第29章 ── 第37話
地球に行ってる俺から難問が突きつけられた。
今まで意識はしていなかったのだが、魔法装置を稼働させると何らかの波動が発生するらしい。
その波動は、様々な色を持っているという。
試しに
なるほど、確かにオーラっぽい波動が見える。
続いて
オレンジに近い赤色の波動だ。
様々な魔法の波動を確認していくと、光の三原則のような法則性がある事に気づいた。
しばらく脳内で思考実験や考察を繰り返してみて、色々と納得が行く答えが導き出せた。
今まで得た知識とこの法則性から、基本的にこの波動の色によって様々なものが決まっているのではないだろうか?
魔力を染めると言われる精霊力もそうだ。
調べた限り、火属性は赤、水属性は青、土属性は茶色、植物属性は緑、金属は黄色という感じだった。
この波動の色が混じり合う事で様々な効果に方向性が与えられるワケである。
ちなみに人間の魔力は無色だ。
これは俺の身体に内在する魔力も同様だ。
この魔力をそのまま術式に流すと無属性魔法となるし、魔法術式によって精霊に力を借りる事で色を成して魔法となる。
無属性魔法は生物本来の力の発露に近いと思われる。
というより、これが原初魔法の根源的な力では?
それは置いておこう。
考察を続けると、この無色の力に、本来魂が持つ色が影響を与える事で、人間の性格や、スキルや魔法属性の得手不得手の部分が反映されるようだ。
魂が赤に近ければ火属性の魔法が得意、青に近いと冷静沈着という感じですかね。
俺が転生した時に基礎となった身体データはドーンヴァースのキャラクターだ。
このキャラクターは火属性魔法を得意としていたからか、身体は赤が比較的強く出ている。
だが、俺の魂はそれに囚われていないので、様々な色に変化する。
というか、自分がイメージするとどんな色にも変化するというべきだろうか。
固有色を持たないとか反則なんじゃないでしょうか?
さて、という事は、俺と魂の血縁関係にあるものは、これと同じ性質を持った魂の色を持っているという事だろう。
それを調べる為にシンジに会いに行ってみた。
冒険の旅に出ている俺がいきなり訪ねてきたのでシンジには驚かれた。
冒険の話や世間話をしている間中、俺は神の目を起動してシンジを観察していると、シンジの魂の色はクルクルと変わっていくのが解る。
感情によって色が変化するのだ。
もちろん、基礎的な部分は変わらないのだが、表面的な部分は変化が激しい。
近くにいるお針子娘たちの魂の色と比較しても、変化度合いが激しい。
トリシアの話になると微妙にピンク掛かった色になるのが印象的だったな。
結論として、魂の色は感情によって表面の色に変化が出る。
基礎的部分は普通は変化しない。
俺やシンジは相当に特殊だった。
基礎部分はちょっと説明しにくいんだけど、見る角度というか捉え方で色が変化する。
昔の駄菓子屋には、見る方向を変えると、見える絵が変わるシールとかあったじゃん?
あんな感じだと思ってもらえればいいかな。
さて、考察を続けよう。
では、この俺の魂の色を魔法装置が発する波動の色で再現するのは可能かどうかを考えよう。
何時間か考えたが、魔法装置で再現するのは不可能だと思い始めた。
色が固定できない以上、当然といえば当然だ。
俺が絶えず魔法装置に俺の魂の力を与え続ければ行けそうだが、俺抜きでは不可能という事だ。
それが何を意味するかと言えば、あっちの俺をこっちに転移させるのが無理って話だ。
そいつは不味い。
俺の力の半分なので、戻ってきてもらわないと、こちらの世界で何か起こった時に対処できないなんて事になりかねない。
どうにかして、魔法装置だけでティエルローゼへ転移可能なモノにしなければならない。
俺が研究室内をウロウロ歩き回るものでエマの雷が落ちた。
「いい加減落ち着きなさいよ!
ウロウロされたら気が散るじゃない!!」
「あ、うん。ごめん……」
俺は椅子に座りつつ謝る。
「閣下、何かお困りなのでしょうか?」
フィルも心配そうに声を掛けてきてくれる。
「いや、魔法にしろ、物質にしろ、どうやら様々な色を持つ波動を発しているらしいんだよ」
「波動? 私はそんなもの感じないけど?」
エマも俺の話を聞いて首を傾げる。
「神の目を持ってないと解らないみたいだよ」
俺は神の目での見え方などを説明する。
「あれかしら? 私がお母様から聞いた伝説なんだけど、エルフの女王が持つと言われている……」
「ああ、『万物を見抜く目』ですね、姉さま」
フィルが呼応するように言った。
「そうね。そんな名前だったかしら」
エマが頷く。
「ファルエンケールの女王もそんな目を持っているのか?」
そういや以前話した時の事だが「織りなす力」がどうとか言ってた気がするな。
ユニーク・スキルの一種だろうと思っていたんだが、神の目に匹敵する力だったのかもしれないな。
まあ、ユニーク・スキル自体が、神が持つ権能の一つという可能性すらあるからなぁ……
俺のユニーク・スキル「オールラウンダー」でさえ、ゲームデザイナー住良木幸秀が自分で使う為にドーンヴァース上に用意した特別なユニーク・スキルだったらしいからな。
「確か精霊の力を見定められるとか聞いたわね。
妖精の王には必要な力なのかもしれないわね」
精霊の力をねぇ……
俺はここでピンと来た。
色を決定づける要因は精霊力なのは間違いない。
という事は、魔導基盤の随所に精霊の力を宿すモノを使えばどうだろうか?
ここから考え出せる最良の物質は精霊石だ。
しかし、精霊石はティエルローゼでは簡単には見つけ出せない。
大マップ画面から検索すると、それなりにマップにピンが立つが、拡大していくと、あまりにも量が少なすぎて論外になる。
ヤマタノオロチのところにある水の精霊石クラスのヤツは皆無である。
代替案を考えてみたが思いつかない。
大精霊を召喚してお願いするしかないのだろうか?
しかし大精霊の力をみだりに使うのは気が引けるな……
大きな力を行使すると必ずといっていいほどに歪みが発生する。
それが世界の終焉に続くなんて展開が物語では定石と言って良い。
大精霊は世界を作る存在なので、その力が偏ったり、まかり間違っても減ったりするような事になったらティエルローゼが危機に陥りますからな。
やはり地道に精霊石を集めますかな?
ん? 待てよ……?
俺の記憶のどこかに役に立つ知識が眠っているという意味不明の直感を覚える。
何かあったっけ?
うーん。
俺は記憶の中を手当たり次第探して回る。
これは違う……
これでもない……
そして俺はとうとう見つけた。
「精霊鉱石……」
俺がボソリと囁くとエマが顔を上げた。
「何それ?」
「アナベルが言ってたんだけど、確か神々が精霊に生み出させた金属があるらしいんだよね……」
という事は神の方が知っていそうな気がするな。
俺は念話でイルシスを呼び出してみる。
彼女は魔法の神なので魔力やら精霊力やらに詳しそうだし。
「はぁ~い。貴方の愛しい存在イルシスちゃんですよ?」
相変わらず面白い女神さまである。
「面白いというより愛らしいと思っていいのよ?」
「いや、遠慮しておく」
確かに見目麗しい女神ではあるんだが……性格はオタク少女だし。
「オタクってのは解らないけど、見目麗しいとお姉さん嬉しいのよ?」
「そういうのは今はいい。聞きたいことあるんだが?」
「何かしら?」
「精霊が生み出す金属ってのがあると聞いたんだが?」
「ええ、あるのよ?」
「おお、それはどんなモノなんだ?」
「精霊力が宿った鉱石を精錬すると出来る金属なのよ。
火の精霊力が宿っていれば火焔鉱から作られるの」
おお……やはり、そんな鉱石があるのか……
「ハンマール王国の地下で取れるとか聞いたな」
「その通りなのよ」
イルシスは精霊鉱石について色々と教えてくれた。
火の精霊力を宿す火焔鉱、水の精霊力の場合は水憐鉱、土の精霊力は土尋鉱、木の精霊力は木耀鉱、金の精霊力は金剛鉱。
人の手が加わっている場所で採れるのは基本的にハンマールの地下坑道が唯一の採掘場所。
精霊石ほど強い力は持っていないらしいが、ほぼ似たような力を持っているそうだ。
ちなみに精霊鉱石は、神々が精霊石をティエルローゼでも使いたいと精霊たちに要望を出した為に生み出されたモノらしい。
神々にワガママを言われた精霊たちの苦肉の策だったとか。
大精霊たちよ……ご苦労さまです。
その後、神々は自分たちでも作り出せる金属を考え出したという。
それがオリハルコンなんだってさ。
神力から精錬されるオリハルコンは、神々が持ち込まない限り地上には存在しないという。
まあ、ドーンヴァースから持ち込めば、いくらでも手に入るのですが。
「こりゃ、早速採掘しにいくべき案件かな」
「頑張るのよ」
「ああ、色々教えてくれてありがとうな」
俺は念話を切る。
さて、精霊鉱石を手に入れなければならないな。
あれから大分経つし、ハンマールの大坑道の運用が始まっていればいいんだが。
俺は早速ハンマール王国の王様であるランドールに念話を使う。
神々の楽園「パラディ」完成後に送っていったきりだし、元気にしているだろうか。
──プルルルルル
無味乾燥な呼び出し音。
神々に掛けると変更されている事もあるんだが、下界の者は基本これだね。
「なんじゃ! 今忙しいのじゃ!!」
念話に出たとおもったら突然怒鳴られました。
「ああ、すまん。取り込み中だった?」
申し訳なさそうに謝る俺の声聞いたランドールが「うお!」と驚きの声を上げる。
「その声はケントか!? これは念話じゃな!?
すまん! 今戦闘中なんじゃ!! そりゃあ!」
なにやら戦闘中に掛けてしまったらしい。
「忙しかったみたいだな。後で掛け直すね」
俺は念話を切った。
ふと気になったのだが、国王自ら何と戦闘しているのだろうか?
俺は大マップ画面を開いてランドールを検索してみる。
ポスッとピンが刺さったところは、やはりハンマール王国がある場所だ。
ピンの刺さった場所を3D表示して、拡大したり角度を変えてみたりする。
ランドールは地下大坑道の最下層にいるようだ。
彼の周りには白い光点がいくつもあり、赤い光点も多数確認できる。
ランドールと他の白い光点は共に戦線を作っているようで、赤い光点と
赤い光点をクリックしてみるとケイブ・トロールの集団である事が判る。
ケイブ・トロールのレベルは三〇ほどだが、基礎ステータスが人間種よりもかなり高く、再生能力はかなり厄介である。
ハンマールの軍勢でもなんとか対処できるとは思うが、結構危険かもしれない。
これは助けに行った方がいいかも。
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