第30章 ── 第26話

 四人を連れてトリエンの館へと移動する。

 始めての転移門ゲートにエロ姉さんは興奮気味です。


「凄いわね!

 空間に穴を開けて二点間を無理やり繋いでいるって事かしら?

 その場合の消費魔力は……」


 何やら眉間に皺を寄せて暗算でもしているようですな。


「とんでもない数値になるのだけれど……

 貴方、魔力は大丈夫なの?

 普通なら枯渇するわよね?

 イルシス様に加護でも貰ってるの?」

「ああ、それ。

 いつの間にか加護付いてたよ」

「良いわねぇ……あの女神様、私には全っっ然付けてくれないの!」


 騒いでいるエロ姉さんは放っておくとしよう。


「お帰りなさいませ、旦那様」

「やあ、ただいま。

 みんなはいるかな?」

「はい。二階の居間にいらっしゃいます」

「ちなみにゲーリアは?」

「工房の入出許可を旦那様が与えられてから、入り浸っているようです」

「そうか。まあ見たがってたし、一応古代竜だし好きにさせておくのが被害がなくていいか。

 そういう感じで対応よろしく」

「畏まりました」


 リヒャルトさんに案内をさせて居間まで四人を連れて行く。


「お帰り……」

「帰ったな」


 ハリスとトリシアは、いつものように出迎えてくれたが、アナベルがキラキラした目で俺の方に走り寄ってくる。


「ケントさん! パラディはどうでした!? もう神様いた!?」


 パラディは神々が気軽に降臨できる場所として作ったので、神官プリーストであるアナベルが興味津々になるのは仕方がない事だ。

 彼女はあそこが本格運営始める前にしか行ってないから余計そうになるよね。


「アースラは普通にいたな」

「アースラ様はどうでもいいのです。

 マリオン様は? ウルド様もいらっしゃっているのでしょうか!?」


 アースラは度々降臨しては俺の館に入り浸っていたので、珍しさがないとでも言いたいようだ。

 アースラに聞かれたら天罰でも落とされそうな不敬具合なんだが。


「いや、アースラ以外には見かけてないな。

 俺が気づかなかっただけかもしれんが」


 とにかくこの世界は神々が多い。

 万単位でいるらしいから、どれがどの神様なんて俺に判ろうはずもない。


「聞き捨てなりませんな!!」


 巨躯プレートメイル男が後ろからデカイ声を上げた。


「うるせぇ!

 俺の館の中でデカイ声出すんじゃねぇ」


 ギロリと睨むと巨躯プレートメイルは「フン」と鼻を鳴らす。


「まだケント殿は我々に力を示しておられません!!

 その言葉に従う義務もないという事になります!!」


 俺が口を出す前に、いつの間にか俺の横まで来ていたマリスが黒いオーラを瞬時に発生させる。


「あ゛あ゛?」


 マリスから不快感を示す信じられないような低音が飛び出した。


「デカブツが偉そうな口で何を申しておるのじゃ。

 我が其方をあの世に送ってしんぜようか?」


 目が爛々と赤く輝いているように見えるのは気の所為か。


「これは失礼!!

 小さすぎて、そこに人がいたとは思いませんでしたわ!!」

「もう許さん、表に出るのじゃ」

「闘技場があると聞いておりますが!?」

「どこでも良い。早く外に出んか!!」


 マリスが巨躯プレートの足をつかむとグイッと持ち上げた。

 文字通り持ち上げたのである。


 そのまま扉を蹴り開けて通り抜けようとしたもんだから、巨躯男が梁に頭をぶつけるのは仕方ない。

 それでなくても彼は屈んでくぐらねば入れないほどの巨漢だからね。


 頭を強かにぶつけた為か、巨躯プレートメイルは途端に静かになった。


 ステータス・バーを見ると「気絶」を示す状態異常アイコンが見えた。


 マリスが相当お冠のようだ。

 古代竜を怒らせるからそうなる。

 見た目で判断しちゃ駄目な人物の筆頭だからねぇ……


 マリスが出ていったので俺も仲間たちもそれに付いていくことにした。

 もちろんアースラの使徒の残り三人も大人しく付いてきたよ。

 あの状態のマリスに逆らったら無事では済まないだろうしね。


 さて、鎧姿の巨躯の大男を軽々と持ち上げて運ぶ姿は、町の住民だけでなく観光客も目撃した。


 どこに行くのだろうと付いてくる野次馬は数えたら一〇〇人単位でいるに違いない。


 俺たちは長い行列を引き連れて闘技場までやってきた。


 まだ運営は始まっていないのだが、管理をする為の人員は既に闘技場の職員

詰め所に配属されていた。


 領主である俺とその仲間たちが詰めかけた為、急遽闘技場の門が開いた。

 俺と仲間たちは北の控えの間へと通され、対戦相手となる使徒四人は南の控えの間に連れて行かれた。

 巨躯プレートメイルは双剣無精髭に引きずられていった。


 控えの間でとりあえずソファに座って一休み。


「マリス、俺の為に怒ってくれるのは嬉しいが、実力も知らないヤツに喧嘩を売っちゃ駄目だぞ」

「そう言うてものう。

 あの不敬ぶりには我慢がならんのじゃ」


 マリスの言い分はストレートだ。

 彼女は「でも」とか「だって」なんて事は言わない。

 俺に対して不敬な態度を取る事は、彼女にとって逆鱗に触れるのと同じ事なのだから、それ以外の理由は出て来ない。


「小さいと言うのは良い。

 成人と認められたはずなのに、未だに小さいままなのじゃからな。

 我も流石に呆れとるからのう」


 そういやマリスは実家で大人として認められたはずだよな。

 大人の姿になるような気がするんだが、居間でも出会った頃のままだな。

 まあ、俺としてはこっちの方がマリスとしてしっくり来るので問題はないんだが。

 マリス的には大人の体になってボン・キュ・ボンを体験したいんだろうけどねぇ。

 その姿は俺も拝見したいところではありますが。



 しばらくすると扉をノックして闘技場スタッフが入ってきた。


「領主閣下、準備が整いました」


 その言葉を聞くやいなやマリスがソファから飛び降りた。


「待っておったのじゃ!!」


 マリスが手をブンと振ると一瞬で完全武装状態に早変わりした。


「お!? ショートカットの着替え機能!?」


 マリスは得意げにニヤリと笑った。


「良くは解らんが、我はこんな事が出来るようになったのじゃ。

 我の鎧は装着に時間が掛かるのが欠点じゃったが、その欠点は過去のモノとなったのじゃ」


 どうりで普段着のままで寛いでいたはずだよ。

 仲間たちもドーンヴァースに何度か行ったから、あっちの便利機能をこっちで再現できるようなスキルが手に入ったのかもしれないね。


「では、案内せよ」


 俺とマリスをスタッフは心配そうな顔で交互に見る。


 小さい鎧娘なので心配なのは解りますよ。


「気にせず案内してくれ。俺も一緒に行くから」

「承知しました」


 俺は仲間たちに振り返る。


「俺とマリスだけで戦闘力等々を確認しても細かい部分まで全部見られないだろうし、君たちの目で外からも確認しておいてくれるかな?」

「承知……」

「任せておけ」


 ハリスは即答し、トリシアも頷いた。


「私は戦闘には煩いのですよ?」

「私も見ておいていいわよね?」


 アナベルは悪戯娘のようなちょっと黒い笑いを浮かべ、エマも今後の参考にしたいからとかいって観戦モードになっている。


「ふふふ、主様の華麗なる剣の舞は私めがしっかりと目に焼き付けておきます」

「然り然り。

 我が主は確認しろというが、あやつらにその価値があるのであろうか」

「貴方達、主様の命令にはちゃんと従いなさい。不敬ですわよ」


 アモンは俺の勇姿でも想像しているのか少し顔を赤らめ、フラウロスは単純にアモンに同意する。

 アラクネイアは、俺の言葉通りに働くように二人に言うが、彼女も俺の言うように相手方の実力を確認するつもりはあまりないように見えるのが欠点だな。


 俺はやれやれと思いつつも控室を出る。


「ケントと我の二人きりじゃのう。

 ケントと出会った時を思い出すのじゃ」


 俺は苦笑する。


 ゴブリンとダイア・ウルフに囲まれて難儀していたマリスは、まだまだ駆け出しの冒険者っぽい感じだったからね。

 ギルド・カードのランクは俺よりも上だったけど、当時のマリスはレベルが七だったからな。


 スタッフに案内されて南へと続く一本の通路に到達した。


「この先が闘技会場になります」

「ああ、了解した。ありがとう」


 お礼を言うとスタッフは「ご武運を」と一言だけ言って別の通路に走っていってしまう。


 大マップ画面を開いて彼の行く先を確認すると、闘技会場スタッフ詰め所というラベルが付いた部屋に入っていった。

 その部屋には他にも何人ものスタッフがいる。

 ウルド神殿の神官プリーストや様々な雑事をこなす人員のようだ。


 闘技する会場で何か問題が起こった時に対処する人間の詰め所なんだな。

 その部屋は会場の東側にあるが、西側にも同様の部屋と人員がいる。


 まだ運営が始まっていないのに既にスタッフが詰めているという事は、色々と本運営までにシステムを練っておいたり、シミュレーション訓練などを行っているのだろう。

 万全の運営体制を実現する為にね。


 現場スタッフの士気の高さに少し感動を覚えます。


 そんな彼らを雇っている領主としては、彼らの期待に応えて良いところを見せておきたい気もしますね。

 俺もマリスもレベル一〇〇だし大丈夫だとは思いますが。


 しかし、彼らもアースラの使徒。

 アースラに見込まれた者であるなら無様な戦い方はしないはずだ。

 気を引き締めて事に当たった方がいいだろう。

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