第30章 ── 第36話

 次の日も爆撃を続けたのだが、チマチマチマチと一つずつ爆弾を投下して破壊するという作業感さぎょうかんが半端ない行動に、一瞬で飽きてしまった。


 やはり俺は流れ作業とか繰り返し作業が苦手だな……

 好きな事には集中できるんだが、異常者じゃないんだから人殺しとか破壊作業が好きなワケがないので、言葉は悪いが当然飽きてくる。


 二日目の爆撃作業が終わった後、夜営での食事中に仲間とアースラの使徒たちと今後について話すことにした。


「はっきり言って飽きた」


 実際、飛行自動車の操縦と爆撃作業は俺だけがやってる事で、仲間たちは車に乗ってるだけだ。

 俺ばかりが働いているワケである。


「では我々もやりましょう!」


 アルベルティーヌが嬉しげに言い出したが、シグムントに頭を叩かれて黙らされている。


「お前は、ケント殿の魔法の馬車を操りたいだけだろう!」

「あれを操りたくない人がいて!?」


 直球の返しにシグムントがぐうの音も出ないようで黙ってしまう。

 まあ、アースラも後で運転させろって言ってた代物ですからなぁ。


「他の飛行自動車ならともかく、ケントのヤツは誰も操れないと思うわよ?」


 エマが可哀想なモノを見る目でアルベルティーヌを見ている。


「そうなの!?」

「私も一度見せてもらったけど、リカルド国王陛下に献上したものと比べて、機構が複雑だし、魔力もかなり食われるわね。

 イルシスの加護でもないと墜落しかねないと思うわ」


 エマの説明にそんなにMP消費激しいかなと思ったが、たしかに一時間でMP一〇〇ポイント近く持っていかれるので、一般的に高レベルと言われる魔法使いスペル・キャスターでも数時間でMP枯渇となりかねない。

 まして、今回のようにあちこち移動して爆撃しまくるような作業では、もっとMPを食うだろう。


「墜落させて壊してしまっては弁償も覚束ないわね……」

「外装と骨組みがアダマンチウムだもん、当然ね」


 エマがツンと澄まし顔で死刑宣告にも似た事実を言い放つ。


 まだ一般的に出回っていないアダマンチウムはミスリルよりも遥かに高いのである。

 彼女の所持金程度では弁償すらできないのは当然なのだ。


「悪いな。

 もっと素材が一般的になったら作ってやっても良いんだけどね」


 神々の使徒用として神界に納めるというのも考えたが、対価として神々は何をくれるだろうか?

 加護が沢山貰えそうな対価だが、既に加護は過多気味に貰っているし、強くなりすぎても色々と怖い。


「ならば手分けをして破壊して回るのがいいだろうな」


 トリシアが打開策を提案する。

 トリシアとしては、人死を極力減らしたい意向があるだろうから、自ら実行する方が楽なのだろう。


「そうじゃな。それが一番ケントの負担を軽くするじゃろうな」

「そうね。

 ケントはそれほど暴れん坊って感じじゃないし、私たちで分担するべきね。


 マリスとエマの俺を気遣ってくれる言葉に涙が出ますな。


「それは当然だ。

 ケントは頑張りすぎるし、何でもかんでも自分で背負おうとするからな。

 そのままだとケントが言う暗黒面に落ちかねない。

 私はそれを阻止する為なら何でもすると誓っている」


 トリシアが二人の言葉に頷きながら自分の存在意義を主張した。


 確かにトリシアは俺が魔人のようになるのを是としないファルエンケールが派遣してきた人員だからねぇ。


「ありがとう。

 それで……

 一週間って期限切っちゃったんで、あと五日間しかないけど、よろしくお願いします」

「それはいいんですけど、あの例の地図もお願いします!!」


 アナベルが言っているのは大マップ画面の共有の事だろう。


「了解。

 地図上に行政施設や公共施設にマークを入れておくよ」

「それなら安心ですね!!」

「例の地図とは?」


 イェルドが何のことだか解らないと質問してきた。


 見せたほうが早いので、使徒の四人をパーティに入れ、大マップ画面を開いて検索機能でラムノークの行政施設や公共施設を検索してピンを立てて、その状態を共有する。


 使徒の四人は突然目の前に現れた大マップの共有画面に目を見張る。


「これがアナベルが言う例の地図ね。

 能力石ステータス・ストーンを持っているパーティ・メンバーに共有できる機能だ」

「な、何らかの遺物アーティファクトですか!?」


 アルベルティーヌが質問してくるのは解っていたので、頷いて見せる。


「俺だけが使える遺物アーティファクトってヤツだと思ってくれて構わない」


 アースラも表示できないヤツだしね。

 多分、住良木幸秀がオールラウンダーに付随する機能としてティエルローゼへの転生を画策したときに付け足した機能なんだと思うんだが、便利を通り越してチート級の機能だから、遺物アーティファクトとか言って誤魔化すしかないんだよな。


 ま、俺だけのチートだとしても、創造神の後継に選ばれた事を神々が知る状態になっているので、神に文句言われるような段階ではないんだが、なるべく広めない方が色々と軋轢も産まないと思うしね。

 得てして特殊な力を持っていると尊敬されたりすることもあるが、妬みや嫉みなどネガティブな感情の要因になる事もある。

 どっちかというと、それの方が多い気がする。


 なので、こういう能力はなるべく隠しておくのが得策である。


 この使徒たちはアースラの使徒なので、何かしてくるような事はないとは思うが、用心に越したことはない。

 俺は疑り深いのだ。


「で、使い方を説明するけど……」


 俺は、大マップの使い方を手短に説明する。

 拡大縮小、上下左右への移動、三次元表示、破壊目標にはピンが立っている事などだ。


「こいつは便利ですな。

 アースラ様には使えないのですか」

「ああ、この機能は俺だけだなぁ。

 転生者は全員使えるのかと思ったが違うようだ。

 インベントリ・バッグの事は知ってるな?」

「ええ。アースラ様だけが使える魔法の鞄でしたか」

「あれの能力と能力石ステータス・ストーンが組み合わさった時に使える機能なんじゃないかと思っている。

 あとはユニーク・スキルも関係しているかもしれないな」


 俺がそう言うと、四人の使徒が「ああ」と突然納得したような声を出した。


「アースラ様の特殊なスキル関係ですか。

 あれは、何が当たるか運次第だそうですね」


 一応、転生者のユニーク・スキルの基礎的な知識は知っているようだ。


「そうだね。

 俺のはオールラウンダー。

 どんなスキルも覚える事ができるってヤツだよ」

職業クラスにとらわれないという事ですか?」

「その通り」


 それ以外にもスキルの取得上限がないというのもあるが、ティエルローゼのスキル・システムには上限が無さそうな気がするので、説明は割愛した。


「確か魔法剣士マジック・ソードマスターだとお伺いしましたが……」

「うん。

 俺は魔法剣士マジック・ソードマスターでは覚えられない追跡トラッキング技能とか覚えてるよ」


 ハリスたちとパーティを組んだ頃に覚えた技能だ。

 俺がコレを覚えた為、ハリスがビックリしてたもんな。


「便利ではありますが、戦闘ではあまり役に立ちそうではないですな。

 アースラ様のモノはかなり戦闘向きでしたが」

「へぇ。

 アースラのユニークって何なんだ?」

「確か予見フォアサイトというモノだったかと」

「ああ……なるほど」


 予見フォアサイトは、ドーンヴァースでは、相手が取りうる行動が見えるユニーク・スキルだ。

 敵の攻撃やら動きが見えるので、戦術的に非情に有利になるとかなんとか。


 この世界でも同様の機能だと思うけど、もしかすると本当に数秒未来が見えるようなユニークに変化している可能性は否定できない。

 以前、稽古を付けてもらった時、俺がどんなに攻撃してもアースラには一発も当てられなかったしな。


 妖怪サトリみたいな能力になるし、戦闘だけでなく様々な面で役に立つだろうな。


「なるほど。

 アースラなら確実に使いこなしているだろうな……

 戦闘で負けなしなワケだ」


 俺がしみじみと納得した声で言うと、自分の主を褒められてシグムントたちは嬉しげに笑った。


「アースラ様は、神界一強いんですから当然です」


 ロッタもフンスと鼻を鳴らしている。


「あの方に一撃を入れるには、相当な速度を必要とするのではないかと思うけど、なかなかそこに到達するのが難しい……」


 イェルドが肩を竦める。


 彼の言う意味は解る。

 予見フォアサイトで未来を見たとしても、それに反応が追いつかないほどのスピードで攻撃すれば避けられないと推測しているんだろう。

 例えば、二秒前に攻撃されるのを見たとしても、正確には攻撃が始まる二秒前って事だ。

 攻撃モーションを考慮に入れてされているのであれば、四秒以上余裕があるのではないだろうか。

 ならば、攻撃速度を上げて、攻撃開始時から限りなく短い時間で攻撃を当てることができれば、避けきるのは難しくなる。


 彼はそういう事を言っているのだろう、

 まあ、瞬速で攻撃する技術は、なかなか難しいので、実行は不可能に近い。


 自分が崇拝する人物をどうやったら攻略できるか考えている段階で、こいつらが戦闘系の神の信者なのが良く分かる。

 マジで戦闘狂なんですなぁ。


 俺に戦闘を吹っかけてくるワケですよ。

 挙げ句に殺しに来てたからなぁ……無意識なんだろうけどね。


「反対意見はないようなので、手分けして破壊して回るって事で決定していいかな?」

「異議なしじゃ」

「承知……」

「面倒だけど、仕方ないわね」

「ガッツンガツンやっちゃいましょう!」

「ケント、弾の補充は頼めるか?」

「ああ、後で渡すよ」


 仲間たちは全員OKのようだ。

 魔族連は別行動と言われて少し不満げだが、異議を唱えるような事はなかったので頑張ってくれるでしょう。


 でも、彼らは魔族なので魔族的な方法で破壊しないよう注意しておかないといけませんな。

 神罰じゃなくて魔族が侵略してきたとラムノークの国民に勘違いさせてはいけないですからな。


 色々面倒だが、飽きてしまった俺の所為だから仕方ない。


「んでは、今日はゆっくり寝て、明日からお願いします!」


 俺は皆に頭を下げる。

 使徒たちは少し戸惑った顔になってたが、面倒を頼んでいるんだから頭を下げるのは当然だろう?

 俺は創造神の後継だからって偉そうな顔をするつもりはないんだよね。


 色々とやりたいようにやってるのに、偉そうにしてたら怒られそうだしね!

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