第29章 ── 第54話
エアーズロック。
オーストラリア大陸のほぼ中心に位置し、先住民族アボリジニの信仰の中心でもある。
巨大な一枚岩は、日の陰り具合によって様々に染まって見える。
アボリジニによってウルルと名付けられ、ここを訪れた彼らはここのような信仰される地に自分の足跡を残す事が来世での幸せに繋がると信じている。
朝日に照らされたエアーズロックが赤く染まっているのをケント
もちろん、
「さて、ここに最後の神隠しの穴があるワケだが……」
周囲をキョロキョロと見回すが、それらしいものは見えない。
エアーズロックには陽の光でできた影が縞模様のように走っているのが見える。
神の目をオンにして入念に探す。
縦縞になっている太めの溝の一つ。
影になって見えにくかったが、少しえぐれているような部分がある。
そこにエネルギーが吸い込まれていくのが見えた。
あそこじゃねぇか?
俺は慎重に近づいてみる。
案の定、他の神隠しの穴と同じような雰囲気が感じられた。
「ここか……」
と囁いた途端に神隠しの穴から大きな腕が出てきて俺をムンズと掴んだ。
「おおう……出たな」
神隠しの穴からニュッとそいつは現れた。
身長一〇メートル、頭の天辺に一本の短い角があり、体表は緑っぽい色をした巨人だ。
ただ、他の巨人と違うのは目が一つしかないところだ。
サイクロプスと呼ばれる巨人族である。
「がっかりだ。
本物のUMAかと思ったら、ただのサイクロプスかよ」
俺が落胆したセリフを吐くか吐かないかのところで硬い岩盤に思いっきり投げ捨てられた。
──ドガン!!
巨大な音を立てて俺は地面にめり込んだ。
さすが、巨人系モンスターの上位種。
とんでもない力である。
俺は四〇〇ポイント近くダメージを被った。
普通のモンスターから受けるダメージよりも遥かに大きいダメージだ。
だが、それだけだ。
一〇〇〇〇ポイント超えのHPには大したダメージではない。
よっこいしょと起き上がる俺を見たサイクロプスが大きな一つ目を更に大きく見開く。
「バ、バカな!?」
「バカじゃねぇ。ケントだ」
俺自身が分をバカにされたワケではないのだが、面倒なので自己紹介を絡めて聞き間違い風のセリフにしておく。
そして俺はコキコキと首を鳴らし指も鳴らし、戦闘準備に入る。
「突然ぶん投げられたんだから次は俺のターンでいいよな?」
俺はニヤリと笑うとサイクロプスに突撃した。
あまりのスピードにサイクロプスが俺の姿を目に追えずに見失う。
まあ、目が一つじゃ仕方ないね。
目は二つの方が移動物体を追えるんだよ。
眼の前にある大きな向こう
──ズドン!
「ぎゃああああああ!!!」
拳がめり込むと共にサイクロプスが絶叫する。
弁慶の泣き所ですから当然です。
サイクロプスの身体も人間とほぼ同様の構造なので弱点も一緒だと思ったけどドンピシャですね。
「何だ?
一発で終わりか?」
涙目になってうずくまるサイクロプスに冷笑を見せて貶める。
サイクロプスは
サイクロプスが持ち直したのは数分してからだ。
その間、俺はサイクロプスの周りをウロウロしてヤツが武器を持っていないかとか、穴の安定度などを調べる。
ようやく痛みがある程度引いたらしいサイクロプスが身じろぎして立ち上がった。
まだ片足を引きずっているところを見ると骨にヒビでも入ったかな?
「き、貴様……いえ、貴方様はとんでもない強さを秘めているようですな。
名はケント様と申しましたか」
「そうだが?」
さらに穴の状態を詳しく調べつつ俺は答える。
「地球の神様は彼女以外で初めて見ました。
無礼の程、お許し頂けますと幸いです」
俺は跪くサイクロプスを怪訝な顔で見上げる。
人の六倍近い身長があるので、跪いても頭が高いのだ。
「地球に神はいないだろ。
伝説とか伝承とか宗教なんかには、そういう存在が色々出てくるもんだけどね」
「貴方様が神じゃない?
信じられませんな。
この地球の人族で吾輩に投げられて無事で済む者はおりますまい」
「それなのに俺を容赦なく投げたのか」
サイクロプスの言動に俺は暗に不快感を示す。
「あ、いや。
寝起きだったもので……手加減を忘れまして……
済みません……」
「俺じゃなきゃ死んでたところだよ。
ところで……
バニップの正体はお前なのか?」
サイクロプスがキョトンとした顔をする。
「バニップですか?」
「そう。先住民族アボリジニの伝承にもあるUMAだ。
バニップともバンイップとも呼ばれている。
1つ目の怪物として伝わっているんだよ」
頭が鳥で目から異光を放ち、胴はワニだが毛がある。女を好んで襲って食うと言われている。
俺がバニップの特徴を言うと、サイクロプスが「あー」と言いながら目を片手で覆った。
「吾輩の関係者なのは間違いありません」
「マジか」
「ええ、大の女好きの……吾輩のペットです……」
ただ、女を好んで食うというのは間違いだそうだ。
女が好きなので舐め回す変態的な趣味を持っているだけで食べないそうだ。
それに身体は毛の生えたワニではなく、普通に犬らしい。
といっても、地球では考えられない大きさだそうだ。
体長三メートルもある犬はさすがに地球にはいない。
「吾輩とおそろいで一つ目だったので彼の親に頼んで貰い受けたのです」
そのペットは神獣の子だったそうで、何の加減か一つ目の子供として生を受けたらしい。
親の神獣が不吉だという事で捨てようとしているところをサイクロプスが拾ったという事だ。
「ペットの話の途中で申し訳ないが、そんな巨大な神獣とか言われる存在は地球にいないんだが……
ティエルローゼで拾ったって事で間違いないか?」
俺が「ティエルローゼ」と言ったところでサイクロプスが目を見開く。
「やはりあっちの関係者で……?」
「そうだ。
一応、こっちの生まれだけど、あっちで創造神に見込まれて後継者になった者だよ」
ようやく合点がいったといった顔でサイクロプスは手を打った。
「やはり神様でしたな。
こっちで彼女以外の神に出会うとは思いませんでした。
しかし、地球人が何故ティエルローゼに?
意味がわかりませんな」
どうやらサイクロプスは全く事情を知らないらしい。
詳しく事情を聞いてみると……
彼はティエルローゼ出身だが、太古の時代に生まれた存在らしい。
まだ神々が地上にいた頃に生まれたんだそうだ。
子供時代に彼は神隠しの穴を発見して地球の存在を知った。
新天地である地球を冒険していると大地の声に気づいた。
それは地球の声だと彼は言う。
地球は言った。
この地に回廊を作ったので守ってほしいと。
それから彼は神隠しの穴で地球とティエルローゼを行き来しながら守護者になったという。
ちなみに、彼のステータスをを確認したらレベル八四でガイアの加護という称号を持っていたよ。
ガイアの加護とやらを手に入れると不老不滅の存在になるそうだ。
不老なら俺もそうだけど、不滅ってのはすごいな。
死んでも勝手に生き返るそうだし、チートじゃんね。
彼は他にもユニーク・スキル持ちだったよ。
効果は「大地の声を聞く事ができる」というもので、その名も「
神の心の平穏を保つ守護者という事らしい。
なるほど、「かんなぎ」って言葉は書く場合に「神凪」、「神薙ぎ」、「神和ぎ」など書くんだが、どの言葉でもそんな感じの印象はあるね。
地球という存在は神隠しの穴がなくなるのを良しとしないので、穴を守るのは選ばれた自分の使命だとサイクロプスは宣う。
「ところで聴きたいのだが、『彼女』って地球の事だよな?」
「そうです。
我が一族はティエルローゼで大地の神々によって作られたので、大地の欲する声が聞こえるのです」
大地の声ねぇ……
彼女って言っているしノーミーデスだろうか?
ノミデスの時に説明したと思うけど、ノーミーデスは地の精霊だ。
男の場合なら
これらをひっくるめて
多分、サイクロプスは地球にいる地の精霊からの声を聞いたのだろう。
神の声じゃなく精霊の声なんだけど、神に近い存在だし問題はないね。
細けぇ事は良いんだよ精神で行こう。
それにしても地球には神よりも精霊が普通にいる事が俺にもビックリ体験でしたからね。
「もうひとつ」
「何でしょう?」
「女好きのペットって?」
「あ、はい。
少々お待ちを」
サイクロプスは指を口に当て「ピィ!!!!」と大きく指笛を吹いた。
しばらくするとズドドドドという大きな音と共に銀髪の巨大狼が現れた。
しかし、たしかにサイクロプスが言った通りに彼は一つ目だった。
単眼症ってヤツだろうか。
「こいつがペットでして、名前はバニープです」
『ねぇねぇ主、こいつ誰?』
そんな声が頭の中から聞こえてきた。
「失礼な事を言ってはならん
こちらはティエルローゼの神様関係の人だ」
『へえ。そうなんだ。確かに臭いが神様だね』
色々と腑に落ちた。
こいつはテレパシーで話してる。
ステータス確認してみたら種族が「フェンリル」でした。
ティエルローゼにはフェンリルという神獣がいるという事だな。
今までマリスにプレゼントした「フェンリル」がいたので、そっち系が本当にいる可能性を失念しておりました。
そうなると一度は会ってみたい生物ですなぁ……
巨大でもふもふの存在はうちのパーティでも大人気なので、仲間たちと会いに行くのも悪くないですかね。
ちなみに、この単眼フェンリルくんも「ガイアの加護」持ちでした。
そうそう、ここの神隠しの穴ですが、他の四本よりも太くて安定しています。
そして俺の予想通り、神力らしきエネルギーがガンガン吹き込んで行くことも判明しました。
あのエネルギーの使い道が神々とかの神力になっているんだろうから、神隠しの穴はおいそれと塞ぐことも出来ない事になりますね。
もちろんティエルローゼに悪影響が出るようなヤツはぶっ潰す事にしますが。
その辺りは、こっちの大地の精霊にしっかり言い聞かせておく必要がありそうです。
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