第30章 ── 第38話

 少女たちにはテントを用意して寝てもらう。


 俺は、夜の内に仲間たちとパーティ・チャットで打ち合わせをしておく。

 明日の朝、仲間たちがいる場所に転移門ゲートを開いてこちらに来てもらう事にしよう。


 集まったら全員で首都のアポリスに転移するのだ。


 既に全行政関連施設は破壊してあるので、次のフェイズに移るワケ。

 次のフェイズは「掌握」だ。


 ラムノーク国民を神の名の元に掌握するのだよ。


 今までは神々からの神罰って事で、人々は神々にそっぽを向かれていたワケです。

 人々から国を取り上げる事が神罰なのだから、その作業が終了したら、慈悲を与える段階だ。

 この慈悲を与える作業を各神々の教団にやって頂く事にするワケだ。


 弱ったところに優しくすると一発で落ちるって話は聞いたことがあるので、今回それをやってみようかと思う。

 考えるほど上手く行かないとは思うけど、一部でも上手く行けばめっけ物だろう。


「で、破壊後の様子はどうなんだ?

 こっちは、難民を何人か保護したけど」

「こっちも似たようなものだ。

 保護まではしていないが、村の要塞化に手を貸したな」


 やはり治安があっという間に悪くなって略奪などが横行し始めているようだ。

 自分たちで破壊した場所に手を貸すってのもアレなんだが、トリシアは放っておけなかったらしい。

 根っからの冒険者だからな。


「マリスの方はどうだ?」

「我は破壊する姿を見られるようなヘマはしておらぬ。

 我は見た目が子供じゃからのう。

 気にする者はあまりおらぬ」


 むむ……

 大人の姿になりたいはずのマリスに無理をさせているのではないだろうか。

 彼女には申し訳ない事をしたな……



「ハリスは?」

「俺は誰にも見られない。

 住人たちにしたら気づいたら破壊されていたという感じだろう」


 だよねぇ。

 気配消したら、そこにいるのかも解らなくなる能力の持ち主だしな。


「アナベルの方は?」

「どこもかしこもウォーハンマーを振り回しただけで全壊だよ」


 ダイアナ・モードで振り回したらひとたまりもないね。

 でも、アナベルは隠密系のスキルは一つもないので、目一杯見られたに違いない。


「突っかかってくるヤツも大量にいたからぶっ飛ばしたぜ?」


 勇敢な住民もいたようだが、神々の意向で動いている者に襲いかかる段階で駄目だな。

 つーか、今回はどうみても俺らが悪役っぽいけどね。


 魔族連の報告は卒がありませんでした。

 基本的には遠隔攻撃、隠密スキル、魔法で片を付けたようなので姿は見られなかったらしい。


 アースラの使徒は、姿が見られても平気で破壊したようです。


「我々の破壊は神の怒りを示すモノなのですからコソコソする必要はありませんな」

「君たちって、ラムノークの国教関係者じゃないの?」

「今回の神罰で我らがアースラ様への信仰を捨てるような者たちなら、滅べば良いのですよ」


 シグムントは得意げに言い、俺が質問すればロッタがバッサリ切り捨てる有様です。


 神々の怒りとしての破壊なので、使徒としては当然の事なんだろうけど……

 なんかだか罪悪感を感じてしまうんですが、それは駄目なんだろうか?


「ケント殿は、それでひどい目にあう罪なき者たちに心を痛めているんですね?」


 アルベルティーヌには見抜かれたようだ。

 俺の声色でバレたのかな。


「ま、まあ、そういう事かな。

 子供たちは神に弓を引く支配者を選んだワケではないからな。

 そういう親から生まれたのは子どもたちの所為じゃないし」

「考えようです、ケント殿。

 そういう者たちは、そういう運命として生を受けている。

 それに神も関わっておりますが、生まれるものたちもそれを選んで生まれていくのです。

 それこそが現世の試練となるのです」


 イェルドが哲学的な事を言った。


 なるほど、神の試練とかいうヤツですか。

 使徒がそういうって事は、そんなシステムが神界にはあるって事なのかな?

 それとも方便?


「納得してなさそうだけど、神々の思惑なんて地上の人間では理解できないものよ。

 ケントは気にせずにやりたいようにやればいいのよ」


 エマも慰めの言葉をかけてくれる。


 まあ、やらねばならない事なんで仕方ないとは思う。

 この罪悪感を背負ってやるべきことをするのが神の責任ならば、やむを得ない。

 創造神の後継になった以上、神の権威は守らねばならんのだ。


 何にせよ、全てを救済することはできないが、俺の目に入る者を助けることには目を瞑ってもらおう。


「では、明日、転移門ゲートを開くから潜ってくれ」

「「「「了解」」」」



 翌日、保護した七人に朝食を振る舞ってから、仲間たちの為に転移門ゲートを開く。


 少女たちは目を丸くしていたが、俺を凄い魔法使いスペル・キャスターだと思っただけだろうし、気にしないことにする。


 仲間たちと使徒四人が勢ぞろいすると結構壮観ですね。

 みんな強そうだからなー。


「それは?」


 シグムントが少女たちをジロリと見る。


「ああ、お腹を空かせて彷徨ってたから保護したんだよ」

「ま、それもケントの良いところだな。

 冒険者としては間違っていない」


 今回は半分、神様として行動しなければならないので、辛いところです。

 一流の冒険者であるトリシアたちに憲章とは矛盾する行動を取らせたワケなので、謝罪したいところなのだが、どう謝れば許してもらえるのか……


 ああ、そうか。

 被害にあった者たちへの罪悪感もあったが、仲間たちにやらせてしまった事に俺は自分の罪を感じていたのか……

 本来なら俺一人が背負うべき罪だ。


 やはり後で仲間たちには謝ろう。

 許してくれるかどうかは解らないけど。


 だが、今は謝る時ではないな。

 まだやるべき事がある。


「よし、みんな集まったところでアポリスに乗り込むよ。

 アポリスは俺の魔法で片付けたから、後は政治家どもだけかな」

「どうやって民草を味方につけて今回のような暴挙に出たのか聞きたいところですな」


 シグムントの言うことも解る。


「まあ、それは俺がやるよ。

 君たち使徒にはアースラの大神殿に向かってほしいんだよ」

「何をすればいいの?」

「住民の保護や管理を神殿勢力に頼みたい。

 炊き出しとか、けが人の救護なんかだな。

 首都の大神殿に国中の神殿、教会にお触れを出してもらえれば、いいんじゃないか?」

「なんだか、ウチの大将が良いところ取ってくみたいな気がするが……」


 シグムントがバツの悪そうな声色で頭をかいている。


「ちょっとズルい気もするが、それが狙いだしな」


 自分たちで落としてその後に飴で釣るんだから自作自演なワケだが、住人たちには解らんし問題なかろう。


「まあ、ラムノークの人々は、今後も苦労することになるよ。

 国として復興は難しいだろうしな。

 使徒の四人はそれで今回の仕事は終わり。

 報酬はパラディのアースラ神殿に後で送るね」

「承知した」

「うわー、楽しみ!」

「お待ちしています!」

「おいおい、がっつくなよ……」


 四人とも嬉しそうなのでよしとする。


「我らは何をすればよいのじゃ?」


 マリスが袖を引っ張ってきたので頭を撫でてやる。


「そうだな……

 トリシア、マリス、ハリス、アナベル、エマの五人は、アポリス内の巡回と治安維持。

 ついでに困っている人に神殿や教会等に向かわせる役かな?」

「冒険者としての活動ですね?」

「アナベルの言う通り。

 もう、今までのような行動は終わりだよ」


 仲間たちが少しホッとした表情になった気がした。


「ここにも冒険者ギルドを作ったらいいんじゃない?」


 エマが俺の気を逸らすように、そんな提案をしてきた。


「次の支配者に進言してもいいかもな」


 この辺りは今後の話になって来るが、最終的にはアゼルバードに支配させるのが得策かもしれない。

 神々の軍勢が味方したにしろ、攻め込まれたのはアゼルバードなのだ。

 その気があるならファーディヤが治めるべきだろうな。


 ただ、その余力はアゼルバードには、まだないかもしれない。

 村や町、都市は行政機関すべてが破壊されているワケだし、復興には金も人も時間も必要になる。

 それを今のアゼルバードに負担させるのは酷というものだ。


 今、悩んでも仕方がない。

 色々て手札が集まってきてから考えるとしよう。


「ああ、そうだ」


 俺は保護した七人の少女たちに目をやる。

 俺たちの会話の意味も解らないようで、仲間や使徒たちをキョロキョロとみている。


「彼女たちの保護先も見つけてくれ無いか?」


 その時、ふと思い出した。


「彼女らの保護は、ヤスミーネさんにやってもらうかな。

 彼女の商会ならラムノーク復興にも手を貸してくれるんじゃないかな?」

「ヤスミーネ? 誰じゃ?」


 ああ、ハリスは知ってるだろうけど他の仲間たちは知らないか。


「ラムノークの商業ギルドの人だよ。

 ケンゼン商会って大手のお店もやってるようだね。

 ヴァリスさんの村にあった商業ギルドで知り合ったんだよ」

「ふむ。

 では、そこに顔を出してみるとしよう。

 ケントの言うように役に立つかもしれん」


 トリシアが連れて行ってくれるなら大丈夫だな。


 俺は周囲を確認して、忘れ物がないか調べる、


 既に夜営は畳んで機材等は全部インベントリ・バッグに仕舞ったし、焚き火も始末してある。

 他にやるべきこともないな


「よし、ではアポリスへ行くとしようか。 魔法門マジック・ゲート


 無詠唱で魔法を唱え転移門ゲートを出現させる。


 仲間たちは次々に転移門ゲートに飛び込んでいく。


 俺は少女たちに手招きをする。

 コゼットが他の子も引き連れて俺のところまでやってきた。


「いいか、このエルフの女性に付いていくんだ。

 彼女は凄腕の冒険者だから君たちを守ってくれるし、今後の事を世話してくれる所に連れて行ってくれる」

「トリシアだ」


 トリシアは両腕を腰に当てて胸を張る。

 偉そうなポーズなんだが、女だけどヅカジェンヌよろしく美形で上背もあるので、少女たちはポーッとした顔になった。


「こっちだ。付いてこい」


 トリシア姉さん。どこに行っても女に人気なのは変わらんのねぇ……

 口調が男っぽいから余計だよね


 全員が転移門ゲートを潜ったのを確認してから最後に俺が潜る。


 ご存知の通り、本来は行ったことのない所には転移門ゲートは開かない仕様なのだが、今回神々の権威が関わる事案だったので神々のスキルというか権能を教えてもらったのですよ。


 どこからでも下界の様子を覗けるってスキルなんだよね。

 全てを見通す目アイ・オブ・オール・シーイングってヤツ。


 このスキルと組み合わせると、行ったことがない場所にも転移門ゲートが開けるんだよね。

 この作業は以前、ヘパさんの協力でやった事あるから、覚えているかもしれないね。

 ちなみに、このスキルはSPではなく神力を使います。


 転移門ゲートを潜ると、アポリスの東の門の前に出た。

 周囲を見回して確認してみるが、門は開け放たれたままなのに門を守る衛兵の姿は見えない。

 門に人の気配がないのはかなり異常ですな。


 仲間たちも周囲の警戒を怠っていません。


 大マップ画面を開いて周囲一〇〇メートルの範囲を確認する。

 赤い光点はないので問題はなさそうだが、人の気配が殆どないのが気に掛かる。

 白い光点がいくつかあるが、建物の中に籠もっている感じだ。


 考えていても仕方ないので行動に移ろう。


「みんな、行動開始だ」

「「「「おう!!」」」」


 仲間たちが俺の号令でそれぞれ動き出す。


「さて、俺も行きますかね」


 俺もアポリスの中心部へ向けて歩を進めた。

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