第30章 ── 第37話

 俺は大マップ画面を眺め、打ち漏らしが無いかどうかを確認する。

 画面の隅々まで調べてもピンは一つも立っていない。


「ミッション・コンプリートだな」


 俺は久々の一人キャンプをしながら、神罰作業を終えた。


 簡易かまどに掛けてあるヤカンからお茶をマグに注ぎ、フーフーしながら飲む。


「明日までに全員集めて向かうとしよう」


 向かう先はラムノークの王都アポリスだ。

 一応、どのように破壊作業が進んだのか確認する為なんだけど、この作業に使ったのが今回最後の大詰めとして開発した新魔法なんですよ。


 遠距離広域破壊魔法。

 それも目標以外の破壊を極力抑える仕様となっております。


 まあ、破壊魔法なので無関係の物体を巻き込んでしまうのは仕方がないと思いますが、とばっちりで罪のない人が被害を受けるってのは避けたいので、様子を見に行くワケですね。

 とは言っても今回はラムノーク国民全員に罪があるのですが。


 さて、遠距離広域破壊魔法の仕様ですが……

 特殊すぎて他人には絶対使えません。

 なにせ大マップ画面機能を利用した目標選定機能を組み込んでいるからです。


 もし他人に使わせるならば、魔法の使用者に大マップ画面を共有しなければならないでしょう。

 もちろん検索は俺がやる事になります。

 なので、単独で使うことができない仕様です。

 俺以外は!


 さて、魔法自体は、光と火の属性を使ったもので、収束した光線で目標を捉え、そこを基点にして爆発エクスプロージョンの魔法が炸裂するワケです。

 この爆発エクスプロージョンの規模ですが、収束した光線の太さによって変化します。

 光線が太ければ太いほどに爆発が大きくなるって寸法ですね。


 この部分だけで相当なMPを消費する事になるんだけど、俺にイルシスの加護があるしね!

 って感じで消費MPは考慮していません。


 大マップ画面で立てるピンの数で消費MPが上下するのは言うまでもないよね?

 今回は計算するのも面倒くさいほどのとんでもないMPの消費量だったので、どのくらい消費したのかは把握していません。


 途中、神力を使ってるっぽい感覚があったんだけど、俺って神力どれくらいあるん?

 HP、MP、SPのゲージは表示してあるから一発で解るけど、神力ゲージなんてもんはドーンヴァースにもないので、数値の見方が解りません。


 神に聞けば直ぐ解るとは思うんだけど……

 神界ほっぽって地方領主してる身としていは聞くに聞けないんだよねぇ。

 まあ、アースラあたりにコッソリ聞くのが一番良さそうだな。


 俺はウサギの肉をかまどとは別に用意した焚き火で炙りながら塩と胡椒で味付けする。


 やっぱキャンプっていったら焚き火じゃん?


 脂の焦げるいい匂いを感じつつ回し焼きしているウサギ肉をじっくりと焼く。


 料理スキルがちょうど良い焼け具合を知らせてきたところで「上手に焼けました!」と天に肉をかざした時、木陰からこちらを除いている人影を発見した。

 ミニマップには数個の白い光点が表示されている。


「隠れてないで出てきなさい」


 俺が光点がある方向にそう言うと、おどおどした感じの女性ばかりの集団が現れた。


 身なりはマチマチで、町娘や村娘といった感じの若い子たちだ。


「あの……食べ物を分けていただけないでしょうか……」


 身なりはそこそこのソバカスが目立つものの比較的顔の整った一番年上っぽい女の子が話しかけてきた。


「ん? いいけど?」

「そうですよね……駄目ですよ……え!? いいんですか!?」


 なんだかお約束みたいな反応が返ってきました。


「ああ、食べるものはいくらでもあるんでね」


 インベントリ・バッグの中には食いしん坊チームを一ヶ月以上満足させるくらの量の食料が詰まっているのである。

 常時、立ち寄った村や町で補充しているので、減ることはないしな。


 少女たちが周囲を見回しているけど、それらしい食料がないと思っているっぽいな。


 つーか、簡易かまどがある時点で、無限鞄ホールディング・バッグ持ちって解らんかな……

 って、一般人は無限鞄ホールディング・バッグを知らないか。

 裕福な商人とか相当実力のある冒険者くらいしか手にできないというしなぁ。

 まあ、いいか。


 俺は立ち上がって、インベントリ・バッグからいつものテーブル・セットを取り出して設置する。


「座って待っててくれ」


 簡易竈かまどの方に向かう時、横目で女の子たちを見ると、全員が目をまんまるにして固まっていました。


 俺は料理用のテーブルで焼き上がったばかりのウサギ肉を切り分け、インベントリ・バッグから大きめの白パンを取り出す。

 白パンは焼き立てですからフカフカでまだ温かいですよ?

 ついでに野菜も幾つか取り出しておこう。


 白パンを切り分けはマヨネーズとマスタードを塗ります。

 ちぎったレタスを白パンに乗せ、その上にウサギ肉を乗せる。

 微塵切りした玉ねぎをパラパラと振り落としたら、別のパンを乗せます。

 簡単なサンドイッチだけど、ハラヘリ少女たちにはご馳走だろう。


 俺は木の皿にサンドイッチ群を乗せ、少女たちの前に置いた。


「さあ、食うがいい」


 少女たちは相変わらずポカーンとしていたが、料理が目の前に出てきた事で我に返り、椅子に座ってからそれぞれがサンドイッチに手を伸ばした。


「あの……お代はいくらくらい……」

「いらないよ」

「え……でも……」


 ソバカス美少女は戸惑った声を出すが、俺は肩を竦めて気にしないように示す。

 他の少女たちは手に取ったサンドイッチに釘付け状態です。


「早く食わないと冷めるぞ」

「あ! はい! 頂きます!!!」


 ソバカス美少女がそういうと、少女たちはガツガツとサンドイッチを食べ始めた。


 俺はというと、人数分の木製マグを取り出して、水を注いで彼女らに持っていく。

 案の定、慌てて詰め込んで喉に詰まってしまう子が出る。


「ほれ、水だ」


 全員の前にマグを置き、水差しも二つ置いてやった。


 少女たちは全部で七人。


 ソバカス美少女は一三歳。

 他の子は一二歳、一〇歳二人、八歳、七歳、六歳だ。


 光点をクリックしたところ、ソバカス美少女と六歳の子は姉妹で、七歳の子は他人だけど、この三人は近くの町の住人だ。身なりとステータスの説明文から商家の娘らしいね。

 それ以外は近くの農村の子たちだ。


 サンドイッチが彼女らの腹に消える頃、今度は温かいシチュー攻撃を御見舞する。

 ごろごろ野菜のホワイト・シチューだぞ。

 当然、肉も入ってるけどね。


 で、シチューもあっという間に食べ尽くされました。


 まあ、食べ盛りの子供は信じられないくらい食いますからな。

 ブリストル孤児院の子らもそんな感じだったし。


 食料提供を終えて、お茶を片手に焚き火の前に座る。


 お茶を飲みつつ炎を眺めていると、ソバカス美少女が俺の近くまでやってきた。


「あの……どんなお礼をすればいいでしょうか……」


 少女は覚悟を決めたような顔をしている。

 まあ、肉体での奉仕を求められると覚悟しているんだろうが、俺に一三歳の少女を犯す趣味はない。


「気にするな。

 困った時はお互い様だろう?」


 その応えにソバカス美少女は戸惑う。


「でも……施しを受けた以上、お返しをしなければ……」


 俺は鼻で笑う。


「今、君たちは神罰を受けて大変な状態なんじゃないのか?」

「そ、そうです」

「まあ、バカな指導者を選んだ報いだけど、それは大人の責任だからな。

 君たちはとばっちりを受けているワケ」

「はあ……」


 本来、政治に参加していないモノには何の責任もないのだが、そういった輩のとばっちりをこういった罪もないモノも受けるのは容易に想像できる事だ。


 まあ、ラムノーク国民なので、そういったとばっちりを甘んじて受けてもらうんだけど。

 後世の教訓にしてもらう為だからね。


「俺は冒険者だからね。

 困っている人は無条件で助ける義務があるんだよ」


 もちろんギルド憲章のルール通りですが、ラムノークにも適用されるかというと疑問は残る。

 ラムノークには大陸東側諸国とルクセイドで運営されている冒険者ギルドがないからだ。

 ギルドのない国での冒険者とは、無能な厄介者と思われる事が殆どなんだよね。


だが、ソバカス美少女は大陸東側の冒険者ギルドを知っていたようだ。


「冒険者……あの、貴方は大陸東側からいらっしゃったんですか?」

「ああ、そうだよ。

 オーファンラント王国からね」


 キザったらしくウィンクしながら応えてやったぜ。

 中二病臭くて身悶えしそうだが、とんでもなく効果があったようで、ソバカス美少女はキラキラした目で俺を見ていた。


「あの……少しだけ、貴方に同行をすることを許していただきたいのです」

「ふむ……」


 俺は大マップ画面を開いて、彼女らの住んでいた町や村のあたりを調べてみる。


 赤い光点がいくつも表示され、灰色の光点ががあちらこちらに確認できる。

 白い光点もあることにはあるが、殆ど無いと言って良い状態だ。


 もう、治安が崩壊したのか……


 彼女らが住んでいた町や村は三日前に仲間たちが襲撃したところである。

 たった三日で治安が崩壊するってことは、元々治安はよくなかった地域なのかもしれない。


 それにしても三日でか……


 俺はため息を付きつつ頷いた。


「良いよ。

 どうも君たちは故郷を亡くしてしまったようだしな……」


 俺がそういうと、ソバカス美少女含め、全員の目に涙が浮かんだ。


「兵隊さんがおとうを……」

「隣のお兄さんが……」


 どうやら、近隣の者や本来住人を守るはずの衛兵たちが牙を向いたらしい。


 俺は眉間にシワがよってしまったが、これも神々の威光を守る為だと自分に言い聞かせた。


「俺は明日、首都のアポリスに向かう。

 君たちをそこまで送ってやるよ。

 さすがに首都なら、それなりに指導力のある者も残ってるだろうし、君たちを保護してくれる組織もあるだろう」


 ソバカス美少女が服の袖で涙を拭き笑顔を作った。


「ありがとうございます!」


 ソバカス美少女の真似をして、他の少女たちも「ありがとう」を言ってくれた。

 まあ、俺たちがやった事でもあるし、このくらいの手助けはしても問題はない。


「あの、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか……」

「ん? 別に教えるほどの名前じゃないけど」

「私は、コゼットと申します」


 知ってるよ。さっき光点クリックして見たからね。


 コゼットは「名乗ったのだから貴方の名前も教えてください」といった感じの視線を送ってくる。


 どうも、美女とか美少女とかに見つめられるのは苦手だ。

 いつまでも見つめられても困るので、答えることにする。


「俺は冒険者のケントだ。

 短い間になるが、よろしくな」


 俺はそう言ってから焚き火の炎を木の枝でつついた。

 パチパチと火の粉が空に消えていく。


 明日は忙しくなりそうだな……


 俺は消えていく火の粉を眺めつつ、そんな風に思うのだった。

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