第30章 ── 第32話

 負傷したアルベルティーヌの治療も終わり、館の居間に全員を集合させる。


「さて、模擬戦というには些か過剰な戦闘だったが、これで文句はないな?」


 俺はアースラの使徒四人をジロリと見た。


「当然だ! 文句はない!」

「声のトーンを落とせ」

「承知した!」


 シグムントは、そういって分厚い胸をドンと叩く。


「さて、君たちにはアゼルバードでラムノーク軍と戦ってもらう」

「俺たちだけでか?」

「そうなるな。

 今回は、神々の威光に傷をつけようとしている人間が相手になる。

 四人で蹴散らして、神の威光を見せつけてやれ」

「人数は?」

「一〇〇〇〇人程度だな」

「その程度なら俺一人でも十分だな」

「四人で派手にやれな威光にも箔がつくってもんだろ?

 もちろん、君たちだけに全部任せるってワケじゃないよ。

 ウチのゴーレム部隊も一隊付けるし、部隊の移動は俺の魔法でやる。

 物資も全部こちら持ちだ」


「噂のミスリル・ゴーレムの部隊も付けてくれるの?」


 大怪我だったアルベルティーヌが食いついてきた。


「ああ、ウチの自慢の軍を一つ付けよう。

 後で部隊長のゼイン・グローリィに合わせよう」


 何か事が起こるといつも待機中で活躍の機会のなかったゼインに今回は任せようと思う。

 他の部隊長とレベル差が出来てしまってたので、彼のレベル上げという側面もあるしね。


「報酬は……?」


 イェルドが遠慮気味に聞いてきた。


「ああ、タダ働きをさせるつもりはないよ」


 アースラと俺の関係で協力してもらう事になっているが、報酬はキッチリと出させてもらおうとば思う。


「何が欲しい?

 もちろん、俺が提供できるモノだけだぞ?」

「魔法道……」

「待って! 報酬に関しては後で話し合ってからがいいと思うよ!」


 イェルドの口をロッタが後ろから塞いて制止した。


「ああ、ゆっくりと考えてくれていいよ。

 魔法道具でも金でも」

「ちなみに、あのミスリル・ゴーレムはどのくらいの値段なの?」


 どのくらいの値段だと?

 ミスリル製のヤツは売り出してないのでちょっと解らないな……


「この前のアイアン・ゴーレムは二〇万~三〇万だったっけ?」

「クリスが四五万で売ったって言ってたわ」


 暖炉の前のソファで寛いでいたエマが教えてくれた。


「だそうだ。

 ミスリルだと、倍くらいの値段になるんじゃないか?」

「一体で金貨100万枚前後という事ね……」


 あまりの価格に頭痛を感じたのかアルベルティーヌは手の甲を額に当てて宙を仰ぎ見る。


「まあ、その辺りは相談次第だな。

 報酬として選ぶなら考えてやるけどね」


 どうやらアルベルティーヌはゴーレムに興味があるらしい。


「待て、アルベルティーヌ。

 話し合いは後だとロッタが言ったぞ。

 お前だけで進めるな」


 ん?

 もしかして、報酬一個を四人で分けるって話だと思ってるのか?


「勘違いしているかもしれないから、今のうちに言っておくけど……

 報酬は一人ずつ全員に支払うつもりだからね?」


 四人が全員振り向いた。


「全員にくれるの?」

「当たり前だよ。

 俺はそんなケチじゃないよ?」


 四人が「うぉぉおぉぉ!」とガッツポーズを始めた。


「ちなみに、一人一つとも言ってない」

「「「「は?」」」」


 俺はシグムントを顎で指した。


「シグムント君の鎧、盾、剣はミスリル製だね?」

「そうだが……」


 彼ほどの巨躯の武具を集めるのは相当な苦労が付きまとう。

 なにせ一般的なヤツでは身体に合うものは一つもないだろうからな。

 手に入れるには、武具が作れる者に頼むしか方法はない。


 この世界のミスリル製の武具はドワーフしか作っていないし、ゴーレムの例でも解るようにかなりの高額である。


 アダマンチウム製に至っては、ハンマール王国とファルエンケールの二大ドワーフ集団がようやく鉱石を掘ってインゴットを作り始めた段階である。

 ミスリルよりも高いアダマンチウムとなれば値段は推して知るべし。


 オリハルコン製は神々のものなので、ヘパーエストが作ってくれなきゃ手に入りません。

 ヘパさんが手伝ったという俺の攻性防壁球ガード・スフィアやオリハルコン製の鎧は例外ですな。

 かなり強力なので基本的にほぼ死蔵してますしね。


 てな事情で、彼らが使っている武具はミスリル製なんだよ。

 アースラにもう少し甲斐性があればねぇ。


「君が望めばだけど、アダマンチウム製の武具を一式を提供してもいいんだよ」

「そ、それは! 鎧一式に盾に剣をと言っているのですか!!」


 俺は耳に指を突っ込んで大きな声をやり過ごす。


「うるさいのじゃ! 我の鼓膜を破くつもりかや!!」


 マリスがシグムントの大声に怒鳴り返す。


「あ! これは失敬!

 クサナギ様、それは俺特注のって事でしょうか!?」


 声はだいぶ小さくなったが、まだ大きめですね。

 それほど興奮しているって事なので大目に見ましょうか。


「そう言っているんだよ。

 ただ武具を作るだけじゃ芸がないし、そこらの腕の良いドワーフなら誰でも作れる時代になりつつある。

 作った武具に魔法も付与してやるよ」


 あまりの事にシグムントが気絶しかけてソファで崩れ落ちそうになった。


「気を確かに持て!」


 イェルドとロッタがが慌ててシグムントを支える。

 シグムントが巨躯すぎてロッタが押しつぶされたようにしか見えん。


 四人が落ち着くまでに一〇分も掛かった。

 俺からの報酬が莫大すぎたのが原因らしいので何も言えなかったよ。


「ケントは太っ腹だからな。

 私も一緒に冒険をしているだけで、色々と武具を用意してもらった。

 余所の……それも神の戦力を借りるんだ。

 ケントならそのくらいは出すだろうと思っていた」


 トリシアが「うんうん」と頷きながら言うんだから、俺は少し気前が良すぎる傾向にあるのは否めない。

 俺に味方してくれる陣営が強くなる分には何の問題もないので自重する気はないが。



 色々悩まなくてもセットで作ってくれると聞いた四人組は、話し合う事もなく遠慮のない要望を出した。


 シグムントは特注のアダマンチウム製の武器と防具一式を希望した。


 イェルドは、アダマンチウム製の軽装防具一式と、緋緋色神鉄で作った二本の剣が欲しいそうだ。


 ロッタはアダマンチウム製の弓といくら使っても矢が無くならない矢筒が欲しいとか。


 アルベルティーヌはウチのミスリル・ゴーレムが欲しいそうだ。

 もちろん三種類全部だそうだ。


 一応要望を聞いたので、それを元に色々と作成しますかね。


 一番の難題はロッタの矢が無くならない矢筒ですかねぇ……

 折れない矢を二〇本くらい作って、使用後に矢筒内に転送されてくるようにすれば問題はないか。


 イェルドの緋緋色神鉄を使った剣も難題ではありますね。

 俺の手元には実験用の材料が結構あるので作る分には問題はないけど、アースラや俺が持っているような強い剣とか特殊な能力を持つ剣を作れるのかって部分が気になるところです。

 まあ、はっきり言えば鍛冶の経験が足らないってヤツですかね。


 天叢雲剣アメノクラクモノツルギ十拳剣トツカノツルギは、数万年前の時代のドワーフ製らしいので、その人にでもコツを教えてもらえればと思う。

 推測でしかないけど、それだけのモノを作った人物だし、多分ヘパさんの使徒とかになってるんじゃないかと推測したんだよ。

 後で念話で聞いてみよう。


 シグムントの要望は明快なので問題ありません。

 武具に込める魔法も今まで作ってきたモノと違いがないですしな。


 アルベルティーヌのゴーレムはミスリルなんてケチ臭いことは言わずにアダマンチウム製にしてやろうかと思います。

 素材によってレベルが変わるので、レベル五〇~六〇くらいのゴーレムになりそうだね。

 一応、接近戦用五体、遠距離攻撃用三体、魔法支援用二体、計一〇体のゴーレム部隊にしてあげようか。

 それを一つのユニット単位として運営するように作ってあるし、ウチの領地でもそうやって使ってるからね。


「ずいぶんと報酬が過剰な気がするんだが……大丈夫か?」


 アースラが心配して耳打ちしてきたが、俺は「問題ない」と一言で応える。


 確かに大盤振る舞いになるけどマジで問題ないよ。

 俺の懐事情の許容範囲内だしな。


 四人の使徒は相当喜んでいるみたいなので、いい仕事をしてくれると思います。

 しっかりした仕事をしてもらうには、ちゃんとした報酬が必要ですからね。


 口約束だけで終わらないように、俺も職人として一端の仕事をしようと思います。

 神の使徒が使う武具などを作るんだから、それなりの気合を込めて作らなきゃね。

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