第30章 ── 第19話
翌日、村長宅でダークエルフたちが村の歴史みたいなものを書き溜めているとの事で読ませて頂いたところ、五年前のゴブリン大襲撃事件から書いているみたいで、大した収穫はなかった。
昼になり昼ご飯を仲間たちと頂いていると、姿が見えなかったアラクネイアが戻ってきた。
「主様、お世話も致さずに出掛けておりました事をお詫び申し上げます」
アラクネイアはご飯中の俺の近くまで来ると跪いて謝罪をする。
「え? ああ、別にいいよ。
何か用事があったんだろ?」
「はい。子供たちのところへ顔を出しおりました」
この深い森の中で子供たち……ああ、アラクネーたちだな。
「そういや、アラクネーたちも森に住んでいるんだったっけ?」
「ここから一〇〇キロほど南に行った辺りに幾つか集落を構えております」
行って帰ってきたにしては早いな。
さすがはアラクネイアの走破力ですかな。
アラクネーの集落ってのに興味はあったけど、トリエンに住み着いているアラクネーたちと生活の仕方とかは変わらない気がするし、訪問は止めておこうか。
アラクネーも基本的に女しかいない種族らしいので、ニンフたちみたいに「子種ヲクレ!」とか言い出しかねないからなぁ……
数日の滞在の後、そろそろ出発しようという話になりました。
一応、仲間たちが何をしていたのか聞いてみたのでご報告。
トリシアはハリスの支援を受けつつ養蜂の要となっているキラービーの生態調査を行っていた。
キラービーは本来飼い慣らせるモンスターではないようで、その習性や行動パターンなどを調べることができれば、外の世界でキラービー被害を減らせる事が期待できるという。
アナベルは、戦いの女神マリオンの
アナベルのような上級
まあ、俺の作った神官服と彼女が首から下げている聖印であるメダリオンを見ればマリオンの
ちなみに、この村にも小神殿のようなものがあるそうで、そこにアナベルは通ってマリオンからの教えを村人に説いていたと聞く。
この小神殿がマリオンの神殿だったのは言うまでもない。
マリスはというと村の子供と遊びまくってたようだ。
三〇〇〇年以上生きていると聞いているけど、中身はまだまだ子供なのだろうな。
多分、「伝説の剣ごっこ」をしていたんじゃないかと俺は推測している。
この前良い感じの長さの枝を持って出掛けていったのを目撃したからな……
ハリスはトリシアの手伝いをしていたと書いたが、彼は分身を活用して色々な事をしていたらしい。
基本的には陰ながら仲間の護衛。
俺の影にも潜んでもらってたしね。
とは言っても、護衛が必要な仲間は少ない。
そこで村を防衛している自警団たちに戦闘の手ほどきをしたり、村周辺に近づいてくる獣などを討伐して肉や革などを村人たちに分け与えていたらしいんだよね。
今では村人たちから生き神様のように崇められる存在になっているようだ。
スーパー素敵忍者の行動がイケメン過ぎてゲッソリしてしまいそうです。
俺なんて食って寝る、時々魔法道具の設計とか作成してただけだもんなぁ……
エマはフェアリー・テイルの醸造所に行っていたらしいね。
エマはトリエンで魔法道具の作成やら修理を仕事にしているとマリスにバラされたんだけど、村長のヴァリスが醸造に必要な魔法道具の開発を依頼していたんだよね。
まあ、エマは魔法道具の設計はできないと固辞していたんだけどね。
エマが早々俺に泣きついてきたので設計だけは手伝ってやったよ。
エマには彫金スキルもしっかり覚えさせてあるので、魔導サーキットの作成にも問題はないし、何より魔法道具の作成は実際に作る経験を積んだ方がいい。
結果として、結構時間は掛かったみたいだけど、エマも満足できる魔法装置が完成したようです。
ちなみに、作った魔法装置は高速醸成工程を実現させる装置ですね。
醸造過程で一番時間が掛かるところですからな。
この装置を駆使すると出荷できる品質のフェアリー・テイルが一年で完成するようです。
フェアリー・テイルは出荷までに二年掛かるんだから、毎年安定した出荷が可能になるってのはかなりのアドバンテージです。
続いて魔族連。
アラクネイアは、先に出てきたようにアラクネーとダーク・エルフたちの橋渡しを画策していたようです。
商売的な繋がりは当然の事として、安全保障上の関係にも踏み込んだ関係性を模索していたと報告を受けている。
現在のエクノール村は、以前より人口も増えて防衛力が増しているのは間違いないのだが、大型モンスターに対する防衛力には疑問がある。
そこで、アラクネーたちとの関係を深める事で、アラクネーたちも村の運営に参画させられるような体制を築こうという事らしい。
アラクネーという種族は外部との関係を断つわけにはいかない特性があるので、ダークエルフの男性という存在を確保しておきたいのではないかと俺は推測している。
アモンはハリスと組んでたよ。
村人の戦闘訓練の事ね。
はっきり言ってアモンが戦闘訓練の教鞭を取るとそこは地獄になるのでは……という疑問が。
なにせ地球じゃ大悪魔扱いですからな。
ダーク・エルフのメイン武器は弓が多いんだけど、距離を詰められた時に剣技も重要になるから村人にもありがたい話だったのかもしれない。
フラウロスは猫でした。
いや、猫人族のフリして気ままに歩き回り、そして色々な場所で昼寝している現場が目撃されるという奇行が噂になってました……
いやまあ、猫としては行動に間違いはないんですけど。
フラウロスの猫人族への理解が怪しいって事が浮き彫りになったというべきかもしれません。
一応書いておこうか。
おまけのゲーリア君ですが、どうやら酒蔵関係者といろいろやってたらしいです。
ちょっとした酒造りに役立ちそうな魔法薬を作ってやったりして小金を稼いでいたみたい。
まあ、錬金術は非常に金が掛かるそうなので商売するのも解りますけど……君んちのベッドから少々持ってくればいいんじゃないんですか?
そう言いたくもなったけど、何か理由があるのかもしれないので黙っておきました。
そんなこんなで出発当日。
しょっぱなからヴァリス村長が号泣です。
ダーク・エルフ巨乳美人が涙と鼻水でぐしゃぐしゃってどうなんでしょうか。
「マリストリア様……えっぐ……もっと一緒に……うぐぅ……」
「泣いてはならんのじゃ、ヴァリス!」
泣きながら蹲るヴァリスの頭をヨシヨシするマリスにギャップ萌え。
普通逆だろ、大きさ的に考えて。
「トリシア師匠、貴女の教えをずっと守っていきます!」
「馬鹿もん。技は進化、発展させねば意味はない。
この地に合った技術発展を成し遂げろ」
トリシアの叱咤激励にダーク・エルフの警備団弓兵隊の面々は感激しているようだ。
まあ、トリシアの言い分も当然の事だけどな。
「聖女さま……信者一同、さらなる強さを追い求めます」
「がんばってください~。
マリオンさまはいつも見ているのです」
あっちはあっちでマリオン信者どもがおりますな。
聖女っていっても
血みどろ聖女って感じでちっとも神聖っぽくない気がしてならない。
ドーンヴァースだと返り血エフェクトはないから気にならなかったけど、彼女の戦闘を見るとかなりスプラッタですからね。
で、あっちの凄いビシッと整列しているのはアモンとハリスが鍛え上げた抜刀隊でしょうか。
いや、抜刀隊ってのは俺が勝手に名付けただけですけど。
なんだかそんな雰囲気だったので。
「剣の道は一日ではなりません。
日々の努力を怠らぬように」
「はっ! お言葉のままに!!」
うん。かなりの訓練深度ですね。
怖い怖い。
で、俺の前には一人来てます。
「旦那。できれば私も付いていきたいんだけど……」
「ああ、ラビリータさんは、ここで受付を続けないと」
「はい……」
ボン・キュッ・ボンなので仲間にしても……と頭を過った自分がいましたが。
「そうね。
貴女はこの村に必要ね」
エマがニッコリと微笑みながらラビリータ嬢を牽制しております。
連日顔を出す商業ギルドの受付にエマが過剰反応を示してしまい、こんな態度に出ております。
まあ、前衛職はウチのパーティ的に余っているのでパーティ・バランス的には不必要なのは間違いない。
人数的にも多すぎますしね。
「んじゃ、そろそろ出発しようか」
俺の号令でマーチング・オーダーの先頭であるマリスが歩き出す。
最後までヴァリス村長が号泣していましたが、残念美人に免疫が出来ている感が半端ない俺なのでスルーですよ。
東へと針路をとって鬱蒼とした森を進む。
今後の予定としては、このまま森を抜けて一度オーファンラントへ行く事に。
そのまま北へ向かってグリンゼール公国を観光するのも手かも。
南国フルーツがあるようなので仕入れに行きたいところだしね。
巨人の果実酒を買いに行くってのも考えたけど、針路的に戻る方向なので今回はやめました。
バルネット魔導王国に向かうことにでもなったら考えようかね。
魔族たちが活動する中心地っぽいので、いつか行かないといけないと思う。
ま、今すぐじゃないし気楽に行こう。
今は気ままな旅を楽しみましょうかね。
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