第30章 ── 第9話
マリスと巨乳ダークエルフが笑顔で村の中に入って行く。
俺と仲間たちはそれについて行くしかない。
一応、村の様子を観察してみると、ファルエンケールなどのエルフたちと同じように樹上にデッキを作ってその上に家などを設置しているようだ。
もちろん、地上にも建物は存在するが、この村にはドワーフが少ないので木造建築物が基本だ。
住居というよりも倉庫とかが多いような感じだな。
高床式だったのでそう思っただけだけど。
「ヴァリスよ」
「何でしょうか?」
「村が以前よりも大きくなっておるような気がするのう」
「あれから五年ほど経っておりますから」
ヴァリスという巨乳ダーク・エルフがマリス以外の俺や仲間たちに全く興味を示してない。
久しぶりに会えたのだから仕方ないと思とは思うが、微妙に寂しさを覚えるのも事実である。
俺だけがそう思っている事でもなかったようで、魔族三人衆が微妙にドス黒いオーラを発し始めていた。
「まぁまぁ、落ち着け」
「しかし、主様。
少々失礼では?」
「そう言うなよ……」
とある木の根元に手動の大型昇降機が設置されていて、マリスたちがそれに乗った。
俺たちが乗ろうとした時、昇降機が上がり始めてしまう。
流石に「これはないなー」などと思っていると、エマががキレた。
「失礼極まるってこの事じゃないかしら!?」
「確かに、あんまりかもしれないのです」
アナベルも頷く酷さなのは間違いないかもしれんな。
トリシアがキレてないのが不思議ではありますが、その理由は上がっていく昇降機を見上げて解りました。
見えるほどの黒いオーラが漂い始めてました。
もちろん上昇していた昇降機がグラリと揺れたかと思うとピタリと止まった。
そして上がっていた時よりも早い速度で下りて来くるのが見える。
ガタン! と少々手荒な着地と共に、ヴァリスとやらが、俺たちへとジャンピング土下座をかましてきました。
「マリストリア様のご友人の方々! た、大変失礼致しました!」
突然の謝罪に、俺は「あ、うん……」としか言えなかった。
彼女の後ろにはやっぱり黒いオーラ全開のマリスがいましたよ。
「いかな野営の師匠たるヴァリスでも、我の仲間にやっていい事と悪い事があるのじゃ……」
「マリストリア様との再会の嬉しさのあまり、周りが見えておりませんでした!」
地面に額を擦り付けるヴァリスを見ていて凄い居心地の悪さを感じ、俺は眉を顰めてしまう。
「マリス、そのくらいで」
「じゃが……」
「女性に土下座させても俺は喜ばないよ」
俺が諫めるとマリスがシュンとしてしまう。
周囲に漂っていたマリスと仲間たちの黒いオーラも一瞬で霧散する。
仲間たちの反応も解るが、ラノベとかではダーク・エルフって排他的な種族な事も多いし、少々失礼な態度をとってもあまり目くじらを立てない方がいいと俺は思う。
ちょっと注意する程度でいいかと。
まあ、俺も虫の居所が悪いと強硬な態度になる事もあるんで何とも言えないんだが。
五分後、俺たちは樹上にあるダーク・エルフの集会所に仲間たちと共に椅子に座っていた。
もちろん、テーブルを挟んで向かい側にはヴァリスと、その腹心と思われるダーク・エルフたちが数人座っている。
「先程は、大変失礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした」
「ケントがそれはもうよいと言っておる」
「ははっ!」
ヴァリスはマリスにそう言われると目を閉じ頭をペコリと小さく下げた。
「この度は、マリストリア様、それとご友人方のご来訪、誠に嬉しく思っております」
「いえ、突然お邪魔してしまい、申し訳ありません」
仲間たちを代表して一応返答してみた。
ヴァリスさんはティエルローゼ人の例に漏れずかなり顔が整っている。
そんな美人に畏まられると、こちらも固くなってしまうのである。
それだけならともかく、先程の出来事でマリスとヴァリスの打ち解けていた空気はぶち壊しになってしまっていて、今は非常に畏まった感じの受け答えになっている。
非常に気まずい感じだ。
「まあ、我がヴァリスに会いたくてケントたちに付き合って貰ったのじゃが……」
マリスも微妙に居心地が悪いようで、身体をモゾモゾさせる。
「…………」
沈黙の帳が降りる……
「うがーーーーーー!!!!」
俺は堪えきれなくなって椅子から立ち上がると奇声を上げて頭を掻きむしった。
その突飛な行動に周囲が全員漏れなくビクッと身体が固くしたのは言うまでもない。
「こういう雰囲気やめてぇ~~~!!」
誰もが俺の言葉にポカーンとした顔になる。
その顔を見て、俺は頭を掻きむしるのをやめて表情を真面目な顔に戻してから何事もなかったように椅子に座り直す。
ダーク・エルフたちはポカーンを通り越して呆然としている雰囲気があった。
「やれやれ、ケントの一発ギャグが通用しないとは……
ヴァリスも族長になって頭が固くなったのじゃなぁ……」
「え!?」
マリスがボソリというと、ヴァリスが甲高い声を上げる。
「ここでドッカンドッカン笑わねば、ケントが恥ずかしい思いをするだろうな」
「確かに。それは間違いないのです」
「……スベッたか……」
次々に仲間のツッコミが入り、俺はどんどん顔が赤くなっていく。
「ほら。みんな、そのくらいで止めてやりなさいよ。
もう、顔真っ赤よ」
そのエマの一言で、ハリスが堪えられなくなり横を向いて吹き出した。
それが引き金となり、仲間たちが次々に笑い出す。
やはり沸点が一番低いのはハリスの兄貴か……
緊張が一気に解けた為か、ダーク・エルフたちも笑い転げ始めた。
入り口の見張りの奴らも笑ってたので、俺のボケも無駄じゃなかったと思いたいところである。
重苦しい雰囲気よりもマシだろうと思ってやってみたんだが……
普通の時にやっても何も面白くないんだと思うけど、こういう時は効果あるんじゃないかな。
まあ、コミュ障の俺に期待しないでくれ……
ひとしきり笑ったところで、なんとか雰囲気が和んだ。
「マリストリア様、ご紹介頂けますでしょうか?」
「うむ。我の隣に座っておるのがケントじゃ。
我の嫁じゃぞ」
「え!?」
「いや、スミマセン。嫁じゃないです。
冒険者仲間のケント・クサナギと申します」
「そこは肯定してくれないと我が恥ずかしいのじゃが?」
「そんなのケントが認めるワケないじゃない」
エマのツッコミがすかさず入る。
「ははは……」
俺は苦笑いするしかない。
「それでじゃ、こっちはトリシア。
我が冒険の旅に出るキッカケになった伝説の冒険者じゃぞ?」
それを聞いてヴァリスがポンと手を打った。
「ああ、あの時見せて頂いた本の主人公の……」
「うむ、そうじゃ」
「では、マリストリア様の夢が叶ったのですね?」
「そうなるのう。
じゃが、それはケントのお陰じゃな。
ケントが声を掛けてくれたから、今があるのじゃと我は思っておる」
いや、偶然なんだよなぁ。
俺とハリスがカスティエルさんの馬車に乗ってトリエンに戻ってなかったら、出会うことも無かっただろうしね。
続いてハリス、アナベル、エマと続き、魔族たちも紹介される。
最後にゲーリアがついでといった感じで紹介された。
今まで空気だったので俺も忘れていた。
その間に、俺はヴァリスのステータスを確認しておいた。
レベルは五〇ほどあり中々の強さである。
人狼の呪いは既に溶けているのか、ステータスでは確認できない。
自己紹介の後は、マリスとヴァリスがお互いに近況報告をし、俺たちとマリスの出会いや冒険譚などに花を咲かせた。
さらにマリスとヴァリスの出会いなどについても聞いた。
マリスは実家から旅立った初日にヴァリスに出会ったそうだ。
その時から野営などの冒険の基本というかサバイバル的なものをヴァリスに教えてもらったらしい。
途中ゴブリンの斥候隊に襲われたが、そのお陰でヴァリスの村が危機に陥っている事を知ったヴァリスは村に戻った。
ヴァリスの後を追ったマリスは途中でフォックに出会い、村までの道案内をしてもらった。
大量のゴブリンに襲われていたヴァリスの村では、ダーク・エルフたちがゴブリンと戦っていたが多勢に無勢で三分の二ほどの人口が失われてしまったという。
マリスが村に着いた時、周囲はダーク・エルフの死体だらけだった。
マリスはヴァリスを探し、村の中で必死にゴブリンと戦ったそうだ。
ヴァリスを見つけた時、彼女は狼の姿で暴れまわっていた。
ヴァリスにゴブリンの錆びた刃が突き立ったのはその時だった。
マリスの怒りが爆発し、例のハーフ・ドラゴン化したのはこの時が初めてだったという。
その姿を見たゴブリンたちは恐怖で動けなくなり、生き残りのダーク・エルフ、ヴァリス、マリスによって駆逐された。
この時、マリスは結構大きな怪我をした。
その傷口を狼の姿のヴァリスが心配した顔で舐めた時、奇跡が起こった。
「ええ。マリストリア様の傷を舐めた私は、この姿に戻ったのです。
それ以降、狼の姿になることはありませんでした」
それは興味深い。
何が原因で呪いが解けたんだろうと思っていたが、これはドラゴンの血が呪いを解いたのではないかと思われるね。
解呪の力があるとは聞いたことはないが、錬金術で引っ張りだこの素材だとするとそういう効果があっても不思議ではないかな。
古代竜のだしね。
それにしても、マリスがそんな修羅場を潜っていたとは思わなかった。
出会った頃はレベルも低かったしねぇ。
ちなみに、当時のフォックはそれほどレベルが高くなかったようで、この戦闘には参加していなかったんだと。
まあ、神獣といっても小狐だからね……
それでも以降はそれなりに修行したみたいで、今では結構なレベルになっている。
ヴァリスもフォックも結構頑張ったと笑顔で言っているしね。
まあ、俺の加護も無しにそこまで上がってるのは世界樹の森ならではって事なんですかね?
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