第30章 ── 第47話
トリエンですぐ手に入る物資を仕入れてからラムノークに戻ったが、大分時間が掛かったので既に夜の帳が降りていた。
夜のアポリスは昼と違って治安の悪化が著しい。
闇に紛れて何でもござれという様相を呈している。
そんな場所に転移したワケなので、建物が途切れたり横道があるような場所で襲われるような感じと言ったらいいだろうか。
転移して出た場所は初めて
真っ暗闇の東門には、当然のように人の姿はない。
しかし、俺のミニマップには、赤い光点がいくつも確認できた。
キラキラと輝いていた
光点とマップから敵がいる場所を目で追ってみる。
城門の上に八人、城門から入って左右に三〇人、全部合わせるとかなりの人数が伏せている。
いくつか赤い光点をクリックしてみると、どうやら全員が同じ勢力の手の者であった。
彼らはラムノークの政治家に雇われている私兵集団だったのだ。
平均レベルは一〇くらいだろうか。
ただ、真っ暗闇なので俺の所在を見失ったようで視線は感じない。
一度見失ってしまえばそうなるだろうねぇ……
まず俺は無詠唱で
上にいる赤い光点に見られないように、ゆっくりと城壁の上まで上昇してみた。
眼下には弓を手に下を覗き込んでいるヤツが八人見える。
やはり暗闇の中で俺の姿を探している。
こちらは明かりを持っていないんで、見つかるはずがないんだよねぇ。
必死さがかなり滑稽ではある。
「あれ? いないぞ?」
「変な光で見た限り若い男だった気がするが」
「あの光は何だったんだ?」
「知らん」
「でも、気のせいじゃなかったよな?」
「幽霊の類だったんじゃ……」
「バカ、幽霊なんかいるワケないだろ」
いや、この世界には幽霊やら悪霊やらは普通にいるんだけど……
ふと彼らが何かに気付いたように一方向を見始めた。
城壁の上にいる八人の内の一人が、内側の下の方に「獲物が来たぞ!」と声を上げた。
下の光点も慌ただしく動いた。
東の方を見ると闇の中にランタンらしき明かりが二つユラユラと左右に揺れている。
やはり野盗の類と変わらんな。
クリックして表示されたダイアログの内容から政治家との繋がりは切れてないようなので物資の調達部隊なんだろうけど、アポリスの町にやってくる人たちを獲物にしているらしいのでかなり悪質だ。
夜に移動を余儀なくされているという事は、きっと他所から流れてきた難民だろう。
夜はモンスターの行動が活発になるこの世界で、本来なら昼間に移動するのが
大マップ画面で確認すると白い光点がいくつかあり、数人の冒険者によって守られている二台の荷馬車なのが解った。
前の馬車の中には子供と女性が乗っていて、後ろの馬車には人の姿はないみたいなので物資を乗せているのかもしれない。
冒険者たちは一番レベルが高いヤツで一〇。
後は七~八の一桁台のヤツしかいない。
四〇人近い私兵集団に襲われたら確実に全滅だろう。
所謂「ひとたまりもない」ってヤツだ。
護衛の仕方に問題がある気もするが、現在のラムノークの状況から考えると夜より昼の方が危険と判断したのも仕方ないのかもしれない。
まあ、夜に襲う方も襲う方だしなぁ。
かなり悪質だよな……
俺はさらに高度を上げて二〇メートルほど距離を取りつつ、弓兵たちの少し後方に位置取って「ショック・ボルト」を小声で詠唱を開始する。
まずは八発だ。
一回の詠唱で八発出すにはレベル八で詠唱すればいい。
「シーベン・マリスト・セクト=イル……」
俺の周りに八個のパリパリと帯電した空気の弾のような物が現れる。
ランタンの明かりを凝視している八人の弓兵は気づいていない。
「……サルダムス……ショック・ボルト」
眼下に見える弓兵たちに雷属性の魔法弾が音もなく襲いかかった。
八人は声を上げる間もなく崩れ落ちた。
次は下の集団だな。
三〇人を一度に倒す場合、攻撃魔法だと気づかれるので状態異常で無力化するのが効果的だろう。
「ジェルス・エクアディス・ウーシュ・ヘルマーレ・アノマルスリプ・ウータリス。
城門から入ったあたりを中心に打ち込むと、赤い光点の奴らはバタバタと行動不能になっていった。
俺の魔法に抵抗できれば効果はないが、抵抗できるヤツは一人もいなかった。
俺は城門に降りてから「ハリスいるか?」と一声掛けた。
やはり物陰からハリスが出てきた。
「ここに……いる……」
ハリスの兄貴はいつでも側にいるよな。
用事を頼む時に凄い助かる。
俺は城門の外の方を指差し、「あの明かりの集団を守ってやってくれ」というと「承知した……」とだけ言ってハリスは城門の外に走っていく。
俺はというと寝ている私兵集団の武器やら何やらを全部回収してインベントリ・バッグに仕舞っておく。
そしてテレキネシスの魔法で城門の上と下に転がっているヤツら全員一箇所に集めた。
ロープを取り出して全員を縛って数珠つなぎにして並べておく。
その作業中にランタンを下げた荷馬車が二台がハリスを先頭に城門を潜ってきた。
ハリスは俺に片手を上げて冒険者たちに守られた荷馬車を先導している。
冒険者たちは俺を見てペコリと頭を下げた。
みんな若者ばかりだった。
荷台に乗っている子供が馬車の縁にしがみついて不思議そうな顔で俺の方をみていた。
全員ロープで縛り終わると、一番レベルが高かった私兵の一人を選んで引きずり起こす。
軽く眉間にデコピンを御見舞する。
軽くしたつもりだが、ビシッと結構な音がなった。
「イテェ!!」
私兵が一瞬で目を覚ました。
そして自分が縛られているのと俺に引き起こされている状態に気付いて目をまんまるにした。
「な、何者だ!?」
「何者だはこっちのセリフだよ。
それに通行人を襲撃しようとしてたヤツに名乗る名前はねぇな」
そう言われて、状況を理解し始めたのか「チッ」と舌打ちしてそっぽを向いた。
「お前らが襲撃者なのは解るが、誰の命令でここにいる?」
「……」
案の定だんまりだ。
「ブルート・ヒルベルトの手の者だろ?」
「なっ!? なぜ解った!?」
いや、ダイアログに書いてあったし。
「ヒルベルトからの命令だな?」
「ああ、そうだ。
俺たちは物資の調達部隊だ」
観念したらしく私兵は白状した。
「お前、かなりの腕利きのようだが、ヒルベルト様に仕える気はないか?」
お約束の勧誘ですか。
俺が冷たい視線でジロリと睨むと「ヒッ」と声を上げて口を噤んだ。
そして、男は周囲をキョロキョロと見回している。
「残念だが、全員捕まえてある。
逃げ場はないよ」
男は無念そうに顔を歪めた。
「俺たちをどうするつもりだ?」
「まあ、死刑だな」
「何とか、俺だけでも助けてくれねぇか?
俺にも家族が……」
「フザケた事言うなよ。
お前が襲ったヤツにも家族がいたかもしれないんだぜ?
そいつらは命乞いしなかったか?」
実はこいつらが伏せていた城壁付近に灰色の光点が一〇個ほどまとまって表示されているのだ。
灰色、それは死体って意味だ。
この日、既に一〇人程度の犠牲者がいたワケだ。
俺が、その灰色の光点の方に目をやったのに気付いた男は、困ったような顔で「み、見ていたのか……」と言った。
「貴様らは死体になってた方が人に迷惑を掛けなくていいだろ」
「ま、待ってくれ!」
「口を閉じろ。
俺はお前の言い訳を聞くためにいるワケじゃない」
ラムノーク国民をこれ以上積極的に殺すつもりはなかったが、こういうヤツらは放っておくともっと酷い事をやりはじめるのは目に見えている。
確実に殺しておくのが世の為だろう。
俺は威圧を乗せて男を睨んだ。
威圧レベルを一〇にあげて睨んだ為か、男は一瞬で気絶した。
息をするのも忘れているようで、そのまま絶息した。
マックス・レベルだと睨んだだけで殺せるのか。
威圧スキルすげぇな。
さて、後三七人……
一列に並んでいるので一発で処理してしまいましょう。
「魔刃剣!」
飛ぶ剣撃技一発で全員の首を刎ねた。
ブシュッと鈍い音がして首が全部ゴロゴロと転がった。
まとまっている一〇体ほどの死体を一応確認してみると、成人男性の死体が四つ、女性の死体が三つ、子供の死体が三つ、積み重なるようにまとめられていた。
女性の死体が全裸なのは、殺される前に色々とされたのだろう。
俺は一〇個の死体をインベントリ・バッグに仕舞った。
後で神殿の
神々の威光を知らしめる為だとしても、こんな死に方をした人たちには、せめては安らぎを与えてやりたい。
ようやく首都に逃げ込めたと思って安心したところで殺される事の悲惨さは理解できるしね。
全部の死体を弔うことはできんけど、目の届く範囲、手の届く範囲でやろうかなと。
俺は大マップ画面を開き、赤い光点のある場所へと文字通り飛んでいった。
そして一つ一つ潰して行く。
無意味に死んでいく人々がもう出ないように。
赤い光点はもちろんだが、腹黒な政治家もついでに全員ぶっ殺しておこうか。
清廉潔白な政治家は殺さなくてもいいと思うけど、そんな奇特なヤツいるんかな?
この惨状を利用して私腹を肥やすヤツばっかな気もするけど。
検索ワードを「政治家」にして調べてみると、三〇人程度の政治家が生きていた。
その内二五人が今やありもしない政治家としての権力を傘に来て悪さをしているのが判明した。
直接略奪しているような糞野郎もいた。
赤い光点の暴徒などのついでに、一人ずつ始末していく。
ちなみに残りの五人だが、かなり高潔な人物らしく私財を投じて人々を救済しているようだ。
神殿に協力したり個人的にだったりと色々だが、こういう政治家は生きていていいな。
フォフマイヤーたちが到着したら、こういう政治家を擁立させてアゼルバード所属の自治領として運営させるのもいいかもしれないな。
何にせよ、この夜の内に処理しておかねばならない奴らには血の雨を降らせるつもりだよ。
久々に徹夜作業になりそうだな!
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