第30章 ── 次なる高みに
第30章 ── 第1話
カレーパーティには、マリスの家族も当然のように同席した。
俺がいない間は、仲間たちで自炊してたそうで、その時も来ていたようなので人間の料理文化が古代竜の間にも広まるかもしれない。
問題は古代竜自身が作るのかという事だな。
しわ寄せはコボルトたちに行くのではないだろうか……
「ケントは、あっちで何をしてきたのじゃ?」
「うーん。
期せずして、UMA巡りになってたな……」
「ゆーま?
素敵用語かや?」
「いや、アンアイデンティファイ・ミステリアス・アニマルの略な」
「古代魔法語ですね」
ニッコリしながらマリスの母親であるセリソリアが俺に相槌を打つ。
セリソリアはマリスに魔法を教えていたと聞いているので、魔法が得意なのだろう。
古くから魔法を修めてきた古代竜なら英単語に堪能なのは当然だろうな。
「確かに英語なんだけど、和製英語だから英語を使う国では通用しないんだよね。
本来ならクリプティッドだし」
「クリプティッド……どういった古代魔法語なのでしょうか」
「未確認生物の意味だと思うんだが……」
ドーンヴァースで使われてない単語だと、途端に理解が怪しくなるね。
やはり俺の仮説は正しいのかもしれない。
神の後継となった時に俺の言葉は、どんな生物にも完全に理解されるようになったと思っていたが、俺が英語として伝えようとしたりすると多言語として認識されるって事なんだろうな。
まあ、考察はこんなもんでいいか。
「で、トリシアたちは俺がいない間、何してたんだ?」
「全員がレベル一〇〇になるように世界樹を攻略していたんだよ」
「どこまで行った?」
「あと半分ってところだろうな」
あと半分……すげぇ速度で攻略してんな。
ドーンヴァースの世界樹は段階的に攻略していく仕様だから、全部攻略するのに一年くらい掛かるって聞いたことがあるんだが。
同様の仕様ならウチのメンバーの攻略はハイペース過ぎるね。
その後、仲間たちからどんなモンスターがいたのか、面白い発見はあったのかなどを細かく聞いた。
なかなか面白い冒険譚なので、後々誰か有名な
それにしても世界樹の生態系は面白い。
基本的に強者が集うと言われているが、コボルトを筆頭にゴブリンやオークといった比較的弱いモンスターも大量に住み着いている。
まあ、弱いモンスターは召使い的な扱いだし、住人というより運営スタッフみたいな使われ方なんですけどね。
そういった弱いモンスターが強者に蔑まれているという話は全く出てこない。
コボルト同様に強者の保護を受けているという事だろう。
では、コボルトやゴブリンといった弱者同士はどうかというと、これも共存共栄といった感じらしい。
世界で一番物騒なはずの世界樹内部で一番平和に暮らしているのが弱小モンスターという図式は何だか笑えるね。
ちなみに弱小種族である人族は世界樹に保護されることはないようだ。
生み出した神が存在しないという理由みたいだね。
エルフならアルテルだし、ドワーフならヘパーエストが生みの神となる。
こういった生みの神がいる種族は、ある程度は神の名前によって加護対象となるようだ。
世界で担うべき役割があるというのが理由なんだってさ。
ちなみに人族にはそういった生みの神が設定されていない。
森を守るエルフのように担う役割も決められていない。
まあ、正直に言うと人族は、創造神によって作られたとされているらしい。 らしいってのは、地球から迷い込んだり、連れてこられたりした人類がいたから……てのがあるんだろうと想像できる。
ハイヤーヴェルに聞けば解るんだけど、既に存在が希薄になりすぎてコンタクトができないんだよ。
あっちが体調万全で、こっちとあっち、双方ともコンタクトを取ろうと思ってないと上手く繋がらないんじゃないかな。
まあ、夢の中で話せる機会があったら、聞いてみよう程度の動機じゃ繋がらないのも仕方ないね。
という理由で、強者に優遇される弱小種族は少数ながら世界樹内にもいるようだ。
どうやって生きているのかというと、ほぼ自給自足なのは言うまでもない。
どうして「ほぼ」なのかというと、外には出られないものの、世界樹の入り口には半年に一度くらいの感覚で行商人の
塩や砂糖などの調味料や食料、衣服などの織物、金属製品など、世界樹内では調達ができない品物をまとめて仕入れいるらしい。
そういった行商人の
なので世界樹の森内でモンスターに襲われることは非常に少ないと聞く。
強者からの保護というのは、世界樹の森では相当に強力なモノのようだね。
世界樹外でも効力を発揮しているのが証拠だよ。
俺の聞いている世界樹の森はレベル四〇くらいないと出歩くのは無理な領域だし、最低でもレベル三〇くらいあるパーティで挑まないと確実に死ぬそうだ。
それなのに戦闘職でもない行商人が護衛付きと言えど、ここまで来られるという段階で非常に強力な保護効果があることが窺えるワケだ。
どういった仕組みなのかは知らないけど、その保護効果って野生動物なんかにも効くのかな?
なんか、御用達制度みたいで面白いな。
ちなみに、ソフィア・バーネットは単身で頼まれた魔法薬や素材などを売りに来ているそうだよ。
ペガサスの馬車なので襲われることもなさそうだよね。
彼女は弱者にも物を売るそうだけど、強者も商売の対象にしているらしい。
まあ、彼女は亜神レベルの強さなので、ちょっかいを掛けるヤツもそうそういないよな。
──次の日。
朝食の準備をしつつ、昼食用のお弁当も用意する。
今日は和食な気分なのでお弁当はおにぎりにしよう。
鮭、焼きたらこ、昆布の佃煮……
そして新たなる刺客を二つ用意した。
明太子とシーチキン・マヨネーズである。
コンビニおにぎりの定番メニューだが、今まで作ってなかったんだよな。
すっかり忘れてたってのもあったんだけど、この前日本のコンビニで飯を買った時に作らなければと使命感に目覚めたんだよね。
みんなが起きてきてテントから這い出てくる。
「うーむ。
この味噌汁の匂い……日本の朝って感じで格別だな」
元日本人のトリシアは久々の和食の香りに満面の笑みだ。
「そうなんです?
故郷の香りってヤツですか?
ファルエンケールの朝ってこんな香りなんです?」
「違うな。ケントの故郷の香りだよ」
「ほえー。
私としてはトリエンの館の朝に嗅ぐ香りなんですけど」
「アナベルよ。この香りはフソウの朝にも漂ってきて追ったじゃろう?」
「あ! そういえば!」
そりゃフソウ竜王国はな。
味噌とか醤油が普通に食べられている地域ですしねぇ。
「フソウのタケノツカ村で泊まった時、ケントさんが故郷に似ているって言ってましたもんね」
「ああ、フソウは確かに古代の日本に似ているな」
古代……トリシアの言い方が日本人っぽくないなぁ。
記憶を取り戻したと言っても、彼女はやっぱりこっちで生まれた生粋のティエルローゼ人なんだな。
基礎がこっちにあるから、二〇数年分の片瀬真理亜の記憶程度では、アイデンティティは
仲間たちの前に朝食を置いていく。
焼き鮭、だし巻き卵、海苔の佃煮、冷奴、味噌汁、きゅうりの浅漬と梅干し、そして真っ白なご飯。
完全に日本の朝食ですが、仲間たちも大好きなので全員ニッコリです。
「今日の世界樹攻略は俺も付いて行っていいんかな?」
ここまでトリシアたちだけでやってきたんで、俺が入ってもいいのか解らない。
「構わんが、支援だけでいい」
「そうじゃな。ケントが前に出ては一瞬で終わってしまうからのう……」
「攻撃よりも身体強化や防御強化の魔法などで助けて頂けると助かるのです」
ふむ。
まあ、マリオン信者のアナベルは神聖魔法の使い手だけど、
俺も見てみたい。
「了解した。
俺は裏方に徹することにするよ」
朝食が終わってから、腹ごなしの準備運動を少しした後に世界樹の上層へと向かった。
この世界樹にはエレベータがないので、どうやって毎日行き来しているのかと思ったんだけど、転移機構が存在していた。
俺の転移魔法に近いんだけど、ドライアドの精霊力を使った双方向転移ポータルというシステムのようだ。
この世界樹と繋がっているのはリサドリュアスだし、このシステム自体は彼女の考案なのかもしれないな。
双方向ポータルを利用して移動した先は、世界樹第一三二階層だ。
ポータルの出口の案内板にはそう記載されていた。
ここが半分だとすると、二五〇階層以上あるのか……
「すげぇ広さだな、世界樹。
一階層が直径一〇キロもあるんだし、全部回るととんでもない広さになるな」
「全部回ってられるか。
次の階段まで辿り着くまででも時間が掛かるというのに」
ポータルは辿り着いた階までしか利用できないようで、下から着実に上っていかねばならないらしい。
やはり、ここでも利用者を「強くする」という思想が見て取れる。
強者を作り上げようとする意図は何なんだろうね?
プールガートーリアからやってくる異世界の神々に備えてって理由だとしても、ここまで徹底している理由にはならないと思うんだが。
素養のある全ての者を強者に導きたいという事だとすると、過剰戦力な気がする。
神々は戦闘職でなくても相当な戦闘力を有しているし、ドラゴンを筆頭とする強力なモンスターもかなりの数が存在する。
神々とそういったモンスターがタッグを組めれば、異世界の神々にも対抗できるのでは?
まあ、ハイヤーヴェルが地球を守るために創った万全の防衛機構として、ティエルローゼにはより強固な戦闘力が欲しいって事なのかもしれない。
とは言っても、以前俺がやった
まあ、あれは壊滅的な破壊をもたらすので、あれで打ち止めにしたいところですが。
「さてと……
んじゃ、ガーディアン・オブ・オーダー。
活動開始と行こうか」
「「「「おう!!」」」」
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