第29章 ── 第22話

 アガリスに続き、ヤヌスとゲーリアがドラゴン形態に戻ったのを合図に戦端が開かれた。


 アナベルが初っ端に全属性耐性付与オール・アトリビュート・レジスタンスによって仲間の属性耐性を上昇させた。

 次の瞬間、アガリスによる火炎ブレス攻撃が炸裂した。


 既に戦闘聖女バトル・セイントであるアナベルの耐性魔法は世界でももっとも効果の高いものに昇華している。

 古代竜といえど、レベル一〇〇にも満たないモノのブレスでは仲間のHPは五パーセントも減らすことはできない。


「あちち。

 炎への完全耐性を持つ我でもやはり父上のブレスでは熱を感じるのう」


 マリスは人間型になっていても炎への完全耐性を持っていたのか。

 それは初めて知りました。

 形態が違ってもそういう特性は受け継がれるのかな?

 かなり便利ですな。


 つーか、あのブレスを食らって余裕の顔つきとはマリスも成長しましたな。

 仲間全員が平気な顔をしておるのが現状ですけどね。


「義父上! ブレスが効きません!

 こんな人間たちは初めてです!!」

「高圧縮ブレスを試してみよ!」


 するとアガレスは火弾のようなブレスを次々と仲間たちに発射し始める。


 だが、弾速がそれほど早くないし、直線上に飛んでくるだけなので避けるのが非常に簡単だった。


 仲間たちも同様なようで、次々に飛んでくる火弾を悠々と避けまくる。


 外れた火弾は床や次元隔離戦場ディメンジョナル・アイソレーション・バトルフィールドのバリアに当たっては爆発する。


「あ、当たりません!!」

「よく狙え!!」


 ヤヌスも同様に火弾を俺たちに打ち始めた。


「当たらなければどうという事はない」


 アモンが某少佐よろしく言い捨てるのが耳に入り、俺の対抗心に火が付いた。


「では、俺たちのターンだな。

 漆黒の闇の中に煌めく地獄の業火操りし炎の魔神バルログよ。

 剣となりて我が敵を断罪せよ。地獄の業火の剣ヘル・ファイア・ブレード


 俺が手の平を頭上に掲げると、一〇メートルはあろう黒い炎を纏った剣が現れる。

 その剣をアガリスとヤヌスも驚いて見ている。


「初めて見る呪文だ!!」

「新作じゃ!」


 トリシアとマリスの声が耳に飛び込んで来る。


 君たちは戦闘に集中しなさい。


 とはいえ、確かに俺もコレは初めて見ます。

 いえ、魔法はドーンヴァースの頃に覚えたヤツです。

 レベル八の魔法なんですが、こんなに巨大で禍々しい感じではありませんでした。

 せいぜい二メートルくらいだったと思うけど、何で一〇メートルもあるんですかね?


 この世界に来てから既存の魔法の威力が上がっていたり効果が若干変わっていたりするので、一度全ての魔法の効果を調べておいた方がいいかもしれない。

 面倒だからやりたくなかったんだけどね。


 ちなみに、発動時に読み上げたセリフは、言わずもがな必要ない演出用の文言です。

 アモンがアニメのセリフと同じ事言うもんだから、つい使っちゃいました。


 ま、発動状態がどうであれ、使わせていただきましょう。


「やれ!」


 俺が腕を振り下ろすと巨大な黒炎の剣がアガリスに襲いかかる。

 アガリスはそれを身体をひねる事で回避した。


──ザスッ!


 だが、空中でヒラリと刀身が翻り、アガリスの尻尾を中頃から切り飛ばした。


 あの切り落とした尻尾を頂きたい。


「くっ!!」


 アガリスの顔に苦痛の色が浮かぶ。

 切り取られた尻尾の断面には黒い炎がメラメラと蛇の舌のようにチロチロと燃えている。

 だが尻尾を一部失った程度でしかないので元気いっぱいである。


「少し油断しすぎですよ、父上!」


 ゲーリアがどこからか取り出した樽のような物の蓋を開けてアガリスの尻尾にキラキラとした液体を振りかける。


「スパイラル・ショット」


 トリシアの声と共にバトル・ライフルの発射音が断続的に聞こえる。


 見ればゲーリアの両肩、両腕、両太ももあたりに着弾痕が次々に付いていく。

 その着弾痕からは高速回転する小さいフィンが見えている。


「チッ。やはり貫通はしないか」


 トリシアが自分の武器の火力不足に不満を述べている。


 すまん。流石にまだ強化の段取りすら出来てないよ……


 それでもゲーリアにはかなりのダメージを与えたようで「うあぁぁ!!」と少し間の抜けた声を張り上げながらゲーリアが地面に突っ伏している。


「忍法……水流断絶ウォーター・カッター……」


 囁く声に振り向くと、ハリスが合掌の格好から両手を前に突き出すような仕草をした。

 その途端、合わせられた両手の間から水が吹き出し始めて物凄いスピードで一直線にヤヌスへと飛んでいった。


 ヤヌスも何かが飛んでくるのを察知してサッと足を上げた。

 水流は上げられた左足の下を通り過ぎたが、ハリスは両の手を右方向に振った。

 水流はハリスの動きに呼応してヤヌスの右足にぶち当たる。


「うお!?」


 細い水流がヤヌスの右足の鱗を次々に切断、そして吹き飛ばす。

 ハリスが水流を止めると、ヤヌスの右足には生々しく大きな切り痕が残っていた。


「切断……までは……いかなかったか……」


 その光景をトリシアが妬ましそうに見ていた。


「ちっ。ハリスに与ダメージで負けるようになったか」


 ハリスがフッと不敵な笑みを浮かべた。


「さて、真打ちは最後に登場と言うそうじゃからな」


 マリスが大盾タワー・シールドを構えて前に出た。


「では、我の最近覚えた技を見せて進ぜよう」


 大盾タワー・シールドを構えたマリスが前傾姿勢になった。

 前から見てたら気づかないだろうが、後ろからならよく見える。


「チャージ・ウォール!!」


 ドンッと後ろ足が蹴られると同時にマリスの前方に巨大な力場の壁が現れた。


 古代竜たちとマリスとの距離が一瞬で詰まり、力場の壁と激突する。


 俺も驚いたが、あの五〇メートルを超える古代竜の身体ってあんなに飛ぶんだね。

 それとも見た目だけで実は軽いのかな?


 飛んでいった三つの巨体は次元隔離戦場ディメンジョナル・アイソレーション・バトルフィールドのバリアまで飛ばされ跳ね返って地面に落下した。

 巨体が落ちたと同時にかなりの地響きが伝わってきたので、軽いわけないと思った。

 というか、このマリスの一撃で三匹とも気絶してしまったようだ。

 すげぇ威力だな……


「ざっとこんなものじゃろか?」


 得意げに地面に大盾タワー・シールドを突き刺したマリスが得意げに胸を反らす。


「一撃でふっ飛ばすとは……マリスも相当強くなったな」


 トリシアも納得の強さなようです。


「当然じゃ。そうで無くてはレベル一〇〇は名乗れまいぞ?」


 反り返った無い乳の胸がさらに反り返るマリスである。


「確かに……それにしても身内にも容赦がねぇのは血筋か?」


 ダイアナ・モードのアナベルが、出番がなかったとばかりにマリスを弄る。


「あっちも容赦なかったからのう。

 そう言われても仕方ないかもしれんのじゃが、少し不本意じゃ。我は手加減ができる才女なのじゃぞ?」

「確かに死んでねぇな」


 笑い合う三人の仲間たち。


 俺はハリスと顔を見合わせて肩を竦める。


 こうして三匹の古代竜との戦いはあっという間に終わってしまった。

 なんかもうウチのチームって敵なしなんじゃね?

 そう確信する戦闘でしたよ。


 それぞれが一度ずつ攻撃しただけで、古代竜たちの戦闘意欲が削られていくのが感じられましたしね。



 俺は改めて戦闘の舞台となる戦いの間を見回した。


 この広間には人間が隠れられるような岩もあるし起伏も多く、真っ平らではない。

 これは古代竜が有利になるように戦場を作っているというより、人間にある程度配慮されて作られているという事が窺えた。

 古代竜なりのフェア精神なのか、バトルジャンキーとしての矜持なのかもしれないな。


 この戦いの間は古代竜たちの闘技場の役割もあるかもしれない。

 判りにくいように作られているけど二〇メートルより上の方の壁にはいくつも大きな穴があり、いくつかの顔が下の方を覗き込んでいる。

 顔の種類としては古代竜のモノは一つもなかったけど、見知ったモンスターの顔もいくつかある。

 もっとも小型モンスターの顔は稀で、殆どは大型のモンスターばかりなのは世界樹という強力なモンスターが集う特殊な場所だからだろう。


 それら顔が覗き込んでいる上の方の穴は、所謂「二階席」的なモノなのではないだろうか。

 戦闘を観戦するためのスペースだ。


 そう考えると、ここは世界樹に住む強力なモンスターたちを楽しませる闘技場みたいな役割を持っているのかもしれないね。


 ここは世界樹というエンド・コンテンツ・ダンジョンの入り口なのかと思っていたけど、古代竜たちが言っていたようにプールガートーリアからの再侵攻に備える強者を選り分けるシステムを担っているのだろうか。


 この手のシステムがこの世界にはいくつかあるので、神々が如何に魔界からの再侵攻に危機感を持っていたのか解る。

 ルクセイドの迷宮もそうだし、ここも世界樹のある中央森林もそういうシステムの一部とも考えられる。


 巷のRPGなら始まりの町の周囲はレベルの低いモンスター、先に進めば進むほど強いモンスターって感じで作られているけど、そのセオリーはティエルローゼには適用されていないので、弱者は完全に切り捨てられることになる。


 それでは後に色々と不都合が出そうだという事で、弱者である人類種用としてルクセイドの迷宮は作られたらしい。

 確かにあのダンジョンを攻略できるくらいのレベルになれば、一般的な魔族がなんとか対処可能になりそうではある。

 幹部になる事が多い原初系の上位種は無理だけど。


 にしても、これだけ世界中で対策しているとすると、プールガートーリアからの再侵攻ってかなりヤバい事?

 今のところそういう兆候は全くないんだけど。


 でもこの世界に生きている力ある者たちは必ずそれがまた来ると思っているのは間違いなさそうだ。


 ま、俺がいる以上、そんな事をさせるつもりは毛頭ありませんがね。

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