第29章 ── 第21話
あれよあれよという間に話が進んでいく。
不殺ルールは受け入れてもらえたものの、不慮の事故で死亡するのは仕方ないと言われた。
確かに不慮の事故なら仕方ないと側面もあるかもしれないが、「手合わせ」という名の「戦闘」は基本的に死と隣合わせの行為なので不慮もクソもないんじゃないだろうか。
この「手合わせ」のレギュレーションは以下の通り。
対戦相手を一撃で殺すような行動は禁止。
当たりどころが悪い等で対戦相手が死亡した場合、その罪は不問。
武器、防具、スキルの使用、魔法の行使などは基本的に制限なし。
もちろん魔法の武具や道具、錬金薬などの使用も可。
但し地形が変わるほどの強力な攻撃や魔法は禁止。
メテオ・ストライクとか撃ったら世界樹が危ないからねぇ……
概ねこんなところか。
基本的に何でもアリって事だよね。
一歩間違えば確実に死ぬって事やんけ。
不殺どこ行った?
にも関わらず仲間たちはマリスを筆頭にやる気満々。
相手は古代竜なのにホントに大丈夫か?
食後の運動にしては相当ハードな内容になりそうだよ。
事前取り決めが終わったら、早速戦いの間へと場所を移す。
仲間たちが武器や防具を点検している向こうに、アガリス、ヤヌス、ゲーリアが人間の姿でストレッチしているのが見えた。
「ちょっと待て。アガリスさんだけが戦うんじゃないのか!?」
「そんな事は言ってない。最初から我ら三人の予定だった」
「それに、そちらが五人で戦うのに、こちらが一匹では不公平であろう?」
アガリスの言葉に被せるようにヤヌスが言う。
ニヤリと笑っているところに陰謀めいた感じがする。
これはハメられたか、
確かにレギュレーションの話し合いで人数の取り決めはしていなかったし、人数がフェアじゃないと言われてはこちらも黙るしかない。
もっとも古代竜と人類種の戦闘ってところは、フェアな精神など一切考慮されてない事だと思うけどね。
これまでも言ってきたように、ドラゴン……こと古代竜は破壊の権化、異世界の
人間がどんなに頑張っても、基本的にそんな異名は付くことはない。
古代竜が人間勢を舐めプするのが当たり前な世界だというのにコレですよ。
生物的な基礎能力の段階で完全にフェアプレイとは言えない。
んじゃ、俺も本気を出すとしましょうか。
「
俺は無詠唱で魔法を使った。
設定は戦いの間全域。
「な、何だ?」
「周囲を囲むように? 結界か?」
「そんなことより、ケントさんは無詠唱で魔法を使いましたよ!?」
アガリスは驚いていたが、ヤヌスは流石に百戦錬磨というべきだろうか。
「これは外から、あるいは中からの攻撃的要因から隔離するための魔法なので結界と認識してもらっても何の問題もないね。
今回は外側へ攻撃の余波が出ないように設定してある」
それを聞いてアガリスとヤヌスは顔を見合わせる。
「それはお主たちに逃げ場がないということではないのか?」
ヤヌスが片眉を上げた。
「まあ、そうとも言うね。けど、それは君たちにも適用されると言っておく」
俺がすんなりと肯定したのを見て、もう一度アガリスとヤヌスは顔を見合わせた。
そしてクルッと後ろに向き直りヒソヒソと話し始めている。
「義父上。
あの自信は虚勢でもなんでもありませんよ」
「ふむ……そうらしい。
本来なら腰を抜かして逃げ出すのが人間の常なのだが」
聞き耳スキルで筒抜けです。
マリスがノリノリで受けてしまったので仕方ないって態度で接してはいたけど、こと戦闘に関しては俺たち「ガーディアン・オブ・オーダー」は地上最強だとの自負がある。
レベル帯がほぼ揃ったというのもあるので、ヤマタノオロチの頃のような配慮は一切不要だし、全員がいつものように連携して一〇〇パーセントの力を発揮すれば、古代竜の一〇匹や二〇匹は相手が可能だ。
まあ、アガリスもゲーリアも仲間一人で相手できる程度の強さだ。
トップに君臨するようなエルダー・ランクの古代竜が相手ならそうも行かないんだが、それはヤヌス一匹だけだ。
もっともヤヌスはアナベルの体術に翻弄される実力なのは昨日見た通り。
別にヤヌスを軽く見ているわけじゃないが、これまでのヤツの言動や行動を見ていて、戦闘ガチンコの同レベル帯の人類種と戦ったことがないんじゃないかと思われる。
要するに無意識に舐めプしてたワケだよ。
つまり侵入してきた冒険者との戦闘を全く経験値の糧にして来なかった証左だ。
それは人類種最強である我らとの戦闘が、彼にとって明らかに未経験ゾーンって事だよ。
昨日のアナベルとの一戦でその片鱗を少しでも感じ取っていれば、三匹でも俺たちには勝つのが難しい……あるいは負けると思ってもらって良いんだが。
さっきのコソコソ話の内容からして、やはりヤヌスの「舐めプ」は健在なようだ。
ヤヌスが頭の中で「油断していたから」とか「本気でやれば」とか考えているのだとしたら大間違いである。
これはしっかりと痛い目に合わせて教育しておく必要がありそうです。
そうじゃないといつまでも「舐めプ」は終わりません。
死ぬほどの痛い目に合わせるか、死ぬほどの恐怖を与えるかしておくとしよう。
「まあ、戦ってみなければ相手の実力は解りませんが、義父上は戦われたのでしょう?
どのような技量ですか?」
「ワシはあそこの胸がドカーンと膨らんでいる娘しか相手にしておらぬ。
しかし、あれはどうなっておるのかの?」
「確かに、重力波の影響具合は気になりますね」
スケベ男どもが!
あれは人類種全ての男性の宝。
「ロケットおっぱい」である。
本来ならあれだけ大きいと垂れる心配があるが、戦の女神の加護があるアナベルにそんな欠点は存在しないのだ。
彼女が一日で摂取する栄養量から考えても、彼女の皮下脂肪の更に下に隠された筋肉量は計り知れない。
だって、あれだけ食べて太らないとなると、それ相応の筋肉が随時活動していると考えて差し支えないだろう。
いや……傍から見て静かに座っていると思っても、実はローブの下で熾烈な筋肉への負荷運動を繰り返している可能性が高いのではないだろうか。
普通ならムキムキ筋肉だるま美女になりそうな想像なんだけど、アナベルは基本的にほっそりしている(おっぱい以外)し、抱きつかれた時に筋肉がゴリゴリあたってきた記憶がない。
待てよ?
筋肉は白いのと赤いのがあってどちらかが柔らかいと聞いたことがあるのでソレなのかもしれないな。
いや、某漫画で読んだピンク筋肉ってのかも……?
実のところ運動関連の知識には全く興味がないので、殆ど覚えようとしてこなかった。
故に聞きかじった程度の知識しかないし、それが合っているのか間違っているのかも判らなかったりする。
にわか知識しかないんだし考察は諦める事にしよう。
さて、俺も戦闘準備といきましょうか。
オリハルコン製の武具を使っても良いんだが、基本的にオリハルコンは神用の武具だし、今回は冒険者として戦うので封印。
負けが許されない場合以外はそういうスタンス。
なので、アダマンチウム製の武具でお相手する。
久々に愛剣のグリーン・ホーネットを腰に帯びる。
うん、やっぱりしっくり来るね。
ここんところオロチにもらった「十拳剣」ばかり使ってたから、この剣にも寂しい思いをさせていかもしれん。
古代竜と戦うのにアダマンチウム製の剣では太刀打ちできないのではと思われそうだが、これは俺がレギュレーションに入れた「不殺」を意識してだ。
オリハルコンでようやく対等に撃ち合える程度に古代竜の鱗は硬い。
本来ならアダマンチウム製なんて甘い事は言っていられないんだが、俺が「不殺」といった以上、それは態度に表しておかねばなるまい。
誰に理解されずとも、それが俺の
こういう戦闘に対する考え方は、ドーンヴァース時代に現役だった頃のアースラに影響を受けたからだろう。
あいつの戦闘は流麗でいて力強く、俺の理想の
ま、本人には口が裂けても言えないが。
この秘密はイルシスと俺とで「二人だけの秘密」ってヤツにはなっている。
イルシスは神界でも有名な隠れアースラ・ファンだそうだからね。
全く「隠れ」てない気がしないでもないが他の神も見て見ぬふりをしているんだろう。
知らぬは本人ばかりというヤツだ。
待てよ?
そうすると俺のアースラに憧れてってのもバレてんの?
いやいや、それはない。
俺、微塵にもそんな態度は外には出してないしね。
準備が整った。
戦いの間の真ん中で対峙する五人と三匹。
アガリスが一歩前に出て頭を下げた。
「私の願いを聞き。この場でもう一度届けて頂き感謝を。
それでは始めましょう」
そういうとアガリスが「ふんぬ!」と全身に力を入れた。
「ドラ◯ラム!!」
待て! その呪文は伝説の!?
と叫びそうになりました。
解ってるねぇ、アガリスどん。
って、貴方……何でその呪文名知ってんの!?
大方、アースラが広めたに違いないが、著作権問題に発展しそうだから止めて欲しい。
いや、オタクなら当然期待するヤツなのは解ってる。
俺もその一人だから!
超有名RPGの呪文登場で、否応無しに興奮する俺。
片やその家族たるマリスは余裕綽々にその光景を眺めている。
「おー、あれがニールヘッド一族に伝わる秘伝の掛け声かや?
中々面白いのう」
「ちょっと待て、マリス。
あれは有名なのか!?」
「うむ。我らニーズヘック氏族の一族、ニールヘッドの男どもに伝わる秘伝の掛け声じゃと父上が言っていた。
本来の姿に戻る時に使うといつも以上の強さを身につけられるとか」
俺は大マップ画面でアガリスのレベルを再確認してみる。
レベル九〇……?
一〇個もレベル上がってるんですけど……?
ただの掛け声ではない。
長い間使われることで本当に何らかの効果が発揮される呪文になったという事だろうか。
原初魔法関連の特殊な事例なのかもしれない。
これだから何でもアリの異世界は困るよ!
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