第30章 ── 第40話
「ケント様、ご協力ありがとうございます」
「いやいや、神の威光ってヤツの為だろ?
気にするな」
「あいつで地獄行き一〇〇人目ですから、特別待遇で接待させてらいますよ。
それでは、これからまた忙しくなりますので失礼させていただきます」
ダキシアが俺との念話を切った。
俺は蹲っている男女に向き直る。
「さて、君たち。
これからどうする?」
「使徒様はどのようにせよとおっしゃるので!?」
男の方が女を庇いながら前に出た。
いい心掛けだ。
そういう弱い者を守ろうとする行動は悪くないね。
「いや、俺は知らねぇよ。
神々に弓を引いたのは、お前らラムノーク民だろう?」
「好きで弓を引いたわけでは……」
「いや、お前らが選んだ国主が弓を引くと決定したんだろう?
お前らが選んだ以上、お前らラムノーク民の責任だ。
それが民主政治ってもんだ。
それを知らんで民主体制を敷いているワケじゃないんだろ?」
「そ、それはそうなんですが……」
国政の失敗はその国の国民一人一人の責任である。
後から文句を言ったところで、任命責任は自分たちにあるのだ。
「まあ、神がどうして怒りを以て罰を与えたのかを国民全員が知っててくれないと教訓にならんな」
「なら、君たちはさっきの闇の神ダキシアがやった罰も見ていたワケだし、神々が何をどうしたいのかを民衆に伝える義務があるな」
「義務ですか……」
「一生背負わなきゃならん義務だな。
神々の威光の為だから仕方ない」
俺は二人を値踏みするように観察する。
男の方は政治の世界にいたのに戦士レベルが四もある。
彼は行政官としてゴットハルトの秘書みたいな事をしていたようだが、どうやら戦士の真似事くらいは経験があるようだ。
元ヤンキーだったけど、大人になって真面目になりましたってパターンですかね?
こういうヤツは得てしてリア充が多いんだよな……爆発しろ。
女の方は一応「ラムノーク民主国元老院長筆頭秘書官」なんて長い肩書を持っている。
ステータスを確認してもそれを示すほどの能力はない。
レベルも二だし、知性度は八しかない。
ゴットハルトの愛人枠だな、こいつは。
愛人枠だけあって容姿が端麗なのは間違いない。
まあ、男に抱かれるしか能がないともいえるが、こういうヤツは面白い技能を持っているのである。
「演技」スキルのレベルが四もあるんだから、かなり演技が得意なのではないだろうか。
これを利用しない手はない。
「さっきも言ったように、君たちにはあまり選択肢は残されてない。
神々の威光に従うか、それとも神罰を受けるか……」
「神々の威光に従います!!!」
女が即答した。
そして女は身体をしならせつつ、俺に媚びを売るように身を擦り寄せてくる。
「おい。
そういう行動は神々の怒りを買うよ?」
女の動きがピシリと止まった。
ジッとその様子を窺うが、やっぱり男に媚びを売る事しか生きていく手段を知らないのかもしれないな。
それはそれで不幸ではあるなぁ。
「俺は神に頼まれた使いでしかない。
俺に媚びへつらっても神々の怒りは収まらない。
解るか?」
俺は噛み砕いて説明してやる。
「いいか。
神は人間が神を畏れ敬うことをお望みだ。
これは、この世界が生まれた時から変わらない」
何せ信仰心が神の存在を強固なものにするんだから当然の要望である。
「今、君がやった事を神が喜ぶと思うかい?」
俺がそう聞くと女はブンブンと頭を横に振った。
やはりこいつは勘だけで人生を渡り歩いているな。
知性度とは違い直感度二八は伊達じゃない。
レベル二で二八とか極振りレベルですからな。
理解力はないんだろうけど、何が自分に不利益かという事は直感で解るって奴か。
まあ、レベル二で国家元首の筆頭秘書と言う名の愛人に納まれるのはかなりの実力だよね。
「では、こうしよう。
君たちはアースラの大神殿に行きなさい。
そしてアースラ教の後ろ盾を得て殉教の旅に出る。
世界中回るんだよ?」
「何をせよと……」
「まあ、そうだな……」
俺は「さっきの黒い手を見ただろう?」と二人に聞く。
今度は縦にブンブンと頭を振る。
「あれなんだけど、最近神殿等の宗教勢力に神々からの神託があったんだよ。
地獄という世界を神々が用意したってヤツなんだけどね。
まだ、新しすぎる概念で、民衆は殆ど知らないだろう」
「地獄……ですか……」
「うん。
君たちが元来使っている地獄ってのは、この世に存在する状態を指すだろ?」
以前から、地獄の定義について色々と考察してきたが、ティエルローゼ人がいう地獄は、この世の辛く苦しいと感じる状況を示す言葉である。
地獄というあの世が存在し、それを比喩して使っているワケではない。
だが、俺が砂井に罰を与える為に神界の神々に協力を要請し用意してもらった本当の『地獄』が今は存在する。
神殿勢力には、この『地獄』が神託によって伝えられているのだが、世界中の人間が認知するほどに広まってはいない。
今回、この二人を利用して世界中に『地獄』の存在を認知してもらう事にしようと思うワケ。
神罰から生き残った人間として興行させるんだよ。
女の方は演技力が高いんだし、臨場感たっぷりで今回の事を証言して回れるはずだ。
神々に対する畏怖を高めて歩くんだから、神々も満足するはずだ。
「神々の怒りを受けた今回の出来事を語って回るんだ。
そうすれば神々とはどんなモノかを世界中の人類に理解させられるだろう」
それに何の効果があるのかという顔をされるが、全部知っておく必要はないな。
「今までの神罰ってのは、それを受ければ死ぬだけの事だったんだよ。
死後、魂はすぐに輪廻の輪に戻る事になる」
二人は俺や神の所業に恐怖を持っているので、俺の言葉を素直に聞いている。
「だが、今後はそうはいかない。
何故かって?
さっき言ったように神々の手によって『地獄』が用意されたからさ。
神々の怒りを買った魂は、生死を問わず『地獄』に送られるんだ。
この『地獄』に送られた魂は輪廻の輪から外される。
その罪業によって、何年、いや何百年、下手をすると何千年も神々が作った『地獄』であらゆる
その間、輪廻の輪には戻れない」
それが何を意味しているのか。
彼らの想像力では理解できないかもしれない。
俺は「ちょっと失礼」と断りを入れてから、彼らの額あたりをベアクローを決めるように掴んだ。
そして、地獄で苛まれる砂井の映像を見せてやった。
はい、コレも「念話:神界」の機能の一つです。
音声だけでなく映像も送れるのは、神託とかでも使うんだから当然でしょう。
だが、一〇秒もしないウチに二人が口から泡を吐きながら気絶してしまった。
おっと、刺激が強すぎたか。
俺は二人を魔法で覚醒させる。
だが、二人は押さえてないと逃げ出すほどの錯乱状態に陥ってしまいました。
仕方ないのでアナベルの見よう見まねですが、神聖魔法の「
何度かやってみたら何とか使えました。
神聖魔法って便利よね。
「はぁはぁ……」
「落ち着いたようだね」
「あれは一体……」
「あれが地獄だよ。
神に敵対した者は、今後例外なくアレに送られる事になるんだよ」
「で、では……ケンゼン議長は……」
「ああ、あそこ行き。
生きたまま連れて行かれたから、色々と大変だろうね」
魂だけでも相当辛いと思うけど、肉体への苦痛も与えられる事になるんだから大変だよ。
「君らは、今日見た事を世界中に喧伝して回るんだ。
これが、今君たちに神々が望んでいる事だ。
もちろん、断ることもできるよ」
俺はニッコリ笑って頷いて見せた。
だが、二人はガタガタと震えだす。
あれぇ? 優しく笑ってあげたのに何で震えるかな?
まあ、微塵にも慈悲の心は込めてないから見抜かれたのかも。
ちょっと威圧が乗った可能性はあるけどね。
「さあ、君たちの選択を聞かせてくれ」
選択肢は二つといったし、神罰で死んでもあの地獄に放り込まれる可能性があると考えたら、おのずと選択は決まってしまうだろうとは思うが、君たちは道具として便利に使わせてもらうつもりなので仕方ない。
「か、神々のご意向に従いたいと思います!」
男はそう言い、その言葉に女は全力で頷いた。
「それは、ありがとう。
まあ、そう怖がるな。
神々は君たちを利用する事に決めたワケだけど、神々の威光を広める重要任務だし、神々からの恩赦は確実に出る。
君たちが任務を疎かにしなければ、何の問題もない」
それ以上に、どこの神殿でもこの二人は保護される立ち位置になる。
生きていく事には苦労しなくなるはずだ。
何の不自由もなく生きていけるだけの援助はされるんじゃないか?
ある意味、旅して歩いて各地で説教大会を開き、ご当地グルメも振る舞われるような、夢のある人生を謳歌できるんではないだろうか?
捉え方によっては天国でしょうかね。
旅ってのは色々と大変なので、そのくらいの良い思いはしてもらってもいいね。
さて、ゴットハルト・ケンゼンは無事に地獄に送還できた事だし、次は民衆の掌握だが、上手く行ってるかな?
俺はパーティ・チャットで神殿に赴いているシグムントに連絡をする。
「シグムント、神殿の方はどんな具合だ?」
「現在、神殿長と面会中。しばしお待ちを」
シグムントの連絡を待つ間、二人からゴットハルトが侵攻を計画した理由などを聞き出しておく。
再選の為とかしょうもない理由でガッカリしたとだけ言っておく。
遺跡も理由だったみたいだけど、そっちの方をメインの理由にした方が俺には理解しやすかったよ。
アリーゼみたいには発掘できないだろうけどね。
彼女は発掘者として一流だし、俺の魔法道具を使っているし、物資支援も完璧ですから。
「お待たせ致しました」
シグムントからようやく連絡が返ってきた。
「おう、お疲れ」
「ケント殿のご要望は全て飲むそうです」
「それはありがたい」
「ボスの意向ですから、神殿は断りませんよ」
「まあ、そうだとは思うけどね。
俺は一応部外者だから」
苦笑いしながらそう言ったが、シグムントたちも苦笑いしている雰囲気が伝わってきた。
まあ、部外者と俺が言い張っても、彼らには俺が部外者には見えないんだろうな。
アースラは事あるごとに俺のいる場所に降臨してきてたし、そういう事実を考えれば、彼の使徒が勘違いするのは仕方ない。
だが、俺はまだ人間だ。
そこんところ間違えないでよね!
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