第30章 ── 第25話

 アースラと神殿の奥へと進むと、比較的大きな部屋に生活スペースが作られていた。

 俺が案内された部分は居間で、ベッドなどが置かれた寝室スペースは分厚いカーテンで仕切られている。


「この部屋、アースラが用意したの?」

「ああ、DIYってヤツだな。四万年ぶりだぜ」


 いつぶりかはスケールがでかすぎて理解する気はないが、アースラに日曜大工的センスはないと判明した。


 何でも出来るヤツだと思ってたけど、そうでもなかったな。


「ちょっと雑すぎだな。

 後でドワーフを呼ぶか、俺に依頼しろよ」


 アースラは俺に否定されて苦笑する。


「ジェニーにも似たような事を言われたな……」


 アースラはポリポリと頭をかく。


 英雄神なんだからDIYは上手くなくていいと思う。

 アースラと比べて俺なんかは、創造神の後継者に選ばれたんだし、何でも出来ないとマズイ立場に置かれている気がするしな。


「でもレナは『キャンプみたいで楽しいね』って……」

「それ、褒めてねぇ」

「褒めてないか?」

「うん、慰めまじりの皮肉だろ……」


 アースラはうーむとうなりながら途方に暮れてしまった。


「それはともかく、その二人はどこいったんだ?」

「ああ、別の部屋でこの世界の事を学習しているところだ」

「ジェニーは喜々として行ったが、レナはブーたれてたな」

「そりゃそうだろ。

 まだ子供だぞ。

 お前、子供の頃、勉強好きだったか?」

「いや……好きな教科しか勉強しなかったな」

「体育と……数学、物理、あとは工学とか科学寄りのヤツだろ」

「よくわかったな」


 剣術やってる段階で基本的に運動好きだし、プログラマーやってる段階で理系だろが。

 そんな初歩的な推理でミスるワケがない。


「で、使徒なんだが、いつ寄越せる?」

「今直ぐにでもいいぞ?」


 アースラはこめかみに指を当てて目を閉じた。


 すると──

 ドンドンドンドン!!


 四回の轟音と四つの光の柱が室内に輝いた。

 現れたのは、いかにも強者ですといわんばかりの四人組だ。


 巨躯を無骨なプレートメイルで包んでいる髭面の男は守護騎士ガーディアン・ナイトだろう。

 背中に二本の剣を背負っている無精髭の細面イケメンは剣士ソードマスターだな。

 見事な和弓を手にしている快活そうなホービット族の少女は弓兵かハンターの上級職かもしれない。

 そして見て判るアダマンチウム製の杖を突いているエロいお姉さんは魔法使いスペル・キャスターに違いない。


「我が君、お呼びで!!」


 守護騎士ガーディアン・ナイトが跪いて大声を上げる。

 他の三人も守護騎士ガーディアン・ナイトに倣って跪く。


「その『我が君』ってのは、来客中だけは辞めないか?」


 確かに堅苦しい呼び方だしワカランでもない。

 俺も悪魔連に「我が主」とか「主様」とか呼ばれてムズムズするからな。


「いえ!!

 どなたがおられようと、我が君は我が君でございます!!」


 この人、声がデケェな。

 隠密行動とか無理っぽい人だ。


「お前たち、ケントの事は知ってるな?」


 アースラは顎で俺を指し示す。

 四人の視線が俺に突き刺さる。

 非常に強い視線で、殺気にも似た感覚を覚える。


「はい! 我が君が注目しておられた異世界人で!!」

「日本人……いや地球人だな。俺もその一人だ」

「して、ケント殿がいかが致しましたか!?」


 値踏みするような視線はまだ俺に向いている。

 非常に居心地が悪い。


「お前ら、ケントに強力して戦争に参加しろ」

「なんですと!? 下界の戦争にでございますか!?」

「そうだ……おい、ガイル、もう少し声を落とせ。

 いつも以上に声がでかいぞ」

「は! 仰せのままに!」


 若干トーンが下がったが、それでも声がでかいんだね。


「今、アゼルバードがラムノークに攻め込まれている。

 マリオンから情報が届いている。

 ケントはそれに助力をしようとしているんだ」

「ケント殿はミスリル・ゴーレム軍を持っていたはずでは?」


 後ろの方にいた杖のお姉さんが口を開いた。


 その胸の谷間を見せつけるようなローブは何なんでしょうか?


 俺の視線が胸に釘付けなのを感じたのか、体を起こしてさらに胸を強調させて自慢げな顔をするエロお姉さん。


「胸がデカイのは解ったから普通にしておけ。

 ケントは奥手だから見るだけで触ってはくれんからな」


 アースラの注意が飛んで、エロ姉さんはチッと舌打ちをする。

 どうやら色情狂気味のお姉さんらしい。


 まあ、乳ならアナベルの方がデカイし、最近知り合ったヴァリス村長はもっと凄いからね。


「旦那、戦争に協力って事はぶっ殺していいん?」

「ああ、ぶっ殺していいよ、パム」

「マジか! 久々の殺しだぁ!」


 和弓のホービットが立ち上がって小躍りを始めた。

 立ち上がってるのに一番前で跪いたままの守護騎士ガーディアン・ナイトよりも小さくて可愛いのが印象的です。

 見た目に反して言ってる事は物騒だけど……


「面倒くせぇ……」


 双剣の無精髭が跪いて頭を下げた状態で囁いた。


「何か言ったか?」


 アースラが鋭い視線を双剣の無精髭に投げる。


「いえ……何も……」


 双剣の無精髭は、何事もなかったように静かに応えた。


 まあ、確かに突然「戦争に出ろ」とか言われたら俺もそんなセリフを吐くかもしれんな。

 本当に申し訳ない。


「お前も不服か何かあるか?」


 アースラは巨躯プレートメイルに腕組の姿勢で鋭く問いただす。


「はい! ケント殿との模擬戦闘を所望します!!」

「はあ……いうと思ったよ。

 ケント、こいつはお前の実力を試したいと言っている。

 構わないな?」


 戦闘系の神の使徒だけあって、やっぱりそういうのを試したがりますよねぇ。


「了解した。

 それで……どこでやる?」

「トリエンに決まってるだろ」

「トリエンを壊す気か!?」

「馬鹿、そんなワケあるか。

 最近、随分と立派な闘技場が出来上がったと聞いているんだが?」


 ん? 闘技場?

 もう出来たの??


 聞いてみるとトリエンに在住のドワーフたちが悪ノリで建設を急ピッチで進めたらしく、すでに出来上がってるんだそうだ。

 まだ闘技場としての運営は始まってないようだが。


 んで、この巨躯プレートメイルは、真新しい闘技場での初戦闘の名誉を欲しがっているって事みたいだ。


「俺は構わんが。

 四人全員相手するの?」

「俺だけで十分ですが!?」

「いや、君だけじゃ一瞬だろ?」


 俺がすかさずツッコむと、巨躯プレートメイルは一瞬だけ不快な表情を浮かべたが、直ぐにニヤリと笑った。


「創造神の後継殿の言う事だ!

 全員でお相手頂くとしよう!!」


 その言葉に他の三人は露骨に嫌な顔をしていた。


「他の三人は嫌がっているようだけど?」

「我らアースラの使徒は、渾然一体……だったっけ!?」

「一心同体じゃない?」


 エロ姉さんがツッコむ。


「ああ、それそれ!」


 巨躯プレートメイルが嬉しげに言う。


「俺は別に……」


 やはり双剣無精髭は面倒臭そうだな。


「何か言ったか?」

「いや、何も……」


 どうやら巨躯プレートメイルがリーダーっぽい。

 やはりライトノベルとかでよく見るように、脳筋がリーダーだとパーティは色々と面倒なことになるようだな。


「アースラ、大丈夫なのか?」

「みなまで言うな。

 俺もどう躾けていいのか解ってないんだからな」


 使徒にしてからどのくらい経つのか知らんが、相当手を焼いているんだろうな。

 解り味しか無い。


「んじゃ、今からすぐに行こうか」

「ケント殿は光柱転移が可能なのか!?」


 声でけぇな。


「いや、普通に転移門ゲートを出すけど?」

「その転移門ゲートって何? お姉さんに詳しく」


 後ろからエロ姉さんに抱きつかれた。

 俺の後頭部が乳に埋もれてるんですけど……


 待て。俺は立ったままだぞ? この姉さん、身長どんだけあるんだよ!


 びっくりして腕を引き剥がして後ろを振り向いた。

 そして姉さんの頭の天辺あたりまで視線を向けると、かなりの角度で見上げる結果となる。



 俺の身長は約一七〇センチ。

 この姉さん、二メートルは優に超えてるな。


 俺がビックリしているとエロ姉さんは「あはは」と笑った。


「やはり驚くわよねぇ。この身長のお陰で男日照りが続くのよ、キィ!」


 ハンカチを取り出して悔しげに噛みついている。


 それやる為にハンカチをわざわざ取り出すのかよ……


 何にしても、コイツらはかなり愉快な奴らのようです。

 これは「アースラと愉快な仲間たち」てサブタイトルが付きそうです。


 それにしても、ホービットの少女……

 他の面々がデカイ所為か、本当にちっちゃいな。

 逆に目立つ気がしないまでもない。


 何はともあれ、こいつらと模擬戦か。

 姿形はともかく、こいつらがどんな戦い方をするのか把握しておくのは悪くない。

 トリエンには仲間たちもいるので彼らにも吟味してもらいたいしね。

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