第30章 ── 第31話

『そこまで!!』


 見聞役として残っていたのアースラがマイクで試合の終了を告げた。


 辺りを見渡すと……情けない有様ですなぁ。


 動けてるのは双剣のイェルドだけか。

 アルベルティーヌも意識はあるけど手足が黒焦げだ。

 左腕が完全に炭化しちゃってるのがヤバイ。


 などと考えていると、周囲から爆発するような歓声が湧き上がった。


 ああ、観客いたんだっけ……


 こんな群衆の中でアースラの使徒を舐めプしちゃったんだ……


 ポリポリと頭を掻きつつ、倒した四人に恥をかかせたかと気の毒に思っていると、アースラが近づいてきて肩を叩いてくる。


「お疲れ。

 まあ、俺の使徒はこんなもんだ。

 面白い奴らなんだが、ちょっと驕りが過ぎたな。

 ウチのクラメンと変わらんな」


 アースラは自分の不甲斐なさに肩を竦める。


「まあ、人は調子に乗るのが普通だからな。

 俺も調子に乗ってバカをやる事もあると思うから、気づいたら指摘してくれ」

「舐めプは調子に乗ってると言えると思うがな」

「やっぱり?

 四人に恥をかかせる形になったのは悪ノリが過ぎた気がしているよ」

「いや、天狗の鼻は折っておくに限るさ。

 上には上がいるってな」


 そう宣うアースラにも上がいるのだろうか?

 純粋に戦闘力だけでいうならこの世界であっても比肩する存在はいないはずだが。


 会場スタッフたちがバタバタと走ってアースラの使徒に近づいて行く。

 軽く様子をみると担架を用意すると運び出していく。


「治療は大丈夫かな?

 あの魔法使いスペル・キャスターのお姉さんは結構重症にしちゃったけど」

「左腕は治らんな。他は大丈夫だろう」


 左腕、真っ黒に炭化ちゃってたしな……


「俺が治そうか?」

「治るのか?」

「治療とか回復って意味なら無理だよ。

 あの部分は既に生命活動してないんだもん。

 でも、根本から切断してまだ生きている細胞を露出させれば、再生リジェネレートは可能だ」

「ふむ……頼む」


 アースラは素直に頭を下げる。


「もっと手加減するべきだったな」

「いや、今回の件は、自業自得だ。

 ケントじゃなかったら死んでたからな……」


 アースラも途中から奴らが本気になっていたのに気づいていたらしい。


「そう言ってもらえると気が楽になるな。

 恨みっこなしってことで納めてもらえたら助かるよ」

「言って聞かせておく」


 アースラはアースラで俺の実力を実地に見ておきたかったんだと思う。

 今回の途中からエスカレートし始めてた戦闘を止める気配がなかったもん。

 最悪、ぶっ殺されても仕方ないとか思ってたかもしれん。


「我も一言いいかや?」


 黙って俺とアースラの会話を聞いていたマリスが口を開いた。


「ん? 何だ?」

「自信と驕りの違いはしっかりと教えておくと良い。

 最初から眼の前にいる我を侮っていたしのう。

 慢心は口先だけにしておくべきじゃ」


 ふむ。

 

 時々、マリスが傲慢な態度を取っている事があるなと思っていたけど、対峙する相手に自分を侮らせる作戦だったのかもしれない。


 レベル一桁の頃から相当周囲に侮られていたからなぁ……。

 ちっちゃいマリスが生意気な口を利いていると、鼻で笑うヤツが多いしね。


「忠告痛み入る。

 確かに今はマリスが世界最高の壁役タンクなのは間違いないな」


 今日の一戦でアースラは認識を改めたらしい。


「まだまだお子様だと思っていたんだがな……

 自分のポテンシャルをよく理解している戦い方だった。

 どうだ? 俺の使徒になってみるか?」

「はい、そこまでー。

 マリスを勝手に勧誘するなよ。

 ウチのパーティに最前衛はマリスしかいないんだからな」


 アースラは肩を竦める。


「んじゃ、シンジを貰うか。

 あいつのプレーヤー・スキルはかなりのもんだろう?

 加護をいくつか与えりゃ、相当に使えるはずだ」

「人を使とか言うなよ。

 それに、彼に下手に手をだすとトリシアが黙ってないぞ?」


 シンジは前世のトリシアにとって可愛い弟だったみたいだからな。


「さて、俺たちも引き上げよう。

 いつまでも姿を晒していると、今度は俺とお前が戦うんじゃないかと勘違いされそうだしな」

「勘違いというより期待されてるなぁ……

 英雄神と領主の試合とか洒落にもならないよ」


 俺は自分の控室へと引き上げた。

 アースラは自分の使徒の控室へと歩み去る。


 以前、訓練をしてもらった頃はコテンパンにやられたけど、今ならいい勝負が出来るんじゃないかと思うが、使徒ならともかく神との一戦を民衆に見せるのはどうかと思うしな。

 それこそ、俺を現人神に祭り上げる奴らが出現しかねない。


「で、奴らはどうじゃった?」


 引き上げる最中にマリスが感想を聞いてきた。


「普通の軍隊相手ならアレで十分だと思ったけど、マリスはどう思う?」

「そうじゃな……

 人族の軍隊ならば何万人いても大丈夫じゃと思うのじゃ。

 盾役が少々脳筋じゃが、双剣と後衛はしっかりと役目を果たすじゃろう」


 壁役は勝手に動き、その動きに合わせて前衛と後衛が連携すれば、何の問題もないという判断だな。

 俺も同意見だ。


「俺も同意だな。

 ラムノークの前線はあいつらに任せてみるとしよう」


 控室に戻ると仲間たちが出迎えてくれる。


「見てたわよ、マリス。

 やっぱり口先だけだったわね」


 なぜかエマが得意げだ。


「じゃが実力は本物じゃ。

 レベルは八〇くらいじゃろか?」


 そういや、レベルを調べてなかったな。

 一応確認しておくと、シグムントはレベル八二、イェルドがレベル七九、ロッタがレベル七八、アルベルティーヌがレベル七五だった。


 亜神レベルなのは間違いないな。

 まあ、神とするには徳がなさ過ぎって気はするが。

 アースラも眷属神にするつもりはなさそうな感じだしな。


「まあ、あんな感じでも戦力としては申し分ない」

「確かに。

 だが、一万人程度の軍隊には過剰戦力だな」


 トリシアも納得しているようだ。


「まあ、過剰戦力程度の実力がないと困るんだよ。

 神々の軍隊としての戦いなんだからね。

 神界の威光が掛かっているしな」

「その通りです!

 神々が舐められては、我々神官プリーストの面目が立ちません!!」


 ん?

 アナベルよ、神々の存在は神官プリーストの為にあるんじゃないぞ?

 天然な性格だからそんなセリフが出てきたのかもしれないが、神々に聞かれたら神罰とか落ちてくるかもしれんよ?


 まあ、アナベルも既にレベル一〇〇なので、神界の神々と肩を並べる存在なんだよねぇ。

 一番レベルが低い神様がレベル八〇のイルシスだそうなので、彼女よりも格は上って事だしな。


 何にせよイルシスは魔法の神様なんだから、もっと偉くなってもいいと思うんだけど……

 引きこもりニートな女神だから、レベルが上がらんのかもしれない。


 いつか籠もっている場所から引っ張りだしてレベル上げでもさせようかね?

 無理やり引きずり出すのは可愛そうだからやらないけど……

 一応、念話は頻繁にしているみたいだしコミュ障ではないっぽいよね。


 それはさておき、アルベルティーヌの腕の再生をしておかねばならないな。


「アナベル」

「はいな!」

「試合は見てたよな?」

「もちろんです!

 あの一戦を見逃してはマリオンさまに申し訳ありません!」


 そういうもんなの?

 まあ、いいか。


「見てたなら解ると思うけど、アルベルティーヌは重症だ。

 腕をちゃんと治してやりたいんだが」

部位再生パーツ・リジェネレーションですか?

 ようやく私も使えるようになったのでご協力いたします!」


 シャーリーが開発した魔法「部位再生パーツ・リジェネレーション」だが、神聖魔法として使えるように神々にも普及しておいたのだ。

 最近になってようやく信徒も使える者が増えてきたそうで、神殿勢力は以前にも増して神々に対する信仰心が高まったと評判です。


 魔法使いスペル・キャスターの魔法としては生命属性の魔法に分類される「部位再生パーツ・リジェネレーション」は、シャーリーが開発してから門外不出状態だったので、どこの魔法書にも乗っていないってのも神々には都合が良かったみたい。


 同じ効果の神聖魔法が出てきても神々がパクったとは思われないからね。

 まあ、俺が普及させたんで、パクったとかは言わせないけどね。

 開発者のシャーリーも既にイルシスの使徒になってるし問題ないだろう。


 ちなみに、下界で魔法使いスペル・キャスターとして部位再生パーツ・リジェネレーションの魔法を使えるのは俺を含めて三人だけだ。

 

もちろん工房で仕事をしているマクスウェル姉弟が、俺以外で使える人物たちになりますよ。

 工房自体は俺が受け継いだけど、二人はシャーリーの姪と甥なので彼女が作った魔法を継承する権利はあるはずだし、好きに学ばせているワケです。



 さてと、あと数日後には戦端が開かれるし、色々と準備をはじめますかね?

 戦争は金と物資が異常なほど掛かるので、本来なら関わりたくないけど、今回はそう言っていられないから仕方ないね。

 トリエン領主として、あの国の再生に協力した以上、多少持ち出しが増える事になってもしょうがないな。


 そのあたり、クリスと詰めておく必要はあるか。

 臨時の支出だし、行政長官に話を通しておかないとね。

 領主が領地の金を横領したなんて笑い話にもならないしな。

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