第30章 ── 第54話
とっととアポリスに戻り、女性たちのメンタル・ケアを行った。
その内の四人は魔法が必要なほどに打ちのめされていなかった。
貧乏な農村から親とか兄弟に娼館へ身売りされ、首都へ向かっていた道中に守備隊に囚われた為、ある程度の覚悟が出来ていたから精神的に壊れなかったらしい。
しかし、残りの二人は完全に精神が壊れていた。
二人とも結構な美形で良いところのお嬢さんだったらしいが、件の神罰で首都へ避難する途中に守備隊に捕まったらしい。
地方議員のお父さんは神罰に巻き込まれて大怪我を負った為、自宅に残っているようだ。
とまあ、このあたりは口も聞けなくなっているので例の魔法で記憶を覗いたから判明したんだよね。
もちろん壊れた精神の方もしっかり治療させてもらったよ。
まあ、記憶を改ざんするのは魔法でも難しいので、部分的に完全消去したんだが。
記憶の封印だと思い出すかもしれないでしょ?
さて、彼女らの今後の扱いだが、ケンゼン女史とメイド隊が甚く同情したようでケンゼン商会で引き取ってくれる事になった。
メイド隊の補充要員にするつもりなんだろう。
それはそれでアリだと思うよ。
働き口があれば、人間どこでも生きていけるからな。
さて、それから三日後だ。
スレイプニルが引く馬車が到着した。
兵士たちは逃げなかったようで、ちゃんと一四人いた。
「よし、降りろ」
横一列に整列させてからじっくりと一人一人の顔を覗き込む。
全員が顔面蒼白で直立不動になっている。
「あの要塞で女性を六人保護した。
お前たち、国軍だったか守備隊だったか言ってたな?」
全員にジロリと視線を向ける。
誰も言い訳はしてこないので俺の言いたい事は伝わっているようだ。
「守備隊が、罪もない、守るべき市民を強姦か。
どの口が国軍を名乗ってんのかねぇ。
それも民主主義を謳う国家の兵士がさ」
罪過を考えると無罪にするワケにはいかない。
弱肉強食のこの世界であっても、自らが決めた
「一人一回、自分たちの行為について弁護の機会を与える」
誰かいないか?
端から端へと視線を向けるが口を開くものがいない。
「自らを弁護できない。そういっていると判断していいのかな?」
一人の兵士が手を上げた。
「はい、お前。弁護を始めろ」
「じ、自分は……彼女たちに手を出しておりません……」
「ほう。抱く機会があったけど抱かなかったから無罪だと言っているワケだね?」
「そ、そうであります……」
その主張はハッキリ言って弱いねぇ。
「では、彼女たちが悪辣な強姦魔に好きにされているというのに助けもしなかったのは罪ではないと言うのだな?
守るべき市民を守らない兵士は職務怠慢なんじゃないのか?」
「しかし……上官を糾弾する勇気は……」
「はぁ?
お前らの軍隊は上官が罪を犯しても是正出来ない軍隊なのか?
綱紀粛正すらできない軍隊か。
役立たずのゴミと一緒だな。
今、この首都は瓦礫だらけになっているが、瓦礫ですら
俺の言葉に兵士は押し黙って下を向いている。
「俺は今、アゼルバードに協力しているが、元々はオーファンラントの人間だ。
俺の国の軍隊でこんな体たらくを働けば即追放だよ。
まあ、罪状は明らかだ。
お前らは死ぬまで犯罪奴隷」
殺すのは簡単だが、戦後の復興とか考えると労働力として使った方がいいだろう。
何人かが不満そうな目をしている。
「不満そうだな?
んじゃあ、彼女たちへ与えた肉体的な苦痛、および精神的苦痛に対して金銭で賠償するか?
一人頭金貨五枚ってところでいいか。
全員分で金貨三〇枚だな。
それと彼女らの内二人は魔法による治療を受けている。
この魔法は俺が行使した。
魔法による治療費は一人頭白金貨二〇枚ってところだ。
俺のオリジナル魔法だから高くて当然だよ。
これは俺に払ってもらおうか」
不満そうな目の兵士たちに俺は請求を突きつける。
白金貨で五二枚相当の賠償請求だ。
要塞の守備兵が一月でどれほど給料が出るのか解らないが、衛兵隊と対して変わらないはずだ。
ちなみにトリエンの衛兵は月に銀貨三枚を支給されている。
重労働なので他の都市より多めにしていると聞いているので、ここの兵士はもっと安いだろう。
多く見ても銀貨二枚だな。
一四人分だから月に銀貨二八枚か。
年に白金貨二二枚と金貨一枚……
全部差し出させても二年分以上の金額だ。
生活費などを削ずって無理のない返済を考えたら月に銅貨二枚とか、多く取れても銅貨五枚って話になるんだろ?
一〇年以上掛かるのは間違いない。
「む、無理です……」
先程自己弁護しようとしたヤツがボソリと呟いた。
「そうだろう?
それなら犯罪奴隷しかないよなぁ?」
ジロリと不満そうな目をした奴らを見るが、目も合わせようとしない。
反省の色がねぇなぁ……
「まあ、いいや。
犯罪者に情けを掛けてやる必要もない。
俺が勝手に量刑決めても誰も文句言わないだろうし」
視線を感じる。
いや、守備隊連中のじゃない。
俺を品定めするような視線だ。
大マップ画面を見ると数個の白い光点が見える。
その内の一つは例のワタルのようだ。
他の光点は……
『ハセガワ・ミツクニ
職業:
脅威度:微小
フソウ竜王国所属の世直し隠密の一人。
東方諸国に大きな動きがあるとの情報から東方の旅に出ていた。
現在は母国への旅路の途中である』
『オオオカ・カクノジョウ
職業:
脅威度:なし
フソウ竜王国所属の世直し隠密の一人。
フソウでは前衛最強と恐れられた人物の一人。
世直し隠密になってからは比較的丸くなったと周囲には言われるようになった』
『トウヤマ・スケジロウ
職業:
脅威度:なし
フソウ竜王国所属の世直し隠密の一人。
フソウ剣術界の生ける神話。
フソウとその周辺国では剣聖とも称されるが、
『ヤハチ
職業:
脅威度:微小
フソウ竜王国所属の世直し隠密の一人。
元オニワバン筆頭上忍。
元世直し隠密、タケノツカ村の村長シンゲンサイの直弟子』
なんじゃこりゃ。
名前については今は置いておくとして……
とんでもない高レベルパーティだな!
大陸東側だとレベル四〇台で伝説級なんだが?
というか、フソウやらトラリアで時々出てくる名前の奴らなのは間違いない。
俺たちをこいつらと勘違いする奴らが多かったからなぁ……
で、そいつらが何でこのアポリスにいるんだ?
世直しを名乗るなら治安維持に協力しろよ!
つーか、ワタルさんよ。
お前、こいつらの関係者なの?
「ハリス!」
影の中からハリスがひょっこり顔を出す。
それを見た守備隊の兵士たちはギョッとした顔をする。
「ケンゼン女史に頼んで応接間を借りてくれ。
それと、お客さんをそこにお連れして!」
「承知……」
ったく、突然忙しくなってきたな!
「んじゃ、お前らには……
俺の手の平から大量に白いウニウニ動く糸が現れ、兵士たちの頭にまとわり付いていく。
白いウニウニ動く糸一本一本が頭に突き刺さって侵入していく様は、寄生生物を思わせるので、いつ見ても気持ち悪い光景である。
しばらくして白い糸はパンッと弾けて霧散した。
このウニウニってイルシスに聞いたら呪いの一種なんだと。
といっても一般的な人類種が使える類のモノではなく、神に近い存在じゃないと駄目らしい。
森羅万象に影響を与えられるほどに力のある者のみが行使可能だとか。
一般的な人間が使おうとした場合、儀式魔法にして行使しないと無理だろうとのことだ。
という事で、
だから神殿が扱っているんだね。
そして無くなった場合に大変な事になるってのは、神々による呪いみたいなもんだから再契約するのには、まず解呪をしなければならない。
神の呪いを解呪……大変だろう?
白い糸が消えると同時に、虚ろだった兵士たちの目に光が戻る。
「お前ら。
このままアースラ大神殿へ向かえ。
そこでダルトン・スペンサーに会え。
元ラムノーク軍の将軍だそうだから、お前たちも知っているだろう?
そして補充兵だと言うんだ。
解ったか?」
「解りました!!」
「もし、途中で逃げると死ぬほど酷い事になるから肝に銘じておけ!」
「了解いたしました!!」
「よし! 駆け足始め!!」
俺の号令で兵士たちは大神殿がある北の路地へと走っていった。
よし、これで問題は片付いた。
馬車とゴーレム・ホースたちをインベントリ・バッグに仕舞っていると、ハリスの分身たちが例の奴らを連れていろんな路地から現れる。
その中でワタルだけが俺に困ったような笑顔でペコリと頭を下げた。
他の連中は、どうして自分たちの所在がバレたのか解らず混乱しているようだ。
逃げようとしてもハリスの分身にガッチリと腕を掴まれて逃げられないようで、それも戸惑いの原因みたいだ。
まあ、ハリスに拘束されて逃げられるようなヤツは、この地上に殆どいない。
レベル五〇程度じゃ、どうにもならんよ。
五人が商会に入っていくのを確認して、俺はお湯を沸かし、茶菓子を器に用意した。
大きめのお盆にカップやポット、お茶菓子の器を乗せて昔の蕎麦の出前みたいに片手で持った。
さあ、お茶でも飲みながら色々聞かせてもらうとしよう。
大陸西側でヒーロー扱いされている奴らだ。
いろんな冒険譚をお持ちに違いない。
ぜひ、俺の冒険の旅の参考にさせていただきましょうかね?
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