第30章 ── 第34話

 戦闘が開始されれば、戦力差から考えて数分で決着してしまう。

 それでは増えてしまった神々の軍隊は満足しないだろう。

 ならば使徒の四人に与えた作戦は少々修正が必要になる。


 戦いの神の使徒たちは戦闘狂しかいないからね……

 困ったもんだ。


「シグムント。

 真ん中を突破しようと敵の主力が突破槍陣形とかいうので突っ込んでくるが、なるべく殺さずに戦線を維持できるか?」

「ははは。

 神々が気にかける国に攻め込んだとしても、奴らは我らの信徒が多い。

 無闇に死ぬことはありません。

 持ちこたえるだけであれば問題ないですな」


 なるほど、ラムノークの国教はアースラ教だとか言ってたな。

 となると軍の大多数はアースラ教徒か。

 信徒の集団を無闇に殺傷するわけもないな。


「解った。

 んじゃ、とりあえず三〇分くらい状況を維持してくれ」

「承知」


 魚鱗の陣を突破させずに戦線を維持した場合、前部はともかく陣形後部は自ずと押せ押せで前に出てくる。

 前方が詰まっているんだから、横方向左右に広がっていくしかなくなる。


 人間同士の戦闘であればこうは行かないんだが、鉄壁な神の軍隊ならば容易に実現できる戦法である。

 最終的には神々の戦線に潰れた卵みたいに打ち寄せいる人の波にしかならない。


 俺は戦況を見て、他のシグムントたち以外の神々の使徒に念話を飛ばした。


「あー、もしもし。どちらの使徒さん?」

「ん? 貴方はどなた?」

「ああ、こちらはケント」

「!!

 お初にお声をお聞かせ致します!

 女神マリオンさまの使徒、アーリンでございます!!」

「アーリンさんね。よろしく」

「我が女神の弟弟子様でいらっしゃるとお伺いしております!」


 それ、神界でも既成事実になってるんですか……


「あはは、それはどうも……

 それで、聴きたいんだけどマリオンの使徒は全部で何人?」

「我ら戦乙女ワルキュリア部隊は全部で七人でございますが」

「空を飛べる要員は?」

「全員飛べます」


 マジか。

 便利な使徒たちですな。


「では、別働隊として動いてもらえるだろうか?」

「ケントさまのご命令なれば!」


 この人いちいち返事が熱いなぁ。

 マリオンも部活少女みたいだったし、その系統だからかも。


「そろそろ敵の後ろに控えている魔法支援部隊が動き出すはずなんだけど、魔法の発動の阻止を頼みたい」


 こんなお願いをしてるけど今回は多分、魔法事態が発動しない可能性の方が高い。

 イルシスが攻撃系の魔法の発動を阻害するんじゃないかと思われるからね。


「もし、敵の魔法が不発な場合は、敵後方の物資を軒並み破壊してもらいたいんだ」

「それだけでいいの?」

「ああ、水瓶とか水樽は入念に破壊で」

「了解です!!」


 モニターで確認すると、七つのスーパーサイヤ人みたいな女性たちが突然空に舞い上がって遮るモノがない敵の上空を飛んで敵の後方に向かっていった。

 その動きを敵軍は止めようもない。


 何人かの弓兵が彼女らを狙って矢を射掛けたのだが、矢の速度が遅すぎて彼女らの後方二〇メートルあたりの何もない空間に飛んでいったのが見えた。


 偵察用のドローン魔法道具の一つを敵軍の後方部隊の方に移動させて様子を探ってみる。


 やはり魔法が発動していないようで、左右に分かれていた部隊はどちらも右往左様している。


 飛んできたマリオンの使徒部隊の迎撃すらままならないようで、空に杖を何度も突き出すも、MPばかり無駄に放出しているようだ。


 戦乙女ワルキュリアたちは、空からその様子を眺めてさらに後方の補給物資を狙うことを決めたようだ。


「オルド・エクアディス・ピアラン・マスティア・エクソーマ・サルダスム!! 戦乙女の槍ワルキュリア・ジャベリン!!」


 七条の光の槍が敵の補給物資に突き刺さり……そして爆発した。

 いくつもの爆発が敵の物資を破壊し吹き飛ばす。


 砂漠で水や食料、テントなどの物資を失うことは、地獄に落ちるのと同義だろう。


 戦乙女ワルキュリアたちは打ち漏らしが無いか確認した後に戦線に戻って飛んでいった。

 後方支援部隊はその様子を呆然と見ているだけだった。


 しばらく後方の様子を見ていたんだが、後方にいた非戦闘員たちが吹き飛ばされずに無事だった物資を必死にかき集めている風景が見れた。


 俺はその作業を妨害しないで放置する事にした。

 俺もそこまで鬼じゃない。

 この一戦で、ラムノーク軍は瓦解するだろうからね。

 撤退できる程度の物資は残しておかないと。


 水は残してやらなかったので、相当苦労することになりますが。



 別のモニターを見てみると、そろそろラムノークの前線が崩壊しそうなことが解った。


「うはは! ディザーム!!」


 使徒の一人が目の前にいる敵兵の武器やら鎧やらを面白いようにスキルで破壊しまくっている。


 やはりスキルを叫ぶ文化が神界でも定着しつつあるようです……


 だが、ラムノーク側も頑張っています。

 一〇人単位で一人の使徒を囲んで同時攻撃とか、多数で少数に対抗するようにしている。


 力量差を詰める方法としては間違っていません。

 レベル差で如何ともし難いってだけですからね。

 使徒側の平均レベルは七〇くらいです。

 下は約六〇で上は九〇です。

 やはり平均レベルが二〇程度の軍隊では相手にもなりませんな。


 どうにもラムノーク側が戦線を維持できなくなったところで、シグムントの号令が掛かった。


「総員、攻勢に転じよ!!」

「「「「おう!!!」」」」


 まさに一瞬です。


 ラムノーク軍は薙ぎ、突き、払い……あらゆる方法で吹き飛ばされていく。

 およそ五分で戦場に動く気配が無くなってしまった。


 やはり使徒戦力はとんでもないですな。


 ただ、アースラ教を筆頭に戦の神々の信者が多いラムノーク勢に死者が殆どいないのが面白いですな。

 完全に遊ばれたって感じだな。

 まあ、人間は基本的に信者なわけで、殺すのは神力の関係で悪手でしょう。


 それでも死者は一〇〇人以上出ています。

 神を信じていない者もいるってことですかね。

 マジで神がいる世界で珍しい人種です。


 さすがに神の使徒たちは、無神論には容赦がありません。

 つーか、見ただけで信者か無神論者か一瞬で判断できる使徒ってスゲェ。


 後方部隊や非戦闘員たちだが、前線が静かになったので彼らも無駄な抵抗を辞めたようだ。


 アースラの使徒たち以外の神々の使徒は、戦闘が終わると光の柱と轟音を立てながら神界に戻っていった。


 あのスキルって光柱転移っていったっけ?

 神界に行くと教えてもらえるのかな?

 スキル枠が残ってないアースラも覚えているらしいので、スキル枠以外で覚えられるヤツって事だよな。

 今度、俺も教えてもらうかなぁ。


 モニターを眺めつつ戦後処理を観察する。


 シグムントたちは俺と仲間たちが待機する後方陣地に後退した。

 今、前線にはゴーレム部隊だけを展開して防衛に専念させている。


 俺たちの部隊が下がったので、敵の後方部隊が前線で気絶している兵士たちの救護を始めている。

 真っ昼間の砂漠で気絶させたままにしておいたら、干からびて確実に死ぬからね。


 非戦闘員たちは、残った物資から陣幕やテントを引っ張り出して組み立て、前線の兵士たちを運び込んでいる。

 だが、水がほぼ失われている為、今後つらい目に合うだろうな。


 だが、死ぬことは無さそうだ。

 一応、帰っていった神々の使徒も含め、神たちの保護的な緩い力が彼らには与えられたみたい。

 本国に帰るまでみたいだけど、死なないようにしてくれているみたいだ。

 神は逆賊には無慈悲だが、信徒には優しいって事でしょうかね。




 一時間ほどして、俺が待機している陣幕にシグムントたちを呼んだ。


「お疲れさん」

「ケント殿の指揮通りに遂行できたと思いますが、ご満足頂けたでしょうか!」

「まあ、問題はなかったね。

 さて、これからの事だけど」


 シグムントたちも仲間も無言で俺の言葉を聞いている。


「ラムノークの国に攻め込むとしよう。

 もちろん、俺たちだけでもいいけど、神の関係する国に攻め込ませた奴らがいるんで粛清は必須だから君たちにも来てもらう」

「承知」


 俺は基本路線を使徒にも申し渡す。


 殺すってのは悪手だ。

 何をやっても上手くいかないって感じを演出したいことを説明する。

 自滅とか因果応報とかそんな感じなんだけど、使徒だと難しいかな?


「街道の破壊とか、魔物や野獣を誘導するような事ならできますが」

「ああ、良いね。

 そういう感じで行こうか」


 因果とかそういうのは、神界の神々に動いてもらわねばならないかもしれんけど、ある程度は地上だけでやっておきたい。

 手数が足りなくなりそうだが、それならハリスに頼ろうか。

 彼のポテンシャルは俺が考えている以上に凄いからな。


 それとアラクネイアにも。

 彼女の眷属はあちこちにいるからね。

 まずはアラクネーは隠密行動に優れているようなので、それを利用しない手はない。

 他にもウチの配下以外のダイア・ウルフたちも自由自在に操れるようなので、ラムノークに派遣してもらうこともできる。

 ワイバーンも使えるよね。

 ドラゴン種の中でも最下級だけど、その戦闘力は人類種にとって脅威なのは間違いない。

 数匹をラムノーク国内で暴れさせるだけで国が荒廃する事になる。


 ラムノークは他国に頼ろうとするだろうが、既に俺が手を回しているのでそれも不可能になる。

 どこからも助けはない。

 その状態で国内が荒廃するのだから、国を維持することは不可能になるはずだ。


 そこまで行ったらアゼルバードに手を差し伸べさせれば終了ですな。

 アゼルバードは国土は結構広いけど、人が使える土地が少ないので、それを是正させる目的でもラムノークを併呑させておきたい。

 いつまでも貧民国のままにしておいては、オーファンラントの支援は効果が薄いと他国に思われかねない。


 さあ、ラムノーク滅亡作戦の第二波です。

 心して掛かりましょう。

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