第29章 ── 第53話
手に神の力を集めるようにイメージする。
身体の奥底から力が駆け巡り、手の先へと集まってくる。
そして手の平から流れ出てくるような気配を感じる。
付近にあるあらゆる物質を分解。
分解された物質はエネルギーに変換され、俺の体内にどんどんと蓄積されていく。
体内にHP、MP、SPが溜まる容器のようなものがあると思って欲しい。
それらと同様に、この分解して集めたエネルギー用の容器も存在するようだ。
蓄積されるエネルギーはこの部分に集まっていく。
俺は周囲の物質を神の目で観察し、周囲の砂や石の組成を見抜いて頭の中に入れておく。
そして溜まったエネルギーをそのデータを元に再構築してこの付近の石などと同様の組成で巨大な岩を作り出していく。
まあ、今の俺はいわば人間三次元プリンターですかな?
もともと溜まってたエネルギーも一緒に吐き出しているので、結構デカイ巨石が出来上がったよ。
周囲から物質を分解してエネルギーを集めた時に地面に大きなクレーターみたいなのが出来たけど、それを埋めて余りあるほどの大きさだ。
もちろん、神隠しの穴を覆ってすっぽりと隠してしまうほどにね。
ブリンク系の魔法でも、移動先の物質と身体は重なり合わない。
この時、移動先の物質と身体の体積分との入れ替え現象が起きているのだが、それに似た事が起きると、「いしのなかにいる」が再現できる。
もちろん、元の場所にはその移動物と同じ形、同じ体積の石が転がっていなければならない。
ティエルローゼで精巧な石像が現れる現象は噂にすら出ていないので、「いしのなかにいる」現象は起きていないと推測する。
予想では、
力場があって押し戻される感じになるんじゃないだろうか。
ま、このような予測を立てているものの自分自身で実験する気はない。
コンテナに捕まえてある実験体でやってみるのも手だが、まずはオーストラリアの神隠しの穴を全て把握してからだな。
「我が主よ。
ここでの任務は完了ですな」
ハイ・サラマンダーを精霊界に送り返したイフリートがまだ俺の後ろにいた。
炎の魔神なんだから居る方向が「熱い」とか「温かい」とか感じられると思ってたけど、熱伝導はイフリートが操って俺を熱がらせないようにしてたんだろうな。
「イフリートもご苦労さん。帰っていいよ」
「はっ。それでは失礼をば」
そういうとイフリートは次元に穴を開けてハイ・サラマンダーのように帰っていった。
やれやれ、忖度が鬱陶しいですなぁ。
いや、暑苦しいか?
そんなことを飛行自動車を出しながら考えていた。
俺の役に立ちたいのは解るが、精霊たちは忖度し過ぎだ。
これは魔族たちにも言えることだけど。
変な忖度をして変な方向に事態が向かうから困る。
人間だとその辺りは人間としての常識があるので抑制されるんだけど、一般的な人間種とは全く違う存在である魔族や精霊は、考え方というか認識というか感覚というか……マジで何もかも違うので騒ぎになりやすいんだよね。
まあ、魔族は長い年月生きてきた中で人間種との関わりも少なからずあった事が幸いしてか、精霊よりはマシではある。
それでも感覚や認識のズレは存在するし、その辺りは人族とエルフなどの妖精族でも少なからずあるから許容範囲とも捉えられるかもしれない。
さて、次はどこだ?
飛行自動車で空を飛びながら大マップ画面で確認する。
なになに……プリンス・リージェント国立公園?
ここはオーストラリア北西部だね。
飛行経路を確認して最大速で空をかっ飛ぶ。
やはり三倍のスピードだと早いねぇ。
夕方頃に北部のキンバリー地域に入った。
この辺りは今までの場所と違って険しい地形が多い感じがする。
切り立った岩などが点在していて、ゴツゴツしたところばかりだね。
そんな中でプリンス・リージェント国立公園あたりは水源になる川あるし。植物もそれなりに存在している場所だ。
まあ、南の方の岩山だらけの場所よりマシってだけで、人間が住みやすいかは解らん。
住めば都という言葉もあるけどさ。
切りの良いところで地上に降りて野営をする。
大自然のど真ん中なので人間に出会うこともないのが面倒でなくて良い。
早めに寝て早めに起きる。
夜中に何か動物の襲撃があったようだけど、
本当にありがたい装備である。
この装備を作った功績に鑑み、ヘパさんの謹慎をそろそろ解いてやるように提言すべきか?
いや、恩赦は簡単にだすべきものではないな。
罪は罪、功績は功績として評価するべきだな。
飛行自動車で空に飛び上がる。
周囲の風景を楽しみつつ高度を上げる。
このあたりの地面には大きな亀裂のようなものが真っ直ぐに走っているものが多い気がするね。
大きい亀裂には水が流れ込んで川を形成しているんだけど、なんか不思議な光景だ。
さて、大きいまっすぐな川を通り越して、目的地のプリンス・リージェント国立公園までやってきた。
周囲に街や村は見えない。
俺は目的の付近に車を降ろす。
よし行くか。
そう思って脚を踏み出そうとした時に岩と木の影からやっぱり出てきました。
うーむ、デカイ。
そこには見たこともない大きさのワニがいました。
いや、ワニというかオオトカゲ?
ああ、これ有名だわ。
二〇世紀後半に目撃証言が頻発したUMAである。
新生代に生息していたとされる生物の生き残りではないかと言われていたが、古生物学者は認めなかった。
まあ、これだけ自然豊かな場所だし、そういった古生代の生物が生き残っていても不思議ではないんだが。
確かに見た目はメガラニアに似ているような気がする。
それにしても一〇メートルは優に超えているんですが。
メガラニアって一〇メートル以下だよね?
青白い二つに割れた舌をチロチロしていたそいつは、のそりと俺の前まで来た。
そしてそのまま頭からパクリ。
こいつ話掛けすらしなかった……
俺は生臭い口に手を掛けて一気に開く。
「お前程度の野生動物に、どうこうされる程俺は弱くないんだよ」
上顎と下顎をがっちり掴んだまま苦笑してしまう。
このまま引き裂いても構わないんだが、本当に未確認生物であった場合には貴重な個体を殺す事になりそうなので止めておく。
俺はそのまま岩の方へ放り投げた。
ドカンと大きな音を立てて巨大トカゲは岩に激突する。
バタバタと手足や身体を動かしてトカゲは起き上がる。
その目に「信じられない」という感情はなかった。
本来ならそういう感情を出すもんだが、全くないのが逆に無機質な感じがして怖い。
巨大トカゲは俺に突進してきて、またもやそのまま齧りつこうとする。
こいつ学習能力がないのかね?
俺は拳で軽い力で連打を決めてやった。
俺の軽くだからね。
地球の生物では象ですら吹っ飛ぶよ。
巨大トカゲも例外じゃない。
また岩にすっ飛んで行き、岩を砕いてようやく止まった。
ピクピクと痙攣しているので気絶した模様。
考えたりコミュニケーションをとれるだけの脳みそはなかったみたい。
まあ、大きくてもトカゲですからな。
今回は守護者というより、ただの動物と遭遇しただけなのか?
それはそれで寂しい気持ちになりますね。
俺はメガラニアなのか解らん巨大生物を放置して目的の穴を探す。
ありました。
大きな地面の裂け目のところです。
ああ、これは人が間違って迷い込む事はなさそうですな。
なにせ亀裂の真ん中の空中に浮いてるからね。
ジャンプしたら飛び込めそうな気もするのですが、そんな事するヤツは普通いないでしょうね。
下に落ちたら確実に死ぬ感じですもん。
ここは放置していい案件かもしれない。
そんな思案をしていると、やはり後ろからパクリと来た。
俺はさっさと避けてそのまま殴りつけた。
ほんと、マジで殺すよ。
イラッとしてたのもあって、少し力を入れすぎてしまった。
メガラニアらしき巨大トカゲは一直線に神隠しの穴に飛んでいってしまう。
そして、そのまま地球上から消えてしまった。
まいった……あの穴の先に人がいたらヤバイ事にならんか……?
俺はあっちの自分に思念を送った。
『すまん。
問題が起こった』
『問題については把握した。
直ぐに対処する。
場所的にはアゼルバード側の出口あたりか?』
マジで申し訳ない。
アゼルバードの砂漠なら、そうそう人もいないだろうし大丈夫だとは思いたい。
でも、念には念を入れておこう。
しばらくしてあっちの俺から思念が飛んできた。
どうやら、巨大トカゲはロック鳥の餌になったらしい。
ロック鳥ありがとうございます!
ロック鳥は現世アゼルバード王国が保護すると名言している聖獣だ。
聖獣に食われたなら巨大トカゲも浮かばれるというものだ。
本来、ロック鳥はデカすぎて地上の獲物では大きな胃袋が満たせない為、海の大型魔獣などを餌にしているとブリギッテから聞いたんだけど、海の大型魔獣は地上の魔獣よりも遥かに強いらしくロック鳥も命がけで狩りをするらしい。
その点、ただの野生動物であり、巨大なトカゲであるメガラニアはロック鳥にはいい餌になりそうだ。
もっと数がいたら、あっちで繁殖させてロック鳥にお届けってのもいいかもしれんね。
ちなみに世界樹の森はもっと危険度が高い狩り場なので、ロック鳥は殆ど近寄りません。
ロック鳥ってかなり臆病だそうですからね。
ま、こういう食糧事情がロック鳥の個体数が増えない理由なのだろう。
以前確認した時、ティエルローゼ大陸にロック鳥は八羽しか生息していなかった。
卵は二つほど確認できているので、それが孵れば一〇羽に増える。
北半球にある大陸にも生息している可能性はあるけど、そこまで確認してやる義理もないので放置中。
まあ、大マップ画面で検索範囲に含めてやれば確認はできるんだけど、面倒なんでやってない。
その程度の手間くらいと言うが、「後でやろう」と考えて、本当にやる試しがありますかね?
ないでしょ? そういうこと。
さて、四つ目の確認は終了。
あと一つになりました。
ここまで来ると大方の人は予想できてるだろうけど、オーストラリア大陸には四方に一つずつ。
そして真ん中に一つという具合に神隠しの穴は配置されている。
真ん中はアボリジニ伝承でいうところの「世界のへそ」とか「ウルル」とか言われている例のアレです。
地球でも最大級の一枚岩、「エアーズロック」ですねぇ。
穴の配置が意図的すぎるので最後に回していたのだよ。
あそこには多分、別のUMAがいるよね?
何がいると思います?
俺はアレだと思いますよ。
オーストラリアですからね。
まだ出てきてない有名UMAはアレしかいないですから。
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