第29章 ── 第27話
賛成と反対が半々なので、俺の意思次第で決まる。
ま、俺はやるつもりなんだけど。
成功率は四〇パーセントも無いかもしれない。
これは御霊分けの成功率だ。
さっきも言ったように、アースラの妻子転生は成功率が五パーセントを超えていない。
この成功率を上げる為の御霊分けなのだから当然だ。
御霊分けが成功しなければ、その先にある妻子転生は絶対にやらん。
俺は友人の家族を殺すような事をするつもりは毛頭ない
成功率五パーセントなんてどう考えても自殺行為だろ?
これが超有名シミュレーション「超ロボットウォーズ」並の乱数アルゴリズムの世界観なら、五パーセントなら「感覚的に成功率は一〇パーセントくらいかな?」とか考えるかもしれないが……
ほら、あのゲームは成功率七〇パーセントでも失敗すると考え次の行動決めるよね?
あのゲームの影響で降水率七〇パーセントでも傘持たずに出掛けるようになったっけな。
逆に降水率三〇パーセントなら傘持っていくし。
そして濡れたり濡れなかったり……
そんな判断基準が頭に備わっている俺だから、成功率四〇パーセントならゴーサインが出るワケですよ。
天邪鬼な気もするけど、これで俺の人生上手く回ってたからね。
きっと今回も上手くいくと思うよ?
ま、成功率アップできそうな要素はキッチリ実行しておこう。
必中、回避、熱血コマンドくらい使っておきたいだろ?
「では、俺も賛成。
賛成多数なので、御霊分け作戦実行決定だ」
チームの仲間たちは不満そうだが、俺の決定に文句は言わなかった。
その後夕食の準備。
今日は久々にカレーでも作るか。
となるとトッピングも大量に作らなければ。
トンカツは当然として、フライドチキンとかハンバーグとか……
どうもCocchi壱萬館のメニューっぽくなってきたな。
まあ、カレーは何にでも合うからな。
鼻歌交じりカレーを仕込んでいると、後ろからマリスが抱きついてきた。
「む? マリスどうした?」
だが、マリスは俺の腰付近に顔を埋めて黙ったままだ。
「離せよ。カレーの仕込みができん」
俺はマリスの腕を外そうとするが、マリスがギュッと力を入れてしがみつく。
マジでどうした?
俺が困惑していると、ようやくマリスが口を開く。
「元の世界に戻れるようになったら、ケントは帰ってしまうのかや……?」
「は?」
「だってそうじゃろう?
話に聞くケントの故郷は、ティエルローゼより暮らしやすい夢のような世界なのじゃろ?
カリスどもがティエルローゼを破壊してまで戻りたい楽園なのじゃろう?」
マリスのしがみつく力が少し強くなる。
「ああ、そういう事かよ。
心配すんな。
俺は地球に戻りたいなんて考えてないよ」
そんな事を考えていたとはな。
何千年も生きている割にまだまだ子供だな。
そういや、若竜認定されたのに成長が始まってないな。
成長した姿になるのに何百年とか掛かるんかね?
そうだとすると人間的感覚では測れないですなぁ。
マリスの力が緩んだので、俺の方にマリスを向き直らせる。
顎に手をやり顔をこちらに向けさせる。
少し涙が滲んだ瞳を覗き込んで俺はニッコリと笑ってやった。
「心配はいらないさ。
俺は現実世界に失望してた。
確かにマリスが言うように暮らしやすくはある。
でも、マリスやハリス、トリシア、アナベル、エマ、フィル、コラクス、フラ、アラネア、館のみんな、レベッカや配下の貴族、数えたらキリがないが、俺の仲間や協力してくれる人々を捨てていくなんて出来ない」
マリスの頭をポンポンと叩く。
「こんな居心地の良い居場所を捨てるなんて出来ないよ」
「本当かや?」
「ああ、本当だ」
ようやくマリスが笑顔になる。
「それなら良いのじゃ。
我はケントのいない世界などいらないのじゃ。
ケントはいつでもいつまでもティエルローゼに留まっておると良い」
見ればエマ、アナベル、トリシアがテントの陰からこちらの様子を覗き込んでいた。
マリスの実家だからマリスに花を持たせた感が半端ねぇ。
マリスの不安を煽って焚き付けたな?
あいつら結構狡いよな。
マリスはやりたい放題のワガママッ娘だが、心根は純粋無垢なので、こういう役割を振られても疑いもしない。
そういう存在を利用して、自分のやりたくない事をさせるような真似は、あまり賛同できんな。
「お前らちょっとこい」
顔を出す三人を呼ぶ。
俺の雰囲気にトリシア、アナベル、エマは不安そうな顔になる。
「そこに座れ」
俺は地面を指さした。
有無を言わせぬ雰囲気にトリシアが観念して示した場所に正座した。
アナベルとエマもそれに倣う。
正座し慣れていない者にはキツイ体勢である。
トリシアは魂が元日本人なので平気そうだが、アナベルとエマは直ぐにモゾモゾしはじめた。
俺がジッと三人を睨んでいるので、体勢は崩せない。
「お前ら、マリスを利用するにしてももう少し考えろ」
「しかしだな。聞きにくい事だったから……」
トリシアの言い訳をジロリと見るだけで止める。
「言いたい事、聞きたい事があるなら直接俺に言え。
マリスは真に受けやすい。
いたずらに不安にさせるのを俺は良しとしない」
「ゴメンなさい。
私が言い出したの。
トリシアもアナベルも関係ないわ」
エマは俺を見上げながら二人を庇う。
肩が微妙に震えているのは、俺への畏れか、自分の罪に気づいた所為か……?
「いや……
エマが言い出したのはそうなんだろうけど、それを止めもしなかった二人にも問題があると思っているんだよ」
「すまん。
私も軽率だった」
トリシアが素直に謝る。
「そうだな。年長者として君がしっかりするべきだな」
アナベルは何で怒られているのか解ってないっぽい。
意味も判らずに話に乗っかってただけなんだろうな……
「アナベル、お前はマリスと仲良しだろうが。
何でマリス一人に行動させてんだよ」
「仲良しですけど……」
アナベルが困惑した顔をする。
そしてトリシアに顔を向ける。
「マリスちゃん一人の方が効果的?
とか聞いたのです」
何が効果的かまでは理解が及んでいないっぽいな。
「トリシア……」
「いや、マジですまん……
私も不安だったんだ……
私が一番心配だったのはケントが日本に帰ってしまう事だ。
私はエルフに転生した身だ。
地球とティエルローゼが万が一繋がったとしても、地球は帰る場所ではない。
私は地球には帰れないんだ……」
トリシアの目にも涙が盛り上がってくる。
俺は「はぁ……」と溜め息を吐く。
「それは、こっちに転がり出てしまった全員がそうなんだよ……
全員、あっちの肉体は既に死んでいる。
肉体もドーンヴァースのアバターでしかない。
あっちに帰っても当然の事のように居場所はない」
俺はもう一度溜め息を吐いた。
不安や猜疑心は人を愚かにする。
聡明なトリシアですらこの有様だ。
なので俺はキッチリと宣言しておく事にした。
「言っておく。
俺はティエルローゼを放り出すような事はしない。
創造神の後継に選ばれた段階でそんな事はできなくなった」
正座させられている三人以外、ハリス、アモン、フラウロス、アラクネイアも聞き耳を立てていた。
「こっちに転生して来たばかりの頃は、帰れるかどうか試しもした。
だが、ハリスと知り合い、トリシアに出会い、マリスと共に戦うようになった」
ハリスは顔を赤くしてそっぽを向いた。
マリスの頭をポンポンするとマリスも嬉しげ見上げてくる。
「成り行きでアナベルが押しかけメンバーにもなったが、仲間にして正解だったと今でも思う」
アナベルは太陽のような笑顔を作る。
トリシアも押しかけメンバーの一人なので長い耳が少し赤くなった。
「エマ、フィルも俺にとっては大切な仲間だ。
俺一人では持て余しそうな工房を運営してくれてるんだから当然だな」
エマも茹でダコみたいに赤くなったが「ふん。当然ね」とか言いながら顔をプイッと背けるところがツンデレですな。
「まあ、創造神の後継はさておき、オーファンラント貴族としての責務もあるな。
部下や配下への責任だけでなく、領民の安全を守るという義務は捨てることはできない。
もちろん国王への忠義も重要な要素だ。
俺は、自分の責任から逃げるつもりはない」
全員を見回してから、再び口を開いた。
「ここに宣言しておく。
俺がこのティエルローゼから出ていく、あるいは消えることは決してない」
途端に周囲がカッと白い光に染まる。
眩しくて直ぐに目を閉じたが、瞼の裏まで真っ白に見えるほどの強烈な光だった。
恐る恐る目を開けると、仲間たちも目をしぱしぱさせていた。
「な、何が起こった?」
「解らん……」
トリシアの問いにハリスが答える。
「眩しかったのじゃ。でも見たことがあるような気がするのう」
「私もそう思います!」
マリスとアナベルには心当たりがあるのか?
「そういえば……リサドリュアス様に出会った頃にこんな事があったな」
トリシアの言葉に合点がいった。
「ああ、それでか……」
どうやら俺は何かと誓約を結んだようだ。
それが何なのかは解らない。
神の目を機能させて俺の身体を見たら、あの白いウネウネに雁字搦めに縛られた身体が見えた。
やれやれ。よく判らんが、呪いに似た性質の何かで縛られたっぽいね。
デバフ効果は見受けられないけど、この世界から出ていくような事になったら、間違いなく何かが発動するに違いない。
なんとも厄介だ。
御霊分けに影響が出なければいいけど、不安は尽きませんな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます