第29章 ── 第24話

「ラピッド・ショット! スケイル・ショット!!」


 トリシアが技名を言い放ち、バトル・ライフルを連射しまくる。


「忍法……牙切……」


 六人に分身したハリスが各青竜の左右に展開しその牙を切り飛ばしていく。


連続印章シリアル・スタンプス!!」


 アナベルがウォー・ハンマーを振り回し、青竜たちの頭を流れるような動きで殴りつける。


重力槍グラビティ・スピア!!!」


 エマの重力魔法が炸裂し、青竜の身体が地面に縫い付けられた。


 だが、青竜もやられっぱなしというワケではなく、唯一できる攻撃であったブレスが俺たちにお見舞いされる。


「我たちにそれは効かぬのじゃ。究極掩蔽アルティメット・スクリーン


 あ、俺がマリスの鎧に組み込んでやった攻撃無視魔法天蓋スルー・マジック・ドームに似ている。

 前衛職のマリスには些かMP消費が厳しいコマンド・ワードだったので、スキルとして似たようなモノを覚えたのかもしれないな。


 飛んできた三条の雷撃は、マリスの張った完全防御バリアに跳ね返され、次元隔離戦場ディメンジョナル・アイソレーション・バトルフィールドのバリアにも跳ね返される。

 電撃の跳弾地獄となった戦いの間だが、俺達には何のダメージも及ぼさない。

 それどころか、逆にブレスを履いた青竜に電撃がぶち当たる始末。


 自分の吐いたブレスが命中して青竜たちのHPバーが若干減ったのが見えた。

 大抵の場合、ドラゴンたちは自分の吐くブレスに完全な耐性があると思うんだが?

 マリスは炎に完全耐性持ってるよな?

 随分と間抜けじゃないか?


「マリス。

 あいつら自分の吐くブレスに完全耐性を持ってないみたいだぞ?」


 俺はマリスに質問してみた。


「当然じゃ。我とて炎には完全耐性じゃが、炎に付随する現象である熱には完全な耐性を持っておらん。

 長く熱に晒されれば我とて身が持たぬのじゃぞ」


 という事は、さっきのダメージは雷撃に付随する何かにHPが削られたって事か。

 俺の推理だけど、電気エネルギーが身体を伝わる際、抵抗素子的な役割をする生体部位を流れてエネルギーが熱に転換された事によるダメージを受けたと考えられないだろうか?

 

 青竜自体はダメージを負ったようには見えないところを見ると、外側は電気エネルギーへの耐性が強いんだろう。

 この青竜の外側の身体は電気エネルギーに耐性を持った素材になりえるワケだな。


 ふむ、なかなか面白い現象じゃないか。


 電気エネルギーを熱エネルギーに変換する為の仕組みは人類が電気を発明した頃から知られている科学知識である。

 それを利用して様々な電気機械や電子機械が作られてきた。

 解り易いは電熱器系統だろうか。

 電気ポットとかIHコンロとか。


 白物家電用の素材に使えそう……


 俺の目にはもう青竜は素材の塊にしか見えていない。


「コラクス!」

「はっ!」

「外側を傷つけずに内側から相手を無力化する技はあるか!?」

「ございます!」

「よし、やれ!」

「承知致しました!! アラネア!!」


 俺の命令が飛ぶとアモンは電光の如き素早さで前線へと身を躍らせる。

 アモンの呼びかけにアラクネイアが無言で動き出した。


蜘蛛の糸スパイダー・ウェブ


 アモンと共に前に出たアラネアは空中へ飛び上がると蜘蛛の糸スパイダー・ウェブのスキルを使い三匹をピクリとも動けないように地面に縛り付ける。


「ぐぇ!?」


 エマの魔法の重力のによって地面に四肢で踏ん張っている為、既に動けないというのに、こんな事をされては重力に対抗することはできなくなってしまう

 当然のように三匹は地面に完全に縫い付けられてしまった。


「いきますよ? 意識不明ロス・コンシャスネス!!」


 完全に無防備になった青竜の後頭部にアモンの攻撃が炸裂していく。

 一撃を食らった青竜はたったの一発で白目を剥いて泡を吐き出し気絶していった。


 恐ろしい連携プレイだ。

 映画とかで後頭部に拳銃のグリップを打ち付けて気絶させる描写が良くあるが、あれは映像の中だけの話で、実際にやった場合は頭蓋骨骨折や脳挫傷などを伴う非常に危険な行為になると聞いた事がある。

 アモンは技名を叫んでいたけど、単にコレをやっただけだよね?

 下手したら死ぬよ?


 俺は三匹のHPバーを確認する。

 HPが一瞬で三分の一まで減少しているが、SPバーが完全にゼロになっているところを見ると気絶で済んだようだ。


 我が配下ながらビビらせよる……


 俺はホッと一つ溜息を吐く。


「我が主よ。とどめを」


 いや、殺さないよ?

 でもまあ、完全勝利の一発は必要ですな。


「では、お言葉に甘えて……」


 俺は愛剣を構えるとアモン以上のスピードで三匹に迫った。


「三連撃、刀技鱗取スケイル・リムーバー


 俺の技を食らった青竜の鱗が綺麗に剥がれ落ちていく。

 後にトリシアから「動きが魚を捌く寿司職人のようだった」とお褒めの言葉を頂いた。


 その光景を見ていたマリスは小剣ショート・ソード大盾タワー・シールドを取り落とすなやいなや、両の手を頬に当てて「ひいいいいぃぃぃいぃぃぃい!!」と恐怖の悲鳴を上げた。


「よし、一丁上がり!

 みんな! 速やかに素材回収!」


 さっきみたいに上から挑戦者が落ちてくる可能性を考慮して迅速な回収は必須だろう?


 案の定、この後も何匹もモンスターが落ちてきた。

 トロールやらオーガ、エティン、ラクシュミ、マンティコア……

 珍しいところではフェニックスもいたね。


 そうそう。

 砂漠で俺たちに謎掛けをしてきたスフィンクスもいた。

 どうやら彼女は子供だったらしく、その父君と母君とやらが再挑戦してきた。

 でも、小学校のなぞなぞレベルだったのは娘となんら変わらなかったとだけ言っておこう。

 戦闘にもならなかったので何のために出てきたのだろうか……

 なぞなぞだけで撃沈して帰っていくとか意味解らん家族ですよ。



 だが、落ちてくる怪物が戦いの間の隅に山を作り出しても、どんどん落ちてくるのでうんざりしはじめた。


「これ、いつまで続くの?」


 エマが魔法の指輪から魔法を打ち出しつつ不安そうに俺に聞いてきた。


「さぁ……?

 それは俺にも判らん……

 マリスは解るか?」


 大盾タワー・シールドで敵の巨体を吹き飛ばしつつマリスは肩をすくめる。


「我もこんな仕組みになっていようとは知らなかったのじゃ……

 もしかすると我の実家のこの部屋が世界樹の最終防衛線というヤツじゃったのかのう……」


 実際、マリスはこの部屋への出入りを親たちに禁止されていたという。

 時々、こっそりと忍び込んでは玩具おもちゃを漁っていたと彼女は言っているけどね。

 どんな玩具なのかは聞かないでおきたい。


 だが、数時間もこの状況が続き、さすがに一時退却するかと考えていた頃……

 突然戦いの間に複数の光の柱が立ち上がった。

 光が収まってみると、アースラを筆頭に武装した神々が何柱もそこに立っていた。


「控えろ!」


 アースラの一喝に全てのモンスターが動きを止めて後退りした。


「貴様たちが挑んでいる者は我ら神々の眷属なり。

 即ち神々に挑むと同じと知れ!!」


 神々の軍勢が降りてくるとか始末に負えねぇな……


 などと思っていると、戦闘装束が勇ましい部活女史マリオンが俺のところに走ってくる。


「大丈夫っすか?」

「いや、お前らこんなに降臨して平気なのか?」

「世継ぎたるケントたちがピンチっぽかったっすからね」

「俺はともかく、仲間のSPとかMPとかがヤバかったかもね」


 俺が権能を開放すれば一瞬でカタは付いたんだけど、それって反則かなぁと思って使いあぐねていたんだよね。

 もちろん、仲間の命に危険があったら使うのを躊躇わないが、まだそこまでピンチとは言えなかったしな。


「そうっすか?

 上から見てたら結構危なかった気が……」

「そうでもないな。

 上にいるとかいう古代竜が次々に落ちてきたらヤバかったかもしれないけど……」


 そういやバトル・ジャンキーのハズなのに青竜以降、全く落ちてきてないな。


「そりゃ落ちてこれないっすよ。

 マリスちゃんが悲鳴あげてたっしょ?」

「ん? そういや、外でマリスがアレやってドラゴン系が全く出てこなくなったっけ」


 やはりアレにはドラゴン系を遠ざける何かが含まれているに違いない。


「アレはドラゴン種特有のモノなんすよ。

 仲間の悲鳴に無条件に恐怖するみたいで、アレをやられると一瞬で周囲のドラゴンはいなくなるんすよねぇ」


 マリオンが肩を竦める。


「なるほど……

 あれをやられると貴重なドラゴン素材が集められなくなるか……

 自重するように言っておくかな?」

「無理っすよ。アレ、多分マリスちゃんは無意識でやってる」

「マジか……」

「ドラゴンの防衛本能じゃないかと思うっす」


 うーむ。たしかに隠形術で完璧に姿を隠す古代竜は臆病な面もあるワケだし、そういう側面の現れなのかもしれないな。


 ドラゴンは強力なモンスターだけに数が少ないし、それに逃げられては儲けに関わる。

 鱗取スケイル・リムーバーはマリスの前では封印しておくべきかもしれない。


 まあ、別に鱗を剥ぐのに鱗取スケイル・リムーバーを使わなくて剥げるしね。


 神々がモンスターに説教をし終わると次々に光の柱になって神界に帰っていく。


「しかし、ケント。

 お前ら強くなったなぁ」

「そうだろ?」

「ああ。あれだけの強者をたった九人で捌いていたからな」


 モンスターたちにフェア精神があったので出来た事ではあります。

 全部一度に掛かってきてたら問題はあったかもしれないが……一度に数匹、小型のヤツなら二〇匹程度が落ちてくるだけなので、仲間たちと一緒なら問題は少ない。


 ただ俺たちは継戦能力が無限ってワケではないので、休息が取れない状態では半日は持たない。

 そういう部分は問題があった。


 なので神々が介入してくれたので助かったというのは事実だ。


「何にしても、助かったよ。

 仲間たちのMPとかSPが心配になりかけてたからね」

「そうだろう。

 だから戦の神たちを集めたのさ」


 次々に帰っていく神々をアースラは顎をしゃくって示す。


 俺が目を向けるとアイゼンがキザなお辞儀を俺にしてニヤリと笑って帰っていくところだった。


 あいつは相変わらずだなぁ……


 それに続いてウルドが俺に敬礼して帰っていく。


 しっかり美少年姿が板についてきたな。

 あの素体だと母性をくすぐられる女神が多数出そうなので、神界ではモテまくっているに違いない。

 戦争の神だから硬派っぽいイメージだったけど、結構軟派なところがあってよろしい。

 あれが土方歳三を知って鬼の副官とか宣っていたワケだよね。


 色々想像したら笑いが漏れそうです。


「んじゃ、私も戻るっす。

 アースラさんはどうするっすか?」

「ああ、俺はもう少しケントと話していく」

「承知したっす! では!」


 そういうとマリオンも光の柱になって消えた。


「何か他にあるのか?」

「ああ……」


 何だ? 歯切れが悪いな。


 アースラは何か言いたそうなのに口ごもってハッキリしない。

 アースラらしくないが、それほど言い出しづらい話なのだろうか?


 色々とルールがあって面倒くさい神界では対処できない問題だとすると、俺が手を出して良い事なのかどうか判らんが、アースラには色々と世話になってるんで少々厄介な頼みでも聞いてやるつもりはある。


「いいから話せよ」

「実は……頼みが一つあるんだが……」


 その後ボソボソと話す彼の頼みは俺の一存で決めて良い事ではないと思えるとんでもない事だった。


 ティエルローゼの歴史上でも頻繁にある事ではない。

 さすがに俺の権限を以てしても、コレを故意にやっていいのかどうか、激しく悩む頼みだった事は言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る