第30章 ── 第53話
俺は大マップ画面に表示されているワタルの光点にピンを差しておいた。
こうしておけば、彼がどこに隠れていようと見つけられる。
「んでは、東の要塞とやらに行ってくるか」
「我も付いていくかや?」
「ん~、大丈夫だろう。
大した人数じゃないみたいだし。
それよりもアラネアに着いてきてもらう方がいいな。
捕縛するのにも楽そうだし」
「仰せのままに」
お茶を飲み干し立ち上がる。
ハリスの横を通る時に小声で指示を飛ばしておく。
「ワタルに目を光らせておいてくれ……」
「承知……」
俺は大通りの真ん中に飛行自動車二号を出した。
それを見ていたワタルが「おー! 凄い!」と感嘆していた。
「それじゃ、後はよろしく」
俺はアラクネイアを助手席に乗せて飛行自動車で要塞に飛んだ。
一直線に向かえるので二時間も掛からずに要塞とやらに到着した。
上空から確認してみると巨石を積み上げて作った城塞なのが解る。
まるでエジプトのピラミッドでも見ているかのようだ。
頑丈なのは間違いない。
ただ、要塞の大きさにくらべて内部構造が凄い狭い。
石が大きすぎて必要以上に壁が厚い。
居住空間が圧迫されるのも仕方がないね。
そんな巨石造りの要塞内におおよそ四〇人、屋上に一〇人の守備兵がいる。
屋上の守備兵は飛行自動車を見上げて指を差して叫んでいる。
まあ、真っ昼間にこんなモノが飛んでれば直ぐに解るよな……
何人かの守備兵がこちらに弓を向けて射掛けてきた。
アダマンチウム製の車体に普通の弓が利くわけもないんだが、自分の車に弓を射られている事に少しカチンと来た。
俺は飛行自動車を街道の真ん中に着陸させて、とっとと車を降りる。
アラクネイアが車から降りるのを確認してからインベントリ・バッグに飛行自動車を戻しておく。
飛行自動車の車体がインベントリ・バッグ内に消えるのとほぼ同時に要塞の大きな両開きの扉がギシギシと音を立てて開き始めた。
少し隙間が空いたところで、バラバラと中にいた守備兵たちが飛び出してきた。
その数、およそ二〇人。
中にいる三〇人ほどの守備兵は窓や屋上からこちらに弓を向けてきているのが遠目にも確認できる。
守備兵は槍を構えて俺らを取り囲んだ。
「さっきの空に浮かんでいた馬車はお前たちのモノか!?」
「ああ、そうだ。
お前らは元ラムノークの兵隊だな?」
「も、元?」
「今は通行人を略奪する追い剥ぎだろ?」
「な、何だと!?
我らはラムノーク防衛軍
追い剥ぎなどと言われのない物言い、万死に値する!」
「でも、通行人の荷物奪ってるよね?」
「……!!!」
どうやら、追い剥ぎをしているのは間違いないらしい。
とは言っても、この要塞を通る行商とかは、それほど多くないに違いない。
なぜかと言えば、守備兵の上に表示されているHPバーは殆どが半分くらいに減っていて、その下にデバフ・アイコンが表示されている。
あれは空腹のデバフ・アイコンだと思う。
あれが表示されると筋力度、耐久度にペナルティが発生する。
「そ、そんな事はどうでもいい!!
食料を持っているなら置いていってもらう!
これは強制徴収である!」
「それを追い剥ぎって言うんじゃないのか?」
「国法・防衛規律第二八一条に従った軍事行動である!
追い剥ぎではない!」
どうやら、ラムノーク民主国には強制徴収の法律が存在してたらしい。
だが、その国も今はない。
「ラムノーク民主国は我が神聖アゼルバード王国に戦争を仕掛け、そして敗北し滅亡した。
この地域は既に我らが国の領土である。
貴様らは負けた国の元兵士だと知れ。
理解したら大人しく武装解除するがいい」
俺はオーファンラントの人間だけど、いちいち説明するのは面倒なのでアゼルバードの人間という事にしておく。
しかし、兵士は何を言われているのか解らないのか、ポカーンとしている。
「主様、従わないようですし、殺してしまってもよろしいでしょうか?」
「いや、次のアクションを待て。
俺の言葉が頭に浸透するのくらいの時間は待ってやろうよ」
彼らは自分の国が戦争を仕掛けた事も、そして負けた事も知らなかったのだろう。
ここの要塞にも神罰は落ちたはずなんだけど、造りが頑丈過ぎて壊せなかったっぽいしなぁ。
状況が飲み込めないのも仕方がないよね。
ただ、俺の念話は聞こえてたはずなので俺の言葉を飲み込めればなんとか理解できるのではないかと思うよ。
「う、煩い!
何が何でも食料の供出はしてもらうぞ!
出来ないと申すなら力ずくだ!」
空腹で頭の回転が止まっているっぽいなぁ……
目が血走ってるし……
「アラネア、
この二〇人は見せしめだ」
「承知致しました」
アラクネイアは俺に深々と頭を下げた途端、ぴょんと空中に飛び上がった。
絶世の美女が宙を舞っているのを兵士たちは間抜けな顔で見上げていた。
アラクネイアがそのまま兵士たちの真ん中に落ちていく。
黒いシルクのような光沢を持つドレスが風にひらひらと舞う。
アラクネアがコマのように回転した。
アラクネイアはそのまま両の手を横に伸ばしたのだが、何だか普通よりも両の手が長い気がした。
そしてそのまま彼女が地面に降りた時、彼女の近くにいた兵士の首がゴロリと地面におちていった。
頭がなくなった部分からブシュウ~と鮮血が噴水のように吹き上がる。
それもそのはず……
アラクネイアの爪が考えられないほどに伸び切って鋭い刃のようになっているのだから首が落ちるのは当然の帰結だ。
首を飛ばされた兵士の近くにいた奴らが赤く染まっていく。
「ぎゃあああああ!!!」
一人の兵士が腹の底から悲鳴を挙げて走り出した。
それに呼応するように他の兵士も思い思いの方向に走り始める。
だが、その必死の走りも長く続かなかった。
アラクネイアの指先から白くて太い粘着性の糸が何本も飛び出して兵士たちの足に絡みついたからだ。
兵士たちは足を取られて地面に転がった。
「逃がすわけないでしょう?」
アラクネイアが手をグイと引っ張ると、転がった兵士たちはズルズルと彼女の方に引っ張られていく。
「ひいいぃぃぃぃ!!」
恐怖に染まった甲高い声が周囲に響き渡る。
それと同時くらいだろうか。
「撃て!!!」
号令とともに数十本の矢が要塞の窓や屋上から俺たちに飛んできた。
「
俺はすかさず
飛来する矢は放置しても俺たちを傷つけることはできなかったとは思うのだが、アラクネイアが捕まえている兵士たちに流れ弾が確実に命中しそうだったので使ってみた。
味方の矢にやられて死ぬのは、さすがに見せしめだったとしても可哀想だからな。
矢傷はかなり痛いらしい。
「苦しまないように殺してやれ」
アラクネイアは残りの兵士の心臓を爪で串刺しにして殺していった。
全員が絶命するまでに一〇秒も掛かっていない。
「な、何なんだあいつらは!」
窓にいた兵士の一人がそう叫んでいるのが聞こえた。
「魔族だ! あれは魔族に違いない!」
その言葉にそう応えたモノがいた。
鋭いね。
アラクネイアはその通り、魔族です。
「降伏しろ!
降伏すれば命だけは助けてやろう!」
俺は要塞内にいる兵士全員に聞こえる声で降伏を勧告する。
もし受け入れなかったら死んでもらうだけだ。
「猶予は五秒だ。五秒数えても武器を捨てていない者は死んでもらう!」
俺は
「いち! に!」
赤い光点のままの兵士、ひとりひとりをロック・オンしておく。
「さん! よん!」
戦意を失って光点の赤色が抜けて白く変わった者へのロック・オンを解く。
「ご!!」
死ね。
一〇数本ほどの魔法の矢が屋上や窓の中へと消えていった。
それと同時に表示しておいた大マップ画面の赤い光点は全て消えた。
「よし、死んでない者は要塞から出て整列せよ!」
俺がそう命令すると数分も経たずに生き残った兵士たちが怯えた目のまま俺たちの前に整列した。
俺は全員の顔を確認した。
怯えた目がより強い恐怖に染まるのが解った。
「怖がるな。
降伏した以上、もう殺すようなことはしない」
俺がそう言っても兵士たちの目から恐怖を拭うことは出来なかった。
当然だけどね。
俺は馬車をインベントリ・バッグから取り出した。
そしてスレイプニルを取り出して馬車に繋ぐ。
「お前たち、この馬車に乗ってアポリスへ向かえ。
逃げ出そうと思うなよ。
逃げたらこのミスリル製ゴーレム・ウルフが確実にお前たちの息の根を止める」
そう言いつつフェンリルを地面に置いた。
仲間たちの
俺が創造主だから俺の命令も聞くしね。
「フェンリル。解ってるな?」
「
フェンリルは短く鳴きつつ頷いた。
各ゴーレム・ホースを兵士たちは目を皿のようにして見ていた。
銀色に輝くミスリル製のゴーレム・ホースなど見たことがないだろうから当然の反応だね。
「さあ、馬車に乗れ。
少々狭いが我慢しろよ」
一〇人以上残っているので馬車が小さいのだが、詰めて乗ればなんとか全員乗れるだろう。
馬車を送り出してからアラクネイアと共に城塞内を探索したところ、六人ほどの衰弱した女性と略奪品らしき荷物が見つかった。
通り掛かった旅の女性を監禁して慰み者にしていたようだね……
酷いことをしやがる。
全員ぶっ殺しておけばよかったかもしれんな。
女性たちはアラクネイアに介抱させた。
略奪品の中に服などもあったので、彼女たちにはそれを着てもらおう。
素っ裸のままではどうにも困る。
俺は略奪品などを全部インベントリ・バッグに仕舞ってから外に出る。
外でしばらく待っていると、アラクネイアが女性たちを連れて来た。
「みんな、大丈夫?」
「助けて頂き、有難うございます……」
一人の女性がそうお礼を言ってきた。
「いや、礼には及ばない。
我らは冒険者だ。
市民の保護は義務だからね」
冒険者と聞いて何人かの女性は眉を顰めた。
ギルドの無い国の人間なら当然の反応だね。
俺は飛行自動車を取り出すと、女性たちに乗るように促した。
インベントリ・バッグからこういう大きいモノを取り出すと、大抵驚かれるので少し笑えた。
ただ保護した女性の内二人が何の反応も示さなかった。
心が壊れてしまっているかもしれない。
まあ、俺には
冒険者の義務の範疇は超えているけどな。
ラムノークを滅ぼしてこの事態を引き起こしたのは俺だし、そのくらいの手助けはしてやってもいいよな?
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