第29章 ── 第44話
翌日のランドールが率いる部隊の制圧作戦の終了を以て、地下大坑道支援任務は完了だ。
各種精霊鉱石もしっかりと頂きましたので、坑道を抜けて鍛冶ギルドに顔を出します。
職人団長が快く迎えてくれましたよ。
「ようこそお出でなさった」
「どうも。
今日は見せて頂きたい本がこちらにあると伺いましたので顔を出しました」
「ほう。何だなや?」
「えーと、精霊鉱石について書かれている本があるとか」
「ふむ。アレか。しばし待つがよいだなや」
長老は自分の執務室へと入っていき五分くらいして戻ってきた。
長老の頭上にはドワーフには大きすぎる羊皮紙の分厚い本があった。
ずいぶんとデカい本ですなぁ……
「よっこいせ。これだなや」
近くにある大きな作業台に長老は本を投げ落とすように置いた。
結構管理が雑なのね。
「では読ませて頂きます」
「うむ」
大きな本を開いてみると、見たこともない文字がズラズラと並んでいる。
どうやらドワーフ語らしい。
だが、見たことの無い文字なのに読めてしまうのが俺の特殊能力だ。
この能力は転生してきた時からなので違和感はあまりない。
「ふむ……精霊鉱石の研究記録ですね」
「そうだなや。
しかし、研究が中途半端なところで終わっているのが業腹でもあるだなや」
長老の言う通り、俺がやったレベルの実験は普通に書かれているが、溶解温度など重要な部分は書かれていない。
だが、相剋関係になる各種物質について詳しく書かれているのは嬉しいかも。
この本の研究者はどの金属との合金だと精霊力と硬度がもっとも高いのかを研究していたようだ。
非常に興味深いね。
とりあえず本の内容を頭に叩き込んでから、紙に俺の研究したデータを書き込んで長老に渡した。
本の閲覧を許してくれたお礼だ。
こういったデータは坑道内の実験で抜かりなく記録しておいたのだよ。
長老は具体的な研究データなので大変喜んでいる。
今後、精霊鉱石の産出が安定して、職人たちが鉱石を手軽に利用できるようになったら役に立つだろう。
俺は長老に別れの挨拶をしてから
ようやくトリエンの工房に帰還できますね。
「では、俺たちは帰るね」
「うむ」
「何かあったらまた来るよ」
「何もなくても遊びに来るが良いぞ」
「そうだなや。王の為にも貴殿はそうするべきだなや」
長老もまた来てほしいらしい。
「あはは、そうするよ」
ランドールと長老、職人たちに手を振りつつ
「お帰りなさいませ、ご主人さま」
「閣下、お帰りなさい」
フロルとフィルが研究室で出迎えてくれた。
誰かが転移してくるのが丸わかりなのが
手に入れた各種精霊鉱石の内、半分は工房の倉庫の備蓄に回す。
残りの半分は俺の研究や開発、趣味用とする。
アースラからの依頼は趣味の一環だな。
とりあえず、地球にいる俺とは実験した時のデータと材料がインベントリ・バッグ内に納まった事を思念で伝えておく。
実験データを検討した地球の俺が「五色混ぜた時の実験データをくれ」と言ってきた。
何でそんな危険なデータが欲しいんだ?
俺の予想では大爆発なんだが?
でも、欲しいってんだから実験しなくてはならない。
地球で実験するのは周囲に迷惑になりすぎるだろうしね。
こっちでやれば万が一事故っても、各種防御魔法で守られた工房で対処可能だからね。
エマが実験室でガンガン魔法の実射実験ができた理由です。
溶鉱専用に改造してある簡易
相生、相剋関係がなるべく同時に溶けて混ざるように鉱石の置き場所や溶け出した鉱物が流れる導線レール、混じり合う場所として反応皿などを別々に用意しておく。
どの段階でどういう反応があるのか調べる為だ。
最後に反応実験の映像データも欲しいのでガンマイクを取り出して反応皿の真上の天井にセットした。
最後に簡易
準備は完了だ。
俺は鉱石置き場に五つの各種精霊鉱石をセットする。
それから
ある温度を越えたあたりで金剛鉱石が溶け始めた。
初期実験通りの反応です。
金属製は火の総括である為、熱を加えると一番最初に溶け出すのだ。
一番溶けにくいのは水属性の水燐鉱石ね。
こういうデータをキッチリと計算して導線の準備をしてあるだよ。
俺様の抜かりのなさ、マジパネェ。
つーか、自画自賛している暇はねぇな。
五つの精霊鉱石が溶け、導線を流れて行く。
そして反応皿に同時に溶けた鉱物が流れ込んでいった。
各種鉱石が混ざった瞬間、俺は目を閉じて顔を背け身構えてしまう。
「……」
どれほどの轟音と振動が発せられるかと思ったのだが……
「あ、あれ?」
何も感じないので恐る恐る目を開けて反応皿の様子を確認する。
溶けた精霊鉱石は飛び散っていない。
当然、爆発も起こっていないのだ。
「え? 普通に混ざった?」
反応皿の中に次々に溶けた鉱石が流れ込んでいる。
反応皿内は真っ赤な溶けた鉱石が渦を巻いている。
なんと、五色を同時に混ぜると精霊鉱石は致命的な反応をせずに混ざるらしい。
大発見である。
まあ、前段である相剋関係の鉱石で大爆発する性質を確認したら、そりゃ五色を一度に混ぜるような無謀な事をするバカはいないだろうしなぁ……
この発見は魔法道具と魂の色を合わせなければならないという状況に陥った俺たちだから必要になった実験だろうね。
精霊鉱石が全て溶けて反応皿で全部混ざったので
時間制御で既に溶けているんだが、出来上がった物体は真っ赤だ。
それと表面が何やら湯気を通して見たように揺らいで見える。
なんとも不思議な物体になったな。
俺は
『緋緋色物質
緋緋色系金属を作るために必要な媒体。
主な緋緋色系金属には緋緋色金、緋緋色魔銀、緋緋色金剛、緋緋色神鉄などがある』
おう……なんてことだ。
ヒヒイロカネ。
日本の古史古伝における伝説上の金属。
感じでは緋緋色金、日緋色金、火廣金とも書く。
伝承では三種の神器の材料だとか伝わっている。
曰く、太陽のごとく赤く輝く金属である。
曰く、表面がゆらめくように見える。
曰く、見た目に反して触るとヒンヤリしている。
物の本によれば、俺がヤマタノオロチに貰った
アトランティス伝説におけるオリハルコン的扱いだ。
俺は、アトランティスのオリハルコンとヒヒイロカネは同一金属なのではないかと考えていたんだよね。
まあ、神の金属としてオルハルコンが実在する世界においては、別物なんだけど。
フレーバーテキストから察するに、緋緋色金は鉄、緋緋色魔銀がミスリル、緋緋色金剛がアダマンチウム、緋緋色神鉄がオリハルコンを混ぜて作った合金なんだろうな。
あの文言だとそれ以外考えられない。
金や普通の銀、銅、プラチナなども混ぜたら緋緋色系合金になる気がするんだけど、出来た合金が何に使えるのか判らんわ。
それと、神々が使うオリハルコン製の武器って、このヒヒイロカネより弱いんですかね?
フレーバーテキストから考えても緋緋色神鉄が最強だと思うんだけど……
待てよ?
俺は腰の後ろに付けてある
「
この魔法は最近俺が開発した鑑定系の魔法だ。
物品が構成している要素、主に上げるなら物品の素材など細かい物を暴き出せる魔法となっている。
どこ産の鉄鉱石や木材を使っているとかまで解るので便利です。
例えば、フソウのキヨシマ組のモルタルの配合割合とかも看破できる。
はい。
やはり思った通り、核となる部分は緋緋色神鉄でできてますな。
緋緋色神鉄をコアにして火、水、土、風の四属性の精霊力を使っているらしい。
陰陽五行が基本の現在のティエルローゼとは違うので、まだ世界の構造が単純だった頃の古い技術なのは間違いない。
ちなみに、今でも風の属性というのは存在しますよ。
火に上位相剋にある水の属性を掛ける事で、火が弱まって風が生まれるという事だそうだ。
四大元素時代の名残りとも言えるかもな。
古い時代は水と火は相対する属性だったワケだしねぇ。
そういや火、木、水、風、土の五種類の大精霊とは会った事あるけど、金の大精霊って何なんだろう?
陰陽五行なんだから火、土、木、金、水の五大精霊なんだと思うけど、風の大精霊が出てきてる所為か影薄いよね……
まあ、この五つが相関関係にあるんだけど、それ以外の属性というのも魔法学的にあるので気にしても仕方ないのかもな。
ちなみに、ドーンヴァースで出てくる属性は以下の通り。現在のティエルローゼもこれに準拠していると思われる。
・火属性
・水属性
・金属性
・土属性
・木属性
・氷属性
・風属性
・雷属性
・毒属性
・精神属性
・生命属性
・死霊属性
・時間属性
・空間属性
・光属性
・闇属性
・聖属性
・邪属性
・魔属性
・物理属性
・理力属性
・変化属性
以上、全二二属性だ。
もしかするとこれ以外の属性が増えたりする事もあるかもだけど、現時点でティエルローゼの世界分科はここまでしか進んでない。
上記の属性で一応は合っているんだろう。
この手の事は突き詰めて考え始めてしまうと、どんどん深みに嵌まる事になるので「そういうもんだ」と漠然と認知しておけばいいんだと最近の俺は思っている。
ティエルローゼを創ったハイヤーヴェルも質問されたら困るだろう。
深く考察もせず、そういうモンとして定義したとかだろうし。
そこに何故とか理由を求め始めると答えは出ないんだよ。
科学においてもメカニズムは解明できたとしても、理由は解明できないもんだからな。
何故光の速さが一定なのかなんて理由は誰も知らないだろ?
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