第30章 ── 第12話

 一通り村を回った後、マリッサは族長宅に案内してくれた。

 今日はここに宿泊してもらう予定だとか。


 村にはそれなりに立派な宿屋があったんだがなぁ……

 まあ、好意は素直に受け取っておこう。


 マリッサの先導で族長宅に入ると、女性の使用人がいて、俺たちを部屋に案内してくれた。


 奥の方に二人部屋が五つ用意されてたんだが、一部屋だけベッドが一つしか入っていない。

 うーむ、一人分足りないな。


 男は、俺、ハリス、アモン、フラウロス、おまけのゲーリアで計五人。

 女は、トリシア、マリス、アナベル、エマ、アラクネイアで計五人。

 

 女性の使用人に確認の為聞いてみる。


「あの、俺ら全部で一〇人なんでベッドが一つ足りないみたいなんだけど……」

「え?」


 使用人はキョトンとした顔で俺を見て首を傾げる。


 あれ? この反応なの?

 ダークエルフの風習か何かで、特定の人物は一つのベッドを二人で使うなんて事があるのかもしれない。


 この場合はエマとマリスだろうか。

 見た目は子供だからな……

 子供は二人で一つのベッドって事かね?


 それともハーフ・エルフのエマが対象で、混血は人数に数えないとかか?

 それはそれでかなり失礼な話なんだが。


 この村に来てから何度か失礼な態度を取られてきているので、俺は少々パラノイアっぽくなっているっぽいです。

 彼女の反応を見ると悪意があってこの対応とは思えないので、なにか理由があるのかも。


 俺の困惑した顔に気づいたのだろうか、女性使用人は慌てて口を開いた。


「マリストリア様は、お連れ様たちとは別に自室がありますので、相部屋ではありますが五部屋ほどご用意させて頂きました。

 誤解なされるような言葉足らずのご案内を致しました事、申し訳ございません」

「ああ、そういう事なんですね。

 こちらこそ変な事を言って申し訳ない」


 いやはや、早とちりでしたな。

 やはり少し被害妄想が入ってました。


 確か、マリスは怪我の療養に二ヶ月ほど滞在してたんだっけ。

 そりゃ族長の家に自分の部屋を用意されててもおかしくないわな。

 いや、ほんとゴメン。

 それじゃ一人部屋はゲーリアに充てがっておこうかな。


 部屋割りを適当に済ませて、取り敢えずベッドに腰掛けて寛ぐ。


 しかし、部屋には明かりがないので薄暗く、妙に落ち着かない。

 もちろん窓はある。

 ガラス窓ではなく鎧戸で、開けてあっても入ってくる光は高が知れているので仕方ないのだが。


「ふむ……」


 俺は早速、取り掛かった。

 せっかく泊めてもらうんだし、さっき失礼な誤解をしたのもある。

 一つ、便利な魔法道具をプレゼントしてもバチは当たるまい。


 小さい机と椅子が二つ備え付けてあるので、その一つをお借りして作業を開始する。


 この樹上建造物はそれなりに大きいので、全部で二〇部屋くらいあるだろうか。

 小部屋が一〇、大きな部屋が一〇くらいかな?


 ミスリル棒を小さめに一〇個、大きめに一〇個切り出して、先端に小さい水晶を取り付ける。

 棒の方には術式を彫り込む。レベル二に光属性の魔法なので大気中から魔力を吸収する方式で問題ない。

 一本作って水晶部分に白光ライトの呪文を付与する。


 はい、一〇分も掛からずに一本目が完成だ。


 机の上に立てるように置いて、先端の水晶部分を指先でポンと叩く。


 ピカーッと水晶が光りだした。

 もう一度水晶部分を叩くと光は消える。


「よし、成功」


 その後、光の強さなどを確かめつつ小さい部屋用と大きい部屋用を一〇本ずつ用意しました。

 これだけあれば、ロウソク、松明、ランプの代わりになるだろう。


 俺は充てがわれた他の三つの部屋に一本ずつ配って使い方も説明した。


 エマには「大盤振る舞いね」とか嫌味を言われたが、「コレ、トリエンでも売り出した方が良くない?」とのお言葉も頂いたので悪いモノとは判断されてないようだ。


 売るとしてもミスリル製だと市場価格がいきなりと跳ね上がるので、使用素材の変更、または販売価格の調整などは必須だろう。

 その辺りは魔法担当官のエマに任せていい。

 役所の魔法道具販売を担当する部署と上手く話し合って決めてくれるはずだ。

 一般用と貴族用とかに分けて上手に流通させてくれると思う。


 継続白光コンティニュアル・ライトをランタンに掛けるという荒業も考えたが、ずっと白光し続けるので光を消せないし扱いに困る事があるんだよね。


 マリスが持ってるようなシャッター付きのランタンって銀貨二枚もする高いヤツなんだよなぁ。

 そんなのよりも鉄の棒みたいなものに術式彫り込んで付与した方が経済的だろ?



 夕方になり陽の光が窓から入ってこなくなると、女性使用人がロウソクを届けてくれたんだけど、机の上で光っている魔法道具を見て唖然としてた。

 彼女には一応使い方を教えて、残りのヤツを渡しておいたので族長宅では明かりに困らなくなった。

 ヴァリスとやらも喜ぶに違いない。


 しばらくして別の女性使用人がやてきて食事の用意ができたと伝えてきたので広間に足を運ぶ。


 ん?

 おかしいな?

 何がおかしいって?


 迎えに来た使用人がランタンを下げているのはいい。

 廊下にまで魔法の光を使うのは贅沢だと感じる場合もあるからね。

 でも、通された広間は別だろう。


 何でロウソクの明かりのままなんだ?


 広間は何本ものロウソクで照らされていたのである。


 俺が怪訝な顔で周囲を見回しているのに気づいたヴァリスが首をかしげた。


「どうかなされましたか?」

「いや、俺が渡した魔法道具が使われてないみたいなんで」

「魔法道具……?」


 広間には何人か使用人がいるが、例のモノを渡した使用人が見当たらない。


 やられた!

 俺は大マップ画面を開いて検索を掛けた。


 使用人の名前が解らないので、魔法道具「白光ライト装置(今、命名)」を検索する。


 ストトトトンとピンがマップに落ちていく。

 四本は族長宅に、一六本は村内の一画に全部落ちた。


「どうしたんでしょうか?」

「ああ、魔法道具泥棒が出たんですよ」

「なんですって……」


 ヴァリスの顔は一瞬で血の気を失う。


「部屋の準備をしてくれた使用人だと思うんだけど……名前は解んない」


 俺はアモンに言って彼の部屋にある白光ライト装置を持って来てもらう。


「盗まれたのはコレですね」


 俺は食事の置かれたテーブルに装置を立てると水晶をポンと叩く。

 すぐにピカーッと光り出して周囲を明るく照らし始めた。


「こ、これは!?」

「大したもんじゃないけども、コレを二〇本ほど作って使用人の女性に渡したんだよ」

「こんな凄いものを……?」

「いや、付与されてる魔法自体はレベル二程度のモノだし、大した道具じゃないんだよ」


 エマもコクコクと頷く。


「それを道具に定着させるのが至難なんだがな」


 トリシアが肩を竦める。


 永続パーマネンスセンテンスを組み込んだ段階で付与に必要なMP量が、主体となる魔法のレベルなんかでは測れないほどに増えてしまうからな。


「そ、それをうちの使用人が盗んだと……?」

「申し訳ないがそういう事だ」


 俺は大マップ画面を誰にでも見られる設定する。


「こ、これは!?」


 いきなり表示される画面にヴァリスは度肝を抜かれる。


「コレは古代の遺物アーティファクトだから気にするな。

 んで、表示されてるのがこの村の地図ね。

 見てくれ。

 ピンが立っているだろう?

 ここに俺が作った魔法装置がある」


 そのピンの横に光っている光点が盗んだ犯人だろう。

 光点をクリックしてみた。


『ペネトレア・セイサリス

 職業:盗賊シーフ、レベル:三四

 世界樹の森に生まれた元冒険者のダーク・エルフ。

 冒険者の引退後、エックノール村のヴァリス村長に拾われて使用人となったが、客に渡された魔法道具を盗み逃亡中』


 ダイアログが表示され、その表示をヴァリスも仲間たちも見た。

 大マップ画面を閲覧可能にしているんだから、これも見られるようになるのは当然の仕様です。


「確保よろしく」

「承知……」


 ハリスは一つ頷くと分身を一体出した。

 分身は一瞬で影に沈んでいく。


 大マップに表示されている光点の横に青い光点が現れて、最初からあった光点に重なるように動いた。


 はい、確保完了ですねー。


 案の定、大マップ画面からはピンも光点も消えてしまった。

 それと同時に影から例の使用人を抱えたハリスの分身が戻ってきた。


「任務……完了……」


 ドサリと気絶した使用人を床に落とすと分身はハリス本体に吸収されるように消えていく。


「相変わらず早業じゃ」


 マリスはハリスに親指を立ててニッコリ笑った。


「ハーネ! サラン! ペネットを縛り上げなさい!」

「「はっ!!」」


 ハーネさんとサランさんが荒縄を持ってきてペネトレイアとやらをキツく縛り上げる。


 マリスがペネトレイアが持っていた鞄の中身を調べると、携帯食、冒険者がよく使う道具類、松明、武器、衣類などが背嚢バッグパックと鞄に詰め込まれていた。

 俺の白光装置は、鞄の方に布に包まれて入っていた。


「これじゃな。

 よくもまあ、ケントから盗もうと考えたものじゃのう」


 マリスに包みを渡されたので、そのままヴァリスに渡した。


「はい、無事に取り返せたのでお渡ししますね」


 ヴァリスは反射的に受け取ってしまったが「え?」とは「は?」とか言いながらアタフタしている。


「いや、これってヴァリスさんに送ろうと思って作ったんですよ。

 大したもんじゃないんで気にせず受け取ってください」

「大したもんじゃないワケはないんだけど、ケントには本当にその程度なのよね」


 エマは「はぁ」と溜息を吐きながら「刻み込む術式を組む段階で本来なら何年も掛かるはずなのに」とブツブツ小声で言ってた。


「さて。せっかく、お呼ばれしたんだし食事が冷めたら悪いし。

 みんな、席につこうか」


 何事も起きなかったかのような俺たちの反応に、周囲はまたもやポカーン状態だ。


 ヴァリスさんは、「そ、そうですね!」と言いながら慌てて席についた。


 笑顔だけど、相当無理して表情作ってるよね。

 まあ、ウチらはこんなヤツらだし、色々諦めてください。

 そのうち慣れますよ。

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