだが、基本的に日本刀に準じた感じにするつもりだが鮫の皮なんて無いから普通の皮で代用してみる。

 柄木地が割れないようにする為のモノだし、硬革でも代用できないこともないだろう。


 鮫皮なら真珠のようなツブツブが皮の表面にあり、それを美しく見せつつ柄糸を巻くらしい。

 だが、普通の硬革では再現できないので、たくさんあるクズ宝石の中から微小な真珠を割って配置してみた。

 白地に配置するなら見栄えは悪くないんだが、硬革は焦げ茶色なので微妙だ。


 次にフソウで手に入れた和紙を革に巻いて接着する。

 これは握り心地に関わるらしいので丁寧に作業しておこう。


 この後、ようやく柄糸を巻く。

 柄糸の色は下地が革なので鹿革を細く裁断したモノを使います。

 貼り付けた真珠がチラリと覗くように巻いていくと格好良く見えます。

 柄糸が革なので革巻柄になります。

 使っていくうちに黒い光沢を帯びてくるのでどんどん格好良くなっていくって寸法。


 最後に柄頭に兜金を嵌めて完成です。


 鞘は普通に白鞘です。

 漆塗りとか見栄えに関しては自分でやってよ。


 次の日……イェルドの二本目。

 やることは前日と同じなので特筆すべき事はない。


 余った時間でロッタ用の弓の構想を練っておく。


 ロッタが今使っているのは和弓というヤツだ。

 とても長いロングボウといった風情で、非常に強力なものになっている。

 ただ、野外戦なら無類の強さを発揮するが、ダンジョンなどの天井があるような狭い場所では取り回しが難しくなるのは否めない。


 あの小さい身体で和弓ってのがギャップ萌えな気がしないでもないが、実戦向きではないと俺は判断する。

 となれば、ショートボウかそれよりも少し長いくらいの弓をベースにして強化していくとしよう。


 本来の弓ならば木や竹などを素材に作るのが順当だが、ショートボウのサイズで和弓に匹敵する威力を求めるとなると、やはり素材は複合コンポジットにするべきだろう。

 芯に緋緋色魔銀を使うとしようか。

 ただ、緋緋色魔銀だけだと柔軟性が難点になる。

 ミスリルは曲がらずに砕けるような性質の金属なので非常に硬いんだよね。

 なので、鉄がベースの緋緋色金を混ぜ込む事にする。

 金属的な強度は従来よりも落ちるが、柔軟性が増すので折れにくくはなるね。

 張力を増すために木や竹で挟み込んでコンポジット・ボウに。

 接近戦みたいな馬鹿な真似をしなければ、この設計で耐久度が低くなるような事はない。

 メンテはもちろん必須だが。


 今回の弓は、他の使徒の報酬のようには作れない事を念頭に設計しなければならない。

 何故かって?

 さっきの説明で解ると思うが、魔法付与を後から出来るような作りじゃないからな。

 なので先に魔化用の術式を芯になる緋緋色金属に彫り込んでおく必要があるって事だ。


 今回の付与内容だが、飛距離延長、貫通力上昇、ダメージ上昇、命中率上昇、筋力上昇くらいでいいか。

 五つも能力が付いてたら上々だろう?

 ちなみに最後の筋力上昇は、女の子の細腕で弦を引っ張るのが大変そうだからって理由で入れてみた。


 矢を誘導できるとか、攻撃属性追加なども付け加えたいところだが、それは矢の方に施せば済む話なので弓本体には不要だろう。


 そうなると矢の方も作ってやる必要が出てくるのか……

 矢は消耗品なので贅沢な魔法の品にしてしまうと後々ロッタの懐事情が火の車になりかねないので、要相談だなぁ。

 ウチの工房に発注してくれれば、全自動で生産可能だしコストは下げられると思うけども。


 構想を紙に書き留めて本日は終了!



 次の日、早速工房に籠もってロッタの弓作り。


 実は弓の作成は初めてなので端末でインターネットの情報見ながら作成。

 作ってみた系の動画とかが非常に参考になります。


 前日に構想を練っておいたお陰で作業が捗り、スムーズに完成してしまった。

 剣とかと違って弓は初めて作ったので一応試射してみようか。


 オリハルコン・ゴーレムのレイがいる無駄に広い玄関先に移動して、遠くの方に的にする瓶を並べる。


 周囲に白光ライトの魔法をたくさん浮かべて光源を確保しておこう。


 とりあえず五〇メートルの距離から弓を引く。

 張力はかなり強めですね。

 これ……筋力上昇を付与してなかったらロッタじゃ引けなかったかもしれん。


 ギリギリと引き絞る。

 心を落ち着かせて的に集中する。


 よし、今だ。


 弦を弾いて矢を撃つ。

 猛烈な風切り音を立てながら矢が的へ襲いかかった。


 軽い音を立てて貫通した。

 矢はそのまま真っすぐに飛んで、地面の岩をこれでもかと抉った。


「すげぇ、貫通力だな……」


 ソニックブームは置きてないので音速は超えてないだろう。

 ただ、音からして音速にかなり近いのではないだろうか。


 従来の弓なら時速で二~三〇〇キロメートルってところだろうから、三倍くらい早いんじゃないかな。

 矢の素材にもよるけど、この弓で狙われたらかなりヤバイな。


 トリシアに見せたら欲しがりそうな気もするが、今はライフル愛好家だから大丈夫かな。


 弓はとんでもないモノが完成したので、続いて矢を作ろう。


 やじりはミスリル製でいいだろう。

 アダマンチウム以上だとお財布がマジでピンチになるよ。

 やじりに術式を彫り込んで強度を高めておく。


 ついでに属性付与の術式も彫り込むが、肝心の属性の部分を空白ヌル状態として彫り込んでおく。

 こうしておくと魔力を込める時にセンテンスを唱える事で後から矢に様々な属性を付与する事ができるのだ。


 このアイデアは俺が考えたんだが、付与したい属性のセンテンスを知っている事と、毎回魔力を込めないといけないという部分が完全に欠点だと思い市場に流せなかった発明品である。

 空白ヌル状態のままで撃っても魔力取られるしな……

 使徒くらいレベルが高ければあまり気にならないかもしれないが、戦闘が長丁場になる場合にも向かないってのも欠点に付け加えるべきかもしれんね。


 一本作ったら自動製造で一〇〇本ほど量産しておく。

 矢筒はサービスしておいてやるか。


 革で簡単な矢筒を五つ作り、それぞれ二〇本ずつ入れた。

 この作業中「矢筒に空白ヌル部分に付与を行う機能付けたら良いんじゃねぇか?」とアイデアが出てきたが、空気中の魔力を集める機構を仕込むのが面倒なのと、矢筒が重くなる段階で却下だろうとアイデアをボツに回した。



 三人の報酬は作り終わった。

 最後はアルベルティーヌ用の報酬だ。

 彼女はウチのゴーレム部隊のミスリル・ゴーレムが欲しいと言っていた。


 あの三種類のゴーレムの能力を十全に引き出すには、前衛用の剣や槍のゴーレムが最低で三体、後衛に射撃型が二体、魔導型が一体って形にするのが良い。

 となると六体必要か。

 アダマンチウム製のゴーレム六体は、とんでもない価値になるね……

 ケチくさい事考えても仕方ないので、とりあえず作ってみるか。


 設計図は端末に入れてあるので素材だけ変えて自動製造。


 出来上がったゴーレムを順に魔化していく。

 このあたりはエマと一緒に散々やったから、あっという間に完成ですよ。

 一時間も掛からずオーバースペックなゴーレム分隊が完成してしまいました。

 ウチの工房の製造キャパシティ、外に知られたらマジでパニックに陥れられるな。


 さて、ゴーレムを作ってから問題に直面しました。

 これ、このまま渡したらアルベルティーヌが困りそう。


 俺みたいにインベントリ・バッグ持ちならともかく、この大きさのゴーレムを六体入れられる無限鞄ホールディング・バッグはこの世界に存在しない。

 むき出しで連れ歩かれるのはかなり不味いよねぇ。

 ウチの部隊のデザインそのまんまだし……


 これは何か考えねばならなくなりましたな。

 うーむ……


 専用の無限鞄ホールディング・バッグを作るにしても、製造方法が解らない。


 無限鞄ホールディング・バッグ事態はアリーゼの発掘隊が大量に掘り出しているんだが……

 肝心の無限鞄ホールディング・バッグ製造工場とかは発掘できてないので製造技術まで手に入ってないワケだ。


 となると俺がイチから開発って事になるな……


 俺はシャーリー図書館に入って色々な魔法の書をひっくり返してアイデアを形にできるセンテンスなり記述なりを探した。


 だが一日図書館に籠もっても発見出来なかった。


 そりゃ当然だ。


 シャーリー図書館の本は、ほぼ全て既に読んである。

 レベル一〇〇から来る高ステータスの恩恵で、これらの本の内容は頭の中にほぼ全て記憶されていると言っても良い。

 そんな俺が解決策を導き出せていない段階で、この世にない新技術ってヤツなのは間違いないのだ。


「イチから作るなら……こう……

 アニメみたいに腕時計型のコントローラ的なヤツに叫ぶと他次元空間を割って出てくるようなヤツがいいよなー」


 某クモ系アメコミヒーローが日本に輸入されて独自路線を歩んだ特撮作品があったが、あの大型のリスト装着型のメカをイメージした。

 あの無骨っぷりが大好きなのだが、アルベルティーヌには似合わんね。


 ん?

 空間を割って?

 それ、いいじゃん。


 俺の頭の中で色々なアイデアが集まってきて一つになっていく様子が映像として浮かんだ。


 駐機場に転送陣を……

 いや、足の裏に掘れば……

 指輪とか腕輪に転送制御魔法……


 次々とアイデアが合体していき、一つの形になった。


 ああ、これでいけそうだな。


 俺は細かく術式を彫り込むために顕微鏡が備え付けられている作業台の椅子に座った。


 インベントリ・バッグから適当な指輪を取り出して顕微鏡の下の作業スペースへ置いた。


 さて、そんじゃ目が疲れそうな細かい作業を開始しますか!

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