第29章 ── 第48話
再度、神隠しの穴を潜りつつ考えた。
数千件中数件しか帰還確認できなかったというのに、心配そうな顔をするだけで止めもせずに送り出した太郎坊の思考は、俺という存在は替えが利くって事ではないだろうか?
主殿とか呼んではいるが忠誠の対象だとは思っていないって事では?
地球に俺と同等の力を持つ者がいるとすれば当然の反応かもしれない。
という事は、日本には神の力に覚醒した人物が少なくとも一人はいると考えられる。
まずは太郎坊に事情聴取してみるのが順当だろう。
神隠しの穴を通り抜けると、神社の裏手の巨木前に出た。
穴の前には太郎坊が胡座を組んで待っていた。
そして、俺の姿を見ると勢いよく立ち上がる。
「主殿、ご無事で!」
「いや、まあ。無事だったよ」
心配してるのかしてないのか解らない奴だな。
「やはりあの穴の向こうはティエルローゼだったよ」
「てぃえるろーぜとは如何様な場所なのでございましょうや?」
「暁月坊から聞いてないの?」
「暁月坊殿との面識はこざいませんので。
ただ、精霊は心が繋がっておりますので、直接会って話す必要はないのです」
ふむ。
良くは解らんが、暁月坊が知った事は太郎坊も同時に知る事ができるって感じか?
「ティエルローゼってのは創造神が作り出した別の世界なんだよ」
「創造神というと
誰だよ……
「まあなんだ、創造神は元プールガートーリアって世界の神なんだけど、他の神々に地球が弄り回されるのが嫌だったらしくてね。
他の神々を世界から追い出して、その扉を閉じちゃった。
んで、扉の向こうに一つ世界を作って防波堤にしたんだよ」
「なんと有難きお方々でござりましょうや!」
何だかひどく感激しているみたいですな。
「自らは子を為さなかったお方たちだというのに、我らの
有難うございます!!」
マジで誰だよ……
名前からして神様なんだろうけど聞いた事がない名前だ。
つーか、日本の神様なら一番上は
いや待てよ、
日本でいう創造神って誰なんだろ?
さっき太郎坊が言った神様がソレなのかな?
「今挙げた名前の神様が日本では創造神ってヤツなのか?」
「いえ、御座す神々の事にございます」
太郎坊曰く「御座す神」とはいつの間にかそこにいた神の事を言うらしい。
一番最初に世界には三柱の神がいたのだそうだ。
それが、さっきの名前の神様たち。
どこから来たのか、もしくは生まれたのかも謎の神々だそうで、他にも
日本神話はよく判らんな……
その後、どこからか一〇柱の神さまが生まれる。
この辺りに来ると聞いたことがある神さまもいたんだとさ。
で、この二柱の神の子供の筆頭が三貴子と言われるアマテラス、ツクヨミ、スサノオって神だと太郎坊が宣う。
なんだか日本神話の講義を聞いているみたいで眠くなりそうです。
「まあ、そういうのはいいや」
俺がペッペッと手を降って話を遮ると、太郎坊は泣きそうな顔になる。
「新しき主殿は、自らの根源を支える知識さえ興味を示されぬようで……」
「んで、君をここら一体の守護に任命した人って誰なの?」
「はい? どういう事でござりましょうや?」
「いや、だから、君を守護に任命した存在がいたんだよね?」
「はい」
太郎坊は不思議そうな顔でまじまじと俺をみる。
「それって誰なの?」
「貴方ではないのですか?」
話になりません。
「いや、俺じゃないだろ。
守護を任命されたのが一〇〇〇年くらい前って言ったじゃん。
その頃、俺は生まれてないでしょ」
太郎坊は益々首を傾げた。
どうやら、精霊的な感覚では良くわからないらしく、説明しても首を傾げるばかりで理解できないようだ。
魂の色が同じならば、基本的には同じ存在みたいな事を口走ったので、太郎坊としては個体の差異はあまり考慮していないという事だろうか。
「任命された時の話を聞かせてくれ」
「承知致しました。
あれは一二〇〇年ほど前の話になりましょうや」
詳しくは覚えていないそうだが、今から一二〇〇年ほど前に太郎坊は精霊から大精霊に昇格したらしい。
その時「太郎坊」という名前を貰ったそうだ。
精霊にもサラリーマンよろしく「昇格」とかがあると言われると微妙に哀愁を感じるな……
んで、昇格やら名前をつけてくれたのが当時、富士山の噴火を納めた俺なのだそうだ。
現在、その噴火こそが富士山の麓に広がる樹海が出来た要因だと太郎坊は言う。
「あの時は本当にビックリ致しました。我も噴火の熱に煽られて宙に飛ばされましたので」
太郎坊は当時、まだ烏天狗だったらしいが、この噴火において他の烏天狗だけでなく、周辺に住む人々も助けたんだそうだ。
その業績を買われて大精霊への昇格を果たしたのだそうだ。
ちなみに、彼の前に守護していた大精霊は溶岩に飲まれて消滅してしまったらしい。
大精霊も消えちゃうんか。
溶岩なんて火と土属性の塊みたいなもんだろうし、風の精霊も太刀打ちできなかったのかもなぁ。
風は水が火を抑える事で生まれる。
だが、火によって強化された土が水を抑え込めば風は弱まる。
相生と相剋関係を考慮するとこういう構図になるんですかね。
ちなみに、彼が住まう社があるこの神社。
小御嶽神社っていうところらしいです。
主祭神は
先の二柱は天孫とか言われる
この二柱が揃って娶ると永遠の命が約束されるとかで苔むすまで生きられるって感じか?
つーか、
ニニギ! マジ使えねぇな!!
で、この神社に何で神隠しの穴があるのかだが、もっと古い時代に天狗はこの地に庭を作って穴と土地を守るように山の神に仰せつかったのが最初だそうだ。
山の神か……
はい。これは太郎坊を事情聴取した情報から再構築した話です。
彼曰く、山の神は俺なのだそうです。
山の神がハイヤーヴェルと同じ魂を持っていたと過程すると、その神とされる人物の子孫が俺となるのでは?
まあ、人間の個体差を認識できない妖怪の言うことなので、何とも言えませんな。
そもそも彼が言う山の神は、一二〇〇年前にココにいたんだから、神代の時代の話に出てくる山の神じゃないだろう。
ややこしい話ですよ、まったく。
ただ、彼は俺の事を「新しい主様」と言っていたので、一二〇〇年前の山の神の転生体だという認識なのかもしれない。
とにかく、詳しく彼に聞こうとすると「何故そんな事を聞くのか」という顔をされてしまい、非常に聞きにくいんだよねぇ……
とりあえず、聞きたいことは聞けた。
結論としては、現時点では俺と同じような力を行使できる存在はいないと判断する。
全く、ビビらせんなよな。
マジで俺と同等の存在がいたらどうなることかとヒヤヒヤしたよ。
とにかく、この地球のある世界には神と呼ばれるに足る力の持ち主はいないと思う。
いたとしても、巷に現れる超能力者と呼ばれる存在がそれじゃないかな。
超能力が本物ならだけど。
それでも神と呼べるほどの力じゃない。
やはり神の力は継承されるモノで、継承されてこそ覚醒するんだろう。
それじゃなければ、世界は万国ビックリショー的な異能力者だらけになってしまうはずだからな。
俺だって転生して常人以上の身体を手に入れてから不思議パワーを手に入れた感じだし。
「太郎坊、色々教えてくれて助かった。
ありがとう」
「主殿の為ならよろこんで」
俺が礼を言うと太郎坊は心底嬉しそうに微笑んだ。
「これからも、この穴の隠蔽と周囲の守護を頼んでいいかな?」
「賜りました。おまかせくださいませ」
跪いて頭を下げる太郎坊の肩をポンポンと叩いてから、俺は
人の眼に触れないように迅速に高度を取る。
さて、細い糸の正体はティエルローゼに続く
今までの考察からオーストラリア大陸にある
俺は進路を南に向けた。
この速度で飛べば一~二日程度でオーストラリア大陸に行けるだろう。
高高度で進めば
全て見つけて都合の悪そうな
人間が勝手に転移してきたら危険だからねぇ。
え?
俺が好き勝手にできる世界を他人に弄られる事を危険と言ってるのかって?
違う違う。
生身の人間がティエルローゼに転移してきたとして、普通に生きていけないって意味で「危険」と言ってるんだよ。
ドーンヴァースのキャラクターのステータスを引き継いだまま転生した俺と違って、現実世界の人間には特殊な力はない。
魔物が彷徨く世界で、そんな普通の人間が生きていけると思うか?
それこそ同じ動物だとしても現実世界よりも遥かに強靭な野獣に殺されるのがオチだよ。
同じ馬でもティエルローゼの馬の方が遥かに強靭だからねぇ。
弱肉強食が是とされる世界に生きている動物は強きが生き残るので、こんな事になってるんだと思うよ。
なので、現実世界の人間たちの為にも、自然発生型の
まあ、あのアパートに住んでる転移希望のギャングのガキたちについては、ティエルローゼに連れて行ってやるって約束なので、連れていくけどね。
ただし生活の保証なんてのはしてやらんよ。
自分の生活は自分でどうにかしてもらう。
もちろん、最低限のサポートはしてやるつもりだけども。
服、武器、防具、二週間分くらい過ごせる当面の生活費は支給してやろうか。
まあ、真面目にやれば何とか生きてはいけるだろう。
真面目でなければ……確実に死ぬかな。
ティエルローゼはそんなに甘くないからね。
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