第30章 ── 第35話
計画の第一フェイズが終了したので、次のフェイズに移行するとします。
俺は飛行自動車をインベントリ・バッグから取り出して仲間とアースラの使徒四人を乗せることにする。
さすがの飛行自動車二号もこの人数すべてを乗せるのは無理だ。
こういう事もあろうかと、補助ユニットを準備の数日間で作っておいたのだ。
補助ユニットはいわゆる追加座席みたいなものを装備した牽引用の車体である。
見た目としてはワンボックス型の二号よりも少し大きめではなかろうか。
内装は生前に見たことのある大型のキャンピング・カーのようにした。
座席は向かい合わせのソファが二組、就寝できるスペースが四人分、シャワー室、水洗トイレ、そして魔導コンロが装備されたキッチン。
この設備だけで普通に暮らせるレベルの装備である。
飛行自動車を取り出すと、使徒はやはりポカーンと呆然とした視線を飛行自動車に向けていた。
我に返ったはずのアルベルティーヌが車体に頬ずりを始めた時にはドン引きしたけどな……
「使徒の四人は、後ろの車体に乗ってくれ」
「は……「はい~~っ! 畏まりましたぁ~~♪」」
シグムントの返事に被せるようにアルベルティーヌが媚びたようなウキウキ声で返事をした。
他の使徒たちもドン引きしているようです。
「おい、ロッタ……アルベルティーヌってあんなだったか……?」
「うーん……魔道具好きなのは知ってたけど、あんなの見たことないよ……」
どうやら、弾けてしまって秘密の性癖が発露しているようです。
俺は苦笑いしながらも使徒を牽引する車体に案内して中の設備の説明もしておいた。
女性陣はどこでもシャワー、トイレが使える事に感動し、男たちは寝られる場所を見て冒険中にゴロ寝できる空間があるという事実に目を輝かせている。
「魔法の蛇口が三つも!!
素晴らしいですわ!!」
まあ、一つはシャワー型、水洗トイレに改造してありますが。
「こんな凄いのがあるのに何で今まで出さなかったんですか!?」
シグムントの質問ももっともです。
「これだけ完備されてると野営感がないじゃん」
「は?」
「だから、野営っつったら焚き火っしょ。
ゆらゆら揺れる焚き火を見ながら見張りするのが楽しいんじゃん」
言っている意味がわからないとシグムントが表情だけで言っています。
イェルドとロッタは可哀想なモノを見るような視線でした。
アルベルティーヌに至っては「この外道!!」って感じですね……
いや、アウトドアってそれだけで冒険している感じじゃん。
キャンピング・カーなんて文明の利器にしか見えないし。はっきり言ってアウトドア的な要素全く無ぇよ。
「いや、なら前に乗れ。こっちには私たちが乗ろう」
トリシアがキラキラした目でニッコリしながら言い放つ。
「そうじゃ、そうじゃ。こっちの荷車は我らも初見じゃ。
珍しいものは我らが最初に使うとしようかの」
「わーい。新品なのですよ!」
マリスとアナベルが駆け込み、ソファにダイブしている。
ハリスが俺の横でクッと肩を震わしながら明後日の方向を向いている。
シグムントの肩をアモンがガシッと掴んだようで、シグムントが「ヒッ!?
」と短い悲鳴を上げた。
「我が主様の厚意に不服があるのであれば、歩いて来るのですね」
「いっそ、首を跳ねてアースラ殿に突き付けては如何でしょうね?」
「アラネアの意見には金貨一〇枚の価値がございますな」
ゴゴゴッと聞こえそうなほどに目を赤く光らせ黒いオーラを背負ったアモン、アラクネイア、そしてフラウロスである。
「あんたたち、さすがにそんな事されたらアースラ様が困るじゃない。
というか、威圧が漏れてるわよ。
怖いからいい加減にしときなさい」
魔族連の「マジ脅し」を軽くいなすとは、エマも逞しくなったなぁ……
さすがにアモンも「申し訳ない……」とか謝ってるし。
「さて、出発しよう」
俺が急かすと使徒たちは牽引車両にとっとと乗り込んだ。
「ちっ」
「ちゃっかりしておるのう」
それを見たトリシアは舌打ちし、マリスは肩を竦めて飛行自動車二号に乗り込んだ。
「アナベル、エマも急げ。ハリスは……」
もう車の中に消えていた。
相変わらずの早業だった。
俺もとっとと操縦席に乗り込んだ。
後部牽引車両のスペックだが、反重力浮遊に推進パワー・ブースター、防御フィールドの展開と飛行自動車二号の性能を補助する機能を満載している。
ついでに車体下部には収納スペースを備えているが、このスペースは飛行時に爆撃倉として使えるように作った。
要は爆弾を投下するためのハッチが付いているって事だ。
搭載した爆弾を操縦席から投下できるようにリンクしてたりもする。
もう完全に空中要塞状態ですかなぁ。
今回の戦争用なので仕方ないか。
エンジンを起動させ飛行を開始する。
ちなみにゴーレム部隊だが、都市の警備に置いていく。
ほら、倒したはずの部隊が息を吹き返して都市を襲ったら困るでしょ?
そんな事をしたら神界がまた使徒を大量に送ってくるだろうけど、愚か者はどこの国にもいるからね。
アゼルバードとラムノークの国境は、飛行自動車だと一時間も掛からない。
まあ、一〇〇キロ近いスピードで空を直線上に進むんだから当然だ。
国境を越える頃、俺は「念話:神界」を使った。
念話の対象は「ラムノーク民主国・全国民」だ。
当然ながら神からの警告のつもりだ。
『ラムノーク民主国の全国民に告げる。
お前たちは、神々が復興を手助けするアゼルバードに軍を送り込んだ。
神々の怒りを思い知るが良い』
一呼吸置いて対象の反応を窺う。
困惑、恐怖、悲しみ……
様々なネガティブな感情が入り混じったものが俺の頭の中に流れ込んできた。
もちろん、怒りとか不信感とかそういうモノもあったよ。
恐れを知らぬ馬鹿者も結構いるもんだ。
『今からラムノーク民主国内の行政施設を神罰で破壊していく。
期間は一週間。
恐れる者は近づくべからず。
恐れを知らぬならば、死を持って神々に懺悔せよ』
さて、爆撃倉のハッチを開けよう。
俺が火薬を使用した投下爆弾は準備の段階で装填してあるので直ぐに使えます。
んで、一番最初の目標ですが、国境に設置されている検問所でしょうな。
国の施設なので当然です。
車体下部カメラで国境の検問所に照準を合わせる。
カメラに武器と鎧を来た兵士たちが何人も映っている。
こっちを指さしていたり、弓を構えているヤツもいるので気づいたようだ。
んじゃ、ポチッとな。
ピュ~~と小型爆弾が二つほど落ちていき、兵士の真ん中と詰め所に落ちていった。
──ドゴゴ~~ン!!
轟音と爆風が車体を揺らす。
自動安定機能が車体の姿勢を安定させる為にスラスターを吹かす音が聞こえる。
少々横滑りしたが、後部牽引車両を装着してもちゃんと機能しているようで安心だ。
下部車体カメラには砂煙やら黒煙やらが入り混じってモクモク状態だが、しばらくして収まってきた。
爆風や爆弾の破片でズタズタになった兵士の死体が幾つか転がっていた。
生きている者もいたが、腕を吹き飛ばされたり、裂けた腹から腸がはみ出ている者が殆どで、放っておけば死ぬだろうな。
今回のは神罰のつもりなので助けるつもりはない。
それにしても……もう少し大きい爆発と破壊力がほしいところだな。
その後、大マップ画面などを利用して近場の目標になる行政施設を探す。
近場は村ばかりしかないが、大きめの村にも官吏などがいる建物があったりするので、そういう所を狙おう。
お、人口二〇〇人ほどの手頃な村があるね。
早速向かおう。
こうして、一日で一五箇所ほど村の行政施設を破壊した。
抵抗してくる者は皆無だ。
空を飛べなくちゃ抵抗は無理か。
夕方、陽が沈む前に適当なところに車を下ろして野営する事に。
キャンピング・カーがあるので、備え付けのキッチンを使って料理を行う。
やはり簡易
帆布をターフ代わりにキャンピング・カーに括り付けて屋根にし、下のスペースにテーブルを並べてもらう。
今日は、久々に生姜焼きと味噌汁だ。
ご飯を三〇合も炊いたので、残ったらおにぎりにでもしよう。
沢庵とか漬物が欲しいところだが、糠がないので発酵させるのが難しい。
つーか、俺が持ち運ぶ場合、インベントリ・バッグに入れてしまう為、発酵が進まないってのも原因だ。
やはりピクルスとか浅漬けくらいしかできないか……
生姜焼きと味噌汁は使徒たちにも大好評だったのは言うまでもない。
ご飯とおかず、味噌汁しかないので大量のご飯が殆どなくなったのには驚いた。
やはり、こっちの世界の人間は大食いばっかりだね。
「ケント殿の料理は、とんでもない代物ですな!」
シグムントは最初の頃の態度と比べて、かなり俺を敬うようになりました。
「とんでもないって何で?」
「美味さが尋常ではありませんな。
神界で物議を醸したのも当然かと」
ああ……例の件か。
その所為で神々に肉体を用意しなきゃならなくなったんだっけね。
「我らにまで振る舞って頂けるとは思いませなんだ」
「一緒にいるのに食わせないワケいかんだろ。
俺はそこまで鬼じゃないぞ?」
「それは承知しておりますぞ、ガハハ!」
さあ、今日は早く寝て……明日も神罰落とす作業を頑張りますかね。
神罰というより通常爆弾を使った爆撃なんですけどね?
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