第30章 ── 第8話
昼食を終えてフォックの案内で先を急ぐ。
途中、小川に行き当たる。
「おー、ここじゃ。
我はここでフォックと出会ったのじゃ」
「一緒に水飲んだ」
「そうじゃったな」
マリスの思い出の地巡りになっているが、まあそれも仕方ない。
故郷を離れてから五年も経っているって言ってたし。
古代竜だとそれほど長くも感じないかもしれないが、人間の時間感覚なら結構な長さだしな。
「ここから三時間も行けばヴァリスの村じゃな」
「んーん、一時間」
「そんなに近かったかや?」
「マリス、前より早い」
森を進む速度の事を言っているのだろう。
確かにレベルが一桁だった頃と比べたら、進むスピードは桁違いだろう。
小川を渡り、森の中を更に進む事一時間。
「あ! 確かにここに来たのじゃ!!」
少し森が開けた場所に来た途端、マリスが嬉しげな声を上げた。
「見覚えあるのか?」
「うむ。ここは死体だらけの血だらけじゃったからな。
ほれ、あそこの隅に転がっている岩、あっちの巨木。
あの時の記憶のままじゃ」
俺も周囲を見渡してみる。
……ふむ。確かに人の手が入ってるみたいだな。
村の入口としての場所なのかは判断付かないが、むき出しの地面には手入れされている痕跡が微かに感じられる。
「ここから、あの二本の木の間を通ってさらに一時間ほど真っ直ぐに進むとヴァリスの村じゃ。
途中、こういった広場があるのも目印じゃ」
同じような広場があるのか。
この土地のエルフ特有の
「トリシアは、そんなエルフの様式に心当たりは?」
後ろを歩いているトリシアに聞いてみるが、彼女は横に首を振った。
「いや、ないな。
だが……」
上下左右と様々な方向を観察してトリシアは再び口を開く。
「……多分だが、この広場は防衛線の一部だろう」
「防衛線?」
「ああ、部隊を配置して段階的に敵を防ぐ。
広場に数人配置して囮にすると見た。
この付近の木々は巧んで枝を育てたのだろう」
俺は葉の茂る木々の枝ぶりを観察してみる。
「あの枝を見ろ。ドルイドの技に違いない」
トリシアが指で示すあたりの枝は、真っ直ぐ横に伸びていて、確かに人が何人か並んで陣取れそうな枝ぶりだった。
あちこち見てみると、なるほど横に不自然に伸びている枝が広場の周囲だけにあるのが判った。
確かに上部からの待ち伏せには持って来いって感じだった。
「しかし、囮ってのは中々物騒だね」
「仲間の命を持って確実に仕留めるという事なんだろうが、ファルエンケールでは考えられない戦法ではあるな」
生存競争の激しい中央大森林だからという可能性もあるな。
ここらに住むモンスターのレベルは高すぎるからねぇ。
それに比べればファルエンケールは平和そのものだし。
まあ、ワイバーンは出たけどね……
あれは逸れだったんだろうなぁ。
普通現れないモンスターだったみたいだからね。
世界樹の森はワイバーンくらい危険なモンスターがゴロゴロいるとかいないとか。
最低でもレベル三〇以上の冒険者パーティじゃないとヤバイらしいしな。
ランドールはこんな森でよくまぁスキップしながら歩いてたよねぇ……
あいつも実はかなりの剛の者て事だよ。
マストールよりレベルが高かったのも頷けますな。
マリスたちに付いていくと、確かに少し歩く度に同じような広場があり、頭上には真横に伸びるように張り出た枝が確認できた。
そういった広場を四~五個通り過ぎた時、上からエルフが降ってきた。
俺たちの前に音もなく着地すると、武器を自分の前に置いたまま跪いて頭を下げた。
「お帰りなさいませ! マリストリア様!!」
「む!? 我を知ってるとはヴァリスの仲間であるな?」
「勿論でございます! 私も貴女様に助けられた命の一つにございます!」
うーむ。
この降ってきたエルフ……
俺が今まで見てきたエルフじゃねぇ。
うん。
マリスはエルフって言ってたけど、こいつはトリシアたちウッド・エルフやシルサリアたちハイエルフとは別系統のエルフだ。
身体や顔の造形は間違いなくエルフだろう。
耳も長いし。
だが、その肌の色は他のエルフと完全に食い違う。
エルフは総じてかなり綺麗な白に近い肌の色だが、こいつの肌は妙に浅黒い。
いや……陽に焼けている褐色とかとは違う感じの色あいです。
灰色っぽいと言うべきかな。
これは多分ダーク・エルフってヤツですな。
色々な作品に出てくるエルフの種類だし、悪の陣営に属している事も多い事で知られているかもしれないな。
ただ、従来のファンタジー小説だと、肌は褐色っぽい描写が多い気がするよな。健康優良児っていうか、山姥JKっぽいヤツ。
でもこのダーク・エルフは灰色だよ。
そういや、某有名TRPGだとグレイ・エルフってのがいたっけ?
種族特性みたいなには知らんけど。
「トリシア。
彼はダーク・エルフってヤツでは?」
俺はトリシアの様子を確認がてら話しかけてみた。
大抵ダーク・エルフは他のエルフ種族から忌避されていたりするんだが、トリシアは大丈夫だろうか?
「肌の色は見たことないが、確かにエルフのようだ。
このような肌の色のエルフがいるとは私も知らなかった」
自分の肌の色と跪いているダーク・エルフの肌の色を交互に見ながらトリシアは答える。
忌避感は持っていないようなので、少し安心する。
マリスが助けたというエルフの集落と険悪な仲になるのは避けたいですからな。
「まぁまぁ、そう跪かれたままだと困るんで立ってください」
俺がそう言うと、ダーク・エルフはギラリと殺気の籠もった目で睨んできた。
俺はつい、笑顔のままで固まってしまう。
すかさずマリス・チョップがダーク・エルフの頭に叩き落された。
「あだっ!!」
「あだっじゃないのじゃ!
お前、ケントを睨み付けるとはいい度胸じゃな?」
頭を庇いつつ涙目のダーク・エルフに、マリスが食って掛かる。
「我はケントの盾じゃ。
ケントに敵対するのであれば、我の敵になると知れ!」
「も、申し訳ございません!!!」
ダーク・エルフは言葉通り地面に額をこすりつけながら俺に謝罪をしてきた。
「あ、いや……
気にしてないんで……」
俺が苦笑しながら許すと、ダーク・エルフは涙目のまま「ありがとう」と繰り返す。
うーむ。こういう雰囲気は苦手だ。
「ケントが困っておる。そのくらいにしておけ」
「はっ!」
マリスの命令には絶対っぽいです。
一体、このダーク・エルフの過去に何があったのでしょうか。
「それでじゃ。
ヴァリスは元気かや?」
「はっ! 族長は元気にあらせられます!」
「族長?
はて?
ヴァリスは族長とかいう肩書じゃったか?」
「いえ、マリストリア様をお送りして戻ってきた折に、前族長からその座を譲られたのです」
マリスは何がなにやらという顔で首を傾げる。
「我らの集落に貴女様をお連れしたのですし、名の加護まで頂いていますので当然の帰結かと」
なるほど、理解。
彼のステータスも確認してみて納得しました。
彼らエックノール村の住民は古代竜であるマリスの守護を受けている事になっているらしい。
竜の守護が約束されている村だと周知されているらしく、知性のある者はエックノール村に手を出す事はないという。
何でマリスの正体がバレてるんだか知らないが、どうせマリスが口でも滑らせたに違いない。
「まあ、よく判らぬが。
ヴァリスがおるのなら会っていこうかのう?」
マリスが俺を見上げたので、俺は頷いて了承する。
ヴァリスが昔一緒に旅をしたっていうし、挨拶くらいはしておいても損はない。
「では、ご案内致します」
ダーク・エルフは立ち上がり、「ついてきてください」といった仕草をするので素直についていく事にした。
んで、また幾つか広場を通ったんだけど、通るたびにダーク・エルフが降ってきて、俺たちの後ろからついてくるんだよね。
村の入り口らしい門みたいな場所まで来た時には、後ろに三〇人くらいの行列を引き連れていたよ。
んで、門の前あたりまで来た時、門の下で一人のダーク・エルフが待っているのが見えた。
「ヴァリス!!」
マリスがそう大声で叫びながら走っていった。
ヴァリスと呼ばれたダーク・エルフはマリスが到着するより前に最初にあったダーク・エルフのように跪いてマリスを迎えた。
「お久しぶりです。マリストリア様」
「うむ。ヴァリスも元気そうで何よりじゃ!」
マリスとヴァリスの目線が合う。
二人は「うふふふ」と笑い合う。
迎えに来ていたとなると、俺たちが来た事を先触れが知らせたんだろう。
俺は気配に気づかなかった。
結構手練の斥候がいそうですな。
まあ、危険な世界樹の森ですし、当然と言えば当然ですけども。
「それにしても、ヴァリス。
族長になったそうじゃな!?」
「はい。拝命することになりました」
「うむ。追放者じゃった事から考えると、出世じゃな!」
え? ヴァリスさん、追放者だったの?
そういや人狼の呪いを掛けられてたんだっけ?
確かに人狼になってたとすると追放されるのも仕方ないのかもしれないな。
んじゃ、今は人狼じゃないって事か。
どうやって呪いを解いたのだろうか?
解呪できる人が村にいるなら追放されることはないだろうに。
しばらくマリスと一緒に旅をしていたそうだし、その間に何か解呪クエスト的な冒険があったのかもしれないね。
本人に聞いても失礼にならないか判断できないので、後でマリスにこっそり聞いてみようかな。
俺はラノベとか冒険譚を読むのも好きなので、大変興味を惹かれるテーマです。
あ、はい。
ヴァリスさんの容姿に言及がない事にお気づきでしょうか?
今まで黙っていましたが、ヴァリスさんすごい巨乳です!
目のやり場に困るくらい……よもやアナベルを超える女性がいるとは思えませんでした。
あまりの光景に必死に邪念を払わねばならないほどでした!
なので明言を避けていたのですが、もう限界です。
あれは巨乳というより「魔乳」では無いでしょうか?
アナベルの巨乳をそう呼ぼうと思った事もありましたが……
一体、どのくらいあるのか一度測らせていただきたいとか思ってしまいましたが、そんな事頼めません!
こういう思考が「邪念」の正体ですよ。
おっぱい星人なので仕方ないのですが、露骨に態度に出すような格好悪いことは厨二心が許しませんので、邪念を振り払うのに必死だったワケですな。
つーか、アレ見て邪念抱かない男なんているんでしょうかね?
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