第30章 ── 第8話

ホブゴブリンの考察を続けよう。


 推測するに、彼らの属するホブゴブリンの集団には通常のモンスターとして分類される個体以外で、ある一定数の個体が人類種と同様に「種族」として世界に認知され職業クラス制ルールが適用される奴らが生まれるのだろう。


 そいつらを選り分けて育てたら、人類種の一種族にできるんじゃないだろうか?

 まあ、そんな試みを許してくれる人類勢力は存在しないだろうけど……


 ホブゴブリンはゴブリン種であるし、その繁殖力から考えて人類種に迎え入れたらあっという間に世界を席巻するだろう。

 それに対処できる人類種はいないかもしれない。


 この強者を生み出す世界樹システムの中だからこそ、彼らは生きていけるのだ。

 世界樹の外に出てコミュニティを形成しはじめたら、確実に他の人類種に狩られるだろう。


 この「驚異になる前に排除する」ってのが人間の行動原理だからな。

 パラノイアチックだが、この気質を以て人類は世界を制圧したといっても過言じゃないだろう。


 触らぬ神に祟りなしって言葉は違うとは思うが、触れなければそれ以上の悲劇は起きないと俺は思いたい。


 って悲劇は、これ以上あってはならないだろ?

 俺が生まれた現実世界では、遺伝子技術やクローン技術などを使って絶滅危惧種の保存と維持に技術を割いてきた。

 もちろん、既に滅ぼしてしまった種を復活させるような愚かな事はしていない。

 映像の世界で警鐘を鳴して来た人たちがいたので、完全な遺伝子がない状態でクローンを作ると碌な事にならないという教訓が世界の常識となってたからな。

 俺もそう思うし。


 彼らはそっとしておくに限る。

 ホブゴブリンだけの種族ってのは、ティエルローゼでもかなり貴重だろうし。

 餌という立場なのは悲惨だと思うけど、それはそれ。


 俺は再びポータルに歩き始めて歩を止めた。


「一つだけ聴きたいんだけど、生き返らなかった奴らってどんなヤツ?」

「え? えーと……」


 オリオグは戸惑いながらも教えてくれた。

 どうやら後方部隊にいた魔法使いスペル・キャスターの一匹と指揮官コマンダーの合計二匹の事らしい。


 ふむ……

 希少な職業クラスの奴らだろうに勿体ない事だ。


 俺はそれだけ聞いてホブボブリンたちと別れて仲間たちのいる階に戻った。


 弱肉強食なので強者が育つのは道理なんだけど、素体が弱者では何かと不幸なことになりかねないな。

 これを仕組んだヤツがいるなら、そういう所はしっかりとした仕組みにしておいてほしいと言いたい。

 まあ、面白い試みではあったが。


 本来、人類種にはレベル上限がある。

 一応、アースラの観測ではレベル六〇あたりで固定されていると思われる。

 これから推測するとホブゴブリンたちにもレベル上限は存在すると思う。

 ティエルローゼの生物はみんなそうなんだろう。


 その上限を越えられるのは限らた者たちだけだ。

 俺の仲間たちもそういう奴らに違いない。

 もちろん、そこには努力が必要なんだと思いたい。


 選ばれた存在とか、俺はそういう選民思想的な発想は嫌いなんだ。

 厨二病としては憧れる考えだが、やはり努力には見合った何かが与えられてほしい。

 才能だけで割り切られると泣けるしな。


 ハリスの頑張りを間近で見てきたので、余計そう思うのかもしれないけど。

 彼は俺をこの世界で初めて仲間として扱ってくれたヤツだ。

 その後入ってきた仲間たちは、大抵は有名人とか生物界のエリートみたいなやつらばかりだった。

 そんな中で必死に足掻いていたのがハリスだ。


 レンジャーは上級職ではあるが、それほど転職が難しい職業クラスではない。

 敏捷度、器用度、直感度の三つの能力値がある程度あれば普通に就くことが可能な職業クラスだからね。

 もちろん、剣などもそこそこ使える職業クラスなので、腕力度や耐久度もある事に越したことはないが。


 ただ、そんな事いっていると、全ての能力値を満遍なく上げなければならなくなる。

 どこかを削って必要な部分に振り分けるのが肝要だ。

 振り分けられる初期能力値は有限だからな。


 注意点としては、巷で少々需要があるとされるは止めておくべきだという事だ。

 極振りは能力が発揮できる場面が限定されすぎてしまうので、俺としては絶対にオススメしない。


 もちろん、ある程度尖らせるのは間違いではない。

 ただ、一つの能力値だけに集中して能力値を上げてしまうと、その能力以外の部分は完全に使えない地雷キャラって事になる。


 そういうキャラクターは、多分普通の生活を送ることもできない奇形児という事になる。


 例えば腕力だけに極振りして他の能力は全く取らなかったら……

 箸とかスプーンを上手く使うこともできないので食事は手づかみ、もちろん言葉を操ることもできないので意思の疎通は出来ない。


 戦闘でも腕力は馬鹿みたいにあるのに、攻撃をしても的には当たらない。

 当てるほどの器用さがないからな。

 そして、鈍重すぎて敵からの攻撃は全部自分にヒットする。

 そして耐久度がないので一瞬で死亡する。


 これで人並みの生活が送れるワケがないのは解るはずだ。


 最低限は生活が送れる程度の能力値は割り振ってやるべきなんだよな。

 ゲームをソロで進めるつもりなら偏った能力値でも楽しめるのかもしれないが、パーティプレイをするつもりなら他人に迷惑を掛ける事になってしまうからね。


 まあ、ソロプレイヤーだった俺からしても極振りはやらんけどね。



 話が脱線してしまったな。

 要はハリスは頑張ったから使える男になったって事だな。


 ホブゴブリンも世代を重ねつつも頑張ったんだろうな。

 そして今の状況を引き寄せた。

 やはり努力は報われると思う。


 まあ、俺たちには一瞬で蹴散らされたんだけど……

 俺たちはチートなので普通に頑張っている奴らの自信を打ち砕いただけなんじゃないかと少々不安にもなるな……


 だが、ここで折れたら強者になんかなれん。

 強者になる為には折れない心が必要だ。

 図太い精神力と言い換えてもいいかも。


 そういう所が強者を生み出す下地になったんじゃないかなぁ。



 さて、俺が仲間たちのところに戻った時には、綺麗なダンジョンに戻っていた。

 スカベンジャーネズミが頑張ったのかな?


 午後も探索と戦闘を繰り返し、戦闘聖女バトル・セイントの職業特性が何となく掴めた頃にはすでに夕方になっていた。


 戦闘聖女バトル・セイントは、基本的には前衛もこなせる特殊な職業だった。

 もちろん従来の神官プリーストとしての力も持っている。

 ただ、純正の神官プリーストたちに比べると、若干回復系の能力が落ちるんじゃないだろうか。

 HPも従来よりも高くなるのは間違いなかった。

 ただ、前衛タンク職ほどHPは望めない。


 そして、コレが一番チート臭いのだが、自分に掛けた、あるいは掛かったバフを味方にも付与する力があるようだ。

 一人に掛ければ全員に掛かるのと同じ効果を発揮するって事だ。


 なるほど、これが五人集まったから、あの有名パーティは伝説になりえたんだなぁ。

 足すのか掛けるのかは二人以上戦闘聖女バトル・セイントがいないので解んないけど、前者だとしても五人も揃えば凄い事になる。

 神聖魔法まで使えるんだから反則級だよねぇ。



 先程のように双方向ポータルを使って一階まで戻り、マリスの部屋にて今日のダンジョンアタックの反省会をしつつ一休み。

 落ち着いたところで食事の準備を開始します。


 なんだか、俺が作って仲間とマリスの家族が一緒に食べるってのが当たり前になってきちゃったね。


 ちなみに、今日のメニューは……

 豚肉の時雨煮、鶏肉とじゃがいもの煮物、きのこのカリカリ焼き、そして豆腐と大根の味噌汁だ。

 普通の献立で申し訳ない。

 もっとも、仲間たちとマリスの家族たちには好評だったので、美味しかったのは間違いないだろうが。



 こういったダンジョン・アタックを繰り返す事二週間。

 とうとう古代竜だけが生息する区画へと突入した。


 一階の戦いの間で古代竜のトップ・チームとやりあっているので、この区画に入っても面倒なことにはならなかった。


 戦いたがるヤツもいくらかいたが、挑戦者は周囲に止められてしまうので俺たちの不戦勝となるのだ。

 まあ、仲間たちのレベルの底上げは完了していたので、経験値を稼ぐ必要はなくなってたからいいんだけど。


 この古代竜区画は全一五層もあるそうで、古代竜相手に攻略して歩くなんて現実味はないので、出会った古代竜に頼んで目的の人物たちを呼んでもらった。


 はい。ルティル・バハムートとカティア・ドライグです。


「おお、ケントと申したな。

 こんなところまで仲間たちと腕試しに来たのか?」

「いや、約束のモノを持ってきたんだ」


 俺がそういうとカティアの目が光る。


「もう、できたと申すか!?

 一〇〇本ずつであるぞ?」

「ああ、ご要望通りだ」


 俺は三種類のポーションをインベントリ・バッグから取り出して彼らに見せた。

 彼らも直ぐに人型に変化して三本の瓶を受け取ると鑑定魔法を掛けて品定めをした。


「要望通りにフル回復ポーションであるな」


 ルティルがもの凄い笑顔になった。


「そうだろう?

 ウチの錬金術師は腕がいいからな」

「これが一〇〇本ずつだな?」

「ああ、約束は違えないよ」

「ご苦労であった。報酬を払わねばならぬな」

「まいど~♪」


 俺はついトリエンの貸し馬車屋の店長みたいに手揉みしてしまった。

 こんなところに住む古代竜たちなので、その仕草が卑屈に見せる仕草なんて気づきもしないかったので恥はかかずに済んだ。


 さて、かなりの数の古代竜が住んでいる世界樹の頂上までやってきた。

 そこは円形の盆地みたいになっていて、大量の金銀財宝が山になって積み上げられている。


 うはー、これが全部市場に流れたら世界の貴金属市場は壊滅状態だな……

 ドラゴンが貴金属を集めるってのは本当だねぇ。


 ルティルによると、ここはバハムート一族の寝床だそうだ。

 雨が降ってきたら困りそうな寝床だというのが俺の感想だったんだが、雨雲はこんな高さには出来ないので何の問題もないとの事。


 ここにある金貨、銀貨、インゴットなどあらゆる財宝から約束の報酬を好きなだけ持っていけと言われてしまった。



 持てるだけ持っていけと言われても、インベントリ・バッグを持つ俺なら全部持っていけるんだが……

 まあ、それはさすがに欲張り過ぎなので、約束通りに一本金貨一〇〇〇枚、合計で三〇〇本分なので金貨三〇万枚分だけ頂いた。


 それと共に他の古代竜や彼らが使う異次元にあるらしいバトル会場などから掻き集めてきたドラゴン素材の数々も貰えた。ほら、例の汗もな……


 金よりもコッチの方が俺には嬉しい。

 これで武器、防具、錬金素材などに困らない。


「まいどあり」

「では、また頼むぞ」

「また一〇〇本ずつできたら持ってくる」

「うむ。いくらでも持ってくるがいい。

 備蓄はあればあるほどよい」


 金持ちじゃなければ言えない言葉ですなぁ……

 さすがは古代竜のトップだけある。


 こうして、俺は金と各種素材をいとも簡単に手に入れることに成功したのだった。

 世間の鍛冶屋やら錬金術師に知られたら嫉妬の炎で焼かれそうな気もしますな。

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