第30章 ── 第30話

魔力消散ディスペル・マジック


 無詠唱でボソリと一言。

 魔力の火炎は一瞬で消え去った。


 ソレを見たアルベルティーヌは口をパクパクさせながら絶望の色を見せる。


「マリスは脳筋を抑えて置いてくれ」

「了解じゃ」


 俺はアルベルティーヌの方に向き直り剣を構える。

 ロッタは弓を引き絞って俺を狙っているが撃っていいのかどうか悩んでいるようだ。

 イェルドは、必死に身体を引き起こそうと躍起になっている。


「さて、魔法合戦といこうか」

「な、何で炎が効かないのよ……」

「ああ、俺も火の魔法使いスペル・キャスターでね。

 ついでに火属性完全耐性持ちなんだよ」


 アルベルティーヌは悲壮感漂う表情で杖を構えた。


「ならば……!

 バンキル・エクアディス・ユール・マスティ……!」

魔法の矢マジック・ミサイルだな」


 一五本の矢がアルベルティーヌの周囲に形成され始めた時に俺が魔法名を言った為、アルベルティーヌの詠唱が止まってしまう。

 詠唱を途中で止めてしまっては魔法は発動しない。

 それだけでなく、術式に込められたMPは周囲に四散して無駄になってしまう。


「な、何でそれを……」

「いや、最後まで詠唱聞けば解るだろ。

 つーか、術式が一般的過ぎて途中で解ったんだけど」


 彼女の唱えた魔法の矢マジック・ミサイルは、初級の魔法の書に載っている術式と殆ど変わらない。

 魔法レベルだけが高められてレベル五で行使するように構築されている。


 術式が単純で短いのは戦闘中に容易に使う為に極力シンプルに組まれているからだ。


 ロッタが矢に複数のスキルを載せて側面から撃ってきた。

 先程までのようにスキル名を叫ぶような愚は犯さなかった。


 魔法の場合は仕方ないけど、スキルの使用にスキル名を叫ぶ必要なんて無いもんね。

 俺が、それ広めちゃったみたいなんで、謝っておこうかな。

 ごめんなさい。


 まさかとは思うが、アースラとか神界でも流行ってるんだろうか……

 いや、使徒にやらせている以上、神界でも流行っていると考えておいた方が納得できそうだな……


 などと考えている内に、凄まじい威力の矢が俺に襲いかかってくる。

 矢には必中シュアヒット加速アクセラレート威力倍化パワー・マルチプリケーション死の矢アロー・オブ・デスと確実に俺を殺す為のスキルが乗っているようだ。


 死の矢アロー・オブ・デスの厄介なところは、目標が抵抗レジスト判定に失敗すると例えダメージを全く与えて無くても死ぬところでしょうか。

 ダメージが通らなくても殺すって意思がビンビン感じ取れるんですが、これは既に模擬戦の様相からはかけ離れておりますね。


 避けるのは簡単なですが、それではロッタちゃんが覚悟をもって放った一撃に失礼というもの。

 実験も兼ねて敢えて危険を犯すとします。


 俺は飛んでくる電光石火の矢を素手でムンズと掴んで止めた。


 すると心臓あたりにひっくり返りそうな衝撃を感じた……けど死んでない。

 抵抗レジスト判定成功ですかね?


 まあ、無理もない。

 やはりレベルとステースの差は如何ともし難いって事ですな。


 射撃から命中、抵抗判定までの流れは次の通り。


 まず、ロッタの射撃判定は、基本値として一~一〇〇までの乱数が導き出される。

 この基本値に必中シュアヒットにより一〇〇ポイントが追加される。

 他にも武器や防具、その他パッシブ・スキルなどのボーナス値などがあれば同様に加算される。


 次に射撃による攻撃なので敏捷度から導き出される修正値が加算される。

 なんで敏捷度が使われるのかは知らん。

 剣とかの場合は器用度が使われているので、差別化か何かを図っているのではないかな。

 この数値は能力値の約三割と言われているが、なので正確じゃない。


 そしてロッタの現在のレベルが更に加えられる。

 レベルが一〇と二〇では、一〇ポイントも差が出てしまうのだ。

 レベルが違うだけでステータスとレベル差による加減算がなされるからこそ、指数関数的にレベルが高い方が強くなっていく理由だね。


 このロッタ側の能力値などを要因として導きだされる数値は、俺の回避判定における目標値として扱われる。

 回避判定においてこの数値以上を叩き出せれば、攻撃は外れた事にできるのである。

 もちろん、目標値を超えられなければ攻撃は命中する事になる。


 さて、回避における数値は、基本値として一~一〇〇までの乱数が導き出される。


 これに様々なスキルや回避時の状況などの要因からボーナスやペナルティが加減算される。

 命中判定側と殆ど変わらない作業だよね。


 そして結果を比べる。

 高いほうが判定が成功した事になるワケだね。


 このような判定方法を「対抗判定」というのだが、テーブルトークRPGなどを趣味としている人ならピンと来るんじゃないかね。


 まあ、かなり大雑把なルール解説だけど、概ね間違ってない結果が出ているらしい事はドーンヴァース攻略サイトに乗っていた。


 この世界でも同様の判定なんじゃないかと思うので、そこから推測すると……

 こっちの回避判定は、多分何をしても成功する。

 自分から当たりにいかない限りは。


 という事でムンズと掴んだので当たったと判断されたんですね。

 掴んだのでノーダメージではありますが。


 次に来るのが即死効果の判定ですよ。

 これも対抗判定で処理されます。


 さて、今回のロッタさんの攻撃ですが、程度には死の矢アロー・オブ・デスによる即死の可能性はあったと思います。


 だけど、考えてみて下さい。

 対抗判定に俺が失敗すると思いますか?


 俺の後ろには幸運の女神フォルナがいるんですよ?

 勝算しかない賭博みたいなもんで、出来レースと言われても仕方がないチート状態なんですよ。

 スリルもへったくれもないのでフォルナには加護は付けるなと言っておいたのですが、それでも加護ほどではないにしろ色々とボーナスが付いているんじゃないかと最近は感じております。

 妙に運が良い気がしてならないんだよねぇ……


 まあ、今までが不幸ばかりだったので、帳尻合わせの幸運が舞い込んできている可能性もありますかねぇ。


 さて、反撃です。


衝撃の矢ショック・ボルト


 無詠唱でロッタに魔法を叩き込む。

 この一撃でロッタが白目を向いて昏倒する。


 これだけでHPとSPが一割まで減りますので当分動けないだろうね。

 非殺傷魔法なのを感謝してください。


 ちなみに、この衝撃の矢ショック・ボルトは、レベルが高いヤツに効果覿面こうかてきめんなんですよ。

 一気に九割削られる衝撃はレベルが高い方が感じ取れるのは当然ですよね。

 その分、衝撃が非常に大きく感じられるワケですね。

 肉体面でも精神面でも高い効果が望めるのでお得感があります。


 もっとも、この魔法は初級魔法なので取るに足らない魔法だと思われている節があります。

 高レベルのキャラに掛けても大抵抵抗レジストされてしまいますしねぇ。

 非殺傷だからなのか能力値の修正ボーナスが付かない魔法なんで、当然といえば当然ですが。

 マジで抵抗されやすい魔法なので、高レベル帯の強い人はあまり使わないんじゃないかなぁ。


 さてと……

 次はアルベルティーヌさんですな。


「んでは、妖炎の異名を持つアルベルティーヌさんには特別に炎の講義をしますかね」


 呪文を唱えて魔法を発動する。


 「アル・イクシュール・スラーフ・フォーリオ。火炎ファイア


 俺は火を指先に一つ出す。

 赤い炎が左の人差し指の先に灯る。


 この魔法は点火イグニッションの一つ上の魔法です。

 この魔法のさらに上が一般的な攻撃魔法の火弾ファイア・ショット火の矢ファイア・アローになります。


「炎を操って攻撃をする上で、この魔法が基本となるのはアルベルティーヌさんもご存知ですね?」

「火の魔法使いスペル・キャスターなら知らないわけないわ……」


 俺は「そうですね」といった感じで笑顔で頷く。


「では次の段階です。

 アル・イクシュール・スラーフ・フォーリオ。火炎ファイア


 同じ呪文を唱えたのに今度は黄色い炎が左の中指の先に灯る。


 赤と黄色の炎が並んで揺れる様は少し不思議な感じだ。


「炎の色が……違う……?」

「その通り、どうしてこの違いが現れるか解るかな?」

「何故……?」


 まあ科学知識がないと解らないよね。


「温度の違いだよ」

「どうやって同じ術式で温度を変えるというの?」


 さすがに神の使徒をしているアルベルティーヌでも解らないようだ。


「次行くよ。

 アル・イクシュール・スラーフ・フォーリオ。火炎ファイア


 今度は薬指の先に真っ白な炎が現れた。


「え……まだ変わるの!?」


 俺はニヤリと笑って続ける。


「アル・イクシュール・スラーフ・フォーリオ。火炎ファイア


 小指の先に青白い炎が灯る。


「これらの炎は赤から青の順で温度が高くなっている。

 さて、同じレベル一の魔法だが、どの色の炎で攻撃すれば高い威力を望める?」

「青……でしょ」

「正解だ」

「でも、何故同じ魔法術式なのに……」

「そりゃ、魔力密度の違いだな。

 何かモノを燃やした時、炎の色に違いが出る事があるだろ。

 それと似ているんだが、魔法の場合は密度が重要な要素ファクターだな」


 俺は一端全ての炎を消して新たに魔法を唱えた。


虹色の火炎の矢レインボー・ファイア・アロー


 俺の頭上に四色の炎の矢が現れた。

 本来は七色の炎なんだが、説明が面倒なので解りやすい四色にしてあります。


「んじゃ、実地で感じてもらおうか」


 四色の炎が一斉にアルベルティーヌに襲いかかった。


 アルベルティーヌは目を閉じて死を覚悟している。


 火属性系の魔法使いスペル・キャスターなら死なない程度の初級魔法なんだけどねぇ。


 一本ずつ四肢に突き刺さり発火する。


「きゃあああああああああ!!」


 アルベルティーヌの悲鳴にシグムントが振り返る。


「余所見をするでない!!」


──ガコン!!


 猛烈な音がしてシグムントが吹っ飛んだ。

 マリスお得意のシールド・アタックがシグムントの横っ面に決まっていた。

 スキル名を言う間もなくぶちのめしてしまったみたいですな。


 はい。

 これで四人とも、ほぼ行動不能ではないでしょうか?


 高レベルに加えて神の使徒なので加護やら良い武装やら色々と効果バフが乗ってるからタフなようで死人は出ませんでしたね。


 こっちは無傷なのでしっかりと力を示せたのではないかと思います。


 無事に終わって良かった良かった。

 あっちは殺す気で来ていたのに、こっちはこの程度で済ませたんだから感謝してもらえるでしょう。


 手加減とか面倒なので、これきりにして欲しいですけどね。

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