第29章 ── 第47話
富士山太郎坊についていくと、富士山の北側、中腹付近にある神社の裏方に降りていった。
お参りに来ている観光客らしき人々が結構いるんだが、空飛んでて大丈夫なんだろうか……
天狗は精霊だから問題ないだろうけど、俺は不味いよな?
俺はヒヤヒヤしながら観光客を見下ろしつつ太郎坊の降りた社の裏手に急いで降りた。
「ママ~、何か人が飛んでた~」
聞き耳スキルがそんな女の子の声を拾ってきてドッキリしたが「大きい鳥じゃない?」と聞く耳を持たない母親の声が聞こえてきてホッと胸をなでおろした。
「主殿、こちらにございます」
天狗は俺のそんな反応などに我関せずといった感じでマイペースである。
「人間に見られたら困るだろ。もう少し気を使えよ」
「何をでござりましょうや?」
マジで何いってんのか理解不能って顔で見つめられた。
話が通じてねぇ……
妖怪の類って事で、あまり人間的な感覚がないのかもしれない。
自分で見られようとしない限り彼らは人には見えない存在だから、そういう事に頓着しないんだろう。
「で、そっちに何かあるんか?」
感覚の違いをとやかく言っても理解されないし意味はない。
それよりも案内したいって所を見せてもらう方が建設的だ。
「はい。この先に主殿がいう物があるのではないかと」
太郎坊が再び歩き始めたので覚悟を決めてついて行った。
「ここにございます」
それは巨木だった。
世界樹とかそういう類の巨木ではないが、日本人的な感覚でいう巨木だ。
その巨木の根本あたりには大きい穴がポッカリと空いている。
だが、その大きな穴は巨木の向こう側に突き抜けていないようで真っ暗なままだ。
ウロになっているのかと思ったが、そういう類の暗闇ではない。
ただただずっと穴が続いているように見えた。
巨木の幹よりも深く続いているはずなのに、幹を突き抜けてない段階で不思議ゾーン確定である。
「なにこれ?」
「我はこれを人の目より隠す事も仰せつかっております」
人の目から隠さなきゃならないモノなのか。
俺は神の目で穴を見た。
様々な色が渦巻く激流のようなモノが眼に飛び込んで来た。
なんじゃこりゃ?
俺はさらに神の目の力を強く発揮しようと大きく目を見開く。
色が渦巻く激流、渦の中心あたりが何か開けたように見える。
さらに観測を続けると、だだっ広い草原がうっすらと見え始めた。
ここは山奥だ。
神社の裏手は森である。
草原など見えるはずがない。
という事は?
これ、
「太郎坊とか言ったな?」
「はい、主殿」
「これの謂れくらいは聞いてもいいよな?」
「は、これは神隠しの穴と言われております」
神隠し?
「この穴に入ると人は消えてしまいます」
太郎坊によれば、この穴は別の場所に繋がっているそうだが、彼自身は潜った事はないらしい。
時々、人間が偶然見つけて潜り込む事があるんだが、そうした人間は基本的に戻ってくることはないという。
「あれ? 人の目から隠しておくって話だったんじゃないの?」
「時折、不思議な力を持つ人もおりまして、我の神通力が通じない事もあるのです」
太郎坊は申し訳無さそうな雰囲気を醸し出す。
完全に人の目から隠せていない事に罪悪感を持っているのだろう。
「これは
ずっと開いておくには相当な魔力が必要になるはずなんだが……」
俺は大マップ画面で「神隠しの穴」を検索してみた。
すると何百というピンが大マップ画面上に落ちまくった。
ここ以外にも世界中に点在しているということか……
それで、ピンが落ちた一番近くの場所が、目の前の穴だった。
ピンをクリックしてみた。
『神隠しの穴
自然発生したと思われる異次元へ通じる穴。
世界各地に存在し「異界の門」、「地獄への扉」など、様々な呼び名を付けられている。
神隠しの穴の先は様々な場所に通じており、古来より人々を異次元へと送った』
自然発生した異次元へ繋がる穴だとぉ!!
こういうモンって自然発生するんかよ!?
またもやとんでもないモノを見つけてしまった。
これが異次元へと繋がるワームホールだとすると、一体どこに繋がっているのか。
神隠しと枕詞が付いている以上、一方通行の可能性が高いな。
「ん? そういや、基本的に戻ってこないって言ったっけ?」
「はい。ほぼ確実に戻ってきません」
「ということは、戻ってきた事例があるって事だな?」
「我がここの守護を任された頃から数えても数例ですね」
「どのくらい人間が潜ったか母数がワカランと判断できないな」
「我はここを任されてから千年程度になりますが、人が潜った事が数千件。
その穴から人間が戻ってきたのは記憶にあるだけでも三件ほどです」
一〇〇〇分の一くらいの確率ですかな。
穴の先がどこに繋がっているかが不明ではあるが、一方通行ではないという事だろう。
双方向で繋がっているなら潜ってみるのが、一番簡単な問題の解決法ではないだろうか。
まあ、何が起きても完全に対処できるだけの対策を立ててからではあるが。
その点、俺は地球でも魔法が使えるので、調査員としては最適だ。
さっきまで宇宙空間を飛び回ってたし、防御はバッチリだろう。
俺は「んじゃ、行ってくる」と言いつつ穴の中に突入する。
太郎坊は心配そうな顔だったけど、止めもしないし付いてくる事もしなかった。
ずんずんと進んでいくと身体が浮遊するような不思議な感覚に陥るが、足元はしっかりしていて歩いて先に進めた。
五分ほど歩くと前方が明るくなって来る。
それと共に草の香りを風が運んで来た。
そして気づいた時には草原の真ん中に俺は立っていた。
振り返ってみると、神社の裏手にあった巨木に似た木が立っている。
その根本にはやはり大きな穴が空いている。
大マップ画面を開いてみると、今いる場所はティエルローゼだった。
ただ、ティエルローゼ大陸ではない。
北半球の大陸近くにある小さな島の真ん中あたりだ。
「はい。天然の
転移陣発生装置は要らんって事ですかね……
今までの苦労は水の泡ってヤツでしょうか。
でも、地球とティエルローゼが双方向の
自然発生ってあったから、神々もこの
その可能性が高そうだ。
ハイヤーヴェルが作り出した神々も魔族もプールガートーリアの神々も今までティエルローゼ大陸にしかいなかったみたいだしな。
俺はこっちの大陸や島とかの存在は大マップで認知していたけど、流石に調査探索までしてなかったしなぁ。
一応、大マップ画面を使って、この神隠しの穴近辺の索敵だけはしておく。
でも、俺の驚異になるモノは存在しないようだ。
というか、動物全般が存在しない感じだな。
太郎坊は数千の人間が神隠しの穴を通ったと言っていたし、生き残りがいてもいいと思ったが見込み違いか?
俺は人間が生活していた痕跡を大マップ画面で検索してみる。
全世界にピンが立つと後処理が面倒なので検索範囲を指定してから検索した。
すると
それ以外のピンも今いる大きめの島の至る所に立った。
巨木の周囲を探してみると、草に紛れていくつかの人骨を発見。
どうやら、異世界に転移してこの場所から動かずに死亡したと思われる。
外傷はないので餓死したのだろうか。
周囲に水がないので脱水症状が進んで死んだ可能性も高い。
その後、他のピンの場所も見て回ったが、どこにも生きている人間はいなかった。
生活の痕跡なども見つけはしたが、どれも集落と呼べるほどの大きさはない。
転移した者たちが、落ち合って村でも作ってたらと期待してたのだが、殆どが孤独に死んでいったと思われる。
若干だけど複数人で共同生活をしていたような跡はあった。
ただ、長くは続かなかった感じだ。
動物が見当たらないので、動物性タンパク質は摂れなかっただろうし長生きできたとは思えないもんなぁ。
植物にしても食べられる実を付けそうなヤツが見当たらないし。
現実世界からリアルに異世界転移して来たというのに、ラノベのようにチートな後世を送れなかったんだと思うと、俺は彼らに対し一抹の寂しさを覚えてしまう。
俺の場合は一応文明圏に転生できたからなぁ。
神隠し勢は食料もないしマジでハードモードじゃん。
というか、何で元来た道を戻らなかったんだ?
戻ればこんな辺鄙な場所で死ななかっただろうに。
疑問には思ったが、彼らがそういう選択をしたんだから考えても仕方がない。
だが、巨木のところまで来て理由が解った。
穴がない。
いや、正確に言うと穴がないように見える……だな。
さっきまで黒々としていた神隠しの穴が肉眼では全く見えなくなっている。
いや、穴はあるんだよ。
神の目で見れば一目瞭然。
だけど、神の目を切っているとただの木の幹にしか見えない。
触っても木の肌の感覚だし、マジで穴はないように見える。
俺も一瞬焦ったんだけど、神の目を使って穴を認識した状態だと、普通に穴に入る事ができた。
どうやら神の眼のような力を発揮していると穴を定着させられるって事のようだ。
なるほど、そりゃ帰ってこれないワケですな。
多分、ハイヤーヴェルの関係者じゃないとティエルローゼから地球には行けないって事ではないだろうか。
ただ、これでハイヤーヴェルの子孫以外の人間もティエルローゼにやってくる可能性があると判明した。
もちろん、ティエルローゼ大陸と繋がっている
なにせこの世界においては、文明的な人間の生活圏はティエルローゼ大陸でしか見られないからだ。
現実なら日本列島がある位置のこの大きな島には動物はいない。
隣のユーラシア大陸に相当するであろう大陸には、ここと違って動物がいるのだろうか?
隣の大陸なら人間は暮らせるだろうか?
色々と疑問は湧くけど、それは後々調べればいい。
今は、この
こういった自然発生型
神隠しの穴の調査は完了だ。
今はとっとと地球に戻ろう。
太郎坊に聞いておかなきゃならん事があるからね。
え? 何を聞くって?
今までの彼とのやりとりで疑問に思わなかった?
彼は「守護を任命された」と言っていたんだよ。
誰に任命されたか聞いておかなきゃならんだろ?
大精霊に命令できる存在がいたとしたら、その存在をきっちりと確認しておかねばならん。
その存在は俺と同等の力を持つ存在って可能性があるんだからね。
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